第二十五話「渚120%」
「…着いたぞ。で、宿に向かっていいのか?」
『あ!ザコタ君、早かったね!お昼はもう済ませた?』
「ああ。来る途中で済ませてきた」
『じゃあさ、早く宿おいでよ?道分かる?あ、そうそう!アレ、ちゃんと持って来てくれた?』
「…ああ、一応な」
『早速着替えて海に行こ!そよちゃんはあたしたちの部屋で着替えていいから、着いたら案内するね?』
「…ああ、よろしく頼む……」
カチャリ。
ザコタは通話を切り、スマホを片手で持ったままその場で項垂れた。
「わ〜!海近ーい!キレイだね進一くん!」
隣で何やらそよがはしゃいでいる。
ザコタは複雑な顔をして一言漏らした。
「…どうして、こうなった……」
『超次元電神ダイタニア』
第二十五話「渚120%」
あたしのバッグに詰めたみんなの新しい装備品、水着!
先日新宿に出た時にちょろっとみんなに試着してもらい買っていたのだ!
「さあ!みんなコレを着て海に行こう!紫外線対策もしっかり教えるよ!」
あたしは実家にいる安心感と、海という大好きなアクティビティスポットの性で異様にテンションが高くなってしまっていた。
「ねえまひるん?私も水着着なきゃダメ?私泳がないけど?」
琉那ちゃんがおかしなことを言う。
「琉那ちゃん?お風呂に入る時は服を脱ぐよね?それと同じで、ビーチに出る時は水着を着るよね?」
「うーん?まあ、持って来いって言われてたから一応持っては来たんだけど…」
「だから琉那ちゃんも水着に着替える!いいね?」
あたしは強引に押し切る。
「わかったわよ。あんたが楽しそうで何よりだわ」
琉那ちゃんは呆れたような顔をして、あたしの言葉に従った。
「海水浴場は家から歩いて直ぐの所だからさ、部屋で水着に着替えて上着羽織っていこうよ」
あたしがみんなに提案する。
「今日のまひるさん、やる気十分って感じですね…」
飛鳥ちゃんが少し引いた顔であたしに言う。
「え?あ、あはは……そうかな?」
確かにテンションは若干おかしいかもしれない。でもそれだけあたしは海が楽しみで仕方がなかったのだ!
みんなが水着に着替えようと上着やらスカートやらを脱いでいく。
そんな時
「まひるー?残りのお友達着いたわよー?ご案内してー」
お母さんの声と共に部屋の戸が勢いよく開けられた。
戸の前にはザコタ君と長身の美少女が立っていて、絶賛着替え中だったあたしたちを見てお互いの時間が止まった。
あたしは自分の姿に目を向ける。
Tシャツをたくし上げブラが露出していた。
「きゃあああぁああーーーッ!!」
主にあたしと飛鳥ちゃんの悲鳴が重なる。
「おわあぁあああーーーッ!!?」
向こうからもザコタ君の悲鳴が響いた。
「………そよ?」
何故かザコタ君の頬には赤い手のひらの痕が残っている。
「あ、あはは…何だか、つい?ごめんね進一くん」
どうやらそよちゃんがあたしたちの代わりにザコタ君に軽くビンタをしてくれたらしい。
「これって、俺が悪いのか…?」
ザコタ君は少し腑に落ちない感じだったけど、とりあえずあたしたちは改めてお互いに軽く自己紹介をし、水着に着替え海へと向かった。
海!きらめく太陽!
焼けた砂浜が素足に熱く、それもまた心地よい。
久し振りの地元の海。昔から慣れ親しんだ実家の海。幾つになっても海はあたしの心を昂らせてくれる!
「さあ!海初めての子は寄っといでー!海は危険がいっぱいだから必ず一人で行動しないこと!じゃあまずは準備体操から!」
あたしは四精霊とそよちゃんを従え準備体操をしながら海水浴についてのイロハを教えていく。
その後ろで琉那ちゃんと飛鳥ちゃん、ザコタ君が待機スペースを作ってくれている。
あたしは準備運動が終わると、軽く海の中へと足を踏み入れた。海水の感触が気持ちいい。
「みんなー!一人で行動しない!離れる時は声を掛ける!よし!じゃあ遊ぼう!」
お決まりの文句を叫んでから、あたしは海へと駆け出す。
「ひゃー!つめたーい!」
火照った体に冷たい海水が染み渡る。
「まひるちゃん!待ってー!」
ウィンドが慌ててあたしを追いかけてくる。
ザコタ君は琉那ちゃんと飛鳥ちゃんに囲まれていて身動きが取れないようで、待機スペースでもじもじと突っ立っていた。あれはあれで何だかカワイイ。
「…冷たい、けど心地良いな。マリン、海に入ってどうだ?何か地球の変化を感じられたりしないか?」
アースがマリンに尋ねる。
「え?うーん……特には何も感じないね。やはり、この地球では僕たち精霊の力も余り役に立たないみたいだ」
マリンは微笑みながら答えた。
「そうか、変化なしか……」
アースは少し残念そうな顔をする。
「アース?今くらいは気になること忘れて楽しんでもいいんじゃないかな?ほら、まひるもあんなに楽しそう」
マリンが目を細めて、はしゃいでいるまひるの方を見つめる。
「そうだな。どうも自分はウィンドやファイアの様に明るく振る舞えなくていかんな」
アースも微笑みながら海に目を向ける。
「そうだよ球ちゃん!せっかくのバカンスなんだから楽しまなきゃ損だよ!」
ウィンドが元気よく叫ぶと、アースは少し驚いた顔をした後、微笑んだ。
そして大量の水しぶきがアースの顔面を襲う。
「ほらほら球ねえ!そんな所に突っ立ってたらいい的だぜ!?」
ファイアがアース目掛けて更に海水を浴びせる。
「…そうは、行くかッ!」
アースが両手を海面に翳す。すると、巨大な水の壁が発生し、ファイアは盛大に水をかぶった。
「うわあ!?なにすんだ球ねえ!はは!」
ファイアは笑いながら尚も周囲に水を掛ける。
「あははははッ!」
気付けばアースも声を出して笑って水を掛け合っている。
その姿は年相応の少女そのもので、本当に楽しそうだった。
アースたちが少し離れた所で水遊びをしている。あたしはその光景をほくほくしながらそよちゃんと見ていた。
「そよちゃん、初めての海はどう?」
「はい、とっても気持ちいいです!地球って素晴らしいですね!」
そよちゃんは満足そうに微笑む。
「あのさ、そよちゃん。今日の泊まる部屋、ザコタ君と同じ部屋で大丈夫だった?」
あたしはさりげなく、そよちゃんに尋ねる。
「はい?大丈夫ですけど?」
そよちゃんは小首を傾げる。
「そう!そよちゃんとザコタ君って、やっぱりお付き合いしてたのね!」
あたしはずばり聞く。
「いいえ?進一くんとはまだお付き合いしてませんよ?」
そよちゃんは平然と答える。
「え?じゃあ同じ部屋に泊まるのはマズいんじゃ!?」
「んー…これまでも泊まる時は大体同じ部屋でしたし、お金も節約したいし…」
そよちゃんは少し考えてから答える。
「節約のためなら仕方ない、か……」
あたしは思わずため息をつく。
「まひるさんは、私が進一くんとお付き合いしていると思ったんですか?」
そよちゃんが不思議そうに尋ねる。
「うん!」
あたしは力強く頷く。
「そうですか……ホントにそうなれたら、嬉しいな……」
そよちゃんは、少し恥ずかしそうに呟いた。あたしったら気が早かったかな!?
「な、何かあたしの勘違いで変なこと聞いてごめんね!あたしたちも混ざって遊びましょ!」
「はい!そうですね!」
こうしてあたしたちも、アースたちの元へ駆けていった。
それから飛鳥ちゃんが来てしばらく遊んで、待機スペースから動かない二人の所にあたしは戻って来た。
「琉那ちゃん、ザコタ君、泳がないの?」
あたしは二人に声をかける。
「私泳がないって言ったわよ?ここではしゃぐまひるんたちを見てる方が楽しいわ」
と琉那ちゃん。
「うーん、無理にとは言わないけど、琉那ちゃんの水着も見たいのにー…」
あたしはずっとラッシュガードを着たままの琉那ちゃんを眺めて恨めしそうに言った。
「何よまひるん?あんたまさかソッチの気があるんじゃないでしょうねッ!?」
琉那ちゃんが警戒するようにあたしを見る。
「え!?違うよッ!ただあたしは可愛いもの見るのが好きなだけで!」
あたしは慌てて否定する。
「冗談よ、まひるん」
琉那ちゃんはおかしそうに笑いながら言った。
「…もう!」
あたしは頬を膨らませて隣りにいたザコタ君に同意を求める。
「ザコタ君だってそよちゃんの水着が見られて嬉しいでしょ?あたしだって嬉しいんだよ」
あたしはザコタ君の目を見て、真剣に言った。
「べ、べべべ別に俺はそよの水着に興味なんてッ!!」
「男なら素直になりなさいよ。彼女ならちゃんと一緒にいてやりなさい?」
あたしとザコタ君の会話を遮って琉那ちゃんが言った。
「…別に、彼女なんかじゃ……」
ザコタ君は照れ臭そうに視線を逸らした。
「あ。彼女、ナンパされてる」
「そよッ!!!」
琉那ちゃんがボソッと呟くと、目にも止まらぬ速さでザコタ君が飛び出して行った。
「嘘よ」
走りゆくザコタ君の背中を眺めながらあたしは琉那ちゃんに言う。
「人を焚き付けて乗せるの、上手だね…」
「いいのよあのくらいで。お互い惚れてるならはよくっつけっての。じれったい」
琉那ちゃんの言い分に、あたしは苦笑いするしかなかった。でもこれが琉那ちゃんなりの優しさの表現でもあるって、最近段々と分かってきたんだ。
「それにしても、あのそよちゃん。スタイルめちゃくちゃいいわね…モデルみたい…」
琉那ちゃんが感心したように呟く。
「ねー!顔ちっちゃいよね!手足もスラッと長くて、リアルで八頭身あるよね!?身長高くて親近感なのも嬉しい!」
あたしは思わずテンションが上がって琉那ちゃんと手を取り合って騒ぐ。
「まったく…今日のビーチは天国なの?まひるんアレ見てよ?」
琉那ちゃんが海から出てこちらにやって来るウィンドたち一行に親指をクイッと向ける。
「おーい!まひるちゃーん、琉那ちゃーん!」
ウィンドが可愛らしく手を振っている。
「ウィンド…濡れたツインテがいつもより大人っぽくて、コレもありだ〜」
「そうね…細いけど出るべきところは徐々に出始めている……可能性は無限大ね……」
あたしたちは海から上がってきたウィンドたち一行を、キラキラした目で出迎えた。
「見てよ琉那ちゃん。あのファイアの引き締まった体!赤いビキニが似合いすぎでしょ?」
「あの子がプレイキャラだったら私絶対ビキニアーマー着せてるわ…」
「でしょ!?ファイアは絶対ビキニアーマー似合うよね?ポニテでイケメンは反則だよ〜!」
「まったくだわ」
琉那ちゃんと二人で、ファイアの水着姿を堪能する。
「ふー!結構泳いだぜ!ちょっと休憩っと!」
「まひる?飲み物頂きますね?」
ファイアとマリンがあたしたちの隣に腰を下ろす。
「まずいわ琉那ちゃん……マリンのパレオがはだけてるの!色っぽい…」
「確かに、性悪小娘にしちゃあ今日は随分と可愛らしいじゃない…あと、それは普通に教えてあげて?」
あたしたちの視線にマリンが気付く。
「ん?どうかした?」
「マリンの水着、良く似合ってるなーって。パレオ、直してあげるね」
あたしはほどけたマリンのパレオを直してあげる。
「ありがとうまひる」
「こちらこそありがとう〜」
あたしは満面の笑みで変な返しをした。
「まひるん!」
「今度は何ッ!?琉那ちゃん!」
「ち、地球が、歩いてくる……!」
「まさか…!?あのお姿は…アース!!」
「まひるさん、琉那さん。荷物番ありがとう御座います。代わりますね」
アースがあたしたちに手を振りながらこちらに歩いてきていた。
「…ミロのヴィーナスの原型ってこの子なんじゃない!?」
「等身大美少女フィギュアに命が宿ったのかと思っちゃった…!」
もはやあたしたちは目に映る全ての可愛いものにコメントしていた。
「そ、そんなに見つめられると照れますね……」
アースはそう言いながらも、満更でも無さそうに頬を赤らめる。
「120点ッ!」
「100点満点中300点ッ!」
「ほ、本当にどうしたんですか!?」
アースは困惑しながらも嬉しそうに笑った。
「まひるさん、琉那さん。浜辺でマッタリ寝転ぶのもいいですね」
飛鳥ちゃんが空いてたレジャーシートの上にゴロンと寝転んだ。
「いやはや、これはもう…お金払うべきなのかな?」
「本当に……ルパンだったらダイブしてるわよ…」
「へっ?」
飛鳥ちゃんが変なスイッチが入っているあたしたち二人に困惑の表情を浮かべる。
「あはは!さっきからまひるちゃんと琉那ちゃん、みんなの水着見て可愛い可愛いって、面白いんだ!」
そんなあたしたちをウィンドが一笑に付してくれた。
「いやだって、可愛いんだもん!」
「うん。若さの暴力が痛いわ…」
「そんなこと言って、琉那ちゃんだってとっても可愛いよ!それ脱いで一緒に遊ぼ!」
ウィンドが琉那ちゃんの手を引き砂浜へ掛けていく。
「あ!ちょっと!私泳げないからッ!」
「じゃあ砂遊びしよ!あはは!」
ウィンドの笑顔に当てられたのか、琉那ちゃんは着ていたラッシュガードを脱ぎ
「…もう。仕方ないわね!」
とウィンドと一緒になってはしゃぎ始めた。
「あらあら、若いですねぇ…」
「本当ですね…」
飛鳥ちゃんとアースが顔を見合わせて微笑む。
あたしたちはその後、海で遊んだり砂のお城を作ったりビーチバレーをしたりして楽しい時間を過ごした。
「そろそろシャワー浴びて帰ろっか?また明日も時間見て来てもいいしね」
あたしがみんなに呼びかけると、みんなが賛同してくれた。
「そうですね。明日からのこともありますし、今日は十分遊びました」
アースが笑顔で頷く。
「うん!じゃあお兄ちゃんがやってる海の家にシャワーあるから、そこで浴びて帰ったらお風呂直行だー!この時間なら貸し切りだよ!」
あたしは砂浜をみんなを連れてお兄ちゃんがいる海の家へと歩き出す。
「海の家って夏の間だけでしょ?まひるんのお兄さん、それ以外の時は何してるの?」
隣を歩く琉那ちゃんが訊いてきた。
「お母さんと一緒に旅館の厨房やってるよ。調理師なんだ」
「そうなんですね。まひるさんのご家族は皆さん料理が得意なんですね。素晴らしい」
アースからも称賛の言葉と笑顔が返ってくる。
「いや、そんな大層なものじゃないよ〜?お母さんの料理は確かに美味しいけど、あたしなんて料理が好きなだけでまだまだだし」
あたしは少し照れ臭くなって頭を掻いた。
そんな会話をしながら歩いているうちに、お兄ちゃんの海の家の前まで来た。
「こんにちはー。シャワー空いてますか〜?」
あたしは店内の状況を伺いながらそっと声を掛ける。
あたしの声を聞いたお兄ちゃんが奥のカウンターから勢いよく首をあたしの方に向けた。
「まひるかッ!」
お兄ちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべると、あたしの方へ駆け寄ってくる。
「久しぶりだなッ!元気だったか!?くあ〜!その水着も可愛いなッ!」
お兄ちゃんは興奮気味に捲し立て、あたしの水着を見てオーバーに頭を押さえるリアクションをした。あたしは咄嗟に自分の胸元を腕で隠す。
「…お兄ちゃん、その、友達もいるからね?」
あたしが顔をしかめると、お兄ちゃんは周りを見渡しゆっくりと平静を装う。
「やあ、いらっしゃい」
お兄ちゃんはみんなに向き直ると、爽やかな笑みを浮かべて挨拶をした。
茶髪を短く揃え、焼けた肌で割りと身長もある一見爽やかそうなこの人があたしの三つ年上のお兄ちゃん、相川旭。
「は、初めまして…」
みんなが少し引いて挨拶をする。
お兄ちゃんはみんなを眺めながら
「おいおいなんだいなんだい!?ハーレムなのか?美人がこんなに寄ってたかって…」
と、呆けた声を出して訊いてくる。
そしてその目はその中にいた唯一の男子、ザコタ君をロックオンした。
「少年ッ!君のハーレムなのか!?どうやったらこんな状況になるんだよ!?一つコツを教えてくれないか?あ、うちのまひるはやらんからな!」
お兄ちゃんはザコタ君の肩をがっしと掴み、問い詰める。
「あ?い、いや、違ッ!!」
流石のザコタ君もお兄ちゃんの勢いに動揺を隠せない。
「お兄ちゃんッ!」
あたしはその辺にあったお盆を取り、お兄ちゃんの頭目掛けてチョップをかました。
「おうッ!はははッ!冗談ジョーダン!」
お兄ちゃんは頭を押さえながら豪快に笑った。
「…何だかスゴいお兄さんね?」
琉那ちゃんが苦笑いを浮かべている。
「あはは…本人、悪気はないんだよ?」
あたしは乾いた笑いを浮かべながら、とりあえずみんなにシャワーの場所を教えた。
「あのさ、お兄ちゃん。あたしたち今日から五日間実家にお世話になるんだけど、その間海の家でお手伝いさせて欲しいってこの前話したでしょ?」
あたしはお兄ちゃんに話し掛ける。
「ああ、もちろん構わないぜ?難しい仕事はさせないよ。気分的に向こうが程よく働いたなーって思えるくらいでいいよな?あ、勿論バイト代出すぞ?」
お兄ちゃんは昔から人が好くて、あたしのお願いは割りといつも快く聞いてくれる。
「いつも甘えちゃってごめんね。ありがとう」
あたしはお兄ちゃんに頭を下げた。
「あー、いいってことよ!俺たちゃ家族だ。家族に甘えないで誰に甘えるってんだ?」
お兄ちゃんはそう言ってあたしの背中をバシバシと叩く。何だかんだであたしはこの少しバカでシスコンだけど、優しいお兄ちゃんのことが好きだった。
そんな話しをしていると、シャワーを浴び終えたファイアたちの姿が見えた。
「あ!ほむら!ちょっといい?」
「ん?何?」
あたしはファイアを呼び寄せた。
「お兄ちゃん!明日からお世話になるほむらだよ」
あたしは笑顔でファイアを紹介した。
「おお!君がほむらちゃんか!俺は旭!よろしくな!」
お兄ちゃんは嬉しそうにファイアの肩を掴む。
「可愛いなぁ!よくまひると仲良くしてくれてるんだってな!こいつ根は優しいけど、割りと人見知りするタイプだからさ。これからもよろしく頼むよ?」
お兄ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
「あ…う、うん」
ファイアは少し困惑したように頷いた。そしてあたしの耳元でこっそりと話しかけてくる。
(あのさ、まひるちゃん?)
(何?)
(あ、あた、あたし!可愛いって言われちゃった…!)
(あ!ああ〜…)
見ればファイアは耳まで赤くして俯いてしまっている。
「あの!お兄ちゃん?」
「ん?なんざましょ?」
「あたしはお兄ちゃんのそういう軽いノリ慣れてるけど、あたしの友達は、その、割りとピュアだからさ。余り気安く可愛いとか言ってあげて欲しくないの!」
「え、何で?」
お兄ちゃんは訳が分からないというように首を傾げた。
「だーかーらー!可愛いなんて言葉、ほむらみたいな純真な女の子に軽々しく言ったらその気になっちゃうかも知れないでしょ!?」
あたしは少しイラッとした口調になる。
ファイアはあたしの大事な友達だ。あたしと同じように、いや、それ以上に正義感が強い真面目な子だ。
そんなファイアが変に勘違いして悲しい思いをするなんてことだけは見過ごせなかった。
「分かった分かった!俺が悪かった。ごめんなほむらちゃん?別にからかったわけじゃないんだ。気を悪くしないでくれよ?」
お兄ちゃんはそう言ってファイアに頭を下げた。
「あ…い、いや。軟派な奴は嫌いだから、大丈夫…」
ファイアは照れ隠しからか、そんな事を言って頭を掻いた。
「あちゃー!嫌われちゃったかな!?でもまあ、明日からよろしく頼むよ!人手がいてくれるとホント助かるからさ!」
お兄ちゃんはそう言って苦笑いを浮かべた。
「あ……う、うん。こちらこそ、よろしく」
ファイアは戸惑いながらも頷く。
「あのさお兄ちゃん!お兄ちゃんて昔から格闘技やってたよね?」
あたしは思いきってお兄ちゃんに聞いてみた。
「うん?ああ、空手な。今でも趣味で続けてるぜ?」
お兄ちゃんは腕を組むと筋肉をアピールするポーズをした。
「えっとさ、ほむらも格闘技好きなんだ!空いてる時間に少し稽古見てもらっていいかな?」
これはここに来る前にみんなにお兄ちゃんの事を話したら、ファイアが是非手合わせしたいと言ってたことだ。
今のファイアじゃ自分から言い出せそうになかったので、あたしから切り出してみた。
「俺が道場行ってたの高二くらいまでだぞ?そんなんでもいいなら別に構わないが…」
お兄ちゃんは少し考え込む。
「あ!あたしからも!是非!」
ファイアが緊張しながらも手を挙げる。
「俺からも!頼みたいッ!」
ファイアの後ろから話しを聴いていた風なザコタ君が手を挙げた。
「あらま、少年まで?」
お兄ちゃんはびっくりしたような顔をした。
「お願いです!お、俺も強く、なりたいんだ!」
ザコタ君は拳をぎゅっと握りしめて言った。
「俺とそよにもこの店の手伝いをさせて欲しい!相川、まひる、さん…のお袋さんから宿泊費はいらないって言われてしまって、流石にそういうわけにもいかなく、俺たちに出来ることは何でもする!だから俺も鍛えて欲しい!」
「ノリが体育会系なんだよ二人とも…まあ、嫌いじゃないけど」
お兄ちゃんは戯けたあと笑顔で二人を見た。
「分かった!店の手伝いもしてもらって、空き時間にゃ少し組手を見る!こっちとしても大助かりだ」
お兄ちゃんはそう言って親指を立てた。
「やった!」
ファイアは驚いて目を丸くし、嬉しそうな顔であたしを見る。
「あー、じゃあ俺からもお願い!みんな明日からの手伝いには水着で来てね。少年も海パンな?」
「へ?」
ザコタ君初め、ファイアとそよちゃん、あたしまでもが面食らった顔をした。
【次回予告】
[まひる]
あ〜!みんなの水着姿、可愛かったな〜…
こんな嬉しいことで強くなれるなら願ったり叶ったり!
ねえ?ところで琉那ちゃん?
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第二十六話「この世で一番長い夏」
あーッ!この歳で未だにコンプレックス!
――――achievement[水着回]
※まひるがみんなの水着を視姦した。
[Data12:進一と陽子【四】]がUnlockされました。




