第三十一話「殻の外の飛ばない小鳥」
「仙崎飛鳥と言ったか?」
迫田君は目を見開き、少し機嫌悪い様子で私たちを睨んでいる。彼の後ろではそよさんが心配そうな面持ちで立っていた。彼は私を一瞥すると続けた。
「…違うな。お前の本当の名は――」
「ッ!」
私は言葉を詰まらせる。迫田君が私を睨み付けたまま続けようと口を開こうとしたその時――
「ちょっと待って!」
風子ちゃんが横から口を挟んだ。迫田君が訝しげに彼女を見る。
「先に飛鳥ちゃんとお話してたのは私たちだよ?ザコタくんの話は私たちの後にしてくれる?」
迫田君は風子ちゃんを睨み返すが、やがて小さく舌打ちし、そっぽを向いてしまった。
「ありがと。…飛鳥ちゃん、まひるちゃんも交えてお話の続き、いーい?」
風子ちゃんが優しく問いかけてきたので、私は一呼吸置いてコクリと頷いた。風子ちゃんはニパッと笑うと、私の手を取りながら奥の厨房に向かって声を掛ける。
「旭お兄ちゃーん!レモネードごちそうさまでした!美味しかったよ!」
厨房から旭さんが顔を出し
「おう、そりゃ良かった!旭お兄ちゃんか…まひる以外に呼ばれるのも悪い気はせんな」
と笑顔で応えてくれていた。
「風子たち戻るね?お仕事の途中だったのに、ありがとう!」
風子ちゃんがそう言うと、旭さんは手をひらひら振って答える。
「俺ももうここ閉めて旅館に戻るよ。じゃ、また後でなー!」
そう言って旭さんは厨房に戻って行った。
「飛鳥ちゃん、お部屋戻ろっか?」
風子ちゃんが促すと、私は頷いて小さく返事をした。そして三人は海の家を出て、浜辺のまひるさんたちに声を掛けに歩き出す。
「そよちゃんと、ザコタくんもお部屋に来てくれる?」
風子ちゃんは迫田君たちに振り向き、そう声を掛けた。
「…分かった」
迫田君が短く応える。その後ろでそよさんもしっかりと頷いた。
そして再び歩き出す風子ちゃんの肩に、球子さんが自分の手をそっと添えたのを私は複雑な気持ちで見ていた。
『超次元電神ダイタニア』
第三十一話「殻の外の飛ばない小鳥」
旅館あい川、宿泊部屋――
部屋には私を始め、風子ちゃんたち四精霊、まひるさん、流那さん、そよさんと迫田君の九人が集まっていた。
私は何から話すべきか考え倦ねていた。みんなの、顔を見られない…
ずっと俯いたままの私の手に温かい感触があり、見ると誰かの手が添えられていた。顔を上げ見る。風子ちゃんだ。
風子ちゃんは優しく芯のある眼差しで私を見ていた。
何だろう…
出会ってまだ間もないはずの風子ちゃんから、ものすごい優しさを感じられる。
私が今まで出会ってきた人たちには、こんなこと……
「……ぁ…」
私は意を決して口を開こうとした。だけど、言葉は出ず、口ではなく両目から涙が溢れ出してしまう。
ポロポロと涙は溢れて私と風子ちゃんの手の甲を濡らした。風子ちゃんの握る手に少し力が入ったのが分かった。
「……ごめ……なさ、い……ッ」
私はなんとか涙声でそう言って、みんなの顔を一人一人見る。みんな私を見ていてくれていた。そよさんも流那さんも、みんなだ……
そして一番最初に口を開いたのはまひるさんだった。
「…飛鳥ちゃん、風子から少し聞いたけど、家出してきたって本当?」
まひるさんは私を責めるでも問い質すでもなく、その声色からは本当に私のことを心配してくれているんだと感じられた。
「…はい」
私は、まひるさんの顔を見て短く返事をした。
「…そっか」
そう呟いて、まひるさんは少し視線を落とした。
「あの……私……」
私はそこまで言って言葉を詰まらせる。だがすぐに風子ちゃんが私の手を握りながら、安心させるような笑顔を見せてくれる。
「飛鳥ちゃん、人生って本当に色々なことがあるよね…楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、つらいこと……」
まひるさんがそこまで言うと、私はその優しい声にまた涙が込み上げてきた。
「だから今、飛鳥ちゃんがどんな気持ちでいるのかはあたしには分からないけれど……でも……」
そしてまひるさんは私を真っ直ぐ見据える。優しくも凛としたその目に吸い込まれそうになりながら、私も見つめ返した。
「つらいことがあったら、吐き出せる相手は絶対にいると思うの」
その言葉に私の心は揺れる。だけど私の中から溢れ出た言葉は意外なものだった。
「…優しい家族が……友達がいるまひるさんには分からないんです!」
自分でも何を言っているのか分からない。ただ、家族や友達との思い出が頭を過って、私はまひるさんの優しさを跳ね除けてしまう。
「みんな私の気持ちなんて考えもしないで……」
そしてまた涙が込み上げてきてしまう……
「本当にこんな世界ッ!無くなればいいのにッ!」
私はまた涙を堪え切れなくなり、涙を流しながら誰に言うでもなく声を荒げることしか出来なかった。まひるさんは何も言わずに私を見ている。
そして、まひるさんが前に歩み出てくる。そして私の前で膝を着き、目線の高さを合わせてきた。
「ねぇ、飛鳥ちゃん」
「……はぃ……」
涙声で私は答える。まひるさんは私の目を真っ直ぐ見つめながら話し始めた。
「飛鳥ちゃんの気持ち、少し分かるよ。家族や友達が自分のこと、わかってくれないって思うのは本当につらいよね」
まひるさんの言葉は優しく私の心に染み渡っていくようだった。自然と嗚咽も止まっていた。まひるさんはさらに続ける。
「でもさ……こんな世界無くなっちゃえばいいなんて、あたしには思えない。優しさだけの世界じゃないのは勿論だけど…だからこそ、人の優しさが感じられた時の喜びは嬉しいんじゃないかな?飛鳥ちゃんにも、理解してくれる人は絶対にいると思うから!」
私の中でまひるさんの言葉が響く。私は自然と自分の胸に手を当てていた。
「飛鳥ちゃん。あたしたちにも飛鳥ちゃんのつらさとか、分けてくれないかな?あたしたちは、つらさも喜びも分かち合えないかな?」
私はゆっくりと胸から手を離す。そして、まひるさんの言葉を頭の中で反芻した。
「あたしは飛鳥ちゃんのことを理解してあげることは出来ないかもしれない……でも、飛鳥ちゃんの気持ちを受け止めてあげることは出来るよ」
風子ちゃんもそよさんも流那さんも、私の言葉を黙って待ってくれている。私は熱くなった目頭を押さえながら口を開いた。
「……本当にわかってくれる人なんて、いるんですか?家族にも理解してもらえない私が……」
涙を拭ってからそう言った私の頭に、まひるさんが手を置いて撫でてくれる。まひるさんの手が温かくて、私の涙腺はまた緩み始めた。
「いるよ!」
その言葉と笑顔に私は心を動かされそうになる。だけどすぐに私はかぶりを振った。そんな私を真っ直ぐ見てまひるさんは言葉を続ける。
「今までもこうやって……一人で溜め込んで来たんだよね?飛鳥ちゃん。あたしと、友達になってくれないかな?」
そう言って再び微笑んだまひるさんの顔には、慈愛が満ちているようだった。その言葉を…その笑顔を見たらもう我慢できなかった。私はその場に崩れ落ちる様に膝を着いた。
「ううっ……うわぁ……ぁあッ!」
ついに私は大きな声で泣き始めてしまった。涙と一緒にこれまで溜め込んでいた色んな感情が溢れ出してきた。まひるさんはそんな私を優しく抱きしめてくれた。そよさんも風子ちゃんも私の背中を擦ってくれている。その温かさが余計に切なくて、私はさらに泣き続けた。
その後しばらく経ってからようやく落ち着いた私は、みんなに心配をかけたことを謝罪した。みんなは優しい言葉をかけてくれる……でも、私の心の中にはまだ燻っていたものが有った。
「ねぇ……まひるさん」
私は意を決してまひるさんに声をかける。まひるさんは笑顔で私の方を見てくれた。
「ん?なぁに?」
「実は、昨日お風呂でまひるさんの話を聞いた時、失礼な話しですけど、私、まひるさんに心救われたんです…」
私はゆっくりと話し出す。みんなは静かに聞いてくれている。
「まひるさんが昔不登校の時があったと聞かされ、本当に驚きました。私の知ってるまひるさんは、とっても明るくて、優しくて、思いやりがあって……私の尊敬する大人の一人でした」
私の言葉を、まひるさんは黙って聞き続けてくれる。私は話を続ける。
「でも……そんなまひるさんでも、周りから嫌な事をされて、学校に行けなくなっちゃったって……なのに、それを乗り越えて来られてて…」
そこまで話して、私は言葉に詰まる。まひるさんは黙って私を見つめ続けてくれた。その目を見ると、不思議と勇気が湧いてくる。私は深呼吸をしてから再び口を開いた。
「だから…私も、そんなまひるさんみたいに乗り越えないと、って、昨日の時点で勇気は頂いてたんです。それなのに、ギャーギャー騒いでしまったのは、私がまだ未熟な子供だからなんでしょうね…ごめんなさい」
そこまで言って、私はまひるさんに頭を下げた。するとまひるさんは少し慌てた様子で私に声をかける。
「や、やめてよ飛鳥ちゃん!あたしはそんな大層なこと出来てなんかないの!あたしはただ、自分に出来ることをしただけ……むしろみんなの方があたしを助けてくれたんだから!」
まひるさんは手をバタバタと振って否定する。私は頭を上げて続けた。
「いえ……この気持ちに嘘はありませんから。私も、現在進行系で不登校なんです。特に学校で何かされたわけじゃないんです…ただ、少しママを困らせて、私を見て欲しかったんです。今思えばとんだ子供ですね!」
私は軽く笑いながら言った。まひるさんはまだ少し戸惑いの表情をうかべている。
「私のパパは、五年前に病気で亡くなりました。それからというもの、ママは死にものぐるいで働いて私を育ててくれました…分かっていた…分かっていたのに、私はママと、前みたいに一緒に笑ったり、一緒に泣いたりしたかった…ッ」
私はまた泣きそうになるのを必死に堪えて言った。まひるさんは私の背中を優しく擦ってくれる。
「学校に行かなくなって、部屋に閉じこもってゲームばかりしていた私に、ママは何度も話し掛けてくれていたのに、私は反発して聞かない振りをして…そのうちママの顔も見られなくなって、部屋からも出られなくなっちゃって……そんな時にまひるさんに会って…仕事で疲れたと言いながらもゲームの中では誰よりも明るくて。プレイスタイルもとってもクリーンで。気付けば毎週末、パーティを組んで遊んでくれて…!」
私はもう止まらなくなっていた。まひるさんとの今までの楽しい思い出が洪水のように溢れ出してくる。
「まひるさんが私に言ったじゃないですか!ゲームはみんなで楽しくプレイするものだって!そんな当たり前の事を思い出させてくれて……私、本当に嬉しかったんです」
私はそこまで言うと、顔を上げてまひるさんの顔を見つめた。
まひるさんはどことなくキョトンとしていた。あれ?私変なこと言っちゃった?
「え…?あたしと一緒にゲームを、してた…?飛鳥ちゃんが?週末にぃ!?」
まひるさんはどうやら混乱しているようだ。そう言えば私はまだ名乗っていなかったんだ。
「言うのが遅くなってごめんなさい。私が、『アスクル』です…」
私がそう名乗ると、まひるさんは驚きの声を上げて目を見開いた。
「えぇッ!?あのアスクルなの!?」
「はい…名乗り出るのが恥ずかしくて、済みません!」
するとまひるさんは慌てふためいて頭を下げた。
「ごめんなさい!あたしったら!いつもお世話になってます!」
私はまひるさんの言葉を慌てて遮る。
「いえ……!私も不躾でしたし……」
そして互いに頭を下げ合う二人。
「…『ダイタニア』は、現実から逃げたい私にとって、恰好の逃げ場所でした。戦士の力で現実では出来ないような破壊をして、喋り方も変えて……荒れてました。そんな時に出会ったのがサニー、まひるさんだったんです」
そして私はまひるさんに深々と頭を下げた。
「あの時出会えたのがまひるさんじゃなかったら、私今頃どうなっちゃっていたか分かりません……」
するとまひるさんは照れくさそうに頭をかいた。
「あー…はい、よく覚えてます。何だか荒れてる獣人がいるからどうにかしてくれって、街の人からのクエストだったんだよ。そして会ったら本当に強くてさ!」
まひるさんは私と初めてゲーム内で会った時のことを少し恥ずかしそうに思い出しながら、ゆっくりと話し始めた。
「最初はさ、アスクルのこと、クエスト特有のNPCだと思ってたんだ。戦って、話しているうちに、あれ?と思えてきて…」
「私も、モンスター以外から戦いを挑まれるの初めてだったので、このエルフ、倒せるのかな?って思ったくらいで。そしたら、なんか戦いながら色々説教されだして…」
私は当時のことを思い出すと、自然と笑みがこぼれた。
「ゲームはみんなで楽しく遊ぶもんだって、その時大真面目にサニーに言われて…」
「あ、あははは!そ、そんなことも言ったかな!?あはは!」
まひるさんは頰を赤らめて恥ずかしそうに笑った。
「ふふっ。私はそんなサニーに、一緒に遊ぶ友達なんていない!って言ったんです。そしたら、サニーが……」
私はあの時まひるさんに掛けられた言葉をそのまま返した。
「『だったらあたしと友達になって!』って、言ってくれたんですよ。今みたいに……嬉しかったなぁ…」
まひるさんは恥ずかしそうに頰を赤らめる。
「そ、そんなこともあったかなぁ!」
そんな私たちの馴れ初め話をみんな黙って聴いていてくれた。やっぱり、まひるさんの周りのみんなは、優しいな…
「じゃあさ、飛鳥ちゃんの悩み、もう解決してるじゃない?」
今まで黙って眉間にしわを寄せて聴いていた流那さんが突然そう言った。
「え?」
私を含め、全員がきょとんとした顔をして流那さんを見た。
「だってさ、飛鳥ちゃんとまひるんが友達になった時点で自分は一人じゃないって分かったでしょ?じゃあ、飛鳥ちゃんのことを一番心配して、大切に思ってくれてるのは誰かって話よ!今のあんたなら分かるでしょ?」
「あ、ママ……」
私は確信を持ってそう答えた。そうだ、ママはずっと部屋から出て来ない私に声を掛け続けてくれてた。テレビでもすごい泣いてた。形振り構わないくらい、必死に私を捜してくれてた!それを気付かない振りをして、もっと私は構って欲しくて…!
「じゃあもう悩みはないわね!」
流那さんは嬉しそうに笑ってそう言うと立ち上がった。そして大きく伸びをして私に向かってドヤ顔をして見せた。
「流那、短絡的過ぎるよ…」
万理ちゃんが少し呆れた顔で流那さんの顔を見た。
「ほら、早く連絡入れなさい?家族を心配させるんじゃないわよ」
流那さんは腕を組んで、私にビシッと指を突き付けてそう言った。私は自分のスマホを手に取った。
「は、はい!すぐに連絡します!」
私はすぐ通話アプリを立ち上げた。そしてママの番号に電話を掛けると直ぐに繋がった。
「もしもしッ!飛鳥ッ?飛鳥なのッ!?」
ママの叫び声がスマホ越しに聞こえてくる。
「ママ……心配かけて、ごめんね……」
私がそう言うと、電話の向こうで泣き声が聞こえてきた。
「あ…あぁ……生きてて、くれた……よかった……」
「うん…元気、だよ…」
私は涙ぐみながらそう答えた。
「…ママ、ちゃんと飛鳥と向き合うから!だから、戻って来て……ッ!」
「うん、ママ……私、ずっと、ママに謝りたかった……自分勝手でごめんなさいっ…」
私は泣きながらそう答えた。
「うぐっ、ぐすっ!飛鳥は、ママの大切な……命よりも大切な娘なんだからぁ!」
電話の向こうで泣きじゃくるママの声に思わず私も涙が溢れてくる。そしてしばらく二人で泣いた後、お互い落ち着いたところで私は話し出す。
「ママ、聴いて欲しいことがあるの。私今ね、とても大切な友達と一緒なの。この数週間、家を出てようやく自分を取り戻せそうな気になりだしてるの…だから、あと三日程、友達と一緒にいさせて欲しいの…!」
私がそう言うと、ママはしばらく沈黙した後、口を開いた。
「……分かった。ママも、飛鳥に伝えたいことがあるから、三日後には必ず、帰って来て?」
私は少し戸惑ったが、意を決し答えた。
「う、うん。分かった。ありがとうママ!」
そう言って通話を切ろうとした私に、まひるさんが電話を代わってとジェスチャーで伝える。私はまひるさんにスマホを手渡すと、まひるさんはお母さんに声を掛けた。
「初めまして、飛鳥さんの友人の相川まひると申します」
まひるさんは丁寧に少しずつお互いの現状の情報を交換していく。
「はい。はい。そうですね。私も今すぐお顔を見せに戻られた方が良いかと。はい」
え!?今すぐ帰る方向で話を進められてる?
「はい。よろしくお願いします。それでは、失礼します」
まひるさんはスマホを切って私に返してきた。
「ありがと飛鳥ちゃん!お母さんとお話し出来てよかった!」
まひるさんは笑顔で言う。私は少し不安気に
「い、いえ。それで、私は?」
と聞いた。まひるさんは満面の笑みで私に返す。
「うん!今すぐ一旦帰ろう!」
私は慌てて立ち上がる。
「え?でも、ママもあと少しいていいって!?」
私がそう言うと、まひるさんは
「今の飛鳥ちゃんを思ってお母さんは仕方なくああ言ったんだと思うの。本当は今直ぐにでも無事な姿を見たいはずよ。大丈夫!あたしも一緒に行って説明するから!」
まひるさんは胸を張って答えた。
「は、はい……」
私は少し不安気に頷くと、まひるさんは笑顔で私に向かってこう言った。
「よし!じゃあちょっと行ってくるね?飛鳥ちゃん、《瞬間転移》よろしく!」
まひるさんは私がアスクルだったということで、ゲーム中のスキルが使えるだろうことを踏まえた上でそう言ってきた。確かに、それなら一瞬でまひるさんを連れて行ける。
「ちょっと待った。私も付いて行くわ」
流那さんが少し不機嫌そうにそう言う。
「大人が付いていった方が説得力あるでしょ?まひるんだと巨乳のくせに童顔でお人好しだから、ちょっと心配」
流那さんは少し冗談混じりにそう言う。
「ちょっとぉ!流那ちゃんッ!」
まひるさんは少し戸惑った様子で、赤面して流那さんに抗議する。
「あ!飛鳥ちゃん!風子も一緒に行ってもいーい?」
風子ちゃんがそう言って駆け寄って来た。私は微笑みながら答える。
「うん。心強いな」
すると、風子ちゃんは嬉しそうに私に笑顔を向けてくれた。
「じゃあ、この四人で一旦飛鳥ちゃんのお母さんに会って来るわ!みんな、少し待っててね。飛鳥ちゃんお願い」
まひるさんが私の手を握って来た。流那さんも風子ちゃんも、私の肩に手を置いてくれる。みんなの優しさが、とても嬉しかった。
「みんなありがとう…行ってきます。《瞬間転移》」
それから一時間後――
先程の大部屋に私たち四人は再度《瞬間転移》で戻って来た。
ママともしっかり話せて、私の捜索届けも取り下げられた。まひるさんたちがまた三日後に一緒に戻ってくれるとママにちゃんと説明してくれて、ママも今度は安心して友達との旅行を許してくれた。
「あの、流那さん、ありがとう御座いました。ママに一緒に頭を下げてくれて…」
私が上目遣いでそう言うと流那さんは
「あまり親に心配掛けるんじゃないわよ?」
とだけ言って、優しく私の頭を撫でてくれた。ちょっと取っつきにくい感じがしてたけど、全然そんなことない人だったんだな。私は思わず微笑んで
「はい」と答えて、また少し照れた。
流那さんは優しい目で私を見つめてから
「いっぱい親孝行しなさいね」
と微笑んでくれた。
ママやみんなに沢山心配掛けちゃったけど、何とかまたママと二人でやっていけそう。
部屋ではまだみんなどこにも行かず待ってくれていた。ほむらさんとそよさん、迫田君は一緒にテレビゲームをしていたみたいだ。
私はみんなを見渡して深く頭を下げた。
「皆さん!この度は大変ご迷惑お掛けしましたッ!」
すると、みんなは優しく微笑んでくれた(迫田君は除く)。みんなが温かく許してくれたことが嬉しい。私はもう一度みんなに頭を下げた。
「……ありがとう……ございます……」
すると、風子ちゃんが私を抱き寄せてくれた。
「もう、ママに心配掛けちゃダメだよ?風子たちにも出来ることあったら言ってね?」
風子ちゃんがそう言って私をギュッと抱きしめながら言った。
「うん…うん…!ありがとう、風子ちゃん!」
私がそう答えると、風子ちゃんは優しく微笑んでくれた。まひるさんたちも温かい目で私たちを見つめてくれている。
「じゃあ、今日はこれで解散にしよっか?飛鳥ちゃん、本当にお疲れ様。お母さんにもちゃんと伝わったから安心だね?」
「はい!」
みんなの言葉を聞いて私はまた心が救われた気がした。みんなには本当に感謝しかないな……また、私も何かみんなの助けになれればいいんだけど…
「では、私は暁子さんの所に行って夕飯のカレーを一緒に作らせてもらいます!」
球子さんがその綺麗な碧眼を煌めかせながら腕まくりをしてみせた。
「台所はあたしと球子がいれば大丈夫かな?そ、の、ま、え、に、今日もみんなで行きますか!?」
まひるさんが元気にそう言うと、みんなが「お風呂ーーーッ!!」と元気よく返事をした。
私は自分でも信じられないくらい大きな声が出たことに驚いてしまった。
そして、久し振りに心の底から笑ったのだった。
【次回予告】
[まひる]
飛鳥ちゃん、色々驚かされたけど
ひとまず何とかなって良かった!
ん?そうすると、あのおヒゲのダンディーな
アスクルさんって一体誰?
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第三十ニ話「浜辺のエンカウント」
ビーチに怪しい人影二人!




