第四十三話「ドラゴンスレイヤーズ」
――暗く深い地の底。
地球と異界の間に在るヒトの目には見えぬ真円状の扉《ヘラクレスの柱》。
それは扉と言うには巨大で、蓋と言うには分厚かった。
その丸い扉の周りにこれまた巨大な穴が七つ在る。ヒトには聞こえぬ地響きがその穴の一つから鳴り響いてくる。
その音はまるで地獄の底から聞こえてくるおぞましい鳴き声のような音だった。
その轟音と共に穴から一本の巨大な柱が迫り出して来て10メートル程伸びた所で鈍く止まった。
その柱が残り六つの穴を見下ろす。
まるで残りの柱が出てくるのを心待ちにするかのように……
千葉県総合病院――
ウィンドと別れて直ぐに流那は風待とザコタ、そよを連れ《瞬間転移》でここ総合病院まで来ていた。
風待は止血はされているものの、左腕の骨折と多量の失血により意識は失ったままだった。
救急で診てもらえることになり、風待は輸血をしながら処置室の寝台の上で横になっていた。
その周りで三人は心配そうに眠る風待を黙って見下ろしていた。
流那は実感した。この戦いはやはり現実なのだ、と。怪我をすれば血は出るし、血を流し過ぎれば死んでしまうのだ。非現実的?いや、非日常的なだけで現実には戦争をするということはこういうことなのだろう…
風待の怪我を見た時、その血の多さに喉の奥から声にならない悲鳴が出た。
誰にも聞こえないようにそれを飲み込みはしたが、脚だけでなく全身が恐怖で震えた。
今だって目を覚まさない風待を見ていると胃液が逆流して来そうな嫌な気持ちになる…
流那はそっと、風待に向け手をかざす。
「………《回復》」
しんと静まり返った処置室に流那の小さな声だけが響いた。
しかし何も起こらなかった。
流那は奥歯を食いしばる。
「出来ないか……くそぅ……早く起きなさいよ、馬鹿…」
ザコタも真剣な顔で黙って風待を見つめている。そよがそんなザコタの手を両手で握る。
「大丈夫だよ、進一くん。風待さん、意識戻って来てる…風待さんと契約してる水の精霊の子が教えてくれるんだ」
ザコタはそよのその言葉に少し気が楽になったのか、そよを見てからその握る手に軽く力を込め口の口角を上げた。
その時、風待に付いているバイタルモニターのサインが鳴りモニターの波形に変化が見られた。波形は平常時のものに戻って来ていた。その音を聞きつけ看護師と医師が再び処置室に入って来た。
「…う、ん……ここは……?」
風待がゆっくりとその目を開ける。
「風待さん!よかった……」
「風待!大丈夫なのかよ!?」
「……ん?あれ?そよ君、ザコタ……俺は、確か……あの狼の電神に左腕を……」
風待は思い出した。あの戦いのことを。
「船橋市街の楔はどうなったッ!?」
状態を確認している医師を余所に風待はベッドから起き上がり流那たちに詰め寄った。
「風子ちゃんが相手してくれてるわよ。他の四人は先に八千代公園に向かったわ。私たち三人が風待さんの付き添いってわけ。たく、起きるの遅いわよ…」
流那は後ろを向きながら指でその目尻を拭う。
「……そうか。俺の失態で戦力が分散してしまったんだな……こんなことしてられんッ!」
風待はまだ終わってない輸血を外そうとしたが皆に取り押さえられる。
「離してくれ!俺は、行かないと!」
「風待さん、もう大丈夫。私たちの友達が頑張ってくれてるんだよ。信じて」
そよの言葉に流那が頷く。
「そうよ。あなた、怪我してるんだから大人しくしててください!その左腕だって、まだ折れたままなんですよ?」
流那のきつい言葉に風待は折れていない右腕を差し出し頭をボリボリと搔いた。
「ああ、そうだったな……だが、このままジッとなんてしてられん……」
風待は俯きじっと何かを考える。
「……進一」
風待がザコタに顔を向けて言う。
「何だ?」
ザコタが風待の前に一歩出る。
風待はザコタの目を見据え真剣な眼差しで言った。
「お前に預けたいものがある」
『超次元電神ダイタニア』
第四十三話「ドラゴンスレイヤーズ」
千葉県八千代市 八千代広域公園――
飛鳥の《瞬間転移》で次の《異界の楔》があるだろう八千代広域公園にアース、マリン、ファイアの四人は到着していた。
サラからの情報でその地に居る《電脳守護騎士》駆る電神を倒せば《楔》は消失することは分かっていた。
だが、この地へ来てから二時間が過ぎるも、まだ相手の電神の姿が見つからないでいた。
「折角風子が時間を稼いでくれたのに、これじゃ面目が立たないぜ!」
「風子ちゃん、無事でいて…」
ファイアと飛鳥が焦りを募らせながら周囲を散策する。
当初の予定通り二人一組、ファイアと飛鳥、アースとマリン、二手に分かれて電神を探索していた。
八千代広域公園――
公園の真ん中を縦に流れる新川に分断されるように、その広大な公園はあった。
今では開発が進み、その敷地面積は53ヘクタール(東京ドームのおよそ11倍)にもなり、新川の東岸には図書館や美術館、劇場などの文化施設が整備されている。
一方、その新川の西岸には陸上競技場や弓道場などの運動施設がならび自然を多く残した緑豊かな敷地となっている。
飛鳥とファイアは今その西岸側を自らの足を使って探索していた。
アースとマリンからまだ何の連絡もないことから、向こうもまだ《楔》を見付けられていないのだろう。
ファイアが走り疲れた飛鳥を止まって待ち、その手を引こうとしたその時だった――
ファイアの飛鳥の手を取ろうとする動きが止まった。追いついてきた飛鳥もそのファイアの異変に気付き小首を傾げる。
ファイアの差し出した手が震えていた。
飛鳥はその手を取っていいものか考えた据えに、しっかりと震えるファイアの手を握った。
ファイアがゆっくりと前を向き歩き出す。その顔は飛鳥からは見えないが、無言だった。
「ほむらさん?」
飛鳥はそのいつもと違うファイアの様子に不安になり声をかける。
ファイアの握る手の力が強くなる。
「……大丈夫、大丈夫だ」
ファイアは振り向かず飛鳥の手を引きながら答えた。
ファイアは感じ取ってしまっていた。
先程、ウィンドが消滅したことを。
それは離れた場所にいるアースとマリンも同じく感じ取っていた。
「あ、ああ……風子ぉ……ッ」
マリンの膝が折れ、その場に泣き崩れる。そのマリンの腕を引き上げアースは言う。
「泣くなマリン。今は、立って歩くんだ。今は――」
マリンの手を取り歩き出すアースの瞳にも大粒の涙が溢れていた。
ファイアは泣き顔を飛鳥に覚られまいとその手を引き先頭を歩いて行く。
心に大きな穴が空いたような計り知れない喪失感を抱きながら……
後ろから吹く風が髪をなびかせ背中を押す。ファイアは風に押されるままに歩いた。風の流れに逆らわず、その優しい風に抱かれるように足を前に出す。
暫くして、ファイアは歩みを止めた。
周りは岩壁と密林に囲まれた山岳地帯。公園の中でも自然が多く残っているその場所に、ファイアはいつか浜辺で見た金色の岩塊を見た。
その岩塊は密林の中から二つの首をゆっくりともたげると、ファイアと飛鳥を認識した様子でその全貌を現した。
その電神の名は『璞玉のミングニング』。
《電脳守護騎士》が一人、地のノーミーが駆る特機。
「…見付けた」
ファイアは電神の姿を視認すると、顔を腕で拭いながら飛鳥に向き直る。
『球ねえ、万理、この地の電神を見付けた。いつか海で戦った二首の竜のヤツだ』
ファイアは二人の精霊に意思を飛ばす。
それを二人がファイアから離れた場所で受け取る。
『ならば私たちもそちらに行く!』
『ほむら、正確な場所を教えて?』
アースとマリンから合流の打診が入る。
しかし、ファイアは――
「いや、こいつはあたしが屠る。飛鳥をそっちに向かわせるから《瞬間転移》で次の場所に向かってくれ」
と、静かに言った。
ファイアは飛鳥に柔らかい笑顔で
「飛鳥、聞こえたろ?二人を次の場所まで連れてってやってくれよ」
「でも……」
飛鳥が心配そうな目でファイアを見る。
その時だった。
『みんなー?聞こえますかー?』
緊張感のない声が精霊たちの意思伝達網に割り込んで来た。ファイアは辺りを見回すがその声の主の姿はない。
「そよちゃんッ!?想いが伝わるってことは、割と近くまで来たの!?」
ファイアが驚き飛鳥にも聞こえるよう声に出して確認する。
『あ!ほむらちゃん!うん、風待さんは大丈夫だけど病院に置いてきました!流那さんの《瞬間転移》で進一くんと公園まで来たよー。すっごく広い公園だね〜』
そよが緊張感のない声で状況を説明する。
そんな話をしていると、目の前のミングニングのコクピットハッチが開き、そこからノーミーが顔を出した。
「…敵地に来ていつまでお喋りをしている気なのかしら?」
腹立たしげに眼下の二人を見下ろしながら言う。
「…やっぱりあたしたちに気付いてたか…」
ファイアと飛鳥がノーミーに体を向け直す。
「わたくしは《電脳守護騎士》の一人、《金剛石のノーミー》。炎の精霊と、誰かと思えば、もう一人はアスカちゃんじゃない?」
「えッ?」
飛鳥は突然自分の名前が相手の口から出たことに驚きを隠せず声を上げた。
飛鳥は動揺するも《勇者》の能力で自らの鎧を生成し瞬時に纏う。そして自らゲームで使っていた両手剣を生成しノーミーに向け構えた。
「だ、誰ッ!?何で私の名前知ってるの?」
飛鳥は腰が引けた構えで虚勢を張る。
その姿を見たノーミーの顔が愉悦の色に変わっていく。
「あら?貴女のことはよく知ってますわ?レオンさんからいつも聴いていましたもの」
「レ、レオンを知ってるのッ!?」
飛鳥が驚いた声を上げる。ノーミーは腕を組みながら饒舌に語り出した。
「ええ、レオンさんはわたくしたちに色々な情報を届けてくれましたわ。相川まひるの居場所や仲間の数、その戦力までも、ね?」
飛鳥はまひるの実家ヘ泊まった後から姿が見えないレオンのことを捜していた。父の姿に似ていて気恥ずかしい、いつもお節介な口出しをしてくるあの心配性の精霊を……
「………レオンは、今、どこ……?」
飛鳥は両手剣をノーミーに向けながら無意識にそう尋ねていた。
「あら?アスカちゃんと一緒じゃないんですのぉ?どうしてかしらぁ?」
ノーミーが自らの細いあごに指を置きながら逆に聞き返してきた。
「彼には聴きたいことがいっぱいあるの…あれから何処に行ってたとか、何で倒れたまひるさんの傍にこの剣があったかとか……」
飛鳥は両手剣を握り締め、その震える剣先をノーミーに向けながらレオンの所在を問いただす。
「あれぇ〜?アスカちゃん知らなかったぁ?」
ノーミーは少し戯けながら言った。そして飛鳥の目を鋭い眼差しに戻り見つめて言う。
「彼、わたくしが殺しましたわ!」
「えッ!?」
その衝撃の告白に飛鳥が驚く。
「でも、その剣がまだ在るところを見ると、まだその中に――」
ノーミーが言い終わるより先に飛鳥の剣がノーミーの喉笛に襲い掛かった。
飛鳥は跳躍すると瞬時にミングニングを駆け上りノーミーの眼前まで迫っていた。
「―――ッ!!」
飛鳥は無言のまま眼を見開きノーミーに両手剣を振り下ろす。
ノーミーは自ら召喚した槍でその太刀を受け流し、返す刀で鋭い突きを放つ。
「人の話を聞かない子ねッ!」
飛鳥はそれを距離をとって躱しながら地面へと着地した。
それを見ていたファイアが
「聞こえるか球ねえ、万理、それとそよちゃん…」
ファイアの呼び掛けに三人から「聞こえてる」と返事がくる。
「さっき言ったのはナシだ。ここはあたしと飛鳥で引き受けた。流那ちゃん来てんだろ?だったら五人で先に行っててくれ」
ファイアは目の前の敵を見据えながら力強く言った。
『でもほむら!みんなで一緒に戦った方が――』
「切るぜ」
マリンが何かを言う前にファイアは意思の伝達を切った。
ファイアは思い出していた。
(そう言えば、前にもみんなで飛竜を退治したことあったよなぁ。あれは出会ってまだ直ぐの頃か…随分と昔の事のように感じる…あの時も風子に良いところ持っていかれちゃったんだよなぁ…)
「おい、ノーミーって言ったか?」
ファイアがゆっくりと歩きながら飛鳥とノーミーの間に割って入る。それに気付いたノーミーがファイアを横目で見て言う。
「ええ、わたくしは《偉大なる金剛石のノーミー》!貴女は?」
そのノーミーの問い掛けにファイアは右手の親指で鼻を擦りながら答える。
「あたしはほむら、相川ほむらだ!ノーミー!悪いがここからは二対一だ!お前の品のない挑発のせいだからな、悪く思うなよッ!!」
ファイアは高らかに名を名乗ると、その右手を腰に当て胸を張り出した。
「征くぞ飛鳥ッ!電神を喚べッ!!『竜退治』だッ!!」
そう言うとファイアは召喚の準備に入る。それを見た飛鳥も同じく両手で印を描く動作を始めた。
「至極なるファイア!泰然たる炎の姫騎士よ!今こそその力をこの天下に示せッ!出よ《アウマフ》!!」
ファイアがそう唱えると地面に炎が奔り、その炎が召喚紋を描いていく。
「…炎の揺り籠は神威の具現…其の神威は雷と化し、神の鉄槌として汝らを打ち砕く…大いなる威厳、偉大なる金獅子、其れこそが神の御業なり…さあ、我が呼び声に応えてその姿を覧せよ!《獅子王召喚》!」
隣で詠唱する飛鳥をファイアはキョトンとした顔で見ていた。
(……詠唱、長くね?)
地面に二つの炎の召喚紋が描かれ、その中心から二体の電神が迫り出してくる。
ファイアはその紅く燃える電神、《アウマフ・リファイア》を誇らしげに見上げた。
飛鳥はその金色に輝く電神、《リーオベルグ》を安堵の表情で見上げた。
二人が光に包まれそれぞれの電神に搭乗する。
「あの子…電神を喚べたということは、やはりまだレオンの残滓は在るようですわね…こちらにとっては好都合ですけれど」
ノーミーは身軽な動作で再びミングニングのコクピットへと戻った。
アウマフがロングソードを、リーオベルグもまたロングソードを二本両手にそれぞれ持ち構えてミングニングに対峙した。
「二対一だってのに随分と余裕だなノーミー?また風待さんの時みたいに電神に乗る前に攻撃されるかと思ったぜ?」
ファイアは片手剣をアウマフの顔の前で構えた。
「この剣は、レオンの、形見……よくも……よくもっ!レオンをッ!!」
飛鳥は背中に背負っていた両手剣を地に突き立てながら憎しみに満ちた目をノーミーに向けていた。
「二人掛かりでも全く構いませんわ。でも覚悟してくださいね?わたくしに対して品がないと言ったこと……万死に値しますわ!」
ノーミーがミングニングの双頭を低く構えながら不敵に言う。
「覚悟するのはお前だッ!ノーミー!」
ファイアが声を張り上げたと同時にアウマフがノーミーに襲い掛かる。リーオベルグはその横から双剣を振り下ろした。
「ふん、避けるまでも無い…」
ミングニングは大きな後ろ足で上体を持ち上げると、その短い両手に《地殻障壁》を張り《盾》を生成した。
ミングニングの左右の巨大な盾に阻まれ、ファイアと飛鳥の斬撃は電神本体に届きすらしない。
「だったら!」
飛鳥がミングニングから距離を取りながら言う。
「我が矢は汝らの魂を浄化する!」
両手に握られた剣を前にかざし
「命脈に火を灯し、其処へ至るはただ一筋の道!」
その刀身に炎が宿る。
「その身を焦がし貫く我の熱こそ救い!《炎の矢》!」
双剣から二発の火属性の中級遠距離攻撃スキル《炎の矢》がミングニングに向け勢いよく発射された。
その矢は盾の隙間を掻い潜り胴体へと着弾した。だが――
起伏の多い直線で形成されたその黄金の胴体は難なく《炎の矢》を跳ね返した。
「無駄ですわ。この《璞玉のミングニング》に遠距離攻撃魔法は通じないのよ!」
ノーミーが不敵に笑いながらそう言うと、それに同調してミングニングも二人に向けその大きな口を開け襲い掛かる。
アウマフとリーオベルグがそれぞれ向かって来た竜の首を躱す。すると今度は躱した首と違う首がそれぞれに襲い掛かって来た。
「ちっ!左右が別々の軌道でやって来るから動きが読み難いッ!」
ファイアは襲い掛かる首をロングソードで必死にいなしていた。すると横から飛鳥の声が響く。
「ほむらさん!私がその首を引き付けるから本体を狙って!」
「わかった!任せるぞッ!」
飛鳥は二本の剣でミングニングの双頭の攻撃をいなし躱していく。その間も口では何かを囁きながら…
「その昔、天まで届く塔を建てようとした愚かな者共が居た…」
(あ。また何かよく分からん長い詠唱が始まったな…)
ファイアは飛鳥の特殊なスキル詠唱に苦笑し半ば呆れている様子だ。
「だが、塔は完成しなかった。何故か?其の者は神の怒りを買ったからだ!」
「貴女の呪文、個性的で素敵だわ!だけどまたわたくしには通じないんでしょうけどね!」
ノーミーが飛鳥のそれを嘲笑うでもなく肯定しつつ見下す。
「何故だ!己の傲慢に気付かず神に近付こうとしたからだ!《炎柱》!」
飛鳥がそう言い放つとミングニングのいる地面の下から五本の火柱が上がりその胴体を焦がした。
「一度に《炎柱》を五本もッ!?」
ノーミーが驚愕するも続ける。
「魔術師でもないただの戦士の貴女が何故!?……でも、先程も言ったはずですわ、この璞玉のミングニングに魔法攻撃は通じないとッ!!」
ミングニングの鋭い顎がリーオベルグ目掛けて襲い掛かる。
「私も言ったはず……その首は私が引き付けるって!!」
ミングニングの双頭がリーオベルグの両肩に向けその牙を向けた時、リーオベルグの横に迫り出していたショルダーアーマーは90度後方に向きを変え、その直ぐ横をミングニングの首が掠め通って行った。
その後方を向いた両肩から大型の砲身が迫り出し、両肩に内蔵されたキャノン砲が発射される。
「はっ!?」
そのエネルギー弾がミングニングの前方を護っていた《盾》に着弾し爆発した。《地殻障壁》で造られた《盾》は跡形もなく破壊されていた。
「くうッ!」
ノーミーは予想外の事態ではあったが、キャノン砲を撃った反動で隙が出来ていたリーオベルグを見逃さず、その顎で捉えた。
「うあっ!」
ミングニングの牙に捕まった飛鳥が苦痛の声を上げる。
「あはははは!ようやく捉えましたわ!金色の電神はわたくしの璞玉のミングニングだけで十分ッ!」
ノーミーが歓喜の声を上げる。
「ふふ…」
飛鳥が不敵に笑う。
「何ですの?」
ノーミーが不思議そうに尋ねる。
「私の詠唱は長いの……戦士ジョブはどうしてもスキルの詠唱時間が長くなるから攻撃魔法が苦手。だから、一つの詠唱に掛ける時間を更に長くしたのよ。そうしたら同じスキルでも詠唱を長くすればするほど、その威力は高まり変化するってことを見付けたわ!」
飛鳥がそう言い放つと、今まで大して気にも留めていなかったミングニングの周りで尚も燃え続ける《炎柱》の方にノーミーが目を向けるとそこには先程とは見違えるような大きさの火柱が立っていた。
まるで炎の巨人のような火柱は地面を割り天を衝くような高さにまで燃え上がっている。そんな光景を目の当たりにしたノーミーは思わず驚嘆の声を漏らした。
「こ、これは……!?」
すると火柱の中で蠢く存在があった。
「《灼熱覇道剣》ッ!!」
火柱から突如現れたアウマフがミングニングの胴体に燃え盛るロングソードを振り下ろし、巨竜の両腕を切断した。
そして体勢を崩しかけていたリーオベルグを抱え地面に着地したアウマフはそのまま後方へ飛び退いた。
リーオベルグを抱えたまま軽やかに飛び回るその姿はまるで忍者を彷彿とさせた。
「ナイスアシスト!飛鳥!」
ファイアが笑顔で親指を立て飛鳥を労う。
「よく火柱をカモフラージュに…伝わって良かった、ほむらさん!」
飛鳥はファイアに微笑むと、ノーミーに向けその剣先を向ける。
「高威力の物理攻撃なら、通るッ!……許さないわ!ノーミー!」
飛鳥の怒気に中てられノーミーが飛鳥を睨み返す。
「図に乗るんじゃ無い小娘ッ!今のはわたくしが油断していただけでしてよ!」
ノーミーが吼えながら地面に新たな《地殻障壁》を展開させる。
「わたくしの優位は揺るぎませんのよ!だってわたくしの方が……上品で優雅ですものおぉーーーッ!!」
ノーミーの叫びと共にミングニングの双頭が大きな口を開け、その口内にエネルギーを充填し始める。
周囲の魔力がミングニングの口に集まっていくのをファイアは感じ取った。
そして次の瞬間、眩いばかりの閃光と共に極大の二本の光線がその双竜の口から発射された。
撃ち出されたその光線は螺旋状に回転し、二本だったものが渦を巻き一筋の極大光線となって飛鳥のリーオベルグ目掛けて迫り来る!
「ッ!?」
あまりの出来事に一瞬唖然となる飛鳥であったが、すぐに我に返り迫る光線をショルダーキャノンで相殺しようと立ち向かった!
ファイアはその光線が通り過ぎた後に、何ものも残っていない不穏な気配を感じた。
光線に全てが掻き消されていく。
そこに在ったはずの塵、埃、空気や、大気の精霊たちも……!
この攻撃は食らっちゃいけない!
駄目だ飛鳥!避けろッ!!
「飛鳥ああぁああーーーッ!!!」
【次回予告】
[ファイア]
あたしは、焔のファイア
情熱的に燃え盛り、刹那に輝く…
みんな、見ててくれ…
これが、あたしの……!
次回『超次元電神ダイタニア』
第四十四話「想い、炎より熱く」
立てよノーミー……決着を着けようぜ…!




