第五十三話「機械仕掛けの感情」
「よし、行くぞ! シルフィ!」
「はいッ!!」
ザコタとシルフィはマケンオーのレバーを握り締めて同時に叫んだ。
眼前にサニー駆るガイアレスが迫りくる。ガイアレスは妖刀村正を振り翳しマケンオーに襲い掛かってきた。
その剣撃をザコタは脇差しで弾き返していく。だが、一撃一撃が重く衝撃がコクピットを揺らす。
「くっ……そよ!! お前がいたから今の俺があるんだ! だから頼む! 正気に戻ってくれッ!!」
ザコタの叫びがコクピットに響き渡る。
「無駄よ! いくら声を掛けても無駄!」
そんなザコタを嘲笑うかのように、ガイアレスのコクピットでサニーはそう言った。
「そよ……お前……」
ザコタはそのサニーの言葉に一瞬戸惑いを見せた。だが、直ぐに気を取り直すとマケンオーのレバーを強く握り締める。
「…くっそ! 俺は諦めねえぞォお!!」
そう叫びマケンオーに迫りくる斬撃を紙一重で掻い潜りながらガイアレスの右手首を掴んだ。
「! …中々やる」
サニーはガイアレスの動きを止められながらもそう呟く。
「そよ、お前を倒すつもりはねえ! だが、シルフィの為にも大人しくしてもらうぞ!」
ザコタはそう叫びながら機体の全体重を乗せ、掴んだガイアレスの腕を引いた。
その細身の機体から考えられない力でガイアレスが引っ張られる。
そして体勢を崩したガイアレスをマケンオーが抱きしめるようにしっかりとホールドした。
「シルフィ! 魔力供給そのまま頼む! そよ! 聞こえるだろう!? 俺だ! 進一だッ!!」
ザコタはガイアレスに抱き着いたままそう叫んだ。しかし、その叫びは虚しく虚空を空回りする。
「ザコタ! 叫び続けて! 貴方の思いを!」
シルフィがザコタにそうアドバイスする。
「ああ!」
ザコタはそう言うと更にガイアレスをしっかりとホールドした。
「そよ……お前、今どこにいる? 何してる? 早く帰って来い…」
ザコタはそう言いながらも、その腕は離さない。
「うっ!?」
サニーが唐突な頭痛に見舞われ片手でその頭を押さえた。
「……私は……」
そよの意識が一瞬戻る。だが、すぐにまた虚ろな目に戻ってしまう。
「ッ!? そよ! 俺はここにいるぞ!!」
そんなサニーにザコタは叫ぶ。
それを見ていた周りからも声が上がる。
「進一! そよ君を絶対に離すなよ! 変化を見逃すな!」
「そよちゃん! ザコタ君の声聞こえてるでしょ!? そよちゃんがあんなにも好きだったザコタ君よッ!!」
サニーはまた頭を抱えてその流那の言葉に反応を示した。
「……“好き”…? …そよにはかなりの感情の制限をしていた、はず……そのような感情なんて……」
サニーはコクピット内で独りごちたが、その囁きは誰にも届くことはなく、乱れた思考回路の修正にまた気持ちを集中させる。
「胸の大きさ気にしたり、迫田君との身長差気にしたり! そんなの、ただの普通の女の子ですよそよさんッ! だから、戻って来て!」
飛鳥のそんな叫びがグラウンドに響き渡った。
「おい、そよッ! お前はいつも俺の稽古に付き合ってくれたよな? 俺はそれで自分が強くなったと思っていた……だが、それは思い込みだったんだ! 護られていたのはいつも俺の方だった!」
ザコタもまたそう叫んだ。その叫びはサニーの意識に届いていた。しかし、サニーはそれを認識することが出来ないでいた。
「だから! お前が大変な今ッ! 今度こそ俺がお前を救い出してみせる! また一緒にバカやろうぜ!?」
「…ノイズが、うるさい…! 頭の中を掻き乱すッ!」
サニーは頭を左右に振りながらガイアレスをマケンオーから引き剥がそうとする。
「くそ! 離すかァァァーーーッ!! そよぉおおーーーッ!!」
ザコタは叫ぶと、更にガイアレスを強く抱き締めた。その叫びはしっかりとそよの耳に届いていた。
『超次元電神ダイタニア』
第五十三話「機械仕掛けの感情」
(……聞こえる? ……進一くんの声が。それに、マケンオーの感触も……進一くん? て、誰?)
「ぐ! あ゙あッ!!」
また一瞬、そよの意識が戻ったようだった。だが直ぐに元に戻ってしまう。
ガイアレスは必死にもがくようにマケンオーから離れようとする。
「いい加減しつこいぞ! シルフィ、まだ抵抗すると言うのなら……!」
ガイアレスの頭部の二本の角に魔力が集まりだし輝き出す。その光は大気に帯電するとバチバチと音を立て巨大な雷球を形成した。
「この辺り一面、灰塵に帰してやるッ!!」
「な!?」
ザコタは叫び止めようとするが、時は既に遅かった。
ガイアレスの雷球から必殺の稲妻が放たれる。その雷は二機の電神の周りを巨大な蛇が這うように取り囲み、そして瞬く間に地面を駆け巡る。
「うおぉぉぉーーーーッ!!」
ザコタのその叫びも虚しく、雷がグラウンドを削りうねる。
「きゃあッ!!」
まひるが目を閉じ叫ぶ。咄嗟に風待と流那とアースがそれぞれ《水流幕》と《地殻障壁》を張りその攻撃を何とか逸らした。
土埃が晴れると、元の姿のままのグラウンドが姿を見せる。それを見て風待は思考を巡らせた。
(SANYもプレイヤーと同じく、地球の物質に対してダメージや変化を与えることは出来ないか。だが、もし地球とダイタニアが繋がってしまったら、きっとさっきの攻撃の被害は現実になる……)
特大の攻撃を浴びせたというのに変化のないその場の状況を見て、流石にサニーも驚いた。
「まさか。凌いだと言うの!?」
そんなサニーの言葉にザコタが答える。
「当たり前だッ! 前にアキバで戦った時とは違う! 俺たちだって強くなってるんだ!」
そう叫びながらザコタはガイアレスを掴む力を一層強めた。
「くッ! あ、諦めるかよ……ッ!!」
ザコタとガイアレスの力比べが続く。
「そよ!! 頼む!! 戻ってこい!!」
そんな二人の光景を誰もが見つめていた。
「…今なら力であの電神を抑え込めるかも……」
その光景を観ながら流那が呟いた。そして皆に振り向き言った。
「ベルファーレを出すわ! 飛鳥ちゃん、お球さん! 一気に畳み掛けるわよ!」
「分かりました!」
飛鳥はそう言うと右手に両手剣を生成した。それと同時に、アースはランスと盾を展開する。そしてまひるも流那に叫んだ。
「流那ちゃん! みんなッ!」
その声を受け流那が答える。
「そよちゃんは任せて! 風待さん、まひるんのことお願いね!」
流那はベルファーレに乗り込むと、その双肩に飛び乗った飛鳥とアース諸共ガイアレスへ突進した。
自分に向かって来る巨大な鉄塊を見てサニーは落ち着いた口調のまま言う。
「中々に勇ましいヒトらだ……少しばかりの敬意を示して電神の扱い方を教えてやろう…」
そんなサニーの言葉をよそに、ベルファーレはガイアレスの目の前にまで急接近した。
「そよちゃん! 今助けてあげる!」
流那が叫ぶと同時にその巨大な腕がマケンオーの上から更にガイアレスの体を拘束した。
だがサニーは微動だにせずコクピットの中で呟く。
「無駄だ、ヒトよ……」
そしてガイアレスはベルファーレをマケンオー諸共軽々と持ち上げた。流那は慌てて叫ぶ。
「うそ!? 何で!?」
そんな叫びを聞かずにガイアレスはそのまま地面に叩き付けた。地面が揺れ土埃が舞う。
「こいつ急に、力が増したぞッ!?」
ザコタが叫ぶ。
「…どこにこんな力が……まさかッ!」
シルフィが何かに気付き声を上げる。
「サニー、貴女、扉へ供給している地脈エネルギーをその電神に回しましたね!?」
シルフィがそう言っている間にもガイアレスはその全身から放電しているかのように金色のプラズマを迸らせ、大気を焦がす。
金色の光に包まれるガイアレスがゆっくりとマケンオーに向き直り、サニーが口を開いた。
「電神の動力源は魔力。魔力の無いこの地球で電神を動かすには精霊の加護は必須。精霊がいないなら、それを超える魔力に替わるエネルギーを作り出すまで…そうだな、シルフィ?」
「魔力に代わる、エネルギーだって?」
ザコタが呟いた。
その時、砂煙が晴れベルファーレとガイアレスの姿が現れる。そしてシルフィが言葉を続けた。
「貴女が今していることは、私がやろうとしていた地脈操作の比じゃありません! 地球そのもののエネルギーを『天照』で変換してその電神に送っていますね!? そんなことを続けたら地球も貴女も保ちませんよッ!!」
シルフィのその言葉にガイアレスは答えない。ただ、その眼に燃えるような赤い光を宿し無言でマケンオーを睨み付けているだけだ。
そんなガイアレスに流那が叫ぶ。
「そよちゃん! もうやめて! いつものニコニコしたそよちゃんに戻ってよ!」
しかしサニーはそんな流那の叫びなど意にも介さず、電神のコクピットで淡々と呟く。
「いよいよ持って、あなたたちの抵抗も限界のようだな。ならば、一思いに……『天照』よ、私に力を貸せ!」
その言葉と同時にガイアレスの全身から金色の光が放たれる。
「ぐあッ!!」
その光はマケンオーの電装を蝕み、機体の動きを鈍くさせる。
「……そんな!」
流那は呆然として呟く。飛鳥もその状況に戸惑いを見せる。
そんなプレイヤーたちを他所にサニーが叫ぶ。
「ガイアレス! 今すぐにその目障りなマケンオーを叩き斬れ!!」
その言葉に呼応しガイアレスの刀が振り下ろされる。
「ぐぅッ!!」
ザコタは咄嗟に脇差と手甲でそれを受け止めたが、衝撃までは殺し切れず機体を大きく後方へ弾き飛ばされた。
「うおっ!!」
「きゃぁッ!?」
ザコタとシルフィの悲鳴が小さく漏れる。
そんなマケンオーを追おうとサニーの電神が一歩踏み出す
「させるかァーーッ!!」
アースの叫びと共に、飛鳥も両手剣を振りかぶりガイアレスに突進した。
「えぇーいッ!!」
飛鳥の両手剣がガイアレスに振り下ろされ、その刃は脛の装甲に弾かれた。
「くっ! 硬い……ッ!」
飛鳥はその衝撃に思わず声を漏らす。だが直ぐにアースが叫ぶ。
「突貫ッ!!」
アースがランスを構え突撃するも、その攻撃もガイアレスの装甲に傷を付けることは出来ずに弾かれる。
そして流那はベルファーレをガイアレスの方へ向け、叫んだ。
「みんな! 巻き添え食わないでよッ!!」
そう言うと流那の言葉に呼応するかのようにベルファーレがその右手を空高く掲げ、拳を握る。
「《最終攻撃》ッ!!」
流那の今夜二度目の《起動句》が月夜に響き渡った。
ベルファーレの右腕が三次元を無視して巨大に膨れ上がり、あっという間にその姿を三次元に定着させる。
「そよちゃん! 痛かったらゴメンね! 《新星創造拳》ッ!!」
ベルファーレの最終攻撃《新星創造拳》がガイアレスに向け放たれた。巨大な拳がガイアレスに迫る。
「ふん……」
ガイアレスはその拳に狙いを定め、刀を両手で握り直すと、ベルファーレの拳に向け振り下ろした。
拳と刀がぶつかる。その衝撃に辺りの木々から鳥が飛び立ち、砂煙が舞う。
「やあああーーーッ!!」
ベルファーレは更に力を込める。だがガイアレスも負けじとその刀に力を込める。
そして二つの力が均衡し、押し合いへし合いを始めたその時だった。
「あッ!?」
突然ベルファーレの右腕に亀裂が走る。その亀裂は見る見る拡がり《新星創造拳》を纏った巨大な右腕を両断した。
「ベルファーレッ!!」
流那が叫ぶと同時にベルファーレは体勢を崩し、斬撃の衝撃に耐えられず後方に吹っ飛ばされた。
「きゃあああッ!!」
流那の悲鳴と共にベルファーレはマケンオーの方へ吹き飛び、その機体に激突する。
そしてそのまま二機とも地面に再度叩き付けられた。
そんな光景を目の当たりにしてサニーが言う。
「まとめて、消えろ」
ガイアレスの刀に金色のプラズマが迸る。そしてそれを大きく振りかぶりマケンオーとベルファーレに向けて構えた。
「くッ!!」
ザコタは咄嗟にベルファーレを庇うように動こうとするが、その巨体に押し潰され身動きが取れないでいた。
「…つうッ! …え!?」
流那が倒れたままの姿勢で目を開けると、眼前に高エネルギーを溜め、今にも自分たちに斬撃を振り下ろそうとしているガイアレスを視認し絶句する。
刀に収束したプラズマの大きさを見るに、先程グラウンドを蹂躙した光の量より大きいことが判る。そこから生み出される破壊力を想像し流那は顔を引きつらせた。
だがその時、ガイアレスが掲げた刀の光が次第に弱まり、どういうわけか消失した。
薄い目を開けて見ていた流那はまたもやその出来事に言葉を失う。
「え!? なんで……?」
それはサニーも同じだった。
「……『天照』からのエネルギーの供給が、止まった?」
この地球に降りたってから、サニーが感じたことのない現象だった。今までは電神を稼働させるのに必要な魔力と地脈エネルギーを『天照』を通し、増幅して供給していた。しかし今はその供給源である筈の地脈エネルギーの供給が停止したのだ。
「何が起こっている?」
風待も状況が飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くしているだけだった。
そんな時、校舎の方から声が掛かった。
「おい。電算室を出るならちゃんとスパコンの火を落としてから行け…」
不機嫌そうな男の声が静まり返った校舎に響いた。
「え!?」
突然の声にまひるは驚く。そして声のする方を振り向くと、そこには男性が立っていた。
黒衣を羽織ったその男の長髪は後ろに流され夜風に靡き、その眼鏡の奥に光る目は鋭く、いかにも科学者といった風貌だった。男は続ける。
「『天照』の電源は落とした。もうさっきのような無茶な攻撃は出来ないはずだぜ。なあ、SANY?」
そう言って男がグラウンドの風待の方に歩いて行く。
「ドク先輩っ!!」
風待が男の姿を認識してそう叫ぶと、男は今日一不機嫌な顔になり面倒くさそうな声でこう言った。
「“ドック”だ。何度も言わせるんじゃねえ、ザコタ」
『天照』からのエネルギー供給が遮断され、先程までガイアレスから立ち上っていた金色の光は消失した。
黒衣の男、“ドック”こと堂島九曜がグラウンドにその姿を静かに現すると、サニーまでもが一瞬言葉を失いその男を凝視した。
夏の夜もより一層その黒さを増してきている時刻に、月の明かりがドックを照らす。
闇夜の中に眼鏡だけが白く映し出され、彼とその周囲は不気味な雰囲気を醸し出していた。
ドックが風待の隣に来ると足を止めた。
「三十分経ったから来てやったぞ。状況はオープンチャットで聴いていたから大体解る。やっぱりギリギリまで『天照』を起動しておいたお陰でSANYを特定出来たな。今回は俺の読みに感謝しろよ?」
「ああ、助かった! 偶には先輩の言うことも聞くもんだ」
風待がドクに言う。するとそんなやり取りを見ていたガイアレスから再び怒声が響く。
「『天照』からのエネルギー供給が止まったのはお前の仕業か!? 何なんだお前たちは!何故こうも私の計画を崩すッ!?」
「何故かって? 簡単だ」
ドックはそう言うとガイアレスの方を向き直り、その顔を睨み付けた。そして言い放つ。
「俺たちはな、お前の親も同然だ。自分の子が道を誤ったなら、諭し、正す必要がある。ただ当前のことをしているだけだ」
「何を……言っている?」
サニーがドックの言葉に戸惑う。
「解らないのは感情を失ったからか? それとも、そこまでのAIだったってだけか?」
ドックの挑発めいた言葉に、サニーは食いついた。
「何ィ!?」
ドックはゆっくりと右手を上げると、その中指を立てて言った。
「お前みたいな不完全なAIが『天照』を使うなんて千年早えよ。また一からデバッグしてバグを取ってやる!」
ドックは上げた右手を振り下ろし、隣の風待に視線を向ける。
「ザコタ! 先にカミオカンデに向かった二人が気掛かりだ! 取りあえずこいつを捻るぞ!?」
ドックの声と共に、彼の背後から巨大な影が姿を現した。それは蒼い四本腕の電神だった。
「電神ッ!? もうプレイヤーはいないって言ってたのに?」
流那のその言葉に風待が余裕を取り戻した声色で返す。
「一般プレイヤーは君たちしかいないさ。彼は――」
風待がドックが乗り込んだ四本腕の電神、《ハンズワイプ》を誇らしげに見上げ言う。
「彼は『運営側プレイヤー』さ」
「運営側……プレイヤー!?」
流那がその電神を視認して呟く。
「あの人も、電神を使うの!?」
そんな流那の言葉に風待が答える。
「そうさ! 彼はこのダイタニアというゲームを俺と一緒に創ったプログラマーだ! ゲームも、SANYのことも知り尽くしている!」
驚きのあまり言葉を失う流那たちを尻目にドックはガイアレスを見据えて言う。
「……月並みだが久し振りだなSANY。実体化してからは初めましてだな。俺はドック。お前を創った人間の一人だ」
「……ッ! 堂島、九曜!?」
サニーはドックの言葉に一瞬動揺を見せた。
「貴方か……また厄介な…」
そんなサニーに構わずドックが続ける。
「今こそお前に教えてやろう! お前はプログラムだ! 電脳世界という仮想空間で創られた仮初めの存在だ! 三次元化したからといって地球はお前が干渉していい世界じゃない!」
「黙れッ!!」
サニーは刀に光を滾らせ叫ぶとガイアレスをドックのハンズワイプに向けて突撃させる。
「『天照』が使えなくとも、私自身貴方たちより強い!」
しかし、その刀はハンズワイプのゆらりとした右前腕と右後腕で受け流され、左後腕と左前腕によって掴まれ受け止められる。
「無駄だ」
そして右前腕が拳を握りガイアレスの腹部に突き刺さり、ハンズワイプの左手に村正を残したまま、ガイアレスは後方に吹き飛ばされた。
ドックはその刀をグラウンドに突き刺し、ガイアレスに向け手招きして挑発する。
「どうした? 俺より強いんじゃなかったのか!? ほら、掛かって来いよ?」
「くッ……!!」
サニーは拳を強く握ると、右脚で強く地面を蹴り跳躍しハンズワイプに殴りかかる。しかし左右後腕の二本腕のみで防がれてしまい、そのまま地面に叩き付けられた。
「無駄だって言ってるだろう? 俺とお前では経験が違う。まあ、経験があっても負けた奴はいるみたいだがな…」
「うっ!」
ドックのその言葉に風待がぎくりとバツの悪そうな顔をした。
ドックはガイアレスを押さえ込んだまま今度は左右の前腕でガイアレスの胸部を殴り続ける。
「どうした? もう終わりか?」
そんなドックに流那が叫んだ。
「やめて! SANYはそよちゃんなのよッ!」
しかしドックは攻撃の手を緩めない。
「大丈夫だ。こいつはプログラムが三次元に顕現した物体だ。人間と違いこれくらいじゃ壊れない」
そして更に攻撃を続ける。
「それにな、こいつにはもっと痛い目にあって貰わないと気が済まないんだよ。俺たちのダイタニアを滅茶苦茶にしやがって!」
そう言ってハンズワイプはガイアレスの胸部を殴り続ける。
「くッ! うあッ!!」
サニーの口から苦痛の声が漏れ出す。
そんな光景に流那は叫んだ。
「やめてって言ってるでしょ!? 『天照』が使えないならもう勝負はついたわ!」
だが、その叫びに風待が反論する。
「いや、まだだ」
その言葉に流那が食いつく。
「え? 何で?」
「確かに今のSANYには“心”がない。そよ君が心を取り戻すには喜怒哀楽の感情をぶつけてサニー自身に思い知らせる必要があるはず」
風待が流那に説明する。
「今、あいつは確かに痛いだろうさ。だが、怒りの感情も芽生え始めている。それでそよ君が戻って来るのに賭けよう!」
そんな時、ガイアレスが突如吠えた。
「うああああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
するとそれまで妖しく光っていたガイアレスの胴体にある黄色いエネルギーのラインが輝きを増した。
「こいつ!? 出力が上がりやがった!」
ドックが驚きと共に尚腕を振り上げる。
「うあぁぁッ!!」
サニーの叫びが響き渡ると、その全身が輝き出してハンズワイプを弾き飛ばした。
そして体から迸る光の帯を右拳に集め始めると、その拳を地面に叩き付けた。するとそこから巨大な光の柱が天高く立ち上り、上空で拡散して広範囲に降り注ぐ。
「食らいなさい! 《光弾流星群》!」
「チイッ!」
ハンズワイプは四本の腕でガードの姿勢を取るが、無数の光の弾丸に体を撃ち抜かれ更に後方に吹き飛ばされた。
「ぐうッ! クソ……!!」
その攻撃が止んでグラウンドには土煙が舞う。そしてガイアレスがマケンオーに向け駆け出す。
「私は負けない! あの様な哀しみに暮れるくらいなら心なんか要るものか!!」
そう言ってガイアレスはマケンオーに突進する。
「狙いは飽くまでそっちかよッ!」
そう言ってドックが背後からガイアレスを攻撃すべく飛び掛かる。しかし、次の瞬間にハンズワイプの足元から光の鎖が生じてその体を縛り付けた。
「何ッ!?《拘束》!?」
そしてガイアレスはマケンオーに肉薄し、その右手から放出したレーザーブレードをマケンオーに振り下ろした。
ザコタはその切っ先を見極め手にした刀で受ける。マケンオーのその手には《妖刀村正》がしっかりと握られていた。二機の電神が鍔迫り合う。
「電脳世界のAIが、そよをどうこう出来ると思うなよ!? あいつは、人一倍能天気でアホなんだよ! 無感情からは一番程遠いヤツだ!」
ザコタはそう言って刀に力を込める。しかしガイアレスは微動だにせず更にマケンオーを押し込んでいった。
「言ったでしょう!? 私には心がない! 何も感じない!! あの少女の想いも今や微塵も感じない!」
そう叫ぶサニーの言葉にシルフィが言う。
「サニー…そう言う割りには今の貴女は感情的になっているように見えますが?」
「何ッ!?」
サニーがシルフィの言葉に耳を向ける。シルフィは続ける。
「また私と共にダイタニアの管理に戻りましょう! お互い感情を取り戻して。二人なら今度こそ楽しくやれますよ!?」
その言葉にサニーが俯き、何やらぶつぶつと独り言ちる。
「……何? 感情を取り戻してまた一緒に管理しよう? 二人なら楽しい……?」
「そうです! 幸いにもまだ地球に被害は出ていません。今ならまだやり直せます! さあ、私と一緒に――」
シルフィの言葉を遮りサニーが叫んだ。
「そんなの、嫌だッ!! 進一くんと一緒に居られない世界に何の意味も無いッ!!」
「ッ!!?」
サニーのその言葉にその場の誰もが言葉を失う。
「な、何を言っているんですか!? 貴女はダイタニアで私たちと共に暮らしていけるんですよ!?」
シルフィの言葉にサニーが答える。
「そんなもの、要らないッ!! 私はただ、進一くんと、進一くんを…ッ!!」
そんな光景をザコタは呆気にとられて見ていた。そして、気を取り直し視線を眼の前のガイアレスに定める。
(そよ……お前、なんだな…!)
【次回予告】
[ドック]
こいつが三次元化したSANYか…
ダイタニアの根源とも言える存在だけあって
中々に骨の折れる相手のようだ…
次回『超次元電神ダイタニア』
第五十四話「開かれる異界の扉」
…今回もまた、俺は誰かの尻拭い、と




