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超次元電神ダイタニア  作者: マガミユウ
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第五十七話「繋がる想い」

【登場キャラクター紹介】


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

『みんな……ありがとうッ!!』


 地底に開いたダイタニアと地球を結ぶ穴からは尚もモンスターの大群が地上に向け這い上がって来ている。

 そんな中、アースはまひるの声を聴いた。

 まひるの下を離れまだ数日だというのに、その愛しい(あるじ)の声はアースの決心を確かなものにするには十分だった。


「……済まないな、風子(ふうこ)、ほむら、万理(まり)……あと少し、あと少しだけ、私に力を貸してくれ…」

 アースは未だ自分の心に揺れ動くことのない確かな気持を思い浮かべる。それは姉妹たちの絆であり、まひるへの思いだった。その迷いなき瞳は真っ直ぐ光の柱の下を見据えていた。


「この異界の穴を、閉じるぞッ!」

 アースはカミオカンデの内壁に陣取り、足元から這い上がってくる黒い電神(デンジン)の操縦者に向け叫んだ。


「ザコタっ! これからこの異界の扉を閉じるッ! そよさんを救うなら戦意を失っている今しかない!」

 そのアースの声にザコタは「どうやって閉じる?」とは返さなかった。それを今彼女に聴いたところで自分のやることは決まっている。

「解った! 必ず連れ帰る! だから、俺のことは気にせずやってくれッ!」

 そう言うとザコタは飛鳥のリーオベルグ同じく、カミオカンデの中へとマケンオーの身を投じた。落下しながら残った左腕の太刀ですれ違うモンスターを斬り倒していく。


 ケンオーには有った飛行機能はマケンオーになることでオミットされてしまい、飛行できない。

 高レベルプレイヤーの飛鳥の真似をして大型モンスターに飛び移りながら落ちようとしたが上手く行かず、マケンオーは異界の境目近くに浮遊するガイアレスまで一気に落ちて行った。


「こなくそぉおおおーーーッ!!」

 ザコタは全身のスラスターを蒸しなんとか姿勢制御に努める。目の前にSANY(サニー)乗るガイアレスがどんどん近付いてきていた。すれ違いざまマケンオーがガイアレスの右肩にその左腕を伸ばす。マケンオーの左腕がガイアレスの右肩を掴むかと思われたが、その手は空を切りマケンオーは異界の穴へと落ちるしかなかった。

(しくじった! ここに来て俺はそよをッ!!)

 ザコタが何か言葉を発するより先にマケンオーの落下が急な衝撃と共に止まった。

 見るとマケンオーの伸ばした左手をガイアレスの右手がしっかりと掴んでいたのである。

「………そよ、お前………」

 ザコタは面食らったが、掴まれたその手をマケンオーはしっかりと握り返した。


 SANYは感情こそまだ戻りはしなかったが、シルフィが朝岡陽子と自身の記憶を取り戻したせいで段々と自分にもそれらの記憶が戻ってきていることを感じていた。

(…迫田進一……ダイタニア……私たちが目指した世界は、悲しみのない……)

 SANYは混乱した思考の中でガイアレスが反射的に掴んだその電神をコクピット越しに見た。朧気な瞳で視点は未だあやふやだ。

(私は、何故、この者の手を掴んだ…? もう何もかも捨てたかったはず……他人も、自分も……)


 そんなことを思っていると、その黒い電神から声が上がった。

「そよ! よく聞け! お前がしている腕時計の裏側を見ろ! 今直ぐだッ!」

(何を言うかと思えば、腕時計だと? そんなもの、先にこの体を《素粒子書き換え》した時に無くなっている…)

 SANYは自分の左手首をチラと見ると目を見開いた。その手首にはまだしっかりと腕時計が残されていたのだ。SANYはそのままその可愛らしい小型の時計を外し顔の前に持ってきた。

(小さい物だ。変換し損ねていたか。まあいい。このまま握りつぶして――)

 SANYが目の前にぶら下げた時計を持ち替えようと動かした瞬間、バンドがクルッと反転し時計の裏側が目の前へ向いた。裏側には小さな写真がついていた。


挿絵(By みてみん)


 それは、ザコタとそよがいつか秋葉原のゲームセンターで撮ったプリントシール。そこには仲睦まじい二人の姿が写っていた。

 SANYはそれを目にするや否や、頭の中に自分ではない声と記憶が流れ出した。



『ありがとう進一くん。これ、さっきの。半分こです』


『いいよ。お前が持ってろよ』


『ううん、二人で持ってたいんです…』


『……そういう事なら、貰っておく』


『はい♪ あ、そうだ!』


『どうした?』


『えへへ〜。この前進一くんに買ってもらったこの腕時計の裏にですね……じゃじゃーん! ほら、ピッタリです!』


『…えぇ〜……』


『えー? 良いじゃないですか!? こうしてたらいつも進一くんと一緒にいられる気がしますし』


『………そんなことせんでも、一緒にいてやる……』


『え? 何か言いました? 声小さくてちょっと聴き取れず』


『何でもない……(面と向かってそんなこと言えるかよ……)』



「お前がどんなに変わっちまったって、俺が一緒にいてやるッ!!」

 ザコタはガイアレスを見上げ有りっ丈の声で叫んだ。

「俺はお前がいたから少しは人間らしく成長できたッ! お前がいたから他人にも優しくしようと思えるようになった! お前が笑うから、俺の心も軽くなった! お前の笑顔が、俺を人間にしてくれたんだよッ! そよッ!!」

 SANYはガイアレスのコクピットの中で頭を押さえ下を向いて奥歯を食いしばった。

 ザコタは尚も叫ぶ。

「戻ってこいそよ! 誰にも優しい笑顔を振り撒いていたあのそよに!」


 ガイアレスのコクピット内には、ザコタの声がしっかりと響いていた。その声を聴きSANYは画面に映るマケンオーに視線を移した。

(このヒトの声と言葉は……何故だろう……私を揺り動かしている……それに、心が熱くなるようなこの感覚は……?)

 SANYの瞳に光が宿った。そして、ゆっくりと口を開いた。

「……進一……くん………」

「俺の好きなそよに戻ってこいッ! 俺の惚れたそよに戻ってこいッ!!」

 ザコタの両目からも涙が流れ出していた。SANYの涙腺も熱く、涙を流し始めた。

「私は……まだ進一くんと一緒にいたいです! 大好きな人と……これからもずっと……ずっと!」

 その声に応えザコタが叫ぶ。

「俺もだッ! 俺の隣にいろそよッ!!」

 ザコタはガイアレスに向けて跳んだ。そして、両腰に取り付けていた剣をコクピットハッチに突き立てるように飛びかかった。その衝撃でガイアレスとパイロットを失ったマケンオーは異界の穴へと落下していく。

 ザコタがガイアレスのコクピットハッチを刀でこじ開け、中にいたSANYと目が合った。

 そのSANYの瞳は不安が色濃いながらも、かつてそよが宿していた優しい色を湛えていた。


「ダメっ! 進一くん! こっちに来ちゃ! ダイタニアに落っこちちゃう!」

 そよの記憶が戻り始めたSANYがザコタに叫ぶ。

「構うもんか! 絶対にッ! お前を一人にはさせないッ!」

 ガイアレスの機体が異界の穴へと落下していく。機体が大きく揺れ、コクピットの外から手を伸ばしSANYを捕まえようとしていたザコタは宙空に投げ出された。

「進一くんッ!! 動いてガイアレス! どうして動いてくれないのッ!?」

 声が裏返り、悲痛なSANYの叫びが響く。

 SANYが《素粒子書き換え(ニュートリノリライズ)》で“自分だけが操縦できる電神”に書き換えてしまったガイアレスは、今のSANYを同一人物と認識出来なくなっていたのだ。


 吹き飛ばされたザコタの鋭い視線がもう一度ガイアレスを捉えた。

「《影縫い》ッ!!」

 ザコタが《影縫い(シャドウステップ)》のスキルを空中で発動させる。ザコタの体は正面に向かい直線的に突進した。その軌道のままガイアレスのコクピット内に飛び込む。

「きゃあッ!」

 SANYとザコタが勢いよくぶつかりコクピットの中で揉みくちゃになる。

「いっ……たぁい……あ、進一くん、大丈夫?」

 SANYが顔を上げると、ザコタの体の下に自分を庇って下敷きになった進一がいることに気付いた。

「こンのバカそよッ!!」

 ザコタは下半身に力を入れSANYの下から這い出した。

「どこも痛くしてないか!? 怪我は!?」

「う、うん、大丈夫…」

 ザコタはSANYの肩や腕を触り無事を確かめると安堵の溜息を付いた。

 落下していくガイアレスの中で、暫し見つめ合う二人。SANYには完全にそよだった頃の記憶が蘇っていた。


「……ありがとう進一くん……ここまで助けに来てくれて…」

 そよがザコタの顔をうっとりと見つめながら呟いた。

「ああ……どこにいたって、助けに来てやる」

 ザコタが優しくそよに微笑みかける。

「……うん……」

 そよはザコタの笑顔を見て頬を赤らめた。

「……本当に、嬉しかったです……その…」

 そよが口籠るも視線は逸らさず潤んだ瞳でその続きを紡ぐ。

「…好きって言ってくれて、嬉しかったです…」

 ザコタは急に恥ずかしくなり、そよから目を逸らした。

「……聞き間違えじゃないか?」

「もう!」

 ザコタはそう返答すると再び視線を戻した。そしてそよを真っ直ぐ見据えて言う。

「……俺は……お前が好きだ……そよ」

 そよの頬に一筋の涙が流れる。それは歓喜の涙だった。

 そよは自身の心に施錠されていた感情を抑制する錠前が砕け散ったのを感じた。

 そして、その細い指をザコタの顔に触れさせる。

「進一くん……」

 そよが頬を赤らめながら嬉しそうに微笑み、目を瞑る。

 ゆっくりと近付く二人の顔。その時、そよの口から一言漏れた言葉は――


「ごめんなさい……《召喚転移》」


「は?」

 次の瞬間、ザコタはカミオカンデの遥か上層に転送されていた。ザコタは咄嗟にカミオカンデの穴を覗き込む。ガイアレスはもう見えなくなるくらい小さくなっていた。

「……そよ?」



 そよはダイタニアへと落ちていくガイアレスの中で安堵していた。

(このままじゃ進一くんまでダイタニアに落っこちちゃう……そうなったら、もう戻れない……ゲームのプログラムの一つとして動くしかなくなっちゃう…)

 そんな進一くんは見たくない。そよは心の底からザコタの幸せを願っていた。

「どう? 私の《召喚転移》。すごいでしょ? 褒めてくれるかな?」

 そよは笑顔で落ちていく。その瞳に多くの涙を溜めて――


「《召喚転移》はね? ()()()()()を好きな場所に移動できるんだよ?」

 そよの髪が銀色から深い緑色へと変わっていく。風圧になびく長い髪が、短く、ショートカットくらいの長さにまで縮んでいく。身長は伸び、ガイアレスの中のそのそよの姿は――


「だから……進一くんは、私の所有物(もの)、なんだよ? えへへ」

 そよは片目を瞑り、右手の人差し指と親指を立ててその腕を伸ばし、「ばん!」と、遥か上にいるザコタを撃ち抜くように指をさした。

 そよはザコタが惚れたそよの姿で落ちていく。その胸に多くの幸せと、少しばかりの寂しさを抱えて――


(ありがとう、進一くん)

 そよがザコタに送った最期の顔は、やはり向日葵のように輝いていた。



「そよ………………」

 ザコタはカミオカンデの穴を覗き込んだ姿勢のまま茫然と立ち尽くしていた。ザコタの脳裏に、今までそよと過ごした日々が走馬灯のように流れ出した。


(……そよ)

 思い返されるそよの顔はいつも笑っていた。ザコタは両拳を握り締め、吼えた。

「そよおおおぉおおおおーーーッ!!!」


挿絵(By みてみん)

『超次元電神ダイタニア』

 第五十七話「繋がる想い」



 アースはカミオカンデの中層部で両腕を大の字に水平に伸ばし力を溜めていた。

 左右の腕の先端からはプラズマが迸り、カミオカンデの表層へと飛んだ。

 アースはザコタが上層に移動したのを視認すると更に両腕に力を込める。大気中の電子がスパークし、カミオカンデ内部の表層という表層からアースの両腕へと向けプラズマが(ほとばし)った。


「みなさん! 聞こえていたら私より上部へ退避を! これからこの異界の扉を閉じます!」

 アースの鬼気迫る声が円筒状のカミオカンデ内に響き渡った。

「なんだと!?」

 それを聞き、ドックこと堂島九曜が答える。

「聞けばこの魔法陣は千葉一帯の魔力だか何だかを集めて造られたと聞いている! 生半可なエネルギーでは相殺すらままならんぞッ!」

 その声を受けアースは口の端を上げ

「ですから、この魔法陣以上のエネルギーをぶつけてやるのです。今の私には恐らくそれが出来る……だろうシルフィ!?」

 突如アースから言い渡されシルフィはドキッとしたが直ぐに頭で冷静に処理を始める。


「…私が設定していた午前七時までこの魔法陣は地脈エネルギーを吸収しています。ですから、午前零時の今、魔法陣は未だ完成していません。それと同等の魔力をぶつければ消滅させることは可能ですが……魔力を地球で言うところの電力と仮想し、『天照(アマテラス)』を通して算出した場合、この魔法陣のエネルギー量は約一万キロワットアワー…」

「一万キロワットアワー!? ちょっとした発電所が扱う電力量じゃないか!」

 ドックがシルフィの言葉に驚き声を荒げる。だが、アースは逆にそれを聴いて冷静になれた。

「……成る程、ならばいけそうです…!」

 アースは決戦前にマリンが話した仮説を思い出していた。



「――僕の研究、いや、妄想とでも言おうか、やはり僕らのダイタニアで言う“魔力”と、地球の“電力”はかなり近しい存在のようなんだ」

 風待のビルのブリーフィングルームで皆を交えマリンが話しだした。

「魔力はゲームの中の存在だけど、今の僕たちは地球にいながら魔法、ゲームに倣ってスキルと呼ぼうか、そのスキルを使えている。ここには魔力に代わる何かが存在しているはず。そのことをこの前まひるに買ってもらったスタンガンを弄り倒しながら考えていたんだ」

 マリンの話に皆がそれぞれの手を休め聴き入る。

「ダイタニアにも雷はある。雷の正体って電気なんだ。僕たちが電気という概念を知らなかっただけでダイタニアにも電気はあったんだよ。地球には無いはずの魔力。スキルを発動させている動力源は何だと思う?」

 皆がそれぞれ唸って考える。少ししてウィンドが

「風子たちはゲームの世界、いわゆる電子の世界からやってきたから、スキルの源はやっぱり電気…あ〜……電子って言うのかな?」

 まだ上手くまとまらない自分の考えを口に出した。それを聞いてマリンは嬉しそうに言った。

「そう! やはりスキルの動力源は電子の働きによるプログラムと仮定すると分かり易いんだ。視点を換えてみよう。スキルを使うのに電子の力を借りているんじゃなくて、スキルを使う時だけ二次元の理が適用され電子命令(プログラム)を走らせる。それが今のこの世界の僕たちやまひるたちプレイヤーの性質だよ。つまりね――」



「――つまり、電力があればあるほど、強力な技が放てるッ!」

 アースは嬉々として話していたマリンの楽しげな顔を思い浮かべて自分の口も弧を描いた。未知の知識を追い求め続けていた妹を、アースは今更ながら誇りに思う。


 カミオカンデの内部壁面に設置された四万器のチェレンコフ光検出器から尚もアースに向け電光が走る。

「このハイパーカミオカンデには周辺の複数のダムから電力が集まっている…それに加えてこの電子機器の集合体……それらを私の体を媒体として集積させ一気にぶつければ……!」

挿絵(By みてみん)

 アースの全身からも雷光がきらめき、周りの大気をプラズマが焦がす。その様を見てシルフィが叫んだ。

「そんなことをして、貴女の体が保つわけありませんッ! 馬鹿なことを考えないで!」

 先のアースの声を聞き、下層で戦っていたミッチーも上層へと戻ってきて、皆がアースの背中を見下ろす形で合流した。


「何!? あの子、何か大技でもやるつもりなの?」

 ことの詳細を知らないミッチーがその場の皆に訊く。

「……ああ。自分の身と引き換えにこの穴を閉じると言っている……」

 ドックが眼下のアースを険しい表情で見つめながらボソリと呟いた。

「えッ! 駄目よそんなことッ!!」

 ミッチーはすかさず反対する。

「お(たま)さんッ! もうすぐまひるんと風待さんが来るからッ! 早まらないで!!」

 流那(るな)が壁面に陣取ったベルファーレから叫ぶ。


 そして現戦闘力であるリーオベルグが迫り上がるモンスターの群れを相手にしながら皆のいる上層へと昇ってきた。今までの攻撃パターンをマクロ化させ、リーオベルグをオート操縦へと切り替えた飛鳥は逸る気持ちを抑え考えていた。

(……球子さんは本気だ……まひるさんたちの到着を待たずに今決着をつけようとしている……残りMPの少ない私とリーオベルグに一体何ができるの…? 考えろ……考えろ…!)

 その時、飛鳥のリーオベルグに向かって悲痛な叫びともとれる声が投げ掛けられた。


「センパイっ! その電神貸してくれッ!」

 飛鳥はその声の方を視るとザコタがカミオカンデの側道から叫んでいた。

「そよがッ! そよがダイタニアに行っちまった! 次元の違うダイタニアに行くには電子の存在にならなきゃ行けない! あの万理が言ってたろ!? 電神に乗ってれば存在の定義が二次元化されてダイタニアに行けるかも知れないって!」

「…そよさんが、ダイタニアに……」

 飛鳥は目を見開き、それだけ口にした。


 飛鳥はそよと出会ってまだ数日を共にしただけであった。だが、そのそよの人としての優しさや柔らかさというものは直ぐに伝わり、飛鳥の憧れる女性の一人になっていた。

(……なんで、まひるさんやそよさんみたいな優しくて素敵な人ばかり悲しい目に遭うの…?)

 飛鳥は眉間に皺を寄せ、歯が欠けそうなほどに食いしばった。

(…私にその力があるなら……助けたいッ! そよさんも、球子さんも、みんなッ!!)


 リーオベルグの瞳が一際明るく光り、コクピットハッチを開けた飛鳥はザコタに向かってその腕を伸ばした。

「来なさいッ! そよさんを、みんなの未来を助けるわよッ!」

 ザコタをリーオベルグへと収容すると飛鳥はシートから外れてスマホをいじりだした。

「迫田君、操縦はオートにしてあるけど細かい制御よろしく。私は風待(かざまち)さんに話があるから少し外すわ」

 ザコタを顎で使ってシートに座さんにらせた飛鳥はリーオベルグが再びカミオカンデの下層に移動し始めたのを確認して通話を始めた。

「風待さん! 仙崎飛鳥です! 急いで渡したいものが!」



 カミオカンデの外では風待とまひるを乗せたテンマオーが馬状形体から人型のダイテンマオーへと変形し、カミオカンデ前に陣取っていた最後のサイクロプスにその巨大な右拳でとどめを刺したところだった。

 風待は被ったままだったヘルメットを脱ぎ自分のスマホを取って通話に出る。その間にもダイテンマオーは左手の中の飛燕(ヒエン)とまひるをゆっくりと地上へと降ろし、光の粒子となり消えた。


 まひるもヘルメットを脱いで飛燕から降り、改めて飛燕にそっと手を添える。

「ありがとう飛燕。ここまで連れてきてくれて…」

 そう言ったまひるは視線を目の前にあるハイパーカミオカンデへと向けた。

(ようやく着いた! みんな、今行くよ!)

 まひるは気を引き締め、両方の手のひらで自分の頬を一つ叩いた。

「よし! 行きましょう風待さん!」

 見ると風待は誰かと電話をしているらしかった。まひるは足早に風待の下へ駆けていった。


「ああ、一緒だ。ああ。そよくんが!? そうか、アース君もか……今俺たちが行って何が出来るか考えていた。俺が考えてた手段もアース君と同じさ」

 風待は淡々と飛鳥に応えているが、その顔は沈んでいた。

『風待さん! 球子さんを見捨てる気なんですかッ!?』

 飛鳥のその言葉に風待が即答する。

「違うッ! 異界の扉にぶつけるのは、俺のダイテンマオーだ…!」

 風待の突然の大声に近くに来たまひるがビクッとし、その足を止めた。風待はまひるを視界に入れると指で「付いてきて」とジェスチャーを送り、通話はしたまま走り出した。


 風待とまひるは皆のいる中央観測装置へと通路を走った。風待と飛鳥の通話は未だ続いている。

「話は解った! だが肝心の相川さんのスマホが壊されてしまって無い! 《繋がる想い》はもう使えなくなった!」


 そう飛鳥に伝えたが電話の先の飛鳥の声は一向に落胆の色を見せなかった。

 飛鳥は口元を少し緩め、ザコタの操縦に感心しながら風待に向かって言う。

「風待さん、《繋がる想い》は高難易度のクエストをクリアしたプレイヤーへの特典でしたよね?」

 風待はその不敵な飛鳥の物言いに違和感を覚えて聞き返した。

「…そうだが? それがどうかしたかな?」

 飛鳥の口は歓喜を表すほどに口角が上がっていた。

「…あの時、その高難易度クエストをクリアしたプレイヤーは()()いたんですよ?」

 その言葉で風待がハッとする。

「まさかッ!?」

「そのまさかです! まひるさんと一緒にクリアした私も、今《繋がる想い》を持っています!」

 飛鳥は初めて、今まで引きこもってゲームばかりしてきた自分を褒めてあげたいと想った。

「だが、相川さんのスマホは無い。アイテム譲渡も、出来ないんだ……」

 風待は走る速度を少し落としながら、下を向きそうになった。


 その時、風待の手が温もりに包まれた。

「風待さん! あと少しです! 走りましょう!」

 まひるが風待の手を取り、引いて再び通路を走り出した。風待はまひるに手を引かれるままに足を速めるしかなく、そのせいで下がっていた顔も自然と前を向くことになった。

「何事も、最後までやってみなくちゃ結果なんて分かりません。今走った方がいいなら、走るべきなんです!」

 まひるは軽く息を切らしながらも、笑顔を風待に向けた。風待はそれを見て

「……そうだな。今は、走る時だ…! ありがとう相川さん」

 風待は気持ちを入れ替え、通話先の飛鳥との会話を続ける。

「済まないが飛鳥君、やはりその案は使えない。君の《繋がる想い》で相川さんをプレイヤー復帰させるのは無理だ」


 スマホ越しに聞こえてくる風待の弱腰の声に飛鳥はほとほと呆れていた。

「…風待さん、私を誰か忘れてませんか? 」

 やはり不遜な飛鳥の態度に風待は再度違和感を覚えた。

「どういうことだ?」

「私がもう一人の《勇者》ということ忘れてません?」

 飛鳥はスマホを素早い手付きで操作していく。現在の『ダイタニア』で唯一機能するシステムメニューからパーティーメニュー、フレンド、風待のプレイヤーキャラ『ブリーズ』と選び、アイテムトレードを持ち掛けた。

「私が渡すのは《勇者》の能力で具現化させた《繋がる想い》! 風待さん! 電波に乗せ今送ります! まひるさんに届けてくださいッ!」

 飛鳥はスマホ画面に出た“渡す”ボタンを勝ち誇った笑顔で勢いよくタップした。


 飛鳥との通話が切れると、風待のスマホの画面からそれは飛び出した。ハートの形をしたホログラムのような映像が風待とまひるの目の前に現れた。まひるがキョトンとした顔でそれを見ている。

「……ハート?」

 風待は一つ深い呼吸をし、彼女の目を真っ直ぐ見つめ、告げた。

「相川さん。これは飛鳥君が送ってくれた《繋がる想い》だ。君がこれに触れば、失っていた『ダイタニア』の記憶は戻るだろう…」


 風待は悩んでいた。ここにきて今更まひるの記憶を戻したところで何になる。知る必要のない悲しい事実を突き付けられるだけではないのか。そんな彼の葛藤が顔に出ていたのか、まひるは風待を見ながらそっと答えた。

「…風待さん、ありがとうございます。風待さんがあたしのために悩んでくれているの、分かりました……これに触れたら、きっと思い出したくないような辛い出来事があるんですよね…? でもあたし、それらも覚悟してここまで来ました。飛鳥ちゃんや流那ちゃん、風待さんが繋いでくれた想いに応えたい…」

 風待が次の言葉を発する前に、まひるは両手を伸ばし、目を閉じて、宙空に映し出された《繋がる想い》を抱き締めた。


 まひるの両腕が空中で交差する。《繋がる想い》はまひるの中に吸収されるかのようにスッと消えた。

「……………」

 交差した腕をゆっくりと戻しながらまひるは再び目を開けた。

「……………」

「…大丈夫か? 相川さん?」

 落ち着いているように見えるまひるを心配し、風待が声を掛ける。

「……マリン、ウィンド、ファイア……ザコタくん、そよちゃん………」

 忘れていた者の名を慈しむようにゆっくりとまひるは口にする。それを風待は何故か神秘的なものを観ているかのような面持ちで見ていた。

挿絵(By みてみん)

「アース……みんな、思い出したよ……」

 まひるが再び両目を閉じるとそこから一筋の涙が頬を伝った。そして、まひるはキッと前に向き直り走り出した。それを見て風待も走り出す。

「行きましょう! みんなが! アースが大変なんですよねッ!?」

挿絵(By みてみん)


【次回予告】


[アース]

私の生はあなたを中心に周り

あなたを護ることを最優先に考えていました

でも、本当に護られていたのは

私のほうで…


次回『超次元電神ダイタニア』


 第五十八話「コンティニュー」


あなたのオムライスを、また、みんなで…





――――achievement[繋がる想い]

※まひるがゲームに復帰した。


[Data24:第四.五話「海の記憶」]

がUnlockされました。


[Data25:第十ニ.五話「風の記憶」]

がUnlockされました。


[Data26:第十七.五話「炎の記憶」]

がUnlockされました。


[Data27:第ニ十四.五話「星の記憶」]

がUnlockされました。

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