第四十九話「アース」
まだ自分に意思というものが存在しない頃、私はあの人と出遭った――
ヒトの様に五感というものは無く、空気に溶け大気の一部として私は存在していた。
私は“水”を司る魔力を帯びた成分、所謂『水の精霊』としてこの世界、ダイタニアに存るらしい。
今日も何も感じることなく、当たり前のようにこの星で生きるものの想いを受け取り、それを魔力として変換して送り届ける。
それが私、精霊のこの星での役割だった。
「や、やった!」
そんなところに一輪の向日葵の花のような明るく真っ直ぐな女子の声が響いた。
「…ようやく見付けた…これが、《精霊の泉》……」
その女子は私たち精霊が次の魔力を生成し排出する為の溜り場のことを嬉しそうにそう呼んだ。
「これであたしもついに精霊と契約…そして、念願の《電神》に乗れるんだわ!」
歳の頃は十を少し越えた頃だろうか。
耳が兎のように横に長く、柳のように長い金髪をなびかせたその妖精族の女子は翡翠のような瞳を輝かせてこの溜り場を見つめている。
どうやらここを見つけられたことが相当嬉しかったらしい。
「えーと…精霊との契約は、と……」
耳長の女子は何かを考えているようだった。やがて少しするとその小さな口から何やら詠唱を呟き始めた。
「あたしの声が聴こえますか?あたしはサニー、初めまして。まだこの世界では駆け出しの冒険者なんだ。精霊さん、どなたかあたしと一緒に冒険をしてみません?」
詠唱?いや、それは単なる私たちに投げ掛けられた会話だった。
五感がない分、私たちは空気の気配には敏感だ。その者から伝わる優しげな雰囲気、温かい想いはよく伝わる。意思は無い私たちだが、こういう者には喜んで魔力を貸してあげたくなるものだ。
私の他に周りに居た精霊たちも挙って騒ぎ始める。そのせいか、この『精霊溜り』の空間が薄っすらと光り出してしまっている。
「わわッ!?きれ〜……」
耳長の女子、サニーと言ったか、その者は私たちが光り出したのを観てどうやら感嘆の声を漏らしたらしい。純粋な歓喜の感情が伝播してきた。
精霊たちの間で誰が付いて行くか談議のようなものが始まる。私も勿論、この者には付いて行きたいと魔力を高め応える。
だが、その場に居合わせた相手が悪かった。『水の精霊』である私より威厳のある『地の精霊』が居たのである。
そして今に限って『地の精霊』より威厳がある『風の精霊』は居なかったのだ。
その場に居た皆はその地の精霊に注目した。
その地の精霊は静かだった。静かに、心躍らせていたのだと私は思う。その場の誰もがその地の精霊が付いて行くことに反対も妬みもしなかった。
そう、私たちには意思というものはないのだから――
女子の全身がぼうっと淡く光った。地の精霊との契約が完了したのだ。
「あ…ああ!これ、地の精霊?あたしと、契約してくれたのね!?」
その女子は自分の身を見回して漸く精霊と契約したことの実感を噛み締めているようだった。
「ありがとう!あたしサニー!改めてよろしくね!えーと……」
耳長の女子は少し考えると私たちに想いもよらないことを言ってのけた。
「あなたの名前は『アース』!地の精霊って感じで可愛いでしょ?」
なんと、私たち…いや、あの地の精霊に名を付けたのだ。何とも不可思議で気持ちの良い女子か。地の精霊もまるで喜ぶように女子の周りの大気に魔力を対流させている。
この時もし私に意思というものがあったのなら、私は初めてあの地の精霊に対して“嫉妬”という感情を抱いていたのかも知れない。
私がその思いに到達することは、この先永遠に来ることはないとは思うが、ね――
「――その名は、命よりも大切な、私の誇り……」
「!?」
シルフィは一瞬アースの言葉に動揺するも直ぐに冷静さを取り戻す。
「ふん……命よりも大切ですか?私には理解出来ませんね。貴女や私はただの幻想。電脳空間で創られたただのプログラムに過ぎません」
「そうであったとしても、今確かに、私はここに居る…」
「それは、貴女がそう認識しているだけでしょう?電脳空間の意識データに過ぎない存在でしかない私たちが、何故生命としての……魂を認識出来ると言うのです?」
シルフィの問いにアースは答える。
「確かに今ここにあるこの身体とて、所詮は現実の私のものではないのかも知れない……」
「……」
アースの言葉にシルフィは一瞬沈黙する。
アースは静かに眼を閉じ、言う。
「だが、この名は、私の大切な人から授かった、私を呼ぶ為の大事な魂の名だ。これだけは誰にも脅かせはしない!」
アースは静かに眼を開きシルフィを見据える。その瞳には確かな意思が籠っていた。
「我が名は――」
『超次元電神ダイタニア』
第四十九話「アース」
シルフィによって『ダイタニア』の世界へと引きずり込まれたアースは今、アウマフ・リアースに乗り、シルフィ駆るアルコルと対峙していた。
先程までの地球の時間とは違い、そこには晴れ渡る空があり太陽が輝いていた。
アルコルがゆっくりとその腰にあるモーニングスターに手を掛ける。
それを見てアースもアウマフの姿勢を低くして身構えた。
先に動いたのはアルコル。一瞬で間合いを詰めるとモーニングスターを振りかざす。
アースもアウマフの頭部の衝角を構えると、その攻撃を正面から受けるのではなく、横に躱す。アウマフの直ぐ横をモーニングスターの鉄球が物凄い勢いで通り過ぎた。
しかし、その動きを読んでいたのかシルフィは攻撃の途中で機体を側面に向け、そのままブーストを蒸し肩で体当たりをする。
「ぐッ!?」
その衝撃に一瞬体制を崩したアースだが、直ぐに距離を取り立て直すと再び構え直した。
そんなアースを見てシルフィは言う。
「ふふ……やはり良い動きをしますね、貴女は。でも、避けてばかりでは私には勝てませんよ?」
シルフィはそう言って笑うと、再度自分からアウマフに向かっていった。
「はあッ!」
アルコルがモーニングスターを振り回しながら突進してくる。どこから伸びてくるか予想し難いその一撃をアウマフはその身軽さを生かして既で躱す。
「くッ!」
だが、アルコルの攻撃は止まらない。連続で攻撃を繰り出し続ける。
「どうしました?防戦一方ですよ?」
シルフィの操縦技術にアースは防戦を強いられる。
「くッ!」
アースはアルコルの攻撃を躱し続けるが、その攻撃に隙がなく、更にリアースの攻撃手段が少ないのも合わさって反撃に移ることが出来ないでいた。
(このままでは……一体どうすれば……)
そんな時、アースは決戦前夜のマリンの言葉を思い出した。
『みんな、悔いの残らないように…まひるの未来が明るいものになるように、明日は征こう!』
その言葉がアースの脳裏に過る。
(…皆も、最期まで、悔いの無いように戦ったのだろう……)
アースは戦いの最中、妹たちとの楽しかった日々を思い出していた。
(風子……あなたはいつでも冷静で、私はよくあなたに落ち着くように静止させられていたな。だが、嫌味な素振りは一切無く、あなたの言うことは常に的を射ていた。その愛らしい笑顔……また……ッ!)
アルコルの放った鉄球を半身で紙一重で躱し、アウマフは《土の針》をその口から放つ。
(ほむら……気さくなあなたとは何事も遠慮せず話したな。感情が顔に出やすいくせに、本当に言いたいことがあっても空気を読み、心の奥に仕舞い込む癖があったな。そういうところがまた堪らなく、愛おしい……!)
アルコルは《土の針》をスラスターを横に蒸し三次元的な動きで軽く躱した。
(万理……その豊かな知識があっても尚、日々自己研鑚を積んで更に高みに行こうとする姿、ただただ尊敬した。あなたのその姿勢こそ私たちのリーダーに相応しいと何度も言ったのだがな……あなたと来たらそんなこと気にも止めずに自分には関係ない風を貫いて…まったく、誰よりも、寂しがりのくせしてッ!)
アースの瞳には煌めくものが浮かんでいた。
目の前に再度鋭い鉄球の一撃が迫る。それを胸部の装甲に掠らせ軌道を変え躱した。
「…そうだ……私はここで負けるわけにはいかないッ!」
アースはシルフィの攻撃の一瞬の隙を逃さず、機敏な動きでアルコルとの間合いを詰めながら、頭部の角に魔力を集中させる!
「《バンカードリル》!」
衝角がアルコル目掛けて勢いよく射出された!
「!?」
アルコルは咄嗟に横に飛ぶが、その角の一撃を躱し切ることが出来ずに脇腹の装甲の一部が削られる。
「速い……それに硬い…!」
シルフィは機体を立て直しながらアースの技に少し驚いたようだった。
衝角は地面に突き刺さり、そのまま地中深く掘り進んだ所で更に魔力を解放した。
「くらえッ!《地殻噴火》ッ!!」
アースの叫びと共に衝角が作り出した穴を中心にアルコルがいる地面が円状に崩れ出し幾本もの火柱が上がる。
「ッ!?」
その衝撃でアルコルは弾き飛ばされ、その隙にアースはアウマフを立ち上がらせると再び衝角を頭部に生成し構えを取った。
「まだだ!」
そう言うとアウマフの両前脚に魔力を集中させる。すると、前脚を覆っていた装甲がそのまま巨大な手甲へと姿を変えた!
「《ハウンドクロー》ッ!!」
アースはアルコルに向かって突進した。
「ふッ!」
シルフィも機体を立ち上がらせ、モーニングスターを構える。そしてそのままアースの突進を迎え撃つ!
「はあッ!」
アルコルがモーニングスターを振り下ろす。その攻撃をアウマフは巨大な前脚で地面を掻いて慣性に抗い無理矢理機体の進行方向を変えてジグザグに疾走りながらアルコルに迫った!
「ッ!?」
その動きに今度こそシルフィが驚いた。そして、アースは更にスキルを詠唱する。
「《地殻障壁》!貴様の攻撃は一度味わっている!二度は食らわんッ!」
疾走るアウマフの過ぎた後に地面から《地殻障壁》が迫り上がり、鎖に繋がれたモーニングスターの鉄球が引き戻ってきてその《障壁》により食い止められた。
アウマフがアルコルの眼前にまで迫る!
「!」
シルフィの目の前には《ハウンドクロー》を携えた巨大な前脚が迫っていた。
アルコルはその手からモーニングスターを投げ捨てると両の拳をアウマフ目掛けて翳す。
「くぅッ!」
「ぐッ!?」
アルコルはその攻撃を受けた。二機が力比べの様に両手を組み合わせる。そして、アルコルは踏み止まると更に力を込めた。
「力勝負なら、このアルコル、負けません!」
シルフィは機体を更に前進させる。そして、アースも負けじと押し返す!
「なんとしても……私は地球を護る!犠牲になった皆の為にも!」
「くッ!?」
アルコルが一瞬怯む。だが、直ぐにまた力を強める!
「…アウマフの複製の分際で、どこにこんな力が……ッ!?」
シルフィの操縦技術にアースは徐々に押され始める。だが、それでも尚、アースは諦めない。
「私は……私たちはここで負けるわけにはいかないんだッ!」
アースは感じていた。自分でも信じられない力が湧いてくることを。
このアウマフの機動力やパワーもオリジナルに比べたら落ちているというのに、魔力が充実しているかのようにスペック以上の働きを見せている。
アースは自分が大気中の精霊だった時のことを思い出していた。
精霊はヒトの想いや願いを原動力としてヒトに魔力を分け与える存在だ。
今自分に力を与えてくれているのは先に逝った魂の妹たちの想い、願いが自分に力を与えてくれているのではないか?アースはそんな想いが頭を過った。
(風子!ほむら!万理!この身朽ち果てようと、私はまた、あなたたちと……ッ!)
アースは更に力を振り絞る。
「くぅッ!?」
アルコルもその力に押され始める。シルフィは機体を後退させようとするが、アウマフの食い込んだ前脚がそれを許さない。
「この力……一体ッ!?」
シルフィはその異質な力に違和感を覚え始めていた。そして、この力比べから逃れるように後ろへ跳躍し、アウマフから距離を取った。
「………」
アースもアウマフの体勢を立て直し、再度低く構える。《ハウンドクロー》の効果が切れたのか、アウマフの前脚は元の大きさに戻っていった。
シルフィは額から頬に流れた一筋の冷たい汗を手で拭うと、アースを見据えて静かに口を開く。
「自分の故郷であるダイタニアを、貴女は見捨てようと言うのですか!?」
「強行に侵略を仕掛けておいて、何を言うッ!」
アースはそう叫ぶと同時に更にアウマフが地を蹴った。
「侵略!?心外ですね。私はサニーの意思に従っているだけなのですよ?」
シルフィはそう言いながらアルコルにモーニングスターを構えさせる。
「いいですか?私たちは大気中の精霊だった頃のデータが実体化しただけのものです。そして、そのデータをサニーが構築し、電脳空間で再現したのがダイタニアという世界なのです」
アルコルがモーニングスターを振りかぶりアウマフ向けてその鉄球を放った。
「だからなんだッ!!」
アースが苦悶の表情を浮かべながら操縦桿を握る手に力を入れ、躱す。鉄球はアウマフの直ぐ横の地面にめり込んだ。
それを機にアウマフがアルコルにその爪で襲いかかる。
「だから、私たちはそのダイタニアを創ったサニーを崇めこそすれ、不要に思う事などありませんッ!」
アルコルが素早く腕を引くと、鉄球もまたアウマフを襲いに戻ってくる。
「くっ!」
アルコルとアウマフの攻防は拮抗しているように見えていたが、じわじわとアルコルが押して来ている。
「分からないのですか!?私たちは電脳空間で創られた存在だということは、電脳空間にその意識もデータとして存在するということです!それは即ち、サニーの意思が創り出した感情に過ぎないのです!」
「だから、どうしたッ!!」
アースは更に魔力を込め、アウマフの尻尾を鞭の様に撓らせアルコルの鉄球を打ち落としていく。
「だから、私たちに与えられている感情も全て作り物!だったら私たちが考え行動することは無意味ではッ!?」
シルフィが言い終わる前にアースが叫ぶ!
「それでもいいッ!!」
「ッ!?」
アースの鬼気迫る叫びにシルフィは驚く。そして、アースは更に力を込め操縦桿を握り締めた。
「この感情や意志こそが私が私であるという証拠だッ!だったら、それを……その想いを大切にするだけだッ!!」
アルコルはその圧力に徐々に押され始める。
「はッ!戯言をッ!」
シルフィは機体の出力を上げるが、それでもアウマフの猛攻を押し返すことが出来ないでいた。
「シルフィよ!貴様のその想いこそ、本当に本物なのか!?」
アースが叫ぶ。
「……ッ!?」
シルフィは一瞬言葉に詰まる。そして、機体の出力を上げながら答える。
「当然です!」
「だが!それは本当に貴様自身の意思か!?電脳空間が創り出したデータではないのか!?それは……ただの偽物の感情なのではないのか!?貴様が言っていることはそういうことだぞ!」
「ッ!」
シルフィはアースの言葉に一瞬動揺する。だが、すぐにまた機体に力を込める。
「それでも……私たちはサニーの想いに従って……ダイタニアの平和の為に……」
シルフィは機体の出力を上げるが、それでもアウマフを押し返すことが出来ないでいた。
「違うッ!」
アースが叫ぶ。そして、更に魔力を込める!
「その想いや行動こそ貴様自身の意思だと私は信じている!ダイタニアを創ったサニーが、どうして自分の世界を使って地球侵略など考えようかッ!!」
「え……?」
アルコルは更に機体の出力を上げるが、それでも次第にアウマフの攻撃を受け始める。
「私は……私たちはサニーの想いに従っているだけッ!」
シルフィが言い終わる前にアースが叫ぶ!
「サニーがそう言ったのか!?貴様たちに地球を侵略しろと、そう言ったのかッ!?」
アースの言葉にシルフィは押し黙る。そして、無言のまま機体の出力を上げ格闘を仕掛けてくる。
「うおぉぉッ!!」
アースも更に力を込め、アルコルの鉄拳を躱して、時折尻尾の鞭で鋭い一撃を叩き込む。
「貴女に……何が分かるッ!」
シルフィがそう言うとアルコルの両肩のスラスターを蒸し、超速でアウマフに突っ込んできた。
「くッ!?分からないから、こうして訊いているッ!」
その圧力と機体の重量差によってアウマフが体当たりの直撃を食らう。吹っ飛ばされ地面に着地しても尚アウマフの踏ん張る後ろ脚が地面にめり込む程のパワーある一撃だった。
「サニーは世界を悲しみの無い世界にしようとしているだけなのです!」
シルフィが機体の動きを止め、今までになく、その感情を顕にして言う。
「…ダイタニアは平和です……ヒトの他に亜種の生物は多く存在しますが、それぞれがその生活圏を脅かさない…それに比べ地球に生きる生物、特に人間と来たら!同種であっても平気に殺し合いをする……」
アースはシルフィのその言葉に一瞬押し黙る。
「そんな悲しみに溢れ返った地球を見て、サニーは嘆いたのでしょう…そして、地球からも悲しみを消そうと、平和に溢れるダイタニアで上書きをしようとしたのでしょう……」
シルフィがそう言うとアルコルの視線をアウマフに合わせる。
「それがサニーが地球にダイタニアを上書きする理由だと言うのか!?私にはお前の嘆きに聞こえるがな!」
アースが叫ぶ。
「私たちサニーに創られた存在は皆それを望んでいます!誰も争いなどなく、ただ平和に共存しあう世界……それは我々にとっても理想の世界です!」
シルフィは更に語気を強める。だが、アースもその圧力に押し負ける気配はない。
「それは……貴様たち電脳空間の住人の考えだ……私はこの地球で、少しの間だが、ヒトとして、地球の人々と共に過ごした。その中で私は、ヒトを……そして地球を護りたいと心から思った!それが、今のこの感情こそが私だ!」
アースの言葉にシルフィが叫ぶ。
「なら、私を倒してからそうすればいいッ!」
アルコルは更に出力を上げ、アウマフとの距離を一気に詰めた。アルコルに両肩を掴まれたままアウマフは押されて行く。後ろ脚が地にめり込み、地面に亀裂が描かれていく。
「私はこの世界の平和の為に……サニーに創られた存在として、その想いに従い行動します!そして、その理想の世界へとダイタニアを上書きさせます!それが、私の使命ッ!」
シルフィが更に機体の出力を上げる。
「それが貴様の正義かッ!ならば!その正義!真っ向から受け止めるッ!!」
アースはそう叫ぶとアウマフに力を込め、その衝角を発射した。
「私の想いや意志は、世界のものですッ!」
至近距離から発射されたというのに、シルフィは再度アウマフの衝角を躱した。躱された衝角はまた地面に穴を開ける。
「そんな貴様に、この地球の平和を託すものかッ!」
アースは攻撃を躱されながらも魔法を叫んだ。
「《地殻噴火》ッ!!」
すると両者の踏ん張る地面に亀裂が走り、噴火と共に地盤が崩落する!
地面に巨大な穴が開き、二体の電神がその穴へと吸い込まれていく。アルコルが両肩のバインダー内のスラスターを蒸し体勢を立て直そうとする。
が、そこへアウマフがアルコル目掛けて落下してくるのをシルフィは視た。
アウマフは頭部の衝角を真っ直ぐアルコルに向け構える。
「…《最終攻撃》……ッ!」
シルフィは直感でこの攻撃を受けたらいけないと感じ取り、自分も詠唱を呟く。
目の前に迫るアウマフが突然その形を巨大な弾丸のような、相手を撃ち抜く為だけに存在する形に変形した!
「《流星破砕弾》ーーーッ!!」
アルコル目掛けて大質量の弾丸となったアウマフが発射される!
だがシルフィは冷静さを取り戻していた。
(私には…このアルコルには!…降りかかる厄災を全て跳ね返してくれる“アイギスの盾”があるのです…!)
アルコルの全身が光る。その装甲の隙間から光が漏れ出し、アルコルは一瞬でその姿を変形させた。純白の華奢な機体の目の前に巨大な《盾》を形成させる!
「《女神の神盾》ーーッ!」
シルフィはそう叫ぶと同時に両腕を前方に構えた。
「うおぉぉッ!!」
アルコルの《盾》に流星破砕弾が直撃する!
その瞬間、大質量の弾丸と化したアウマフはその全てをアルコルの前に展開された《盾》に弾かれ無数の細かい破片へと分解され、消滅していく!
「……ッ!!」
アースは光と消えたアウマフの中心から飛び降りながら唇を噛みしめる。
「…済まない……済まないアウマフっ!!」
アースの頰を涙が伝う。だがアースは目を見開き目の前の白いアルコルを見据えた。
「だが…!お前のお陰で奴を早くにこの形態へと持ち込めたッ!魔力がぐんと落ちたぞシルフィ!その盾は、一度しか使えないッ!!」
アースは上空へと上昇し始めたアルコルを睨み、その手に巨大なランスを生成する。
「ふ。まだ何かする気ですか?」
シルフィが小さく笑う。
「そうだな……またまだだッ!」
アースがそう叫び、ランスをアルコル目掛けて射出する!そのランスは凄まじい速度で一直線にアルコルに飛んでいった。
「何度やっても同じ事です」
シルフィは小さく笑い、そのランスを躱そうとした。だがその瞬間、ランスは突然方向転換し、方向を変えまたもアルコルを襲う!
「ッ!?」
シルフィはその予想外の動きに咄嗟に反応し回避行動を取る。が、回避した先には再度右手にランスを生成したアースが待ち構えていた!
「アースダイナミック!!《流星破砕弾》ーーーッ!!!」
アースが生身での《最終攻撃》を上空のアルコルへ向け炸裂させた!
アースは一筋の流星となり、アルコルを撃ち抜いた!
【次回予告】
[シルフィ]
最後の鍵の一人、アースさんを捕えました
これで私たちのダイタニア上書きを
邪魔する者は誰もいない…
…さあ、最終ステージです!
次回『超次元電神ダイタニア』
第五十話「この惑星のために」
…ここで決めます……!




