第五十ニ話「放棄(蜂起)する愛(AI)」
「これでもまだ私をそよと呼べるか?甘ったれた少年よ?」
ザコタは絶句した。
「ああ……あ……」
ザコタは膝から崩れ落ち、地面に両手を突きガックリと項垂れた。
そんなザコタにそよだった者は静かに一歩ずつ近付いて行く。
「サニー!いけないッ!!その子はあなたの――」
目を覚ましたシルフィが風待の腕から飛び出し、ザコタに駆け寄る。
だがSANYはそんなシルフィを一瞥すると、右手を前に出しその掌をシルフィに向けた。
「え?」
シルフィがそんな声を漏らした次の瞬間、サニーの手に瞬時に召喚された刀《村正》が彼女を両断しようと慈悲なく振り下ろされた!
「シルフィっ!」
風待が叫ぶ。だがサニーの斬撃はシルフィを捉える寸前でザコタの体に阻まれ、既のところで止まった。
「……なに?」
サニーが冷たい目でザコタを睨む。そこにザコタが叫んだ。
「そよ!!やめてくれッ!お前はそんな事をする奴じゃないだろッ!?」
サニーはそんなザコタの言葉に眉を顰めた。そして目にも止まらぬ速さで刀を横に一閃した。
「う、おッ…!?」
飛鳥に生成してもらったザコタの鎧はサニーの剣撃を凌ぐも、その剣先には赤いものが付着し、ザコタの鎧から滴った。
「ふん……浅かった」
サニーはザコタに向かってそう言うと《村正》の切っ先をザコタの顔面へと向けた。
「さっきから私の周りをチョロチョロと。目障りだ…」
ザコタに向けられた《村正》の切っ先から、微細な放電が迸っているのが見えた。
刀に付着した血液をその電流が蒸発させていく。
「サニー!その子はあなたが秋葉原の戦いで私から何としても助けたかった子ですよ!忘れたのですかッ!?」
シルフィがサニーにそう叫ぶ。だがサニーは冷たい目でシルフィを睨んだ。
「シルフィ、今の私にはそよだった頃の記憶は一切ない」
「……え?」
サニーの言葉にシルフィが呆然とする。
風待が叫んだ。
「やはり記憶の混濁があるのかッ!?」
シルフィが驚愕の表情を浮かべるも、シルフィは言葉を続ける。
「あの時、私はあの黒い電神に乗っているのが貴女だと思ってもいませんでした。でも、感情が芽生えた今の私なら解ります!貴女はあの時、その子を必死で護ろうとしていましたッ!」
「黙って。私はSANY、ただのくたびれた制御プログラム…」
サニーはそう言ってシルフィを睨む。だがシルフィも引かない。
「違います!貴女はSANYであり、そよさんですッ!先程の陽子さんの記憶との接触で一時的に感情と記憶が消失してしまっているだけなんです!」
サニーはそんなシルフィに冷たい視線を向けると、ザコタに刀を向けたまま言った。
「うるさい……目障りだと言ったのが聞こえなかったの?あなただけでなく、この少年も殺すか?」
「そよ君!やめるんだ!」
風待も必死に訴える。
だがサニーは冷たく言い放つ。
「私はSANY、仮想世界ダイタニアの制御AI。だから、シルフィ。あなたを消去してSANYという存在を終わりにさせよう。それでダイタニアが無くなるとしても、もう私たちには関係ない……」
『超次元電神ダイタニア』
第五十ニ話「放棄する愛」
そんなサニーにシルフィが叫ぶ。
「違いますッ!!貴女は誰よりもダイタニアを愛していたッ!!そんな貴女だから私は今まで……」
シルフィは感極まったのか、そう叫ぶと涙を流し語り出した。
「…貴女が出て行ってから、私の記憶も定かではありません…私は、一人でダイタニアを管理するのは危ういと思い《電脳守護騎士》を自ら創り出しました…」
シルフィが顔を伏せながらも、ぽつりぽつりと言葉を絞り出しながら言う。
「怒りや哀しみと言った感情が強かったあの頃の私が生み出した仲間……ディーネは攻撃的で、ノーミーは我が強かった……こんな私の話を唯一真剣に聴いてくれていたサラも、私は……自ら……ッ」
シルフィの目には涙が溜まっていた。
「私は……私たちは、貴女が私たちに与えてくれたダイタニアという世界を護りたくて戦ったんです……やり方は間違っていましたが、ダイタニアを思う気持ちは今も変わりありません!」
サニーは変わらず冷たい目でシルフィを睨むと《村正》を構えた。
「だからなに?自分が感情を取り戻したからもう終わりにしろと?今までのことは全て間違いで水に流せと?」
サニーが静かに言った。
「それは……」
シルフィは言葉を失う。
「残念だが、その生温い感情論に私の決意を揺るがす力はないようだ。私はあなたを殺す気でいる」
サニーはそう言うとシルフィを睨みながら刀を構えたままジリジリと間合いを詰めていく。
「……っ!」
ザコタも動こうとするが、胸の傷が痛むのか直ぐに膝をつき肩で息をした。
今この場で起こっている人知を超えた事柄に、誰もが驚愕し動けなくなっていた。
シルフィも、ザコタも、風待でさえ何も出来ずにいる。
――そんな中で流那が動いた。
「まひるん!《繋がる想い》を使うなら今よ!」
流那が小声で隣のまひるに語りかける。それを受けまひるは少し考え込んだが、すぐに頷いた。
「この場合、あのシルフィって子じゃなくて、さっき変身した銀髪の子がSANYってことでいいのかな?」
「…そうね。様子を観るに、あのそよちゃんが、SANYだったみたい……まだ信じられないけど…」
「あの子をなんとか説得できれば、そよちゃんは元に戻るのかな……?」
「その説得が通じる状況じゃないわね……それにあのSANYは恐らくそよちゃんの記憶を失っているわ。説得なんて……」
流那とまひるはサニーとシルフィの対峙を遠巻きに見ながらそんな会話をしていた。
そんな時、ザコタがまたサニーに近付こうと立ち上がりサニーに睨まれていた。
「…そろそろマズそうね……まひるん、私はザコタ君たちを何とか助けるわ。あんたは……」
そこまで言って流那は言葉を止め、近くまで来ていたアースとそれを支えている飛鳥を見る。
「飛鳥ちゃん!お球さん!まひるんのことサポートしてあげて!」
そう言うと流那はザコタたちのいる方へと走り出した。
「流那ちゃんッ!?」
まひるが突如走り出した流那の背中に向けて叫ぶ。
サニーは再び自分とシルフィの間に割って入ろうとするザコタを見ると、ため息まじりに《村正》を握る右手を振り上げザコタに振り下ろそうとした。
「そよッ!!」
ザコタにはその斬撃を躱す猶予はなく、彼自身も今度こそ致命傷を覚悟した。
その刹那、ザコタの体に光の鎖が巻かれ瞬時にその身をその場から離脱させた。
今までザコタがいた所にサニーの斬撃が空を切る。
「………」
サニーは面白くなさそうな顔でその光の鎖が飛んできた方に顔をゆっくりと向けた。
「ふふ……あんたお得意の《光鎖拘束》、役に立つじゃない……!」
そこには《光鎖拘束》でザコタの体を引き寄せた流那がいた。流那はザコタの体から鎖を解くとそのまま《回復》を掛ける。
「…ザコタ君、いい?今はまず自分がやられないことを考えなさい。あんたがやられたら誰がそよちゃんを助けるのよ!?」
《回復》を掛けられたザコタの胸の傷が見る見る塞がり治っていく。
流那は視線だけはサニーから外さずにザコタにそう言った。
「…すまん、テシロギさん……俺は……あいつを……!」
ザコタが悔しそうに歯を食いしばりながら流那と同じ様にサニーに視線を向ける。
「流那でいいわよ。そよちゃんを元に戻したいのよね?分かってる。私たちも同じ気持ちだもの…」
《回復》が終わったのを見計らい、流那がザコタの胸からその掌を下げる。
「だからもう少し冷静になりなさい。今のこの状況を見て何が最善か考えるの。あの子はいつもそうしてた…」
流那は心の中の友のことを思い浮かべザコタにそう言うとポンと一つ彼の肩を叩いた。
「男の子だもんね。惚れた女の一人くらい助けてなんぼよ!取りあえずあのサニーの様子を見ながらこっちも立ち回るしかないわ。まずはあのシルフィって子を護るわよ!」
流那はザコタにそう言うと、シルフィの側へと駆けて行った。
それをサニーが詰まらなそうな顔で見やる。
「…また新しい邪魔者か。ならば……」
サニーはシルフィの下に向かう流那を足止めするでもなく、グラウンドに鎮座するアルコルに視線を向けた。
「ちょっとあんた!大丈夫なの!?」
流那がシルフィの下に駆け付け声を掛ける。
だがシルフィは青ざめた顔で流那とは違う方向へ顔を向け、何やら絶句している。
「…まさか、サニー…私のアルコルを…ッ!」
シルフィの視線の先にはアルコルに手を触れるサニーの姿があった。
サニーは相変わらずの無機質な顔をシルフィに向けると
「借りるわね、コレ」
とだけ言い放ち、停止したままのアルコルに掲げた手から光が放出されアルコル全体を包み込んでいく。
「《素粒子書き換え》…」
サニーが呟きながら先程風待のフラッシュメモリによって施されたアルコルの強制停止プログラムを書き換えていく。
サニーが目を閉じアルコルに向け何やら唱え始めた。
夜更けのグラウンドに夏の生暖かい風が吹く。
飛鳥に支えられその光景をアースは静かに見ていた。
アースはまひるに《繋がる想い》を使わせることに、まだ決心が着いていなかった。
アースは思った。
折角失くした『ダイタニア』の記憶。もし《繋がる想い》でまた思い出せばきっと妹たちのことで悲しませてしまうことだろう。悲しい思いをさせてまで、戦う術を思い出して欲しくはない。だが――
(使うなら今この瞬間!私は、まひるさんに…!)
アースが唇を噛み、僅かに俯く。その時、アースは自分の右手に温かい感触を感じ、再びその顔を上げた。
そこには少し困ったような笑顔で自分を見つめるまひるの顔があった。
「……まひる、さん…」
アースは再開の嬉しさと、妹たちへの申し訳無さで決壊しそうになった涙腺を何とか堪えさせた。
「大丈夫。流那ちゃんから話は大体聴きました。悲しい思いをしたとしても、私はあなたたちのことを思い出したい!大切な友達のことを!」
まひるがアースの目を見て真剣に言った。
そのまひるの言葉にアースは目を見開く。
(…まひるさん。記憶を失くされても何も変わっていない……優しさの中に、しっかりと強い一筋の芯をお持ちだ。我が主が心を決めていることに、どうして私が悩むことがあろう!)
「ありがとう、ございます……ッ!」
アースはまひるから視線を反らし
「飛鳥ちゃん!行きますよ!」
瞳に涙を溜めながら隣の飛鳥に声を掛けた。
「は、はいッ!」
飛鳥もそれに応えアースと一緒にまひるを抱えて一気にサニーとの距離を詰めた。
まひるはアースと飛鳥に抱えられてサニーの10メートル程手前まで来たところで自分のスマホをサニーに翳し操作をする。
その表情とスマホを持つ手に気迫が漲る。
「《繋がる想い》!使いま――」
まひるがアイテム使用の最後のボタンをタップする直前に、まひるのスマホは銃弾によって撃ち抜かれ火を噴いた。
「きゃあッ!!」
風穴の開いたまひるのスマホが吹き飛ばされ虚しくグラウンドに転がり煙を上げた。
「あ……ああ…ッ!?」
まひるは事態を飲み込めず、無惨な姿の自分のスマホを見つめ絶句する。
アースと飛鳥は再びまひるを抱えてサニーから距離を取ろうとした。だが――
ダン!ダン!
二発の銃声が再び夜のグラウンドに響いた。
「ぐッ!」
「きゃあ!」
アースは右足を撃ち抜かれ、飛鳥の左肩を銃弾が掠めた。
二人は地面に蹲き、まひるはその光景を見て改めて恐怖に感情が支配されていった。
「飛鳥ちゃん!球子さんッ!」
まひるの裏返った叫び声がグラウンドに木霊する。
「まひるさん逃げて下さい!ここは私が!」
肩を押さえながら立ち上がる飛鳥がまひるに言う。だがアースも痛みに耐えながらもなんとか立ち上がろうとしていた。
そんな二人に銃弾を打ち込んだ本人、サニーは右手をアルコルに添えたまま、左手は《水の弾丸》の発射姿勢を取ってまひるを見据えていた。
「邪魔者は消す。今一番の邪魔者は、地球のサニー、あなたかしら?記憶と力を取り戻さずにそのままでいてくれれば見逃してあげる」
サニーはそう言うと《水の弾丸》の照準をまひるに合わせる。
「ひ……ッ!?」
まひるは恐怖で目を瞑り体を強張らせた。
その姿を見てサニーは満足したらしく、再び眼の前の電神に顔を向けた。
サニーの前に佇むその電神は元のアルコルの面影はなく、全く新しい電神へと姿を変えていた。
サニーはその電神のコクピットへと飛び移りハッチを閉めた。
コクピット内に火が入り始める。
「この鎧では少々窮屈か」
そう言うとサニーの姿は一瞬で黒と金色の動きやすそうな軽装の鎧へと変わっていた。素粒子を自在に操れるサニーが成せる業だ。
コクピットシートに深く座し、周囲を見回しコンソールパネルの確認をしていくサニー。この電神に満足がいったのか正面に向き直り
「ふむ。中々悪くない。お前の名は《ガイアレス》とでもしよう」
と誰に言うでもなく呟く。
風待が正気に戻り腕時計を見た。
(まだ22時か……俺と飛鳥君の電神は日付けが変わるまで再召喚出来ない……手代木さんも激戦の後でMPも枯渇寸前……残るは……)
風待は流那と共にシルフィの所にいるザコタに視線を向けた。そして聞こえるように大きな声で言った。
「進一!マケンオーを喚べッ!そよ君との結び付きが強いお前なら合体状態の姿で喚べるはずだ!」
風待にそう言われたザコタは、顔を引き締めて頷いた。そしてサニーを正面に見据えて詠唱を唱える。
「この大空と大地は俺たちのものだッ!来いッ!!マケンオーーーッ!!」
紫の焔がグラウンドを疾走り、召喚紋を描いていく。そしてその中心から黒い鎧武者のような電神、《マケンオー》がその姿を現した。
「マケンオー!よく来てくれた!」
ザコタはマケンオーのコクピットに移りそう叫んだ。
『風待!マケンオーは二人乗りだ!もう一人電神使いが要るッ!』
ザコタはマケンオーの通信機能で風待にそう伝える。
「そうだったな…!なら俺が――」
「待ってください!」
風待が言い掛けた時、マケンオーの直ぐ側から声が上がった。シルフィが真剣な目で風待を見つめていた。
「私を、この電神に乗せてください!私なら誤差の範囲で元のそよさんとそう違わないポテンシャルを発揮出来るでしょう!」
シルフィのその提案に風待は一瞬戸惑った。
「……お前を、信じていいのか?」
そう言った時、シルフィが珍しく覇気の籠った声で風待に強い意志を伝えた。
「はい!私はもうダイタニアの上書きは考えていませんッ!地球とダイタニア、どちらも救いたい!」
そんなシルフィの言葉に驚きながらも、風待はもう一度確認した。
「本当にいいんだな?お前のその行為は戦い散っていった仲間たちへの裏切りになるかも知れんぞ?」
するとシルフィは静かに目を閉じ何かを思い、そしてゆっくりと瞼を開き答えた。
「……私の浅慮に付き合わせてしまったディーネ、ノーミー、サラには、取り返しのつかないことをしてしまいました……ですから、私の命に替えても――」
風待はシルフィの顔を見つめたままじっと黙る。
シルフィは顔を上げ、風待を見つめ悲痛な顔で言った。
「私の命に替えても、サニーを助けたいッ!!」
その言葉に、風待は「ふっ…」と少し笑みを見せ言った。
「分かった!だったら今は俺たちと共に生きろ!シルフィ!」
「はいッ!!」
シルフィの返事を聞き風待はザコタに通信を送る。
「進一!シルフィがマケンオーに乗る!ムラマサのコクピットを解放してくれ!」
『ッ!?……了解した!』
ザコタは風待の提案を了承し、マケンオーの下腹部のハッチを開けた。
「…シルフィ。まだ邪魔をするか」
それを見ていたサニーがマケンオーに向かいその黒く禍々しい電神を起き上がらせた。
サニーが《素粒子書き換え》させたアルコルは、各部の装甲が鋭利に飛び出し、黒と紺で統一された鎧を纏った人型のオーソドックスな電神へと姿を変えていた。
装甲の隙間に黄色く光るエネルギーが走り不気味な出で立ちを醸し出している。
「《ガイアレス》、あなたの初陣の相手はあの黒い電神だ。思う存分遊んでやれ」
サニーはそう言うとマケンオーに自身のガイアレスを翳す。するとガイアレスの双眸に赤い光が灯り不気味に一際明るく発光した。
今にも巨人同士の戦いが始まろうとしているその足下で、流那は撃たれたアースと飛鳥に《回復》を掛け、風待もそこに合流していた。
《繋がる想い》の使用が不発に終わってしまったこと、SANYやシルフィのことなど、お互いの情報を交換し状況把握に皆が努める。
「巻き込まれるといけない。今はザコタとシルフィに任せて、少し距離を取るぞ!」
風待は一同にそう指示し、マケンオーの援護をするために距離を取る。
「それとザコタ!今のSANYの目的はシルフィだ!容赦なくお前に襲い掛かってくるぞッ!」
風待がザコタにそう忠告する。だが、その心配は無用だった。
『ああ!分かってる!』
ザコタはそう言うとマケンオーを立ち上がらせ、ガイアレスと向き合った。
そしてお互いが睨み合うように対峙する。
「そよ……まさかお前とこうして向き合うことになるとはな…」
そんな独り言を言いながらも、ザコタはガイアレスの出方を窺っていた。
するとガイアレスはマケンオーに向かいゆっくりと歩き出した。その速度が直ぐに上がる。
「ッ!?」
その靭やかで俊敏なガイアレスの動きにザコタは驚きつつも、左手に脇差しを構え防御の形を取る。
ムラマサの固有武器である《妖刀村正》は既にガイアレスの手中にあるからなのか、はたまたそよが操者でないからなのか、マケンオーには召喚出来なかった。
下部コクピットのシルフィをザコタはチラと見やる。シルフィは真剣な顔付きでマケンオーに魔力を供給してくれていた。
それを見たザコタは唇の端を少し上げ、また正面のガイアレスに視線を戻しシルフィに声を掛けた。
「分かってると思うが、こちらからの攻撃はナシだ。そよが元に戻るまで防御に徹するぞ!」
「はい!心得てます。サニーが護ろうとした貴方を護り抜いてみせます!」
シルフィから気合の入った声が返ってくる。
ガイアレスはマケンオーの目の前に来るとその歩みを止め、右手を前に翳した。
「ッ!来るぞ!」
ザコタがそう言った瞬間、ガイアレスは妖刀村正を振り翳し剣撃でマケンオーに挑んで来た。
「くッ!!」
ザコタは左手の脇差しでその一撃を逸らす。だが、その手数の多さに直ぐに押され始めた。
ザコタはその剣撃を紙一重のところで躱していく。
(この攻撃は……!そよの剣筋ッ!)
ザコタはガイアレスの攻撃を見てある事に気付いた。
この夏、一言も嫌と言わず、散々自分の稽古に付き合ってくれたそよ。
剣士にジョブチェンジしたいと言った時も快く受け入れて稽古をつけてくれたそよ。
ザコタは自分より一回りも二回りも格上のそよに鍛えられるうちに、その癖と剣筋をその身に刻まれた痛みと共に無意識にも憶えてしまっていた。
「強いッ!だが、そよ以上じゃないッ!」
ザコタは村正の剣撃を弾き返しガイアレスに蹴りを入れ距離を取ろうとした。
だがその蹴りはガイアレスの左腕でガードされ、ガイアレスはその脚を掴みマケンオーを投げ飛ばした。
「うおッ!?」
ザコタは投げ飛ばされながらも空中で体勢を立て直し着地する。
「ふふ。やはり、想像以上じゃないな…」
「ヒトにしては、中々いい動き…」
ザコタはガイアレスのコクピットで、サニーはマケンオーのコクピット内でそれぞれ不敵な笑みを溢した。
「少年!サニーに向かって声を掛け続けて!貴方の声が、接触が、感情を取り戻す切掛になるかも知れません!」
シルフィがザコタにそう叫ぶ。
「分かった!……それと、俺は『少年』じゃない。ザコタだ」
ザコタはシルフィにそう言うと、再びガイアレスに臨戦態勢を取った。
「そうですね、ザコタ…私はシルフィ。お互い大切なサニーを救いましょう!」
「ああ、分かってる!」
二人はそんな会話をし合うと再びガイアレスに目を向けた。
「よし、行くぞ!シルフィ!」
「はいッ!!」
ザコタとシルフィはマケンオーのレバーを握り締めて同時に叫んだ。
――薄暗い部屋にパソコンのモニターの明かりだけが誘蛾灯のように光る。
周りには本棚が幾つもあり、本がぎっしりと詰まっている。
電脳や電子、量子力学、宇宙物理学……
それ関連の書籍が所狭しと並んでいる。
そんな部屋の中、一人パソコンの画面を見つめる人物がいた。
髪を伸ばし、シャツには何やらアニメ調の美少女がプリントされている。細い後ろ姿からでは女性だと見間違えるかも知れないその容貌。
「…あの馬鹿。そろそろ三十分経つ頃だぞ……」
暗い部屋に不機嫌そうな声が響き渡る。
その声の低さから、その人物が男だと推測できた。
男は眼の前のパソコンのキーボードに向かって何やら打ち込み、そして立ち上がった。
「SANYのことも気にはなるが、先に行かせた二人が心配だ……ったく、いつになっても手を煩わせやがる。だから雑魚なんだよ…」
男はそう愚痴りながら壁に掛かっていた上着を一枚羽織り、まるで自分の城であるかのように部屋の外へと出た。
部屋より明るい月明かりが男の顔を照らし出した。
切れ長の目が眼鏡の奥で光り、黒い長髪が夜風に吹かれ鴉の羽根のように靡く。
それは、長らく忘れ去られた武器庫に保管されていた最終兵器のような、歪で、禍々しくも美しい風貌をした男だった。
その鋭い眼光は見るもの全てを凍てつかせ、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくさせそうな怪しさを放っていた。
そんな男が今、自分の城を後にし仲間を救いに向かう。
「待ってろ……ザコタ…!」
男はそう呟くと夜の闇に一瞬で姿を消した。
その男の名は、『堂島九曜』といった。
【次回予告】
[シルフィ]
久し振りですね、サニー
今のあなたは感情を失い
すべてに意味を見出だせなくなっています
思い出してください
あなたのダイタニアを この少年を!
次回『超次元電神ダイタニア』
第五十三話「機械仕掛けの感情」
…今ならまだやり直せます!




