表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超次元電神ダイタニア  作者: マガミユウ
3/65

第三話「ザコタ強襲」

【登場キャラクター紹介】

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「ふっ!やっと見つけたぞ!あんたがサニーだなっ!?」

 歩み寄る学ランの少年があたしを見据え言う。


 ワックスでだろうか、辺りに散らした無造作な髪。学ランの前のボタンは外して前を開けている。中にはYシャツではなくTシャツが見える。顔はまあまあに見えるが、服装の見た目からか、不良っぽくて、少し怖い。


「だ、誰よ君!?」

 あたしは一歩後退りし、目の前に現れた少年に警戒しながら訊ねる。少年はその問いに素直にも答えてくれた。


「俺は『ザコタ』!『ダイタニア』のプレイヤーだ!お前を捕まえに来たぜ!」

『ザコタ』と名乗った少年はそう言い、不敵に笑みを浮かべた。


挿絵(By みてみん)

『超次元電神ダイタニア』

 第三話「ザコタ強襲」



「捕まえる!?何言ってんの!?」

「しらばっくれても無駄だってーの!俺のシーフスキル《偵察》で、あんたがサニーってことはわかってるんだ!」

 ザコタはあたしの頭上に表示されているステータスの文字を指差し言う。


 確かに、何処かで見た事ある表示だと思ったら『ダイタニア』内でのステ表示だったとは。

 シーフが使う《偵察》スキルは一定範囲内の相手の名前とレベル、クラスを強制的に知ることが出来るスキルだ。

 だからと言って、どうしてゲーム内の能力が現実世界で発現してるの?


「そんなのおかしいわ!ダイタニア内の能力が現実に現れるなんて!?」

 あたしがそう叫ぶと、ザコタは一瞬驚いた表情を見せた。


「……あんた、何にも知らねえんだな。なら教えてやる!ここは現実の世界じゃなく『ダイタニア』の中なんだよ!」

 ザコタがそう言い放つ。


「嘘っ!?」

 あたしは思わず驚きの声を上げた。


「マジだよ。じゃなかったら何でゲームのスキルが使える?まあ、俺もさっきこのイベントに参加したばかりだから、何でアバターの姿じゃないのか、とか、まだ判ってない要素も多いけどよ」

 あたしはザコタの言葉を聞きながら、改めて自分の体を確認する。


 どうやら、あたしが身に付けている衣服はさっきまで着てたパーカーのままだ。髪の色もサニーみたいに金髪じゃない。

 それに、今いる場所はあたしのアパートの周辺で変わりはなかった。


「あと、何故か俺たちプレイヤー以外は非接触型のNPCになってるようで、こちらからの干渉は一切受け付けないし……そらッ」

 ザコタは近くを歩いていたおばさんに向け《アサシンダガー》を発動させた。

「っ!!」

 あたしが叫ぶより先に、具現化された短剣(ダガー)はおばさんに向かって飛んでいき、その体をすり抜けた。


「ほれ、見ての通り攻撃しても無駄。ダメージ判定以前に当たり判定がないんだ。俺たちのことも見えてないしな」

 ザコタは、あたしに何か言っているようだった。


 あたしはまだ、おばさんが何事もなく通り過ぎていく後ろ姿を見ていた。

 無事で良かった。本当に…


「……あんた…」

 あたしはようやく口を開き、ゆっくりとザコタに向き合う。

「あんた、何してんの…?…もしそれが人に当たったらどうなっていたか…」

 あたしはザコタに詰め寄り、胸ぐらを掴む。


「あぁん?」

 あたしの突然の行動にザコタは不機嫌そうな声を上げる。


「本当に馬鹿なヤツってのはね、想像力がないヤツのことを言うの!これをしたらこうなる、ああしたらああなる、そういう当たり前の事が分からない……」

 あたしは掴んだままのザコタの胸元を前後に揺する。

「当たらないと分かっていたとしても、人に向けて刃物を投げるなんてこと、しちゃいけない!」


「おい!やめろ!離せ!」

 あたしの手を振り解こうとするザコタ。しかし、あたしの力の方が強く、ザコタは振り解くことが出来ない。


「いいえ!止めないわ!こんな危ないことをした以上は、ちゃんと叱らないと!」

 あたしは更に力を込めてザコタの身体を揺らす。


「うおっ!やめっ!あんたに教えてやったんだろ!?ッ!馬鹿力が!」

 ザコタの両足が地面から浮く。


「くっ!地レベルの差か!?おい運営ッ!サニーを見付けたぞ!!これでイベントクリアだろ!早く報酬をよこしやがれッ!」

 あたしはザコタを持ち上げていることに気付き、ハッとしてその手を放す。

 ザコタがアスファルトの上で苦しそうに息を切らせていた。


「ッ、あ、あの、ごめんなさい!ここまでするつもりじゃ…」

 あたしは慌ててザコタに手を差し伸べる。

 その手をザコタはピシャリと払い除けた。


「触るんじゃねぇ!俺はあんたなんかに謝られる筋合いはねえ!俺があんたを探してたのは、ただ単にイベントのクリア報酬欲しさにだ!勘違いしてんじゃねえよ!」


 ザコタは立ち上がり、あたしと向かい合う。

「…見付けただけじゃ報酬は貰えないのか?だったら……」

 ザコタの手から新たなダガーが現れ、周りの大気を巻き込み、あたしに向け投げられた。


「きゃあッ!」

 あたしは両手で顔を覆った。ダガーの風圧で土埃が舞う。

 ……あれ?痛くない?暫くしても痛みはやって来なかった。


  恐る恐る目を開くと、そこには地面のアスファルトから精製した《シールド》が展開されていて、ザコタの攻撃を防いでいた。


「……これって…?《地殻障壁(グランバリア)》?」

 あたしが『ダイタニア』で多用している物理障壁スキルによく似ていた。

 目の前の土埃が段々と薄れ、視界が晴れてくる。

 あたしはその土埃の中に、新たな人影を見た。


 長いブロンドの髪を後ろで一つに結って、ドリルの様に縦巻いている。身体全体を茶色の薄暗く光る甲冑が包んでいた。目の前に立つその人影はあたしの方に振り返り、目が合う。

 凛々しくも美しい女性だった。

 その瞳は気高さの奥に優しさを含んだ、落ち着いた蒼い色をしていた。


「………」

 お互いの沈黙が続いた。その沈黙をザコタが破る。


「また新キャラかよ…それとも、あんたが運営か!?」

 その問いに

「自分は、ウンエイとかいう者ではない。だが、この世界の住人でもない」

 彼女は静かに答えた。


「……どういうこと?」

 あたしはあいも変わらず混乱していた。

「我が名は【アース】。サニーの従者なり」

 彼女はそう名乗り、改めてザコタに向き合う。

「だが、サニーを探していたのも事実。その方、サニーを見付けてくれたことに関しては礼を言う」

 アースはザコタに一礼する。


「だが!」

 下げた頭を勢いよく起こしながらアースは大声で言った。

「我が(あるじ)に対し、攻撃し、敵対する意思ありとみた!迎撃させてもらう!」

 構えたアースの右手には三メートルは有ろうかというランス、左手にはドア並みの大きさのシールドが、光の粒子が集まり精製されていく。


「くっ!」

 流石に身の危険を感じたのか、ザコタは距離を取りアースから離れる。

「逃さん!」

 アースはランスを地面に突き刺すと、そこから一直線上に亀裂が走り、大地が割れた。

「なっ!」

 突然の出来事に驚きながらザコタは割れた地面と共に宙に浮いた。


「はあぁぁぁ!!」

 宙空に高く放り出されるザコタ。

 だが、その目は輝きを増し、何かを呟く。

「…この空の自由は俺とお前のものだ…来いッ!!」

 吹き飛ばされた体制のままザコタは右手を上空にかざす。

 ザコタ周辺の大気が僅かに光を帯び始める。


「あれは!召喚紋ッ!?」

 あたしは驚き声を上げる。


「来い来い来いッ!」

 空に描かれた召喚紋より現れるザコタの電神。12mクラスの中型の電神(デンジン)が宙空に召喚された。

 その電神は空中でザコタをそのまま操縦席へと回収した。それはまるで胴体と腕だけの様な奇怪な姿をしていた。

 脚が無いのは飛べるからだろうか?

「よく来てくれた!行くぞ《ケンオー》!!」

 そう言ってザコタは電神の操縦桿を握る。

挿絵(By みてみん)

「さて、まずは……」

 電神がザコタを乗せ、こちらに向かってくる。

「こいつらを片付けるか!」

 その言葉と同時に電神の腕の部分が展開し、握った拳が噴出された。

「ケンオオォオ…ナックル!!」


「くッ!」

 咄嵯の判断であたし達二人は左右に飛ぶ。

 ドガァン!! 先程まであたし達が居たところの地面がえぐれていた。


「危ないッ!あんなもん喰らったら即死だよ!」

 あたしはアースに言う。


「あれはあの電神の必殺技。まともに受ければひとたまりもない、か」

 アースは淡々と現状を分析している。


「じゃあどうすればいいの?」

 あたしは不安げにアースに聞く。

 アースは変わらぬ凛々しい顔と声で


「あなたには既に現状を打破する力がこの場に揃っているのです。いつもの様に、お命じ下さい」

 と、あたしに優しく微笑みかける。


「さあ、自分と共に詠唱を!」

 その言葉を訊いたあたしはとっさに思い付いた。いや、気付かされた。

 このアースは……!

 あたしは落ち着きを取り戻してくるのを感じていた。そしてそっと目を閉じ詠唱を紡ぐ。あたしの詠唱とアースの詠唱が重なる。


「「遥かなるアース…悠然たる大地の精霊よ、今こそその力をこの地上に示せ…」」

 あたしは目を見開く!その眼前にはザコタが放った二発目のロケットパンチが迫っている!


(いで)よ《アウマフ》!!」

 足元のアスファルトに亀裂が入り、あたしたちは地中へと崩落する。その頭上をロケットパンチが間一髪通り過ぎていく。

 あたしはそんな中でも安堵していた。

 今まで数々の激戦を潜り抜けてきた相棒が来てくれた。この瞬間、あたしは今起きてる事がゲームか現実かなど全く考えておらず、ただ高揚する気持ちを抑えきれなかった。


 地面の瓦礫の中からアウマフが飛び出す。

「アウマフ・アースフォーム!見参ッ!」

 あたしは自然と笑っていた。

「流石、我が主…」

 あたしの隣でアースも微笑んでいる。

挿絵(By みてみん)

「さあ、ここから反撃開始だね!」

 あたしは気合いを入れる。

「はい、参りましょう」

 隣にいるアースも応える。

「しかし、あの電神は厄介です。機動性がある分、あれでは生半可な攻撃は通用しないでしょう」

 そう言いながらアースは良く分析している。


「うーん、そうだよね……なら、こういうのはどうかな?」

 あたしはアースに顔を寄せ、作戦を伝える。

「っ!そんなことが!?……いえ、わかりました。主の仰せのままに!」

 アースは納得してくれたようだ。

「うん、お願い!」

「はい!」


 あたしは確信していた。

 アウマフが呼べたこと。アースという女性が言うこと。全て『ダイタニア』での“日常”だった。

 だからあたしは安心してこの身をアウマフに預けられる。


 放たれていたケンオーの両手がその腕に戻る。両者睨み合う。

「こいつは…またスゲえ電神乗ってんな…」

 目の前に現れた電神アウマフから感じるプレッシャーでザコタの額から汗が滴る。


「だが……ここで負ける訳にはいかねえんだよ!!」

 ザコタはケンオーの操縦桿を強く握り締める。

 ザコタの叫びに呼応してケンオーはその両腕を開く。

「いくぜぇ!ケンオー!アームブレード!」

 バキィィン! ケンオーの肘から飛び出した刃状のパーツが鈍い音を立てる。


「ケンオオォオ……マッハ剣!!」

 もの凄い勢いで上空からケンオーが迫りくる。


「来いッ!」

 あたしはアウマフの頭部の衝角をケンオーに向ける。

「アウマフ!《バンカードリル》!!」

 ズドォッ!!

 衝角が物凄い勢いで射出される。


 ――…至極なるファイア、泰然たる炎の精霊よ…――


「ちいッ!!」

 ザコタは衝角を何とか両腕でガードし、弾き返した。だが、その腕のブレードも粉々に砕かれてしまっていた。

「武器がなくなったのは向こうも同じ!だったらまたケンオーナックルを食らわせてやるぜ!」


 ――サニー、待ちくたびれたぜ――


 ケンオーが再び腕を振り上げるも、ケンオーが見下ろす視界からはアウマフの姿は消えていた。


「あいつ!どこへ!?」

 ザコタがうろたえる。


「待たせちゃったね、【ファイア】。いつもありがとう。他の二人も一緒?」

 あたしはアウマフの操縦席に新たに顕現したその人物に優しく訊く。

「ああ、俺たちはいつもサニーの直ぐ側にいる。まずは目の前のこいつをやっつけちゃおうぜ?」

 ファイアと呼ばれた赤髪をポニーテールにした、これまたアース宜しく、紅い甲冑で身を包んだ美少女が視線を真っ直ぐ前に向けながら自信満々に言った。


「アウマフ!ファイアフォーム!」

 あたしがそう叫ぶと、四足だったアウマフは人型の紅い騎士の様な姿へと変形する。

 その手にはロングソードが握られていた。


 紅いアウマフは空中から更に上空高くへと跳躍し、ケンオーの更に頭上、太陽の中にいた。


 地上からのアースフォームの跳躍だけではケンオーの頭上は取れない。そこであたしはゲームの《疑似二段ジャンプ》の要領で、跳躍したアースフォームからファイアフォームに変形した時点で再度空中で跳躍した。これがゲームと同じなら出来るはずだと信じて。


 あたしとファイアの声が重なる。


「「アウマフ!《重力斬り》!!」」

 自由落下に任せた太刀がケンオーの両腕を勢いよく斬り落とす。


「な!ん…だとおぉおーーー!?」

 ケンオーを精製していた精霊たちが、電神の形を維持出来なくなり、光の粒子になって自然に還っていく。

 落下するザコタをあたしはアウマフの手のひらでキャッチした。

 あたしはホッと胸をなでおろした。


 今この操縦席にはアース、ファイアの他に

「やったね!お姉ちゃん!」

「僕たちのアウマフを持ってすれば、当然のこと…」


 翠の髪をクルンと輪っかに結った無邪気な【ウィンド】と、蒼いサイドテールのクールな【マリン】の姿もあった。

 五人で乗るコクピットは流石に狭く、顔と体がくっついて皆ギュウギュウだった。

 しかし、あたしとみんなの顔は笑顔に溢れていた。


「アース、ウィンド、マリン、ファイア。初めまして!あたしはまひる。よろしくね!いつもありがとう!」



 ――暗い室内に、幾つかのディスプレイの光だけが松明のように灯りを燈している。


「ザコタというプレイヤーからサニー発見の報告がありました」

 女性がそう告げると、椅子に掛けたもう一人の女性が訊く。


「…その情報は確かなの?」

 深く、落ち着いた声だ。


「はい。プレイヤー名が同じで、何より…」

 女は言葉を続ける。

「何より、四精霊を従えていました。こちらでも既に顕現しております」


 椅子に掛けた女性は少し考える様にして

「引き続き他のプレイヤーをそのサニーに誘導し、成長を促して。まだイベントは続行のまま。報告をくれたそのザコタとか言うプレイヤーには相応の報酬を与えておいて」


 女性は抑揚のない声で淡々と話す。

「御意に…」

 命を受けた女は深く一礼しその場を去る。


 一人、椅子に掛けた女性だけが薄暗い部屋に佇んでいた。

 ディスプレイの弱い灯りではその姿ははっきりとは見て取れないが


「…あなたなら、ここまで辿り着いてくれるのかしら……?」

 そう言う彼女の唇は、どこか自嘲気味に歪んでいるように見えた。

【次回予告】


[まひる]

どうだった!?

あたしとアウマフの活躍見てくれた?

ザコタ君、名前の割りには健闘したよ!

そして、突如現れた謎の美少女軍団!

その正体とは〜!?


次回!『超次元電神ダイタニア』!


 第四話「考察の乙女たち」


もしかして、あたしのハーレム展開、くる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[※ご注意※]

解除された実績はこちらの
超次元電神ダイタニア[Data Files]
からご覧頂けます。
本作をお楽しみ頂く為にも実績が解除されたタイミングでの閲覧を推奨しております。
ご理解のほど宜しくお願い致します。
― 新着の感想 ―
[良い点] ザコタ、名前からして雑魚くさいですが、 その精神も雑魚そのものですよね。 それと戦闘シーンが臨場感あって良いです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ