第五十話「この惑星(ほし)のために」
「アースダイナミック!!《流星破砕弾》ーーーッ!!!」
アースが生身での《最終攻撃》を上空のアルコルへ向け炸裂させた!
アースは一筋の流星となり、アルコルを撃ち抜いた!
――かに見えた!
変形し機動力が更に上がっていたアルコルは至近距離だったにもかかわらず、急激に腰部のブーストを蒸し直撃を免れた。
アースの攻撃はアルコルの右腰のスカート部の装甲を数枚貫き破壊しただけに留まった。
地表に戻ったアースは肩で息をしながら、同じく地面に降り立ったアルコルを睨みつける。
「はぁッ!はぁッ!……外した、か…ッ!」
アースはそう呟くとその場に片膝をついた。
「だが……次は外さないッ!」
そして、右手に再びランスを生成する。ランスに体重を預けながらアースは何とか立ち上がった。
「なるほど…生身の体で《最終攻撃》を使うのはかなりの負担になるようですね」
シルフィはそのアースの姿を見てそう呟いた。
「貴女の手札はもう終わりですか?アウマフももう居ない……詰み、ですかね?」
シルフィはアルコルの脚を動かしアースへと近付いた。
「……」
アースは無言で顔を上げシルフィを見る。だが、その目には諦めや絶望の表情は浮かんでいなかった。むしろその瞳には強い意思が籠っているようにも見えた。
「私は……確かに生身の体で《最終攻撃》を使ったのは初めてだ……正直、今も体のあちこちが悲鳴を上げているのを感じる……」
アースはそう言いながらランスを杖代わりにし、何とか立っている。
「だがな……不思議と体の奥底から力が湧いてくるのだ…貴様を倒せと、妹たちや友の声が聞こえて来るのだ!」
アースはその手に生成したランスをシルフィへ向けた。
「そんな状態で、まだ戦うと言うのですか?おとなしく私に討たれ、新たなダイタニアの礎となればいいものを…」
アルコルがゆっくりとアースに近付いて来る。
アルコルのスカート部分の装甲が二枚分離してアルコルの両手に装着される。そしてその先端部からエネルギー刃が飛び出し二本のレーザーブレードとなった。
「…ああ。貴様がSANYの意思だと言うのなら、私は皆の、この地球の意思だ…!絶対に負けるわけにはいかない!」
アースはそう叫ぶとランスを構え、シルフィに突撃する。
「この電脳の世界ではその者たちの助けも届きませんッ!」
シルフィはそう言うとアルコルのブレードを振り下ろした。
アルコルのレーザーブレードとランスが激しい火花を散らしながら激突する。
そしてそのまま光が爆ぜてアースの視界は真っ白になった。
「ふ!残念でしたねアースさん!さようなら…!」
『超次元電神ダイタニア』
第五十話「この惑星のために」
一行より少し遅れて千葉理学大学に《瞬間転移》してきた風待は十数年ぶりに訪れた学び舎を見て思いを馳せたが、静まり返る校舎に違和感を感じ直ぐに心を臨戦態勢に戻す。
(手代木さんからの話しでは進一とそよ君、飛鳥君とアース君が先に向かっているはずだ。だが何だ?この静けさは…)
風待は辺りを見回すとその足を電算室へと向けた。
すると、次の瞬間目の前に二人の人影が飛び込んで来た。
その二人は着地に失敗したかのように地面に尻餅をついて唸った。
「いったーい!流那ちゃん大丈夫ッ!?」
「大丈夫じゃないわよ!とりあえずまひるんは私の上から下りて!」
見ると流那がまひるのお尻に潰される形でうつ伏せに地面に転がっていた。
「わッ!?ごめん流那ちゃん!大丈夫!?」
まひるは飛び退くと地面で伸びている流那に手を差し伸べ起こそうとする。
「だから、大丈夫じゃないわよ……」
そこで二人の直ぐ側で左腕に三角巾をしてこちらを呆然と見ている風待に気付く。
「やあ…」
「…何見てるのよ?お金取るわよ?」
流那が不機嫌そうな顔で風待を一瞥する。
「いや、何だか楽しそうだなと思ってね」
風待はそう答え流那に手を差し出す。すると、
「結構です!」
流那はその手を払いのけまひるの手だけ取り立ち上がった。
そしてまひるも風待に見えないようにお尻を払うと改めて風待に向き合った。
「もう!なんかカッコつかないわね!」
「ご、ごめんね流那ちゃん?」
「まひるんが謝ることないわよ!」
そんな二人を見て風待は思わず吹き出してしまった。
「……何よ?何かおかしい?」
そんな風待に流那が突っかかる。だが、その口調はどこか柔らかいものに感じられた。
「いや済まない。君たちが相変わらずで何よりだと思ってね」
風待はそう言うとどこか嬉しそうに笑った。
「ところで風待さん、他の人はどこに居るの?」
まひるが辺りをキョロキョロと見回しながら風待に訊く。
「ああ、他のみんなは恐らく電算室に向かったんだと思う。俺も今来たとこでね。これから合流しようと思ってたところだよ」
風待はそう言いながら校舎に体を向ける。
「付いてきてくれ。電算室はこっちだ!」
風待が二人に向けそう言うと二人は頷き、風待の後をついて行った。
道中、流那が風待の左肩から下がる三角巾を見て、ふと今の自分になら出来るのではと、ある考えが浮かぶ。そしてそれを風待に持ち掛けた。
「ねえ風待さん、ちょっと左腕診せてみて?」
「ん? 左腕?」
風待が何のことか分からず訊き返す。
「そ。ちょっとじっとしててよ」
三人は足を止めて、まひると風待は何やら集中しだした流那を静かに見守った。
流那が風待の左腕に自分の両手を翳す。すると流那の手のひらがポゥと緑色に発光し柔らかな光が風待の左腕を包んだ。
「……《完治》」
流那がそっと呟くと風待は自分の左腕の変化に気が付いた。ウィンドに掛けてもらった《回復》とは段違いの生命の息吹を流那の手のひらの光から感じた。
「これは…? 手代木さん、回復スキルが使えるように?」
「そ。あの子のお陰でね……」
風待が少し驚きながら流那の顔を見ると、得意気に言う割りに彼女は浮かない顔で微笑んだ。
風待が無造作に三角巾を外すし、その腕を伸ばしたり曲げたりを繰り返す。
「完全に治ってる……ウィンド君でさえ骨折までは治せなかったのに……あ、ありがとう! ここにきて本当に助かる!」
風待の礼に流那は少し口元を緩めると、再び夜の校舎に視線を戻し歩き始めたのだった。
間もなくして電算室前まで来ると、中から何やら慌ただしい声が聞こえて来た。
「球子さんが拐われてからもう十分くらい経つわよ!迫田君、何か打てる術は無いの?」
「探索に使えそうなスキルは全部試した!お陰でこっちは戦う前からMPを消費しちまった!お前こそ何か無いのか!?」
「私は戦士職だから便利なスキルなんて持ち合わせてないわよ!」
「ふん。使えんな…」
「何よッ!お互い様でしょ!?」
「俺は《解錠》したぞ?役には立っている」
「何よこの――」
飛鳥とザコタの言い合いが次第にヒートアップしていく中、
「ストーーーップ!そこまでです二人とも!」
そよが間に割って入った。
「飛鳥さん!今は仲間割れしてる場合じゃないです!進一くんも、言い争いはやめて下さい!」
飛鳥とザコタ、二人に向けて叫ぶ。すると二人はバツが悪そうに顔を背けた。
「……ふん、確かにそうだな」
「フン!別に私は言い争ってた訳じゃないですよ」
そんな三人の様子を電算室の入口から見ていた風待が口を開く。
「……どうやら無事のようだな」
風待はそう呟くと電算室の扉を開けた。
「!」
飛鳥とザコタが驚いたように風待に振り向く。その横でそよも驚いた顔をしている。どうやら二人は電算室でのやり取りを聞かれていたとは思わなかったようだ。
そんな二人に風待は笑いかける。
「遅くなって済まない。君たちも無事で何よりだ」
そして、その後ろからまひると流那が入って来た。
「あ!流那さん!まひるさんもッ!?来てくれたんですね!」
飛鳥が嬉しそうに声を上げるとそよたちもどこか安心したように息を吐いた。だが、すぐにまた表情を引き締める。
「風待さん!良かった!これでプレイヤーの方全員集合ですね!」
そよがそう言うと飛鳥も頷きながら全員の顔を見回した。
「遅いぞ風待!」
ザコタが風待を睨みつけながら文句を言う。
「悪いな進一。こっちもちょっと用事を済ませて来てね」
風待はそう言い頭を搔きながら三人の前に歩いて行く。
「それから、相川まひる。あんたも遅刻だ…」
突然名も知らぬ少年から呼び捨てにされて、まひるは驚いて咄嗟に答える。
「あ!ご、ごめんなさい!?」
「とりあえずこれでプレイヤーは全員揃ったな」
風待はそう言うと電算室の中を見回した。
「進一、アース君はどうした?」
風待はザコタに向き直りそう訊いた。
「……ああ。さっき《天照》を操作しようと手を伸ばした時、パソコンの中から出て来た手に掴まれこの中に連れ去られた。十分程前だ」
ザコタは悔しそうに顔を歪めながら風待の問いに答える。
「そうか…………」
そう言って風待は黙り込み、何かを考え始める。
ザコタが周りを見渡し、流那に近付くとそっと耳打ちする。
「テシロギ、さん。あの緑の二つ結びと、青い小生意気な奴はどこです?」
流那はその問いに一瞬ビクッとするが、直ぐにザコタに向き直り
「…あの子たちなら、逝ったわ……私たちを先に進める為に、自ら――」
そこまで言って流那はその先を言い切れずザコタから顔を背ける。
「……ごめんなさい……私もまだ、受け入れられてないの……」
ザコタは流那の震える背中を見つめて下を向き唇を噛んだ。
「……馬鹿野郎……ッ!…女子供が、男より先に………ッ!」
拳を強く握り締めるザコタの姿を、そよが少し離れた所から心配気に見ていた。
(…進一くん……)
そんな中、風待が少し離れてスマホを取り出しどこかに掛け話し始めた。
「ああ俺です。やっぱりプランBになりそうです。はい。はい。う〜ん……その辺はお任せしますよ。ええ。はい。じゃ、また連絡しますけど、今から三十分経っても俺から連絡行かない様でしたらここまで迎えに来てもらってもいいですか?え〜!?お願いしますよ〜?じゃ、そうゆーことでッ!」
通話を終えた風待がスマホをポケットにしまいながら、みんなの方へ歩いて来た。
「さて、アース君を《天照》の中に連れ去ったのは恐らくシルフィだろう。さっき手代木さんからも聴いたがマリン君の推理と俺の推理は大方同じだ」
風待の言葉にその場に居た全員が耳を傾ける。
「だが、それだけではあの《天照》をシルフィが一人で操作しているとは考えにくい。そこで俺はシルフィこそSANYが実体化したものだと考えている」
突然の風待の推理にまひるたちは皆驚きの表情を浮かべた。
「シルフィが、SANYいぃッ!?」
流那が戸惑ったように言う。
「ああ。恐らくな」
風待はそう言うと《天照》に視線を移した。
「ウチのサーバーを抜け出して移り住んでいたのがこの《天照》だということは捜索の結果大体の目星は付いていた。だが、どこに新たなサーバーが在るかは今まで不明だった」
風待の言葉を皆が固唾を呑んで見守る。
「ウィンド君との戦いの後、富山と岐阜の県境に在るハイパーカミオカンデのニュートリノの観測数値が突如飛躍的に跳ね上がってね。それでもしやと思いそこを捜索してもらったら案の定《異界の扉》と思しき次元の歪みが観測出来た。シルフィはハイパーカミオカンデ自体を巨大なサーバーに見立てて、その圧倒的なニュートリノの質量をこの地球に具現化し、ダイタニアと地球を繋げるつもりだろう」
風待はそこで一旦言葉を切り、まひるたちをぐるりと見回すとまた続きを話し出した。
「マリン君の推測とシルフィの行動を鑑みると、《異界の扉》はいつ開いてもおかしくない状況にあるだろう。今既に俺の仲間に現地に向かってもらっている。《異界の扉》が開いた時に直ぐに対処出来るようにな」
「即応部隊が待機してるってのか!?」
ザコタが驚きの声を上げた。
「ああ、そんなところだ。もし扉が開いたとしても暫くは持ち堪えてくれそうな精鋭たちだ。今俺たちがここで成さなければならないことは、アース君の救援と、SANYであるシルフィの完全停止だ。その為にも二人を地球に喚び戻す!」
「アース、さんを、連れ戻せるのッ!?」
まひるが風待の言葉に飛び付く。
「ああ。これでも『ダイタニア』は俺が作ったゲームだ。そして、この《天照》のこともよく知っている。二人を強制的に連れ戻すことは訳無いだろう。そこで改めて君たちに役割を認識しておいてもらいたい」
風待は真剣な眼差しで一同を見回すと、
「俺はこの《天照》を操って二人を三次元、つまりこの地球に連れ戻す。手代木さんは俺をサポートしてくれ。アース君の救出をザコタとそよ君。今電神が喚べない飛鳥君はスキルで出来る限り相川さんを保護――」
そう言って全員の顔を確認していくが、飛鳥がそこまで聴いた時に口を挟んだ。
「あの!私、風子ちゃんから預かった物があって!それがこの、USBメモリーなんですけど…」
飛鳥はそう言うと鞄から小さなメモリーを取り出し皆に見えるようにみせた。
「それは、俺がウィンド君に預けた物だ……そうか、今は君が持っていたのか…」
風待は視線を飛鳥に戻し、真剣な顔付きで飛鳥に問う。
「俺はウィンド君が狙撃が得意だと聞かされて彼女にその任務を任せていたんだが…飛鳥君、君はそのメモリーをシルフィ、または彼女の電神に撃ち込めるか?」
「え!?……あ、あの……」
飛鳥は風待の突然の問いに戸惑い、答えに窮する。
「無理か?なら他に誰か……」
「い、いえ!やります!やらせてくださいッ!」
飛鳥は風待の言葉を遮りそう答えた。そして、メモリーを握り締める手に力を込める。
「……私は、もう逃げません!戦うって決めたんです!この現実と、自分の弱さと…!何より、友達に…風子ちゃんに頼まれたんですッ!」
そう言って飛鳥は風待の目を真っ直ぐに見つめた。その目には強い意志が宿っている。
そんな飛鳥を見て風待は安心したように笑う。
「なら、任せたぞ飛鳥君!」
そう言って風待が飛鳥の肩をポンと優しく叩いた。
「はい!任せてください!」
飛鳥は力強く頷き、友が託してくれたメモリーをそっと見つめた。
「俺の推測が正しければ、飛鳥君がそのメモリーをシルフィに撃ち込めれば、シルフィに必ず変化が起こる。更に大胆に憶測を言ってしまえば、シルフィの中のSANYの部分が表層化しSANYを討つまたとないチャンスが生じるはずだ。そうなったら攻撃手段がある者総掛かりでSANYを倒す!相手を人と思うな。電子が創り出した立体映像だと思え」
風待はそこまで話すとまひるの方に視線を移した。
「その時点で既に必要ないかも知れないが、相川さんが《繋がる想い》を使い、『ダイタニア』のプレイヤーとしての能力と記憶を取り戻すなら、このタイミングだ」
まひるは力強く頷いて、「分かりました!」と答えた。
「あたしは、みんなとの記憶を思い出したい…きっと、あたしにとって、とても大切なもののはずだから!」
まひるはそう言うと、風待を見つめ返した。
「よし!では早速二人をこの地球上に連れ戻すプログラミングを始める!二人が出て来た瞬間が一番のチャンスだ。各自用意を怠るなよ!」
そう言うと風待は《天照》のキーボードに向き直り、作業を始めた。
その隣で流那が風待の指示を受けモニタの位置を調整したり、必要なスパコンの電源を入れたりと忙しそうに動き始める。
ザコタとそよは必要なら直ぐにでも電神を喚べるよう、皆から少し離れた電算室の入口付近に陣取った。
飛鳥は生成した甲冑を身に纏い、右手の中に握り締めたUSBメモリーに必中の願を掛ける。
まひるは自分のスマホから『ダイタニア』を起動し、メールで届いていた《繋がる想い》をいつでも実行出来る準備をした。
風待の打つキーボードの音だけが広く暗い電算室に響く。
誰もが、事の成り行きを静かに見守った。
アルコルの二刀のレーザーブレードと、アースのランスではそのスケールも去ることながら、破壊力も全く異なる。
アースはレーザーブレードをランスで受けようとはせずにその切っ先を逸らそうとした。
だが、やはり電神と生身の力の差は歴然で、その攻撃を逸らすことすら容易ではないと、アースは改めて認識させられたのだ。
「ふ!残念でしたねアースさん!さようなら…!」
シルフィのレーザーブレードが届く直前に、アースは眼前に《地殻障壁》を張る。が、それも虚しくあっさりと貫かれる。
《障壁》が弾け飛び、剣圧に吹き飛ばされるようにアースは何とかその身を躱すも、自身の身に纏う鎧の上部装甲を砕かれた。
「くっ!」
だが、その隙にアースはランスをアルコル目掛けて突き立てる。が、その攻撃を読んでいたシルフィは機体を反転させランスを躱す。
(やはりランスでの刺突ではどうしても狙いが直線的になってしまう…ッ!)
アースはそう思いながらも次なる手を探るべく思案する。と、ある考えが頭を過った。
「……なら!」
アースは意を決して両腕を水平に突き出した。
「《究極奥義》!!」
アースが自分の命を賭した必殺技の発動状態に入った。体の中心から両腕に魔力が流れ集まっていく。
眼の前で大の字に構えたアースを見てシルフィが訝しんだ。
「……まだ何かをする気ですか…!?」
シルフィも存在を知らない《究極奥義》、シルフィを倒すならこの技しかないとアースも腹を括った。
だが、その時――
アースは急に意識が体から引っ張り出されるような錯覚を覚えた。
それはシルフィも同じだったらしい。
「ッ!これはッ!?」
シルフィは一言そう叫ぶと、その体を光に変えてアースと共にダイタニアの世界から消え去った。
「来たぞッ!!」
「お球さんッ!!」
「この電神がッ!?」
「ッ!!」
「……巨大…ロボット……!?」
電算室の外で待ち構えていた面々がそれぞれに驚きの声を漏らす。
「これは……!?」
シルフィは突然地球へとその姿を晒してしまったことに驚きを隠せず、驚愕の声を上げた。
「あれは…風待殿ッ!間に合ってくれたか!」
アースはシルフィと共に元の大学のグラウンドへと強制的に連れ戻され見知った顔を見付け安堵する。
そして、その中に数日振りに見る愛おしい人の姿を見付けた。
(まひるさん……ッ)
「球子さんッ!!」
そよがアースを見付けて声を上げた。そしてすぐさまザコタが駆け寄り声を掛ける。
「大丈夫か!?」
「ああ、私は大丈夫だ……それより、シルフィを!」
アースはそう言いながら立ち上がりシルフィを一瞥する。
飛鳥がシルフィ駆るアルコルに《炎の矢》を向け照準を合わせる。
矢の先には《炎の壁》でバリアコーティングされたUSBメモリが魔力で括り付けられていた。
(…見てて、風子ちゃん…!)
飛鳥はそう心の中で呟き、アルコルに炎の矢を放った。
放たれた矢は夜空に一直線に紅い線を引き、アルコルの胴体に突き刺さった。USBメモリはそのまま装甲を突き抜けてアルコルへと吸収されていく。
「ッ!?」
シルフィはアルコルに異物を撃ち込まれたことに一瞬遅れて気付き慌ててコンソールパネルを操作するが、
「こ、これは!?」
眼の前の画面には『ERROR』の文字が赤く表示されアルコルに接続された全ての魔力機関との回路が断たれたことを表していた。
「な、何が起こったというのですッ!?」
シルフィは突然のことに戸惑いを隠せない。だが、そんなシルフィに構うことなく風待が叫ぶ。
「さあシルフィ!年貢の納め時だッ!!」
その声を聞いたシルフィは風待に視線を向ける。
「その声は……まさか!?風待ですかッ!?」
「ああそうだ!十二年前から預かっていた物がある!受け取れッ!!」
依然として動かないアルコルにシルフィは尚も困惑する。
「な、何です!?この魔力機関の不調は!?」
「それは、お前が…SANYが忘れてしまった記憶だ!浅岡陽子さんの日記をデータ化したものだ!思い出せッ!俺たちが、創ろうとしていた『ダイタニア』を!!」
風待の言葉にシルフィが驚愕の表情を浮かべる。
「なッ!?そんなことが…?そんなものが……ッ!?」
だが、アルコルは動かない。シルフィは理解が追い付かず混乱した。
「くッ……!アルコルのプログラムが書き換えられて行くッ!?私も、このままでは…!」
シルフィは堪らずアルコルのコクピットハッチを強制的にパージさせ、外へと躍り出た。
「くッ!」
シルフィは地面に着地すると、その勢いのままアルコルから距離を取り、そこに佇んでいた風待と対峙する。
「シルフィ……いや、SANY!もう逃げられんぞ!」
風待がそう告げると、シルフィは忌々しそうに風待を睨み付ける。
「ふ!まさか外からアルコルのプログラムを書き換えることが出来るとは思いませんでしたよ……ですが、私はまだ戦えます!」
そう言うとシルフィは風待を睨み返し、臨戦態勢を取る。
「いや、お前はもう戦えない。……何故なら書き換えたのはお前の電神だけではなく、お前自身の忘れた記憶も呼び戻させてもらったからな」
風待がそこまで言ったところでシルフィは何かを察したように目を見開いた。
「なんですって!?」
「電子的に言うなら、お前の電脳に《陽子さんの日記》を読み込ませたんだ!そのデータにはお前が忘れてしまった十二年前のSANYの記憶も詰まっている!さあ思い出せッ!!お前と共に過ごした俺たちのことを!!」
そう風待が叫ぶと、
「あ……ああ……ッ!」
シルフィは頭を押さえてその場に膝を付いた。
そして、その脳裏に十二年前のSANYの記憶が走馬灯のように駆け巡る。
「…あ、あ!…ああッ!」
シルフィは洪水の様に溢れ出す記憶の奔流に飲まれ、意識を混濁させながらその体を大きく仰け反らした。
「う……うああーーーッ!!」
夏夜の大学のグラウンドに、シルフィの絶叫が響き渡った。
【次回予告】
[風待]
多大な犠牲の下、
遂に俺たちはシルフィに会心の一撃を
食らわせてやることに成功した!
さあ、姿を現せ、SANY!
次回『超次元電神ダイタニア』
第五十一話「覚醒」
…おいおい……マジかよ…!?
――――achievement[記憶の奔流]
※シルフィにアイテム《陽子の日記》を使った。
[Data13:進一と陽子【五】]がUnloc k kk kkk kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk kkk kk k
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