第二十九話「純情炎夏」
旭が構え直す。ザコタは旭に向かって駆け寄りながら拳を繰り出した。旭はそれを受け止めると、そのままザコタを投げ飛ばした。そして叫ぶ。
「さあ来い進一少年!俺を本気にさせてみろ!」
「応ッ!!」
ザコタは地面に着地すると、すぐに旭に向かって走り出した。そして旭の拳をかわして足払いをかける。
しかしそれも躱されてしまい、逆に旭に足払いをかけられてしまう。体勢を崩したザコタに向かって旭が回し蹴りを放った。間一髪で旭の脚はガードしようとしたザコタの腕の前で止まり、ザコタは後方へ飛び退く。
「…少年、割りと喧嘩慣れしてるな?その不規則な動きはどこの流派にもない…つまり、ただの素人の喧嘩殺法だッ!」
旭はさらに踏み込むと、今度は正拳突きを放つ。ザコタはギリギリで避けるが、追撃の蹴りを脇腹に刺さる直前で寸止めされる。
「今ので一本。そろそろ交代しとくか?」
「まだまだッ!」
ザコタは拳を握り旭に殴りかかるが、その拳を軽くいなされて腹に下段突きを寸止めされる。
「進一少年、やる気は伝わった。で、俺の空手も伝わったろ?交代だ。他の子の腕も見させてくれ」
旭はそう言ってザコタから離れて
「ほむらちゃん、一度号令お願い!」
と、あたしに笑顔を向ける。
旭の華麗な動きに一瞬見惚れていたあたしはハッと我に返り、慌てて号令をかけた。
「しょ、勝負ありッ!それまでッ!」
あたしが宣言すると、ザコタは悔しそうに頭を垂れた。そして旭に向かって深々と頭を下げる。
「ありがとうございましたッ!」
「おう。中々良かったぜ進一少年。お前はまだまだ強くなるよ。空手に関しちゃ伸び代しかないや」
そう言って旭はニッコリ笑うとザコタに向かって同じく礼をした。
『超次元電神ダイタニア』
第二十九話「純情炎夏」
「じゃ、次はそよちゃん?ほむらちゃん?」
旭がそよちゃんの方に顔を向けるとそよちゃんは
「私は別に強くなりたいわけじゃないので、遠慮させてください!」
と、顔の前で両手をパタパタ振って断った。
「あらそう?じゃ、何か飲みながら小陰で休んでて。店にあるもの飲んでいいから、みんなも熱中症と脱水には注意な?」
旭が変わらず笑顔で言う。
「じゃあ、あたしが……」
あたしが一歩前に出て言うと、旭が笑顔で手を上げた。
「お!次はほむらちゃんか!いいね〜!昨日遊んだ格ゲーとは一味違うぜ?」
そう言って旭は嬉しそうに笑った。あたしは旭と向かい合う。
「あたしも格闘技なんて習ったことない。けど、負けない!」
あたしは旭を真っ直ぐ見てそう言うと先程の見真似で礼をした。
「お手柔らかに頼むよー?」
旭はにこやかにそう言って礼をし、構えを取る。あたしは構えなんて知らないから、普段の戦闘の時の様に、自然体に正面から旭を見据える。
「始めッ!」
ザコタの号令がかかると、あたしは一気に踏み込んで旭の顔めがけてハイキックを放つ。
しかし、旭はひょいっと首をひねってそれを避けると、あたしの軸足に足払いをかけてきた。
バランスの崩れたあたしの足を掴もうとする旭の手をかわしつつ、あたしは体を捻りながら立ち上がりざまに回し蹴りを放つ。
しかしそれも旭の腕にガードされ、更に手刀で顔を狙われる。咄嗟にその腕を払ったけど、バランスを崩して背中を向けてしまった。
「蹴りに頼りすぎると躱された時バランスを崩され易い。蹴りを入れるなら連撃、つまり、コンボに組み込まないと」
旭があたしに分かり易い様にゲームに喩えて教えてくれる。
「あと、体勢が崩れている時は無理して反撃に移らない方がいい。体勢を立て直すことに専念して相手と距離を取って隙を作らないように。相手に背中は見せちゃあダメだ」
あたしは旭のアドバイス通り、慎重に立ち上がって旭の様に構え直した。
「さぁ来い!ほむらちゃん!」
旭は笑顔で手招きをする。あたしは再び旭に向かって駆け出した。さっきと同じ様に蹴りと拳の応酬が繰り広げられる。
でも、今度は互角だった。あたしが放つ蹴りをことごとくガードする旭。そのガードを掻い潜って放つ拳を、同じく旭の拳が弾いていく。
「女の子だって、甘く見てたら直ぐにやられちゃうな!」
旭がそう言いながらあたしの右脇腹にキックを入れてきた。あたしは思わずガードを下げてしまい、それを見越した様に旭のキックは軌道を変えて、軸足の脛を狙ってきた。あたしは慌てて軌道を変えた蹴りに対処するために左足を上げると、またそれに合わせる様に今度は右足にローキックを軽く入れられて、あたしは膝をついてしまった。
「あッ!」
「今の俺の蹴りの変化によく付いて来られたね?やるなぁほむらちゃん!」
倒れたあたしに旭が手を差し伸べてくる。
「でも、結局手も足も出なかった…」
(これでも四人の中じゃ一番あたしが動けるのにな……人間でもここまで動けるものなんだ)
あたしは上目に旭の手をとって立ち上がった。
「いやいや!ほむらちゃんは筋が良いよ?本当に空手初めて?」
「うん。でも、空手……というか格闘技は好きなんだ。こっちに来てからテレビで観て知ったんだよ。格闘ゲームも好き!」
あたしが言うと、旭が嬉しそうに笑った。
「そうかあ!俺もプロレスとか格闘技全般好きだからさ、話が合う女の子がいて嬉しいよ!普段プロレスなんて親父としか観ないからさー」
そう言いながら旭はあたしの肩をバシバシと叩く。
「あの…勝負あり、でいいのか?」
試合を止めそこねたザコタが訊いてきた。
「そうだな。二人の動きも見られたし、一旦休憩がてら、次は旭先生の講義にしよう!」
旭はそう言いながらあたしに向き合い礼をする。
あたしがそれに倣い礼をするのを旭は穏やかな笑顔で見ていた。
「砂浜の上で勝負稽古は流石にキツイな。砂に足とられるし、それを思えば二人ともよく動けてたよ。さあ海の家戻って何か飲もうぜ?俺喉乾いたよ〜」
マイペースに旭はそう言いながら海の家の方へ歩いて行く。もう少し稽古を付けてもらいたかったが、あたしたちも仕方なくその後を追った。
カウンターにあたしたち三人が並んで座る。小陰の店内に扇風機の風が心地良い。
「え!?三人とも烏龍茶でいいの?もっと小洒落たドリンクとか作るぜ?遠慮するなよー?」
旭が何か言っているけど、あたしたちはただ頷いて烏龍茶をお願いした。
「あいよ!烏龍茶三つ!なんか張り合いないわー」
旭が何かぶつぶつ言いながらも三人の前に冷たい烏龍茶を出してくれた。
「ありがとう、いただきます!」
あたしはそう言ってグラスを手に取ると、旭が不思議そうにあたしの顔を見ている。
「ん?どうかした?」
あたしが旭に訊くと
「いやさ、お茶くらいでちゃんとお礼とか言えてさ、しっかりしてるなーって思って」
旭が感心した様に言ってくる。
「そうかな?普通だと思うけど。まひるちゃんがいつも言うんだ。『良い子はしっかり挨拶が言える』んだって」
あたしが言うと旭は感心した様に頷いた。
「なるほどなぁ……あのまひるが、躾かあ……」
そう言いつつ旭は遠い目になる。
「うん。良い子は『“ありがとう”と“ごめんなさい”が素直に言える』子で、『“いただきます”と“ごちそうさま”もちゃんとする』んだよ?」
あたしがそう言うと旭は呆然とあたしの顔を見ていた。
「ちょっと、あたしの顔に何かついてる?」
あたしが訊くと旭は慌てて視線を逸らした。
「い、いや!何でもない、済まん…」
(…不意打ちだぜ。確かにまひるからピュアだとは聞いてたが、ここまでとは…こりゃあまひるも放っとけないはずだ)
旭は何やら自分に言い聞かせている様に見えた。何処となく顔も赤いような気がする。
「旭?大丈夫?」
あたしが声を掛けると、旭は我に返った様にあたしを見て
「ああ!この通りなんの問題もないな!」
と両腕に力こぶを作り、オーバーな仕草で言った。本当に大丈夫なのかな?
「で、講義って何なんですか?」
ザコタが退屈そうに訊くと、旭が少し真面目な顔に戻り
「ああ、そうだったな。ま、講義と言っても大したことじゃないんだ。単純に格闘で大事なことを教えてやろうと思ってさ」
旭がそう言うと自分の右腕をみんなに見えるように前に翳した。
「この腕が真っ直ぐ伸びた状態が突き、いわゆるパンチを振り抜いた状態で、相手が居たら相手に当たってなきゃいけない状態、なのは解るな?」
あたしは頭の中で旭の言葉を反芻し、理解するとコクンと頷いた。ザコタとそよちゃんも同じように頷いている。
「じゃあ、パンチはこの状態になるまでのどの時点で、相手に当たったでしょうか?」
「え?そりゃあ、その直前にパンチが当たるタイミングがあるから……あれ?でも……」
旭の問い掛けにザコタが答えようとするけど、途中で言葉に詰まる。そよちゃんも考え込んでしまう。旭は満足げに頷いている。
「そう!相手の動作によっても左右されるんだよ。突きを繰り出した直後に相手がガードしたり回避しようとしたりするだろ?相手の状態にもよるけど、タイミングや運次第では空振りに終わるんだ」
旭は得意満面の顔であたしたちを見回しながら言う。
「そこで、この突きを一番効果がある状態で当てるには、その状態を自分で作り出さなきゃならん。それをさっきの二人の動きも混じえて見ていこう。まずは進一少年!」
旭が急にザコタを指してそう呼びかけた。
「は、はい」
「少年のパンチはこうだ?振りかぶりのモーションが大きく肘と脇が離れ過ぎていて、インパクトまでに無駄な動作が多い。そのせいでインパクトが遅れるし、その大きな動作から動きを予測し易い」
旭は口で説明しながら、自分の腕で丁寧に注意点を再現して見せる。
「理想的な攻撃ってのはこうだ。振りかぶりは極力無くし、脇を締め、腕だけでなく全身を捻じるようにコンパクトに打ち出す。そうすれば短い距離でインパクトのタイミングを作れて、尚且つ高威力の打撃を繰り出せる。動きは最小限に、威力は最大限に、だ!」
旭はそう言いながら、ゆっくりと右腕をその様に繰り出して見せる。
「そして打ち出した瞬間が最大のインパクトとなる!これが重要だ」
最後に旭は腕を振り抜いて正拳突きを放った。その動きはとても速くて、無駄が一切無く華麗だった。
旭が放った拳圧によって生じた風があたしの前髪をなびかせた。
ザコタもそよちゃんも見惚れているように見える。
「で、次にほむらちゃんね?ほむらちゃん、緊張してたかな?常に力んでてガチガチだったよ。その状態であそこまで動けるんだから大したもんだ」
旭にそう指摘されたあたしは、顔を赤くして俯いた。
「試合中、常にリラックスしろってことじゃないんだ。リラックスと緊張、この二つを使い分けて動作に取り込む!」
「リラックスと、緊張…?」
あたしはつい訊き返してしまう。
「ああ。動作に緩急を付けるってことだな。まず、緊張すると筋肉が硬直する。インパクト時にはこの緊張状態で打ち込む。パンチを打ち出した瞬間はリラックス、当たる瞬間だけ緊張させる」
旭はさっきと同じ様にゆっくりと正拳突きの動きで説明する。
「こうすれば緊張とリラックスから動きに緩急が出来て、インパクトのタイミングを調整し易いし、攻撃を受け流したり、次の動作への繋ぎにもなっていくんだ。説明下手だけど、何となく伝わるかな?」
旭はそう付け足して、あたしたちの反応を窺う。
「わ、解り易かったです……多分」
「うん。なんか、すごくよく解った気がする。流石まひるちゃんのお兄ちゃん…」
ザコタとあたしは口々に旭を微妙に褒め称える。
「そうか?えっへへー照れるぜー」
そんな二人から賞賛を浴びて、旭は照れ笑いを浮かべて頭を搔く。
「まーでもさ?今のは飽くまで『理想』であって、現実の戦いじゃそれを全部実践出来るとは限らない。その辺は経験と鍛錬の積み重ねあるのみだな!」
「は、はい……!」
「あッ!……もしかして、さっきそよちゃんに言われた事と、似てる…よね?」
あたしはハッとしてそよちゃんを見ると、そよちゃんはニッコリと笑顔を返してくれた。
「旭が言ったインパクトはコンパクトに…緊張とリラックス……そよちゃんが言った魔力の放出の仕方……同じだ…!」
あたしが思わず声を上げると、そよちゃんも嬉しそうな顔をした。
「へぇ、そよちゃんはそんなに強いのかあ!やっぱそよちゃんも手合わせしない?」
「あややッ!?あの、私はその……進一くんにお仕えする身なので、後ろで進一くんの頑張ってる姿を見てるだけで、幸せと言うか」
旭に手合わせを促されたそよちゃんはしどろもどろになった。旭はそんなそよちゃんの乙女の表情を見逃さず
「えぇーッ!?進一少年とそよちゃん付き合ってたのー?こりゃスゴい美人を捕まえたなぁ少年ッ!」
そう言って旭はザコタの背中をバンバンと叩く。
「ちち、違いますよ!付き合ってないですってばッ!!」
「あははッ、照れるな照れるな!」
「もう、からかうのはやめてくださいよ……そよとは、そういう関係じゃなくて、今はただ主従契約を結んでるだけですから」
ザコタは困ったような表情で旭に釈明している。
「そっかー残念!」
旭は残念そうな素振りをしているが、全くそんな様子には見えなくて、むしろザコタを誂いたくて仕方がないように見える。
そんなやり取りを見たあたしは、なんだか安心してしまった。
「あははッ」
「どうしたの?ほむらちゃん?」
そよちゃんが隣でニッコリしながら訊いてくる。
「あ、いやさ、今日お手伝いも初めてだし、そよちゃんたちともまだ余り話したことなかったからちょっと緊張してたんだけど、仲良くなれて良かったなーって!」
「えへへ、そうですね!」
旭とザコタが賑やかにまだあーだこーだやってる中で、あたしはそよちゃんと一緒に満面に笑みを浮かべた。
暫く四人で話していると旭が
「じゃ、今日はもう上がっていいぞ?そうだな…明日も昼時の十一時くらいから二、三時間来てもらえると助かる!今日はサンキューな!お疲れさん」
と言ってきて、今日のお手伝いは終わりになった。
「旭さん、今日はありがとうございました。また明日もよろしくお願いします!」
そよちゃんは笑顔でお辞儀をしながら旭に礼を言うと、ザコタも隣で頭を下げている。あたしも慌てて頭を下げた。
「おーう!こっちこそありがとーな!また来てくれよー」
旭の声を背中に店を出ようとするザコタたちに声を掛けた。
「そよちゃんたち、これから何かあるの?」
そよちゃんは人差し指を顎に当てて考えると
「えと、今日は特に用事がないから、進一くんと特訓の続きしようってことになって…あ!ほむらちゃんも一緒にする?」
そう訊かれてあたしは考える。
(うーん……せっかく仲良くなったんだし、一緒に特訓したいけど、何だか二人の邪魔をしちゃ悪い気もする……)
「あ!あたしはもう少し旭を手伝っていくよ!二人ともまた後でね!」
あたしが笑顔で二人に手を振ると、そよちゃんも手を振ってくれた。ザコタはあたしに向かって軽く一礼すると、そよちゃんの後をついていった。
「あいつも変わったなあ……もう、そよちゃんにゾッコンじゃん!」
あたしが二人の背中を見ながら言う。
「あれ?ほむらちゃん、帰らないの?」
すると旭がキョトンとした顔をして訊いてきた。
「いや、帰るけど。旭こそ帰らないの?」
あたしが聞き返すと、旭は笑顔で
「俺は今日の締めと、明日の仕込み終わらせてから戻るわ」
と答えた。
「え?なんだ、まだ仕事あるんじゃん。手伝うよ!」
あたしは旭の隣に屈んで、手伝いを申し出ると、旭は左手であたしの頭をグシャグシャと撫でながら
「ありがとな!でも大丈夫!折角遊びに来てくれたんだ、あとはみんなと遊んで来な」
と言ってニカッと笑う。あたしは、ちょっとムッとしながら頭に乗った手を払う。
「別にいいよ。まだみんなお手伝いしてるかもだし、あたしにとって知らないことを知ることが、何よりの特訓になるんだ。だから、子供扱いすんな!」
そう言ってあたしは旭を睨む。
「あはは、ごめんごめん!じゃあそうだな、テーブル拭いてもらってもいい?」
「オッケー!」
旭はあたしの頭をもう一度ポンと軽く叩いてから、布巾を手渡してきた。あたしはそれを受け取ってテーブルを拭きながら、ふと気になって旭に訊いた。
「あのさ、まひるちゃんって、どんな子だったの?」
「まひる?昔から可愛かったぞ?」
旭はドヤ顔でそう答える。
(いや、そーなんだろうけど、そーじゃなくて……)
あたしが首を傾げていると、旭が言葉を続ける。
「…俺の影響か、小さい時はちょっと男勝りでさ。男どもの中に混じって遊んでることも多かったな」
旭は懐かしむようにそう語る。
「髪も今みたいに長くてな。周りの男どもも年頃になるとまひるのことが気になりだして、ちょっかい出し始めたり。その度に俺が追っ払ってたんだけどね。ハハ!」
旭は楽しそうに笑ってそう言う。
「へぇー。昔から仲いいんだな」
「まあな。でも、ある日、あいつが泣きながら学校から帰って来た時があってな…いつものように聞いても何も答えてくれなくてよ…あの時は流石の俺も焦ったぜ」
(あ……昨日お風呂で言ってた、まひるちゃんのイヤな話かな……)
「あの!旭!?まひるちゃんが嫌な話ならしないでいいよ?」
あたしが慌てて言うと、旭は笑って首を横に振る。
「大丈夫だって。その日から一週間くらい後に、まひるが俺に言ってきたんだよ……『あたし、男の子に生まれればよかった』ってな」
「え…!?」
あたしは驚いて目を丸くする。
「だから、俺は言ったんだ『そんなことない!俺はお前が妹でよかった!優しい妹を持って幸せだ!』って」
旭はそう言うと、あたしの方を向き直ってニッコリ笑う。
「その言葉を聞いてさ、まひるのやつ、大泣きして俺に抱き着いてきてな……結局髪は短く切っちまったけどな。何だかんだあって、また本の元気なまひるに戻って、高校くらいからまた髪を伸ばし始めたんだ」
「そう、だったんだ……」
(…まひるちゃん、また髪を伸ばそうと思えるまで、きっと、色々、すごく、悩んだんだろうな……)
あたしがまひるちゃんの気持ちを想像して俯いていると、旭はあたしの背中をポンと叩きながら
「まあそんなワケでさ、ほむらちゃんみたいな素直ないい子がまひるの友達になってくれて俺も一安心なワケよ!これからも仲良くしてやってね?」
と言ってニッコリ笑った。
「わ、わかった!こっちこそだよッ!」
(あたしは雑で荒っぽいから…まひるちゃんにはこれからも迷惑掛けることもあるかもしれないけど……)
あたしがちょっと照れくさそうに旭に返事すると、旭は満足そうに頷いた。
「二人で話しながら作業すると早いな!俺の方の仕込みももうすぐ終わるから、ほむらちゃんはテーブルを拭き終わったら上がってな?」
そう言って旭は手馴れた手付きで食材を捌きながらあたしに笑顔を向ける。
「………」
あたしは何か、モヤモヤとした気持ちが胸の中で渦を巻いているのを感じていた。
「……旭、あのさ!」
あたしが急に話し掛けたので、旭はキョトンとした表情でこちらを見た。
「ん?なに?」
「えと……髪、長い方が好きなのか?」
(や、やばい……あたし何言ってんだろ……)
あたしは自分で言っておいて急に恥ずかしくなった。
「髪?そうだなぁ、どっちかと言うとやっぱ長い方が好みかな!なんかこう、女の子!って感じするじゃん?」
「あ、うん……そっか、あははッ」
あたしが変な笑い方をすると、旭は不思議そうな顔をしながら続ける。
「ほむらちゃんも髪長くてキレイだよなぁ。ポニーテールがよく似合ってて」
「え!そ、そうか?あ、あはは!」
(ば、ばかッ!急に褒めんなッ!)
あたしは恥ずかしくなって思わず旭から顔を背けてしまった。
「ん?俺なんか変なこと言った?」
「う、ううん!言ってない!じゃああたし行くね!お疲れー!」
そう言ってあたしはテーブルを拭き終え、海の家から逃げるように飛び出した。
「おう!サンキューな!」
(はあ……なんでだろ……あたしは別にあいつに褒められたい訳じゃないのに……)
「……顔、熱くなってるし……」
あたしは自分の頬っぺたを触りながら、胸の鼓動が早くなっているのを感じていた。
【次回予告】
[まひる]
県大会で優勝とかしてたけど、
お兄ちゃんこんなに強かったんだ!?
さあ、ウィンド!アース!あたしたちも
旅館のお手伝い始めようッ!
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第三十話「晴れない風見鶏」
あれ?飛鳥ちゃん…?




