第二十六話「この世で一番長い夏」
夕方、旅館に戻ったあたしたちは水着のままお風呂の支度を始めた。浴場が宿泊客に開放される時間の前にみんなで入ってしまおうって魂胆だ。
「みんな用意は出来たー?」
あたしは部屋の入口でみんなの準備が終わるのを待っていた。
「まひるさーん!準備出来ましたー!」
そよちゃんが廊下を元気よく走ってきた。
そよちゃんはザコタ君と相部屋なのであたしたちの部屋での合流となっていた。
「そよちゃん、走らなくても大丈夫だよ」
あたしはそう言って笑った。
「えへへ……何だか楽しみで待ちきれなくて!」
そよちゃんは照れくさそうに笑いながら少し乱れた髪を整えた。
その少し後ろからザコタ君がやってきた。
「みんな準備出来たみたいです。行きましょうか!」
アースがそう言うとあたしたちは早速大浴場へと向かった。
『超次元電神ダイタニア』
第二十六話「この世で一番長い夏」
男湯と女湯の暖簾の前でザコタ君と別れる。
「じゃあザコタ君、また後でね!女子のお風呂は長いから先に上がったらお部屋戻るなり好きにしてていいからね?」
あたしは一人男湯の暖簾を潜ろうとしているザコタ君に声を掛ける。
「ああ。分かった」とザコタ君が短く返す。
「あと、うちのお風呂、覗きは出来ない造りになってるからね?念のため」
「残念だったな、少年」
あたしの横から琉那ちゃんがひょっこり顔を出してザコタ君に言う。
「ばッ!覗かねーよッ!!」
ザコタ君は赤くなって慌てて暖簾を潜った。
琉那ちゃんが満足気な顔をしている。
あたしは苦笑いをしながら彼の背中を見送った。
あたしたちは脱衣所で服を脱ぐと、いそいそと浴室へ入った。
「ふいーッ!やっぱり広いお風呂はいいなあ!」
あたしは思わず声を上げた。
うちの旅館は内風呂は一つしかないけど、それ以上に露天風呂が広くて豪勢なのだ。このお風呂目当てで来てくれるお客さんもいるくらい。
「まひるさん、オヤジ臭いですよー」
飛鳥ちゃんが苦笑してあたしの方を見た。
「いいじゃない別に」と口を尖らせるあたしを見てみんなが笑う。
「よーし!じゃ身体洗って入ろ!」
あたしはみんなの手を取って洗い場へ向かった。
身体を洗っているとアースが
「まひるさん、お背中お流しします」
と笑顔で隣にやってきた。
「ありがとアース!」
折角なので洗ってもらおう。あたしは自分のタオルをアースに渡すと早速背中を洗い出してくれた。
「あ〜…誰かに背中を洗ってもらうのって気持ちい〜…」
あたしは目を閉じて全身の力を抜く。
「ふふ、まひるさんは身体が細いですから洗いやすいですね」
アースは丁寧にあたしの背中を流してくれた。
「ありがとう。そんなに細くはないんだけどね…えぇッ!?」
あたしは苦笑混じりに振り返りアースに微笑みかけようとしたら、そこにあった光景に驚かされてしまった。
あたしの背中を洗っていたアースの背中をファイアが洗っていて、ファイアの背中をマリンが、マリンをウィンドが一列になって洗っていたからだ。
「…これは……かわいぃ……!」
あたしは思わずニヤけてしまう。
「まひるさんたち、ホント仲が良いですよねー」
「ホントよ、見てるこっちがのぼせちゃうわ…」
「あ、私も今度進一くんの背中洗ってあげたいな!」
それを見ていた飛鳥ちゃん、琉那ちゃん、そよちゃんが各々に感想を口にする。
「仲良きことは美しきかな!だね」
あたしはそんな彼女たちを見て、嬉しそうに笑った。
身体を洗い終わったあたしたちは露天風呂に浸かり、それぞれに極楽気分を満喫していた。
「こんな広い露天風呂は初めてです。向こうには海も見えて、自然との一体感が格別ですね…」
アースが空を仰ぎ、目を瞑って感嘆をこぼす。
「外なのに色々な形のお風呂があって面白い!全部入るんだー!」
とウィンドが湯船に浸かりながらニンマリする。
「こっちには水風呂もあるね。火照った体に気持ちいい…」
マリンが気持ち良さげに半身浴で涼んでいる。
「確かにこの開放感は気持ちいいな!お?球ねえ。また胸大っきくなってないか?最近よく食べてるしなー」
ファイアがアースの体を見て疑問をぶつける。
「そんなことは無いと思うのだが、確かにこの前まひるさんにカップを測り直してもらったらサイズが一つ上になっていたな。あと、よく食べるのはファイアもだろう?」
アースは胸のことより、食いしん坊みたいに言われた事の方が気になるらしい。
「むう…皆さん胸が大きくて羨ましいです…」
一人丸風呂に入っていた飛鳥ちゃんが独り言ちた。
「いっぱい食べたらおっぱい大きくなるのかなあ?進一くんは気にしないって言ってくれたけど、もう少し、あった方が……」
そよちゃんは何気にとんでもない発言をしてくる。
「えッ!?そよさん、アイツとどんな関係なんですか!?」
飛鳥ちゃんが我先に食い付いてきた。あたしも少し興味がある話題に耳を傾ける。
「どんな、関係?」
そよちゃんは相変わらず分かっていない感じで小首をかしげる。
「その、裸を見せ合う関係、とか!?」
飛鳥ちゃんその聞き方はストレート過ぎる!
「飛鳥ちゃん、言い方!」
すかさず琉那ちゃんからツッコミが入った。当の琉那ちゃんは笑っている。
「うーん…一緒に居ると、裸は偶に見ちゃったり見られちゃったりはありますよ?」
そよちゃんのその言葉に飛鳥ちゃんは驚いた様子で
「そよさん…見た目より全然大人だ……」
飛鳥ちゃんのそよちゃんを見る眼差しに熱いものが込められる。
しかし、直ぐ様頭を振り
「いやいやあの男ッ!そよさんだけでは飽き足らず、私たちの着替えまで覗いた好色野郎なんです!そよさんも気を付けてくださいね!?」
飛鳥ちゃんはさっき部屋で偶々着替えをザコタ君に見られちゃったことを、まだ相当根に持っているようだ。まあ、事故とは言えあたしも恥ずかしかったけどさ。
「大丈夫だよ。進一くんはいつも私のこと考えてくれてて、私がイヤなことは絶対にしないんだ」
そよちゃんが柔らかい笑顔で飛鳥ちゃんに応える。元々笑ってるような目尻の垂れた可愛い顔立ちだけど、そよちゃんの笑顔は格別に見るものに癒やしをもたらした。
「いいわね、信頼しあってて。素敵よ」
笑顔で琉那ちゃんがそよちゃんに珍しく素直に賛辞の言葉を送った。琉那ちゃんにとっても、それだけそよちゃんの一途な気持ちが眩しかったのだろうか。
…恋か……
そういえば暫くしてないな…
最近のときめきと言えばゲームだったり漫画だったり、二次元のものが多かった気がする……
いつの間にか、それはそれで楽しいし、面倒くさくないからと、自ら享受して現実から目を背けていたのかも知れない。
あたしは基本的に、恋愛とかそういうのが、得意ではなかった。
あたしの隣には琉那ちゃんと飛鳥ちゃんが来て、それぞれ気持ちよさそうに湯船に浸かっている。向こうではアースとマリンがマッタリとお湯に浸かり、ファイアとウィンドがわちゃわちゃとはしゃいでいた。
あたしはつい琉那ちゃんの胸に目が行ってしまった。いつかも思ったが、やっぱり琉那ちゃんも大きい…
あたしはつい口が滑ってしまった。
「あの、琉那ちゃん。大きな胸で嫌な思いしたことない…?」
あたしは口にしてから“しまった”と気付いた。
「あ!ゴメン!イヤな事は話したくないよね!ゴメン、あたしったら…」
あたしは慌てて手と首をぶんぶんと振りながら謝った。
「え?何よ急に?」
琉那ちゃんはきょとんとしている。
「いや、その、えーと……」
あたしはうまく言葉が出てこなかった。
「ふふ、そんなのしょっちゅうよ?女なら誰でもあるでしょそんなこと」
あたふたするあたしを見ながら琉那ちゃんはそう言って笑った。
「やっぱり!?」
あたしは驚きで目を丸くした。
「……私は、まだありませんけど……」
隣で自分の胸に顔を向け自信を失っている飛鳥ちゃんがそっと呟く。
「高校生でしょ?まだ育つわよ。それに、大きければいいってもんでもないでしょ?」
琉那ちゃんの言葉に飛鳥ちゃんは顔を上げた。
「そうなんですか……?」
「そうよ。大きいと可愛いブラが少ないし、高いしさ~。それに肩も凝るし」
琉那ちゃんは自分の胸に手を当てて溜息をつく。
「……そうなんだ……」
飛鳥ちゃんが感心したように頷いている。
「何より、男共にいやらしい目で見られることが多くなるし、普通に男性不信に陥るわよ?まあ私はそんなところも割り切ってスナックでバイトしてるけどね」
そう言って琉那ちゃんはまた笑った。
「………」
女の弱さを自覚しながら、それを乗り越えている琉那ちゃんは、強い。昔のあたしに聞かせてあげたかった。
あたしは俯きながら湯船のお湯を掌で掬って顔を濡らした。
「まひるん。何かしこりがあるなら聴くわよ?人に話すことで気が楽になることって、結構あるから…」
琉那ちゃんが優しい声でそう言ってくれた。
「………うん」
あたしはしばらく押し黙っていたが、やがて意を決して話し始めた。
「……あたしね?小学生の頃、少しの間だったけど、不登校になっちゃったことがあって……」
「え!まひるさんがッ!?」
飛鳥ちゃんが驚いてあたしの顔を見る。
「飛鳥ちゃん、今は聴いてあげよ?」
「…あ、はい。すみません…」
琉那ちゃんが空を見上げながらそう飛鳥ちゃんに声を掛けた。
「あたしさ、小学生の頃から身長大きくて、高学年の頃にはクラスの男子より大きくて…最初は身長だけだったんだけど、胸が大きくなり出すと、それも誂われるようになって…」
あたしは琉那ちゃんたちにぽつりぽつりと話した。
小学校五年の頃、一部の男子から性的な目で見られるようになったこと。
段々それがエスカレートしていって、ある日あたしが履いていたスパッツを盗られたこと。
その日を境に学校に行けなくなって不登校になってしまったこと。
家族に助けてもらってまた学校に行けるようになったこと。
「だから、今でも胸にはコンプレックスがあるんだ…」
あたしは話し終えると大きく息を吐いた。
「まひるん、それ、発育のいい女子はみんな通る道だから」
琉那ちゃんがあたしに向かって、優しく語りかけた。
「そう、だよね。お母さんからも同じようなこと言われて、散々慰めてもらったよ…」
「小学生の男子なんて基本バカだから、残酷なことも平気で言うし、照れ隠しに反発したり素直じゃないし…」
琉那ちゃんの言葉を受けて飛鳥ちゃんも口を開く。
「…そう、ですよ。みんな馬鹿ばっかです。自分のことしか考えてないし、他人がどんな気持ちか考えられない…想像力が欠けた馬鹿ばかりです…!」
「飛鳥ちゃん……」
あたしは飛鳥ちゃんを見て驚いた。今までこんな剣幕で話す飛鳥ちゃんを見たことがなかったからだ。
「でも、小学生のまひるんには学校に行けなくなる程、堪えたのよね?」
そう言って琉那ちゃんはあたしの頭を軽くポンポンと撫でてくれた。
「うぅ……ッ!」
あたしは何だか泣きそうになってしまった。
「でもさ、あたしは今のまひるんしか知らないけど、とっても笑顔が似合う良い女だと思うわよ?きっと周りの優しい人たちのお陰なんでしょうね」
「そうですよ!まひるさんの笑顔は誰からも好かれる素敵な笑顔です!」
琉那ちゃんに続いて飛鳥ちゃんもそう言ってくれた。
あたしは嬉しくて涙が出そうになったが、湯船の中に顔半分を埋めて何とか耐えた。
「ほら、顔を上げて?」
琉那ちゃんがそう言ってあたしの頬に優しく触れて顔を上げさせた。
「今まひるんが楽しい毎日を過ごせてるのって、そんな嫌な事があって、乗り越えて来たからなんじゃない?それを思えば、嫌な思い出だけじゃないはずよ?」
琉那ちゃんの言葉が胸に刺さった。
「…うん。お母さんがいつもあたしの胸を褒めてくれてた。将来いいお母さんになれるね、女の子の胸は幸せの証だよって。あの厳しいお父さんがね?学校行かないあたしを怒らなかったんだ?何も言わずに、ただ頭を撫でてくれて。あたしはそれがすっごい嬉しくて…」
「………」
「まひるさん……」
琉那ちゃんと飛鳥ちゃんが優しく微笑んであたしの話を聞いてくれていた。
「お兄ちゃんもね、部屋から出て来ないあたしに漫画やゲームを持って来て一緒に遊んでくれてね?自分も学校休んじゃったりして。それは流石にお父さん怒ってたなあ、あはは。一緒にお兄ちゃんが好きなアニメ見たりゲームしたり、楽しかった。今思えばあの頃からお兄ちゃん、何かあたしに対して過保護になったような…」
「そうね。お兄さんのシスコンはまひるんのせい確定ね」
琉那ちゃんはそう言って笑った。
「あはは、やっぱりそう思う?でも、あたし、お兄ちゃんたちがそんな風に守ってくれたから今こうして笑っていられるんだ。家族がしてくれたことを思うとね、勇気が出るようになったの!」
あたしは自分の胸を手で軽く叩きながら琉那ちゃんに笑顔を向ける。
「ふふ、元気出たみたいね?」
琉那ちゃんが言う。
「うん!二人ともありがとね!」
あたしは琉那ちゃんと飛鳥ちゃんに満面の笑顔を向けた。
「まひるんさあ。真面目なのも良いけど、偶には一息つくのも忘れちゃダメよ?最近急に四児の母親代わりになってずっと気が張ってたのよ。自分がしっかりしなきゃ、あの子たちのお手本にならなきゃ、ってさ」
「琉那ちゃん……」
やっぱり琉那ちゃんはあたしよりずっと大人だ。しっかりと自分を持っている。あたしの話しをしっかり聴いてくれて、その上で冷静に考え、相手を傷付けないよう配慮して答えてくれる。
あたしはこの時、琉那ちゃんと友達になりたいと心の底から思った。
「まひるさん……自分たちは、自分たちは……!」
気付くとあたしたちの話しを聴いていたであろうアースが泣きそうな顔で隣にいた。アースだけでなく、みんなが集まってきていた。
「まひるちゃん!俺、いや、あたし!もっとまひるちゃんの言うことちゃんと聞いていい子になるよ!いつも困らせてゴメン!」
ファイアが目を潤ませながらあたしに謝って来た。
「僕も、僕もまひるのこと、もっといっぱい考えます!いっぱい勉強するし、お料理も覚えるし、もっともっと、大人になれるよう努力します」
マリンが珍しく大きな声で言う。
「ウィンドももっともっとお手伝いするから!まひるちゃんが疲れなくてもいいくらい、お手伝いするから!」
マリンに続きウィンドも言ってきた。
「あ〜……みんなごめんね?あたしはそんなつもりじゃなかったんだけど……」
あたしはみんなに向かって謝った。
「いいえ、自分たちは確かにまひるさんに甘え過ぎていたところがあります。今後は気を付け――」
「ストップ!アース」
アースの言葉をあたしは人差し指を突き出して制止した。
「お兄ちゃんも言ってたけど、家族に甘えないで誰に甘えるのよ?ねえみんな?あたしでよければこれからも甘えてね?あたしだってみんなからいっぱい元気もらってるんだからさ!」
あたしはアースたちに向かって満面の笑顔で言った。
「まひるちゃあん…!」
ファイアが半ベソをかきながらあたしに抱きついて来た。あたしはファイアの頭を撫でながらみんなに笑顔を向ける。
「ホント、いいお母さんになれるわよ、まひるん?」
琉那ちゃんはそう言ってあたしの頭を撫でてくれた。
「…私も、優しいお母さん、欲しかったな……」
飛鳥ちゃんが切なそうに呟いた。
あたしはその消え入りそうな声を聞き逃さなかった。
(……飛鳥ちゃん…)
あたしたちがお風呂からあがると、部屋には色とりどりの海の幸が盛られた夕食が並べられているところだった。それを見てみんなが目を輝かせている。
「進一君とそよちゃんの食事もこっちに用意しちゃったけど良かったかしら?」
お母さんが二人に訊いてきた。
「あ、はい!構いません。ありがとう御座います」
ザコタ君はお母さんに丁寧にお辞儀をする。
(へぇ…お母さんにはちゃんとお礼言えるんだ。あたしにはいつも生意気な口調なのに)
そのギャップが可笑しく、あたしは一人ほくそ笑んだ。
そこへお兄ちゃんも顔を出して来た。
「おー、まひるー。上がったかー?今日の晩飯は俺とお袋が腕によりをかけた最高の逸品だぜ?みんなで楽しんでくれよな?」
「うん!お兄ちゃんありがとう!」
あたしは元気よく頷いた。
「まひるさん!見たことのない料理ばかりです!」
アースが瞳をきらめかせ興奮気味に言う。
「そうねぇ。中々生の魚食べさせてあげる機会なかったから、今日はみんな沢山食べてね?」
あたしはみんなを見回しながら言う。
「沢山あるからゆっくり食べてね。皆さん今日はわざわざ来てくれてありがとうね?これからもまひると仲良くしてあげてください」
そう言うとお母さんは深々とお辞儀をした。
「おば様、頭を上げて下さい」
琉那ちゃんがお母さんに優しく声をかける。
「私たちの出会いは、それは突拍子も無いものでしたけど、まひるさんと出会えた事を私はとても嬉しく思ってます。私より少し年上だけど、何だかほっとけない…お人好しで自分のことより他人のことを優先しちゃう優しさ。私にはない魅力的な部分を沢山持ってて、こちらこそ、これからも宜しくお願いしたいところです」
琉那ちゃんはそう言うと深々とお辞儀をした。
「琉那ちゃん……」
あたしは琉那ちゃんの言葉に思わずジーンと来てしまった。
「では!いただきます!」
琉那ちゃんがそのままの流れでいただきますの音頭を取る。みんなも釣られて「いただきまーす!」と元気に声をあげた。
お母さんはそれを見て、微笑みながらそっと部屋から退室していった。
「うま!い、いや、美味しいッ!」
ファイアが開口一番に声を上げた。
どうやら早速自分でも言葉遣いに気を付けているようだ。
「本当です!美味しいです!」
そよちゃんが嬉しそうな顔で叫ぶ。
「良かった。おかわりもあるからね」
あたしが微笑みながら言うと、アースとザコタ君が猛然とご飯を平らげていく。
「以前、まひるさんに“かいてんずし”なる所に連れて行ってもらって、生の魚を食べましたが、その時より美味しさの感動がケタ違いです!」
アースが興奮した様子で話す。
「新鮮だから美味しいよね!うちで出す魚介類はその日にお父さんが獲ってきたものを使うから新鮮で美味しいんだ。喜んでもらえてあたしも嬉しいよ」
あたしは自分の事のように喜んだ。
「この揚げ出し豆腐、餡かけが優しい味で美味しいわね」
琉那ちゃんが上品にスプーンを持ちながら食べ進めている。
「このお吸い物も出汁がきいてて美味しいです。まひるさん、こんな美味しい料理を食べて育ったんですね〜…羨ましい…」
飛鳥ちゃんが吸い物をすすりながら言う。
「いやいや、いつも食卓にお刺身やお寿司が並ぶわけじゃないし!普通にカレーとか玉子焼きとかハンバーグとかだよ?」
あたしは苦笑しながら言う。
「…でも、確かに美味い。俺もこんなに美味い魚を食ったのは初めてだ」
ザコタ君が感心したように呟いた。
「ありがと!後でお母さんに言ってあげたら喜ぶと思うよ?お兄ちゃんに言ったら調子に乗りそうだけどね」
あたしは苦笑しながら言う。
「あ、ザコタ君、お茶碗空いてるね。おかわりよそろうか?」
あたしはザコタ君の食器を見て声をかける。
「ん?ああ、悪い。頂く…」
ザコタ君は一瞬戸惑った後、遠慮がちに茶碗を差し出してきた。
「はーい」
あたしは嬉しそうに言うと、おひつからご飯をよそってザコタ君に渡す。
「あ、ありがとう…」
ザコタ君は照れくさそうに礼を言ってきた。
「うん!遠慮しないで食べてね!」
あたしは笑顔で応えた。
何だかザコタ君、最初に会った時より柔らかくなってる?あのギラついてた感じが抜けたような…あ、それってやっぱり、そよちゃんの存在が大きいのかな?
「そうだ、マリン、琉那ちゃん?明日のお父さんの漁の手伝いなんだけど、お父さんから、朝早いから別に船に付いて来なくてもいいって言ってたけど、どうする?」
あたしは食べながら二人に聞いてみた。
「早いって、どれくらい早いの?」
琉那ちゃんが聞いてくる。
「えーっと、普段なら朝四時には船出すかなー」
「四時ッ!?」
夏だから本当はもう少し早く出るんだけど、お父さんなりに二人に気を使って遅目の時間で四時と言ってくれていた。だけど漁を知らない琉那ちゃんにはそれでも突飛すぎたのか、目を丸くして叫んだ。
「うん。やっぱり船はやめとく?」
あたしが聞く。
「僕は問題ないです。三時に起きれば間に合うかな?後でおじ様に聞いてみます」
小さく手を挙げマリンが答える。
「琉那?どうします?」
マリンが琉那ちゃんを見て問う。
「…行くわよ。性悪小娘一人仕事に行かせて、大人の私が寝てるわけにも行かないでしょ?」
「見た目こそ流那より幼いけど、僕たちは精霊。子供扱いしてもらいたくないな?」
琉那ちゃんの言葉に、マリンは少し不機嫌そうに答えた。
「まあまあ。えび天食べる?美味しいよ?」
あたしは二人の間を取り持つように、ちょうどよく揚がったプリプリのえび天を勧めてみた。
「頂くわ」
「頂きます」
琉那ちゃんとマリンは同時に答えた。
二人は美味しそうにえび天を頬張りながら
「分かった。明日寝過ごすんじゃないわよ?サクサクでおいひ…」
「そっちこそ。寝てたって起こしてあげないからね?海老プリプリ…」
と言い合いつつも、何だかんだで楽しそうだ。
楽しく美味しい夕飯を終え、みんなで下膳を手伝い、片付けが一段落したところにお兄ちゃんがまた顔を出してきた。
「よー。久々の実家の飯は美味かったろうまひる?」
「うん!海鮮も料理も全部美味しかったよ。ごちそうさま、お兄ちゃん」
「だろー?俺の料理も捨てたもんじゃないだろう?実家に戻ってきたくなったろう?」
お兄ちゃんが嬉しそうに言う。
「あはは。それは大丈夫。今の仕事ちゃんと続けたいしさ。うちのこと任せっきりでお兄ちゃんには悪いと思ってるけど」
あたしは苦笑しながら答えた。
「はっは!気にするな、冗談だ。家の事は長男である俺に任せておけ!お前は胸を張って伸び伸びと好きなことをしろ」
こういうことをサラッと言ってくれるのがお兄ちゃんらしい。
「ありがとう、お兄ちゃん」
あたしは素直に感謝した。
「ところでだな。最近の若者は何が好きか分からんから適当に遊べるもん持ってきたぞ?いるか?」
見るとお兄ちゃんは小脇にゲーム機やらボードゲームやらを抱えていた。
「あー、ありがとう。じゃあ折角だから借りておこうかな」
「おう、そうしろそうしろ。じゃ、俺はこれで。ジャマしたなー」
と、お兄ちゃんが片手を上げ背を向けようとした時
「え?お兄さんも良ければ寄っていけばいいのに?」
と琉那ちゃんが言った。
「え?俺?いいの?」
お兄ちゃんが驚いたように聞き返す。
「もちろん。さっきの料理のお礼も言いたいし」
琉那ちゃんが答え、それにみんなが賛同するように頷く。
「マジ?ラッキー!キミいい子だなあ。じゃあ少しだけお言葉に甘えさせてもらおうかな!」
お兄ちゃんは嬉しそうに答え、いそいそと靴を脱ぎ始めた。
「悪いなまひる。何か俺まで押しかけちゃって」
お兄ちゃんが全然申し訳なさげに言う。
「みんなが良いならあたしは構わないよ。こっちこそ疲れてるとこ色々ありがとね」
あたしはお兄ちゃんに礼を言うと、みんなの方に顔を向けた。
「じゃあ、各自明日の準備をしながら適当に遊んで適当に寝よう!」
そうみんなに告げると「はーい!」と元気な返事が返ってきた。
「あ!このゲーム機…」
ファイアが旭が持ってきたゲーム機を見て喜びの声を上げた。
「ん?知ってるの?ほむらちゃん?」
旭が笑顔でファイアに訊く。
「うん!まひるちゃんちでよく遊んでる!格闘技のやつが好きなんだ!」
ファイアが嬉しそうに言う。
「お!格ゲーかあ。それなら幾つかあるぜ?一緒にやるか?」
「あ、うん!」
ファイアは嬉しそうに頷いた。
「流那?ちょっと時間いい?よかったらおじ様のところに明日の流れを一緒に聴きにいかないかい?」
マリンがそう流那を誘いかける。
「いいわよ。行きましょう」
流那は二つ返事でOKした。
「うん、ありがとう」
マリンが喜びの声を上げ、一緒に部屋から出て歩き始める。
「いい?明日早いんだから私たちは早目に寝るわよ。あんた、耳栓持ってきた?」
「耳栓?いや、持ってない」
「じゃあ私の予備の貸したげる。睡眠不足だと船は酔いやすいって言うからね」
「あ、ありがと…」
マリンは何気ない流那の優しさに戸惑いながらも、笑顔で感謝した。
「お母さん、今日は色々ありがとう。今ね、お兄ちゃんが部屋に来てくれてみんなで遊んでるんだ」
あたしはお母さんの居る控室兼事務所にアースと足を運んだ。
「あら、旭ったら、お邪魔じゃない?迷惑だったらキッパリ言っていいのよ?あの子、少し空気読めないとこあるから」
お母さんは実の息子に対して割りと厳しいことを言う。
「あはは、大丈夫、かな?今のところみんなも一緒になって遊んでくれてるみたいだし」
あたしの言い方も大概だと思う。
「おば様、本日のお料理、とても美味しかったです。感服致しました。御馳走様でした」
アースがお母さんに深々と頭を下げた。
「お口に合って良かったわ。球子ちゃん、しっかりしてるわね。まひるよりお姉さんみたい」
お母さんは未だ堅いアースを見て少し戯けてそう言った。
「明日からもお世話になります!ご教授の程、宜しくお願い致します!」
更にアースが頭を下げた。
「球子ちゃん、堅いわぁ。接客業は笑顔が命。肩の力抜いてぇ、リラックス。礼儀作法も勿論大事だけど、まずは何より笑顔よ」
お母さんはアースに笑顔を強調して見せた。
アースは自分の唇の横に人差し指を当て、口角を上げて見せた。
「笑顔…笑顔ですね…!精進します!」
部屋に戻ると、そこではお兄ちゃんを交えて壮大なゲーム大会が行われていた。
「ほれまひる!お前も混ざれ。今進一少年の土地が大暴落して大変なんだ。助けてやって?」
「あ!進一くん!あの時のチケットを使ったらどうかな?」
「いや!アレはここぞという時に温存しといた方がいいんじゃないかな?僕ならまだ…」
「今がその、ここぞって時のような気がしないでもないけどね…」
「ぐぬぬぬ……」
何だかんだで大盛り上がりのようだった。
結局お兄ちゃんの大敗で決着が付き、お兄ちゃんはそれでも笑顔で去って行った。
それから、そよちゃんとザコタ君も部屋に戻っていった。
マリンと琉那ちゃんが早目に床に就き、残ったあたしたちは小声でガールズトークをし、夜は更けていった。
波の音が静かな夏の夜に微かに響く。
ザコタとそよは人気のない砂浜に来ていた。
ザコタは周囲を警戒するように、そよに近付く。そよは何事かとその身を強張らせ頬を紅く染めた。
ザコタの腕が体に触れるか触れないかの距離にある。
「…進一くん……」
そよは潤んだ瞳でザコタを見つめる。
ザコタの唇が顔に近付いてきた。
「ッ!」
そよは反射的にその目を閉じてしまう。
だが、ザコタの唇はそよの唇にではなく、耳元へと来た。
「そよ、そのまま聴け」
ザコタがいつもより低い声でそよの耳元で囁いた。流石のそよもこの状況がロマンス的な何かではないと気付かされる。
ザコタが真剣な顔で続ける。
「あの中に、正体を偽っている奴がいる…!」
【次回予告】
[まひる]
みんなとのお手伝いと称した
あたしたちの特訓が始まる!
まずはマリンと流那ちゃんの漁チーム!
仲良くしてくれるといいんだけど…
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第二十七話「残月の海で」
誰にだって、弱さの一つや二つくらい、あるよ!
――――achievement[お風呂回]
※みんなでお風呂に入った。
――――achievement[コンプレックス]
※まひるが友に自分のコンプレックスを打ち明けた。
[Data13:進一と陽子【五】]がUnloc k kk kkk kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk kkk kk k
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can't unlock memory_
memory is sealed_■
※システムエラー発生※
[Data13:進一と陽子【五】]をUnlock出来ません。




