第三十三話「過ぎゆく日常」
「ノーミー、動ける?」
「駄目ですわね。全然動けませんわ…これ、ただの拘束魔法ではなさそうですわね…」
《海神十戒》の縄に捕らえられたディーネとノーミーは言う。
(そうさ。《海神十戒》は《最終攻撃》でもある強力な技だよ。単純な物理法則は通用しない…!)
マリンはまひるのパイロットスーツに成りながら一人ほくそ笑んだ。
「まひる?これは好機です!しっかり尋問していこう!」
マリンがあたしに指示する。
「そ、そうね!ちょっとこの技苦手なんだけど、マリン!フォローよろしくね!?」
あたしは戸惑いながらマリンにそう言うと、操縦桿を握り直す。
「聞こえるかな!?そこの電神の二人?この技で捕えてる間は何も出来ないから素直に言う事を聴いて欲しいの?」
あたしは《海神十戒》に拘束されて動けない二人に声をかける。
「ねえ、魔法でも道具でもなく、ここまで完全に動けなくさせることって出来ンの?」
ディーネがコクピットから機体を見回しノーミーに問う。
「分からない…けど、魔力だけではない何か別の力が働いてるのは確かなようですわね…」
ノーミーが苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「じゃあ、訊くけど、あなたたちの仲間、になるのかな?SANYの居場所を教えて?」
あたしはまず初めに一番重要な事を訊いた。
「サニー?サニーのことならノーミーの方が知ってるンじゃないのぉ?」
ディーネがそう言ってノーミーに振る。
「知ってたとしても、あなたたちに教えてあげる義理はありませんわね!」
ノーミーはピシャリとそう言い放つ。
その瞬間、ノーミー駆るミングニングの右腕に巻き付いていた水の縄の一本が急激に絞まり出し、右腕を根本から引き千切った。
大きな音を立てミングニングの右腕が砂浜に落ち、光の粒子となり消えた。
「うっそ……!」
「ッ………」
それを見ていたディーネが嬉しそうに驚き、ノーミーは更に険しい顔付きになる。
「この技は質問された事に答えなかったり、嘘の回答をすると水の縄がその巻き付いてる部分を破壊するんだ。もう一度訊くよ?SANYはどこ?」
マリンがあたしの代わりに二人に訊ねる。
「……知りませんわ」
「ンなの、こっちも知るワケないッしょ!」
二人は口をそろえてそう言う。
(まあ、この二人は知ってても教えてくれないよね……)
あたしはため息をついた。
「……ん?」
「ねえねえ!こんなんじゃつまんなくない?ちゃんと電神同士で戦おうよ〜」
マリンの声にディーネの話し声が被った。
「このまま一方的にやられるのもアリだけど、どうせなら命懸けで戦って壊れたいじゃン?ねえったら〜」
ディーネが満足に戦えない事に駄々をこねる。
「……何で、発動しない……?」
マリンの呟きが聞こえる。
「え?……あッ!」
あたしはその言葉に疑問を持つも、直ぐにマリンが言わんとしてることに考えが辿り着いた。
二人はさっきSANYの居場所を「知らない」と言った。そして《海神十戒》は発動しなかった…
つまり、本当にSANYの居場所を知らないッ!?
「あなたたちにとってSANYってどんな存在なのッ?」
あたしは押し寄せて来る不安を遮るように続けて質問をした。
「…わたくしたちの、全てですわッ!」
ノーミーがそう叫ぶと同時にミングニングが全スラスターを吹かして前進しようとした。その時、アウマフの水縄の張りが一瞬だが緩んだ。
「ディーネッ!今ですわ!」
「おうさッ!」
その隙を見逃さずディーネの電神グリーディアは全身をくねらすと蛇腹状の胴体を関節ごとにバラバラに分断した。水縄から逃れたグリーディアは再度関節同士が連結し合い元の姿へと戻っていく。
「へっへ!ノーミー、やるじゃンか…後は任せな…!」
ディーネはグリーディアを海面にいるアウマフ目掛け全身を槍の様に一直線にして突進してきた。
「まひるッ!《海神十戒》を解いて防御をッ!!」
マリンが叫んだ。
「間に合わ…!」
グリーディアの突進スピードと《海神十戒》を解いてから《水の幕》を張るには決定的に時間が足りない!それ程までにグリーディアは速く、ディーネの殺意は強かった!
あたしは被弾を覚悟し衝撃に備えるとダメージを最小限に抑える為にアウマフを半身にした。それが精一杯だった。
歯を食いしばる!
そして急に目の前が暗くなる!
あたしは反射的に目を瞑ってしまった。
激しい衝撃音が響き渡る。が、何故だかその衝撃はアウマフに伝わって来ていない。
あたしは恐る恐る目を開けると、眼前には巨大な電神が、その胴体に突き刺さったグリーディアを押さえ込んでいた。
「流那ちゃんッ!?」
その巨体の電神はいつぞや戦った流那の電神だった。
『まひるん、無事ね?』
流那ちゃんがベルファーレから背中越しに話しかけてきた。
「う、うん!ありがとう!流那ちゃんこそ大丈夫ッ!?」
あたしは恐怖で強張っていた体から力が抜けて安堵の息を吐く。
「ちッ!まだ他の電神がいたンだッ!?」
ディーネが舌打ちをしてノーミーに問う。
「ノーミー!このデカブツは使えそうかいッ!?」
ノーミーは眼前に現れたベルファーレを見据え暫し思案した後、口を開いた。
「能力は大した事無さそうですけど、魔力の純度が高い……使えますわ…」
それを聞いたディーネは口角を釣り上げた。
「それなら決まりだねェ…!アウマフとその従者ちゃんたち、今日のは貸しにしとくよ!」
ディーネはそう言い残すと、またグリーディアの関節を外し、ベルファーレの掴んでいた手の中から抜け、巨体を飛び越えて海へと潜り見えなくなった。
「なッ!?待ちなさいディーネ!……くっ、仕方ありませんわ」
ノーミーもベルファーレを一瞥すると、ミングニングと共に海の中へと消えて行った。
『超次元電神ダイタニア』
第三十三話「過ぎゆく日常」
浜辺に静寂が戻る……
「ふぅ……なんとか切り抜けられたね」
あたしは安堵の息を吐いて、マリンに声を掛ける。
「…無敵だと思っていた《海神十戒》が、あんな単純な方法で破られるなんて…」
どうやらマリンは自身の必殺技が通じない相手がいたことに動揺しているようだ。
「でもさ、向こうの連中もSANYの居場所を知らないっていう新しい情報は得られたよ!それがどんな役に立つかあたしにはピンと来ないけど」
あたしは明るく苦笑してマリンを励ます。
「それも、そうだね……とにかく今は情報収集に努めよう」
マリンも少し気を持ち直したのか、いつもみたいな冷静な表情に戻り、そう答えた。
あたしたちは電神を粒子に戻し、ザコタ君に状況を連絡して、お互い問題ないことを伝えると、ザコタ君、そよちゃんとファイアの三人はそのままお兄ちゃんの手伝いへと向かった。
飛鳥ちゃんとウィンド、アースが遅れてあたしたちの居る砂浜にやってきた。
「はぁ、はぁ!済みません、走って来たんですけど…」
肩で息をしながら飛鳥ちゃんはウィンドとアースに支えられている。
「体力、無くって…はぁ、はぁ…」
飛鳥ちゃんはちょっと顔を赤らめながら、息を整えている。
「飛鳥ちゃん!置いて先に来ちゃってごめんね!でももう大丈夫。相手逃げてったから!」
あたしがそう言うと、ウィンドが口を開いた。
「さすが万理りん!海では万理りんの横に出る者はいないね!」
「あ、いや……うん。今日のところは、ね」
マリンが困ったような表情で曖昧な返事を返した。
「私もリーオベルグで駆け付けられたら良かったんですけど、今回レオンは置いて一人で来ちゃったんで…」
飛鳥ちゃんの言葉に、あたしは不思議に思ったことを口にする。
「契約してる精霊って、いつも一緒にいるものじゃないの?」
あたしは飛鳥ちゃんとアースたち精霊三人の顔を交互に見る。
「精霊は基本、契約主を護ろうと行動します。レオン殿もきっとどこか近くに居ることでしょう」
アースがあたしの疑問にそう答えた。
「そうなんですよぉ!あんなに体大きいくせに心配性で、何処に行くにも付いてこようとするんです!だから私、今回の旅行には一人で行きたいからって言って出て来たんです!」
飛鳥ちゃんは少し困った顔になってそう言った。
「そうなんだ?じゃあ今も木陰の影から飛鳥ちゃんのことそっと見守ってるかもね?」
あたしは冗談めかしてそう言うと、飛鳥ちゃんは慌てた様子で周囲をキョロキョロと見回す。
「もう!まひるさんたちはみんな女の子で仲良くて良いですけど、レオンなんておヒゲのおじさんですよ?四六時中一緒に居られたら変な目で見られちゃいます!」
飛鳥ちゃんは少し怒ったように頰を膨らませてそう言った。
「あはは!そうだね、なんかゴメンね……あれ?精霊の外見って契約者の好みで決まるみたいなこと、アース最初に言ってなかったっけ?」
あたしは思い出しアースに訊く。
「そうですね。ヒトの願いが原動力の精霊ですから、外見もそのヒトの願いが反映されてるところが大きいかと思われます」
アースは相変わらず真面目にしっかりと答えてくれる。
あたしは自分の頬に人差し指を当て、宙空を見て思案する。
「…ということは、飛鳥ちゃんのタイプってダンディーなオジサマなの!?」
あたしは目を見開いて飛鳥ちゃんを直視する。
「え……いえ、そう言うわけじゃ……って、まひるさん!なんなんですか!?」
飛鳥ちゃんは驚いた様子で顔を真っ赤にした。
「へー。そのレオンって人、おじさんなんだ?別に良いんじゃない?年の差あっても」
流那ちゃんが隣から話しかけてきた。
「え?いえ、ほんとにそういうんじゃなくてですね!えーと…」
飛鳥ちゃんは何か言いにくそうに口籠る。そしてゆっくりと言った。
「えっと…私の、パパにそっくりなんです……別に理想の男性とかじゃないんですけど、ね……」
あ!しまった…飛鳥ちゃんのお父さんは病気で亡くなったって言ってたよね…それに気付かず囃し立ててしまった。
「ごめ…!」
謝ろうと頭を下げるより先に、あたしの横で流那ちゃんの頭が下がった。
「飛鳥ちゃん、そうとは知らずに、ごめんなさい」
流那ちゃんはいつものおちゃらけた様子は一切なく、殊勝な様子で謝罪を口にした。あたしも続けて頭を下げる。
「ごめんなさい飛鳥ちゃん!」
「え…あ、いえ、そんな別に……大丈夫なので二人とも頭を上げてください〜」
飛鳥ちゃんはあたしたちの様子に慌てて手と首を横にブンブンと振った。
飛鳥ちゃんは困りながらも言葉を続ける。
「本当に大丈夫ですから!あ、そう!あのですね、パパに似ているのは外見だけなんですよ?性格とか言動は全然似てないですし……ね!」
飛鳥ちゃんが慰めるように慌ててまくしたてるのを見て、あたしも流那ちゃんも頭を上げた。
「……そう?」
流那ちゃんが尋ねるようにつぶやくと、飛鳥ちゃんは大きく首肯した。
「はい!」
飛鳥ちゃんが笑顔で答えると、流那ちゃんもニッコリと笑って言った。
「私もイケメンな精霊なら来て欲しかったわ!」
流那ちゃんは優しく微笑むと、飛鳥ちゃんの頭をそっと撫でた。
「私ね、意外と面食いなの。どうせ一緒に居るなら顔がいい方が良くない?」
流那ちゃんのその言葉に、飛鳥ちゃんは少し照れるように俯きながら答える。
「私は……おヒゲのおじさんじゃなければ、それでいいです」
「あはは!」
あたしと流那ちゃん、飛鳥ちゃんの三人は顔を見合わせて笑い合った。
それから、みんなでお兄ちゃんがやってる海の家に行ってファイアやそよちゃんたちのお手伝いを、あたしはお兄ちゃんの横に並びカウンターから見ていた。
アースやウィンド、飛鳥ちゃんたちも何か出来ることはないかと聴いてきて、お店の前で呼び込みを始めた。
その甲斐もあってか、午後のニ時を回ったというのにお店の中はお客さんで溢れ返っていた。
あたしがカウンターを拭きながらそんな光景をニマニマと見ていると、隣からお兄ちゃんが声を掛けてきた。
「みんな良い子だよなあ…」
「…うん。みんなあたしの大事な友達だよ」
「そうか……」
お兄ちゃんは少し遠い目をして答えた。それからあたしの方を向いて言った。
「まひる、お前が沢山友達を連れて来てくれて俺ぁ嬉しいぞ!」
「お母さんからも同じこと言われた〜。あたしってそんなに友達いなそうかな?会社でも普通にいるよ?」
あたしは少し不満気にお兄ちゃんに言う。
「いやさ、まひるの知り合いって地元の友達しか俺知らないだろ?だから俺の知らない子たちとも仲良くしている姿を見てると、嬉しいんだよ」
お兄ちゃんは突然そんなことを言い出す。
「俺はよ、まひるが家出て色々頑張ってんのは知ってたし、何だかんだで上手くやってるってのは聞いて安心はしてたんだ。ただ……」
「…ただ?」
お兄ちゃんは何か考えるように言葉を切った。あたしはその先が気になったので聞き返す。
「今回の『ダイタニア』の件だよ。お前にゲーム教えたの俺だろ?それでこんな事態に巻き込まれて……これでも少し責任感じてるわけよ?お袋たちにはそこまで詳しく話してないんだろ?」
お兄ちゃんは眉毛をハの字にして申し訳なさそうに言ってくる。
「俺も、そのイベントが開催された時間帯にログインしてれば、お前をもっと助けられたんじゃないかって、な…」
「そんな……イベントなんて二時間くらいでログイン出来なくなっちゃったし、偶々あたしがログインしてたってだけだから!お兄ちゃんにはいつも助けられてるよ」
あたしは慌ててお兄ちゃんに言う。
「あのほむらちゃんやそよちゃんも、ダイタニアから出て来たゲームのキャラなんだよな?全然そんな感じしないわ。なんかさ、普通の女の子だよな。お前と同じでさ…」
お兄ちゃんがそんなことを言うから、あたしはホールで接客をしているファイアを目で追い、見つめる。
ファイアは汗を流しながら忙しそうにお客さんの注文を取っている。忙しそうにしながらも、その時折見せる笑顔の中には普段のファイアには見たことのない煌めきがあった。
「…そうだね。あたしたちの間に、もうゲームだとか現実だとかっていう、垣根みたいなものは無いかな。本当にみんな良い子たちで…」
あたしはホールのみんなを優しい眼差しで見つめる。
「みんな、あたしの周りにいる大切な人たちだよ」
「そうか」
お兄ちゃんは納得したように頷いて微笑んだ。そして唐突にこんなことを切り出した。
「まひる、お前は今幸せか?」
突然の質問だったけど、あたしはすんなり答えることが出来た。だってそれは、当たり前の簡単な質問だったから。
「うん!毎日楽しくて幸せだよ!」
あたしの答えにお兄ちゃんは満足そうな笑みを浮かべた。それからいつものおちゃらけた様子に戻り
「うし!じゃあ明日はここの手伝いはいらん!みんな連れて遊んでこい!お前ら明後日帰るんだろ?」
と言ってきた。
「明後日帰るけど、あたしたち結構時間あってさ、しっかり遊ばせてもらってるよ?お母さんお父さんのお手伝いも半日もしなくて言いって言われてるし、うちの家族ってほんと甘いんだから〜」
あたしはお兄ちゃんに呆れてそう言う。
「可愛い娘が偶に帰って来たんだ。親孝行すると思って諦めて甘えとけ!俺なんかいつもいるもんだから、手伝いどころか何か頼む時しか声かけてこないんだぞ。酷くね?」
「あはは。お兄ちゃん何だかんだで頼りにされてるんだよ。あたしだって、お兄ちゃんのこと頼りにしてるもん」
「おう、そっか。ならよし!」
お兄ちゃんは満足そうに頷くとあたしの頭をわしゃわしゃと撫でて来た。ちょっと恥ずかしいけど、撫でられるのは嫌いじゃないので黙って撫でられておくことにした。
「じゃあ明日は遠慮なく遊ばせてもらうよ!でもファイアとかザコタ君はお兄ちゃんに特訓して欲しいって言ってきそう」
あたしは冗談混じりに答える。
「なー!あいつら体育会系にも程があるっつーの!もっとさ、今しか残せない青春の1ページってのがあるだろよ!?それを人の顔見るなり稽古をつけてくれってさ、昭和のスポ根漫画かっつーのッ!」
お兄ちゃんも冗談混じりに怒ったようにそう言う。あたしは苦笑いしながら
「あはは!それもさ、あの子たちには今必要な青春の1ページなんだよきっと。あたしもさ、他人事じゃなくもっと自身を成長させたいから今回長期休暇取って帰って来たんだし…」
「まひる、お前が世界の危機を救うとか、その事に関してだけは俺は一つも信じちゃいない」
お兄ちゃんは少し真面目な顔に戻り言う。
「お前は俺たち家族にとって掛け替えのない娘であり妹で、ただそれだけが変わらない事実だ。お前がやりたいと思うことは何だってやらせてあげたいし、フォローもしたい」
「お兄ちゃん……」
「だがまひる、これだけは言っておくぞ。お前が世界を救うんじゃない。お前一人が全てを背負い込もうとするな。お前がやりたいと願うところに、俺たちもいさせろ!手が必要なら差し伸べろ!お前の人生にはこんなにも多くの協力者がいることを決して忘れるな」
そう言うとお兄ちゃんは笑いながらあたしの頭に手を置くと、またわしゃわしゃと撫でて来た。あたしは少し乱暴だけど優しいその手つきが嬉しくて、心が温かくなるのを感じた。
「うん!ありがとうお兄ちゃん!」
あたしはお礼を言うと共にニッコリと笑う。
夕飯を済ませ、大部屋にザコタ君とそよちゃんも交えてあたしたちは明日の予定を立てていた。
「俺は明日も旭さんに稽古をつけてもらいたい!」
ザコタ君が開口一番に部屋に遊びに来たお兄ちゃんに向かって言う。
「でもさ少年?明日くらい一日そよちゃん連れて街の方に行ってみるとか、そういうのってないわけ?」
やっぱりかといいたげなお兄ちゃんが呆れて言う。
「いや、俺はやっぱり旭さんの教えを受けたい!今日も負けたんだ……もっと強くなりたいんです!」
ザコタ君ってこの数日でお兄ちゃんによく懐いたなー。なんて思いながらあたしはそよちゃんに聞いてみることにした。
「そよちゃんは?明日何かしたいこととかある?」
そよちゃんはうーんと少し悩むような仕草をした後
「進一くんと遊びたいです!」
とあたしの方を見てニコーっと屈託の無い笑顔を浮かべながら言った。
「ほれみろ。ちゃんとそよちゃんのやりたいことも聴いてやらんとその内愛想尽かされるぞ?」
というお兄ちゃんに
「ぐ!ぐぬぅ……じゃ、じゃあ!朝少しだけでもッ!?」
ザコタ君は尚も食い下がる。そこにファイアも便乗してきて
「あ、旭。あたしも出来たら少し稽古つけて欲しい…」
と、珍しく控え気味に呟く。
「二人ともありがとうね!そんなに俺の空手気に入ってくれて!わーった!わーったよ!じゃあ朝少しだけ稽古して、その後進一少年はそよちゃんとデートすること!ほむらちゃんはー…まひるたちと合流する?」
「デッ!?」
ザコタ君が驚き言葉を詰まらせ顔を赤くさせる。
「まひるちゃんたちとはいつでも遊べるから、よかったらお店明日も手伝うよ」
ファイアはしおらしくそんな事を言ってみせる。
「だーッ!それじゃお休みあげるって言ってる意味ないじゃん!」
お兄ちゃんは頭をぐしゃぐしゃ掻きむしりながら冗談めかして声を荒げる。
「あはは!旭は面白いな!」
ファイアは無邪気な笑顔で笑い転げていた。
「あの、僕と流那も明日おじ様の手伝いをするってもう約束してあるんだ。明日また早い時間に船に乗せてもらうつもり」
マリンが流那ちゃんの方を見ると、流那ちゃんは少し緊張した面持ちで無言で頷いた。
「だから、明日も午前中は僕たちも別行動になるんだ。合流するなら午後からでもいいかな?」
「うん。それは大丈夫けど。夜には花火用意したからさ、それはみんなでやろうね!」
あたしは笑顔で答えた。
「まひるさん、私も明日暁子おば様と一緒に昼食作りの約束を入れてしまいました。いいでしょうか?」
アースが少し申し訳なさそうに言う。
「うん!もちろんだよ!ここにきてアースの料理の腕、益々上達してるしね!じゃあ、明日も何だかお昼くらいまでは今日と同じような流れかな?みんなそれでいい?」
あたしは皆んなを見回して言う。みんなも異論はないようだった。
「マジかよ…みんな良い子過ぎんだろ……じゃあほむらちゃん、明日朝稽古が終わったらちょっと街行こうよ?」
お兄ちゃんはファイアの方を見て言う。
「あ、あたしと?」
「うん。だってさー、折角来てもらったのに手伝いだー稽古だーじゃ流石に、ね?いいだろ、まひる?」
「あ、うん。ファイアがいいならあたしは構わないけど…」
お兄ちゃんに振られ、咄嗟にそう答えてしまったが、あたしはお兄ちゃん耳元で小声で呟く。
「…お兄ちゃん!ファイアに変なことしないでよね?」
「アホか!妹の友達に手ぇ出すほど落ちぶれとらんわ!」
お兄ちゃんはあたしの頭に軽くチョップして言った。
「ご、ごめん」
と、あたしは苦笑いで返す。
「あたしは別にいぃょ…その、旭、明日もヨロシク…」
ファイアがゴニョゴニョと、恥ずかしそうに言う。
「おっけ!じゃあ明日な!」
お兄ちゃんは笑顔でヒラヒラと手を振って見せた。
「ってことで、明日の予定は大体決まったな!今夜は何して遊ぶ?ガールズトークするなら俺と進一少年は退席するけど?」
いつの間にかお兄ちゃんがこの場を仕切っていた。
そよちゃんがザコタ君の腕をそっと掴むのが見てとれた。どうやら一緒に居て欲しいらしい。
「じゃあさ!今夜はお兄ちゃんが持ってきてくれたボードゲームみんなでやる?丁度十人までプレイ出来るみたいだし」
あたしはお兄ちゃんの持ってきてくれた大きな箱を指差す。
「わあ、やってみたいです!」
「いいわよ。アナログのゲームって偶にやるとすごいハマるのよね」
そよちゃんと流那ちゃんは直ぐに賛成してくれる。
その後、みんなでボードゲームを楽しみ、三日目の夜が更けていった。
あたしはこの楽しい日々がどうかいつまでも続きますようにと、心の中で願った。
【次回予告】
[まひる]
シルフィの仲間二人と突然の遭遇!
何とか帰ってくれたけど
近い内に、決戦は避けられない?
どうしたらいいの?
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第三十四話「動きだす世界」
夏合宿もいよいよ大詰め!あっそべーッ!




