第四十六話「伝承に還れ!」
西の空に夕月が昇る頃、まひるも退勤時間となり家路に就いた。
帰りの電車に揺られながら一日を振り返る。
今日はどうも仕事に身が入らず、ともすれば流那のことばかり考えてしまっていた。
その流那とは昨日から連絡が取れていない。
そう言えば、『ダイタニア』のチャットをオープンにしておくとか何とか言われていたことを思い出す。
まひるは鞄からイヤホンを取り出して装着するとスマホのダイタニアを起動した。
こんなゲーム、入れた覚えはやはり無い。だが、どこをどう操作すればチャットが聴けるのか、何故だか体が覚えているかのようにスラスラと指が操作していく。
そしてノイズ混じりの音声で誰かの声が聞こえてきた。
『――ザ、ザザッ、一昨日来なさいッ!この馬鹿ッ!!ザ、ジー…――』
(流那ちゃんの声だ!)
まひるはその声に普段の流那からは感じた事がないような鬼気迫るものを感じた。
金属同士がぶつかりひしゃげ飛ぶような轟音と激しい水飛沫が聞こえる。
雑音が多いこの状況は恐らく屋外にいるのだろう。
まひるはその聞こえて来た音声から流那の息遣いが聞こえて来るような気がして、更に意識をイヤホンに集中させる。
すると、また別の声が会話しているような音声が微かに耳に届いた。
『流那ッ!追撃する!《凍結闘気》!』
『あハ!イイねェッ!そうこなくっちゃァ!』
まひるはその声を聞き漏らすまいと耳を澄ます。だがその会話がどんどんと不穏なものに変わっていくのが分かった。
(え……何これ?)
通話なのか独り言なのかわからない会話のやり取りにまひるは困惑する。
だが、次に聞こえてきた声に、まひるは更なる困惑に突き落とされる。
『まさかもう一体電神がいたとはね!やるネぇマリぃ!?』
『万理!防御はあたしに任せなさい!あんたはあいつをどうにかする方法を考えて!』
『解ってる!ベルファーレ、よろしくね!』
流那の他に聞こえて来たその声とその名にまひるは聞き覚えがあるような気がした。
常に冷静であろうと敢えて一つトーンを落としたその声に。
「ま、り……?」
先程会話の中で呼ばれていた名をまひるは小さく呟いた。そして何度も頭の中でその名を反芻する。
(まり…マリ………マリン!?)
手帳に書いてあったもう一人の名前を思い出した。自分の記憶にない人物が、自分の知っている声を発している。
まひるは混乱した。
「あ……ああ……流那ちゃん……!!」
電車が駅に停まるまでの間、まひるはイヤホンを耳に当てながらシートにうずくまり続けていた。
『超次元電神ダイタニア』
第四十六話「伝承に還れ!」
「万理!防御は私に任せなさい!あんたはあいつをどうにかする方法を考えて!」
アウマフが放った《凍結闘気》を躱すグリーディアを視界の隅に捉えながら流那がマリンに叫ぶ。
「解ってる!ベルファーレ、よろしくね!」
マリンは次の攻撃に移るべく水上のアウマフを急旋回させながら改めて流那の電神に挨拶をしながらその身を水中へ投じる。
流那もそれを見てマリンの能力を悟り、自身の電神を湖面に立たせた。
開拓が進んで最大水深が5メートル程の深さになっていた印旛沼であったが、全高25メートルのベルファーレにとっては浅瀬も同然だった。
「《光鎖拘束》!」
アウマフから無数の光の鎖が放たれる。それは正確にグリーディアを狙っていた。
「マリちゃんも懲りないねェ!攻撃パターンが同じじゃんかッ!」
ディーネが余裕の笑みを浮かべグリーディアをくねらせ光の鎖を躱していく。
鎖に紛れてベルファーレが乱射したであろう《五指銃弾》もディーネは難なく躱す。
ディーネが視線をベルファーレに向けると両手を前に突き出し、その十指の指先から硝煙が立ち上っている。
「くそッ!躱された!」
流那が悔しそうに舌打ちする。
「あハ!そっちのデカブツは動きが鈍過ぎるよ!距離を取ってれば遠距離攻撃も怖くないねェ!だ・け・ど!」
そう言いながらもディーネはベルファーレに向け湖上をジグザグに泳ぎながら猛進していく。
「怖さをちょうだいよ!もっと!もっとォ!」
急に自分に向かって突進して来たグリーディアに流那は戦慄を覚えて《五指銃弾》を再度乱射した。
「こなくそーーーッ!!」
土塊の銃弾は虚しくもグリーディアが通り過ぎた湖面に水飛沫を作っただけだった。
それだけグリーディアの水上での機動性は飛び抜けていた。
グリーディアがその口を大きく開けベルファーレに飛び掛かる。
眼前に迫るその二本の鋭い牙を見た時、流那はまたもや戦慄した。
(あ。これ、ヤバいやつだ――)
死が頭を過ぎる。時間の流れがスローモーションのようにゆっくりと流れ出し、妙に頭の中がスッキリするのを流那は感じていた。
操縦桿を握り直し、グリーディアの背後から追従するその影を見つめる。
「《水流幕》!流那ッ!蹴り上げて!!」
その言葉と共にベルファーレの前の水面から突如大きな水飛沫が上がり、防御壁を作った。
グリーディアはその水の壁に激突し、ベルファーレの首まで後少しのところで動きを止められる。そのまま崩れた水の壁が更に視界を悪くしディーネは困惑する。
「え!何これ?マリの仕業ッ!?」
流那はベルファーレの目の前で止まったグリーディアを見て
(蹴り上げろってんなら蹴り上げるけど!)
流那は思い切りベルファーレの右脚を蹴り上げた。そこへ自然落下してきたグリーディアがベルファーレの右脚と激突する。
「やあッ!!」
流那は思いっきり操縦桿を引き、その勢いでベルファーレは後ろへ倒れた。
巨大な脚に勢いよく蹴り上げられたグリーディアが宙を舞う。
それを見上げたマリンがアウマフのコクピットから出て右手に持ったスタンガンを素早くグリーディアに向け構える。
「《魔力増強》!いっけええぇー!!」
ズガアァアアン!!
マリンの翳したスタンガンから極大の稲妻が轟音と共に迸る!
マリンの魔力を一点に集中させ、地球の電化製品によって生み出されたその雷は、グリーディアに命中した刹那、水飛沫も眩むような閃光と爆発音と激しい水飛沫を上げて湖水を抉り爆ぜさせた!
「ッ!」
その轟音と衝撃に流那は意識が刈り取られそうになる。しかしそれも一瞬のことで直ぐに我に返った。
湖中に焦げ落ちるグリーディアを視認し、マリンは再度アウマフの中に戻った。
(初めて使った割には上手くいった!やはり魔力はこの地球上の物にも有効だった)
マリンは喜びに笑みをこぼす。
空中に浮いていたディーネが作り出した水の音響装置も全て今の放電により消し飛んだ。楽曲の終盤に差し掛かっていた音楽も止み、辺りには静寂が訪れた。
「ふうっ…」
(これで終わったでしょ……!)
流那がそう安堵しながら一息つく。
マリンは穏やかになり静まり返った水面を見ていた。
(あれで倒せたなら万々歳…でも、ディーネはこの湖の守護者……何か別の手を打っている気がする)
マリンは風待の言葉を思い出していた。
『大抵の事は疑って掛かれ。そして常にクールに、常にクレバーでいろ。仲間を護りたいなら尚更な』
(心は熱いまま…頭を落ち着かせろ…!)
「万理!そっちの状況はどう!?」
流那から声が掛かる。
「グリーディアの完全破壊は確認出来ていないけど、かなりの痛手は与えたはずだよ。よくやったね流那」
マリンがそう言うと流那は嬉しそうに笑う。
「うふふ!そっか、それなら良かったわ」
そんな流那を見て安堵しながらマリンも思わず笑みをこぼした。そして再度湖面に目を向けた時、小さな違和感に気付く。
「…あれ?」
グリーディアが落水した場所の水面に水泡が出来ていることにマリンは気付いた。そして瞬時にその意味を察する。
「流那、グリーディアはまだ――」
マリンが流那に忠告すると同時にアウマフのいる水面が大きくうねりを上げ、爆発したかのように水飛沫が上がった!
「万理ッ!」
流那はその光景に既視感を覚えて思わず叫んだ。
『あは!あはハハハハ!!』
水面を爆発させながら現れた黒い影がアウマフの胴体を貫き、そのままアウマフを頭上へと持ち上げながらその鎌首をもたげた。
「今のは良かったよ!電気の痛みはダイタニアには無いからねェ!新鮮だったよオ!?」
グリーディアの体表は焦げ付いてはいたものの、その損傷は軽微であった。
「くッ!やっぱり地中からかッ!」
マリンが舌打ちしながらグリーディアの胴体部を引き剥がそうと操縦桿を後ろに引きながら湖底に開いた穴を見た。
「万理!掴まって!」
流那はそう叫びながらベルファーレをアウマフへと向かわせる。
「来ちゃダメだッ!」
それを見たマリンが流那を制止させるよう叫んだ。
(悔しいけど、このアウマフはもう戦えない…損傷が大き過ぎる…!ごめんッ!)
マリンは機体を諦め降りようとしたその時、眼前に迫るベルファーレを見た。
「万理!早く来なさい!」
「来ちゃダメって言ったでしょお!?」
マリンの叫びも空しく、流那はベルファーレをグリーディアの直ぐ近くまで寄せて来ていた。
ディーネはアウマフを引き裂き粒子に還すとベルファーレに向き直った。
マリンは跳躍しベルファーレの肩へとサッと降り立つ。
グリーディアが全身を鞭のように撓らせベルファーレに体当たりをした。その鋭利な胴体がベルファーレの装甲を抉る。
「うわッ!!」
ベルファーレのコクピット内に流那の驚愕の声が響き渡る。体勢を崩したベルファーレが巨大な水飛沫と共に水中に倒れた。
「流那!言わんこっちゃない!」
そして、その隙をついてグリーディアがベルファーレの脚に巻き付き、そのまま湖底へ引きずり込もうとする。
「アウマフよりキミたちの方が楽しませてくれそうっ!あハっ!」
ディーネは満面の笑みを浮かべながらそう呟くと、ベルファーレを引きずりながら湖底へと潜っていく。
「くっそこの!どうしよう離れないッ!!」
流那が慌てて叫んだ。
「いやッ!このままじゃ沈んじゃう!!万理ッ!」
流那は青ざめながらマリンにそう助けを求める。
しかしマリンは顔面蒼白で何かを考えていた。
(…考えろ!流那にもう怖い思いをさせるな…!)
「やだ!水やだッ!パパ!ママっ!」
流那は半ばパニックに陥りながら叫んだ。
その叫びが、マリンを動かした。
(流那を…悲しませるな!)
グリーディアを鋭い眼差しで見据えながらマリンがベルファーレの肩から湖上へ降り立つ。
(《水流幕》を自分の足の裏に展開!これなら水面に立てる!)
「流那ッ!《地殻障壁》を自分の背中にッ!!」
マリンのその言葉に流那はハッとし、すぐさま両手を前に突き出し魔法を発動した。
「助けて!《地殻障壁》ッ!」
湖底からベルファーレの背に向け《地殻障壁》が展開される。迫り出した湖底の岩盤によって形成された地殻がベルファーレのその巨体を押し上げた。
ベルファーレが再び水上へとその姿を現す。そして脚に絡みついたグリーディア目掛けて拳を振り下ろした。
「おっと!」
ディーネはベルファーレの脚の装甲をバキバキと剥がしながらそのパンチを躱した。
「あハハ、鈍い鈍い!」
グリーディアはそう言いながらベルファーレから距離を取り、ゆっくりとその鎌首をもたげた。
「うぐぐ……屈辱だわ……万理、ありがと……」
流那は涙目で立ち上がりながらマリンに礼を言う。それに対しマリンは軽く頷き返して応えた。
(さて、ここから仕切り直せるか!?)
マリンはベルファーレを見る。頑丈な電神だけあってまだまだ動けそうだ。
だが如何せん俊敏なグリーディアとの相性が悪い。パワーだけなら後れを取らないのに…!
ディーネも目の前の巨大な電神を見てノーミーが言っていたことを思い出していた。この電神なら《ヘラクレスの柱》の鍵に成り得る、と。
確かに相当な魔力は保有していそうだ。この電神の魔力を効率良く奪うには――
ディーネが隙を見せ、そんなことを考えていると視界の端が光った気がした。
先程の雷の直撃をまた受けたのだ。
「あハハハバばアばババばバっ!!」
「あ。当たった」
マリンがディーネの死角から再度魔力で強化したスタンガンを放ったのだった。
焦げ付いた機体から煙が立ち上るも、今度は落水せず体勢を立て直すグリーディア。
「やっぱ、あたしは細かいこと考えるのは向いてないね…音楽のように、感じるままに!楽しめよッ!!」
そう言い放つと、ディーネは思い切り右手を上に掲げ、その手を一気に振り下ろした!
「《最終攻撃》!!冴え渡れ!《千本鋸刃鳴》ッ!!」
グリーディアの外装の鋭利な突起が分裂し更に数が増え、長く鋭利になり、まるでチェーンソーのような無数の刃となってベルファーレとマリンを襲う!
マリンは咄嗟にその刃を躱した。だが直撃は免れても直ぐ様他の刃が雨のように注がれる!
マリンは水中に潜り自らに《水流幕》を張り回避に専念する。
ベルファーレも正面に《地殻障壁》を張るが、無数の刃によって《障壁》は数秒で削られ、再度《障壁》を張り直すが捌き切れずに直撃を受け始める。
(くっ!凄まじい破壊力だッ!)
マリンが歯嚙みしながら戦況を見る。
水の中にいるベルファーレは分が悪い。あの刃に関節部でも貫かれたら致命傷だろう。ならばここは一旦湖から上がらないと……!
「流那ッ!岸に上がるんだ!」
マリンがそう叫んだ瞬間、マリンの足下が爆ぜた!
「ッ!」
マリンは足元から上がる水柱を躱し切れず水にその体を打ち付けられる。
上空にマリンの細い体が舞う。
「さっきのお返しだ!マリっ!八つ裂きにしてあげるッ!!」
ディーネが叫ぶとグリーディアから撃ち出された刃が一斉にマリン目掛けて降り注いだ。
「ッ!!」
マリンが更に《水流幕》を厚く張り直そうと身構えた時、頭上から大きな影が下りてきた。
その影に覆い被さられマリンは何とかグリーディアの《千本鋸刃鳴》から免れる。
「流那ッ!?無茶しないで!!」
見るとベルファーレが四つん這いになってマリンの傘となり攻撃を防いでいた。
「防御は私に任せてって言ったでしょ……それに…」
尚もベルファーレの背中にはグリーディアの刃が降り注ぎ続け火花が飛び散っている。
「今無茶しないでいつするってのよお!!」
そんな流那の叫びにマリンは胸が熱くなる。
(まったく…いつも君は相手の事ばかり……)
だが口に出た言葉は――
「まったく、君ときたらいつもいつも後先考えないで…!」
「何ですってッ!?」
マリンの体が湖に沈む。そして《水流幕》をベルファーレの足周りに張り、そのまま水中で思い切り跳躍し、湖から飛び上がりベルファーレの前に立つ。
その眼には揺るぎない闘志が宿っていた。
「こら!万理!聞き捨てならないわよ!今の言葉訂正しなさい!」
流那がマリンの言葉に噛み付く。
だがその顔は笑っている。
「単細胞だと言ったんだよ流那?この分からず屋!」
そう言い放つと、マリンはベルファーレの肩上に跳躍し、流那が巨大な《地殻障壁》を展開させる!
更にそこへ《水流幕》を流し込み“水に覆われた土の盾”でディーネの刃を防いだ!
「なんだいキミたちッ!?ここに来て仲間割れかいッ!?真面目に殺し合いしろよォ!」
ディーネが不機嫌な声を上げながら湖にグリーディアを着水させる。それに合わせディーネの《最終攻撃》の猛攻も止んだ。だが――
「アンタねえ!私がいなかったら今頃串刺しよ!?分かってんの!?」
「僕なら自分だけでもどうにか出来たよ!流那こそ身を挺して防いじゃって、ベルファーレがボロボロじゃないか!?」
二人が言い合いながら尚も激しく睨み合う。
「あハハ!君たちってホント楽しいねェ!!でも、もっと時と場合を選んで、サ!?」
ディーネがそう呟くとグリーディアを低く構えた。
「こっちの気も知らないで!《速度増強》。君はいつも突っ走って!《攻撃力増強》…」
マリンが文句を言いながらも合間合間にスキルを呟く。
「私だって好きでやってるわけじゃないわよ!誰がアンタみたいな性悪小娘を助けるっての!コンディショングリーン!」
流那はコンソールパネルを忙しくタッチしながら機体の管制システムを確認してベルファーレを前に歩き出させる。
マリンが張った《水流幕》のお陰で先程までより足取りが軽いことに流那は気付いた。マリンに視線を向けるとウインクをして返してきた。流那もそれに倣いウインクをして返す。
「そんなこと言うならもう一緒にやってけないな!これでどう?《光鎖拘束》!動けないでしょ?」
マリンがベルファーレに向け数本の光の鎖を放つ。その鎖はベルファーレの四肢に絡みつきその歩みを止めた。
「アンタねえ…!何してるか解ってるの!?ぶっ飛ばすわよ!?」
身動きが取れなくなったベルファーレの操縦桿を流那は汗ばむ手でもう一度握り直す。
「…いつまで馬鹿ヤってんだよ……」
動きが止まったベルファーレにディーネが僅かに怒りの感情を表出させ迫る。グリーディアはその身を一筋の槍に変え突っ込んで来る!
「ちゃんと殺し合いスる気あンのか!?馬鹿共がッ!!」
ベルファーレを串刺しにすることを疑わないディーネがその殺意と共に一直線に飛んで来る!
「ああ流那!ぶっ飛ばそうッ!!」
マリンの十指の先から伸びる光の鎖――
マリンが左右の中指を曲げるとベルファーレに繋がれていた光鎖がピンと張り引っ張られその身を半身にして単調になったグリーディアの突進を躱した。
「あ!?」
マリンが右小指を曲げる――
ベルファーレの右膝が光鎖により引き上げられ躱したグリーディアの胴体に強烈な膝蹴りをお見舞いする。
「ぐフっ!!」
マリンが左人差し指を曲げ、伸ばす――
ぐにゃりと体を曲げたグリーディアに今度はベルファーレの左の剛拳が振り下ろされた。
「がギゃおっ!!」
マリンは舞うように続け様に自分の指の鎖に繋がれたベルファーレを操る。その姿はまるで操り人形を操るように華麗で繊細だった。
「「《合体攻撃》!!」」
流那とマリンの叫びが重なる!
マリンがその両手を頭上に上げ一気に振り下ろす!
流那は鎖に引かれるままにその両腕に魔力を集積させる。ベルファーレの頭上で一つに組まれた拳はそのままグリーディアに振り下ろされた!
「「《性悪単細胞娘々》ーーーッ!!」」
マリンのスキルで速度と威力を増したベルファーレの一撃はグリーディアの頭部に命中し鈍い金属の激突音を奏でた!
「おホっ!!?」
ディーネはその衝撃に驚いた。そして……
「死ぬッ!アハハハハ!死ねそうッ!!楽しくなってきたーーッ!!」
笑いながらそう言うと、その牙をマリンに向けた。
ベルファーレを操ることに集中していたマリンはその殺意が自分に向いたことを察知するのが一瞬遅れた。
グリーディアの牙はマリンの脇腹を掠め取り、装着していた鎧が砕け飛ぶ。
「くはッ!!!」
「万理ぃーーーッ!!!」
流那が叫ぶ。流那から見ても今の一撃はヤバく感じられた。
ベルファーレの掌で負傷したマリンを掬い上げ、湖岸へ向けスラスターを噴かす。
マリンの掛けた《速度増強》のお陰もあり、グリーディアに追従される前に岸辺にマリンを下ろすことが出来、流那はほっと安堵の息を吐いた。
ディーネのことなんかお構い無しに流那はコクピットから降りマリンの下に駆け寄る。
「万理!大丈夫!?」
「掠っただけだよ……まだやれる!」
流那の心配を余所に、マリンは濡れた前髪を片手で掻き上げると力強く答えた。
だがマリンの脇腹にはグリーディアが食い破った深い切り傷が刻まれている。そこからは今も血が滲み出していた。
流那が素人目に見ても重症だと分かった。
「あんた……もう動くんじゃないわよ…」
流那がそう言いながらマリンに回復魔法を施そうとその手をマリンの傷口に翳す。
「《回復》……《回復》ッ!!出なさいよ!《回復》ッ!!」
流那は翳した掌に魔力を集中させ何度も詠唱するが、マリンの傷に変化はない。
「なんでよ……なんでッ!」
流那が苛つきながらも魔法を再度唱える。それでも変化はない。
「流那……」
そんな必死の流那を見てマリンが呟く。
「もういいよ……ありがとう……」
「……ッ!何よそれ!!いいわけないでしょッ!?私、この前プリーストにジョブ変更しといたんだからッ!!《回復》くらいもう出来るはずよ!!」
流那が苛つきながら叫ぶ。
「万理のバカッ!死にそうになってんじゃないわよ!!」
流那は悪態をつきながらも、涙を流していた。
「ごめんね、流那……」
そんな流那にマリンは言葉を掛けた。
「ッ!!なんであんたが謝るのよッ!!バカあッ!!」
そんな二人にグリーディアがゆっくりと近付いて来る。装甲のほとんどが砕け、その機体は蛇の骨の様な姿になっていた。
「あーあ、これで終わりだね、マリちゃん」
ディーネが低い声でそう言いながらこちらに近付いて来る。だがその表情には笑みも怒りもない。ただ無だった。
「流那……」
「なによ!?」
「……そのまま、ディーネの死角になってて…」
「え?」
マリンは流那に抱き抱えられるようにしてグリーディアに対峙していた。
グリーディアからは流那の背中に隠れてマリンの全身は見えていない。
マリンが右手をディーネに見えない角度からゆっくり上げ、その人差し指でグリーディアを指差す。
「…僕の全魔力をこの指先に……」
そう呟くとマリンの人差し指が薄っすらと輝き始める。
「ちょっと万理!?まだ何かしようっての!?じっとしてなさいッ!」
流那がその手を振りほどこうと抵抗するが、マリンは流那の腕を固く掴んで離さない。
「僕を信じて……僕は万物の理を識る、万理だよ…?」
「でも!」
流那の言葉を聞くやマリンは右手をディーネに向け振りかざす。すると薄っすらと輝いていた人差し指が光り輝き、その先から輝く矢の如き光線が一直線に放たれた!
「…《究極奥義》……《海神一閃》…!」
「んッ!?」
光線!?ディーネがそう思ったのも束の間、その光はグリーディアの胴体に小さな穴を開け機体を一瞬で貫いた。
その光はマリンの指から伸び、グリーディアを突き抜け、更に遥か遠くの山を貫いている。
マリンがその指をゆっくりと上に向ける!
「はあああぁあッ!!!」
グリーディアに打ち込まれた光点がマリンの指の軌道に合わせ上に向かいその身を両断していく!
「な…コレ…っ!!?」
ディーネは凄まじいまでの暴力が自分に向かい迫り上がってくるのを感じた!
その光は山をも断ち、上空の雲までも両断した!
上空に跳ね上げられたグリーディアはその身を真っ二つにされ爆散する。その様子を見て、マリンが息も絶え絶えに笑顔になる。
「…ふ。印旛沼の伝説通りだ……雨を降らせた龍神は、雷に撃たれてその身を引き裂かれた……そんな伝承がここにはあるそうだよ……」
いつもと変わらないマリンの蘊蓄に流那は安堵する。
「ふふ、なによ、それ……」
流那はそんなマリンに呆れつつも、小さく微笑み、彼女と同じ空を見上げた。
【次回予告】
[マリン]
“万物の理を識る”と書いて、万理…
とても素敵な名前だと思う
だけど 今僕は
何よりも君のことが、もっと知りたい…
次回『超次元電神ダイタニア』
第四十七話「月の雫」
僕は…君と出会えて……




