第二十四話「サマーバケーション」
各々が着替えや荷物が入った鞄を肩に掛ける。
「みんなー、準備はいい?」
あたしは今日の天気に負けないくらい元気一杯に声を掛ける。
「バッチリです!」
「いつでも行けるぜ!」
アースとファイアが返事をする。
「はい、出られるよまひる」
「大丈夫だよー!」
マリンとウィンドも元気よく返事をしてくれた。みんな大丈夫そうだ!あたしは一つ頷くと玄関の扉に手を掛ける。
扉の先では夏らしい青々とした空と照りつける太陽があたし達を出迎えてくれた。
今日からみんなであたしの実家がある海辺の民宿へ帰郷を兼ねて遊びに行くことになっていた。
「じゃあルナさんとの待ち合わせ場所まで行くよー、しゅっぱーつ!」
「「「「しゅっぱーつ!!」」」」
四人娘が溌剌として声を揃えた。
『超次元電神ダイタニア』
第二十四話「サマーバケーション」
――流那は仏壇に手を合わせていた。
線香の煙が立ち昇っている。
(お父さんお母さん、いってきます)
そこへ祖父母が顔を出し声を掛ける。
「流那、お友達と楽しんでおいでね」
「あたしたちのことは何も心配いらないよ。まだまだ気持ちは若いんだから」
「うん!ありがとうおばあちゃん、おじいちゃん!少し家を留守にするけど、何かあったら直ぐに電話ちょうだいね?」
流那は元気良く返事すると、鞄を手に取り立ち上がる。
そして玄関に向かい、勢いよく扉を開けると真夏の日差しの中元気よく駆け出していった。
「いってきまーす!」
――飛鳥は小さ目のキャリーケースの中身を確認し、そのフタを閉じる。
「着替えよし。持ってきてくれてありがとう」
飛鳥は振り返りながら髭を蓄えた壮年の大柄な男性に声を掛けた。
「本当に付いて行かなくて大丈夫か?」
先日、アスクルと呼ばれていたその男性が心配そうに訊いてきた。
「まひるさんともゆっくりお話ししてみたいし、女の子だらけの所に、一人だけおじさんがいてもおかしいよ」
飛鳥はアスクルに向かい笑って答えた。アスクルはそんな飛鳥の姿を見て少し心配そうな顔をした。
「そう……だな」
「じゃあ、行ってきます!」
飛鳥はアスクルに挨拶すると、改札へと向かう。
「気を付けてな」
去り行く飛鳥の背中にアスクルは少し寂しげに声を掛けた。
――ザコタとそよは次の目標である、『SANYを見付けて倒す』という漠然とした目標に向け、思案していた。
「取り敢えず、どこに向かったらいいのか見当が付かない…そよ、どこか行きたいとこあるか?」
ザコタが隣のそよに顔を向け訊く。
「う〜ん…あ!じゃあ私、海が見てみたいです!」
そよは明るい笑顔でザコタに答えた。
「海か……わかった。じゃあ一先ず地の利のある千葉へ戻るか。その途中、またいつもの様に修行しながら情報を集めるぞ!」
ザコタはそよの笑顔に釣られるように笑顔で答えると、次の目的地へと足を向ける。
「うん!ありがとう進一くん!楽しみだね!」
そよは嬉しそうにザコタの後を付いて行く。
――視点はまひるたち一行に戻り
「あ!ルナさん!おはよう!」
待ち合わせの駅のホームでルナさんの姿を見つけ、あたしは小走りに近付き声を掛けた。
「おはようまひるん!あなたたちも」
ルナさんは元気な声で返事を返してくれた。
ルナさんの今日の服装は、肩出しの白いワンピースに、白いつば広の帽子を被り、足元は涼しげなサンダル。髪はいつも通りに一本に三つ編みにしていた。
やっぱり普段のルナさんはこっちの感じなのね。清楚可愛い!
「ルナちゃんおはよー!」
ウィンドがあたしの後ろから元気に挨拶する。
「今日のお洋服、可愛いね!スタイルの良いルナちゃんによく似合ってる!」
「ありがとう。おませちゃんの服も爽やかで可愛いわよ。今日はよろしくね」
二人はお互いににこやかに褒め合っている。
「あたしの実家までなんですけど、電車で行ってもいいですか?」
あたしはルナさんに声を掛けた。
「そうね。《瞬間転移》で一瞬で着いちゃっても味気無いし、旅行気分満喫しながら行きましょ」
ルナさんが楽しそうに答える。
「ありがとうルナさん」
あたしはルナさんに笑顔で返事をすると、ルナさんが
「あのさまひるん、私の方が歳下なんだし敬語いらないよ?名前も呼び捨てで構わないし」
と言ってきた。
「あ、じゃあ…流那ちゃん、改めてよろしくね」
あたしは少し照れながら流那ちゃんに笑顔で答えた。流那ちゃんは「ん!」と一言頷くとあたしの手を取り、到着した電車に一緒に乗り込んで行った。
女子六人が賑やかに電車に乗り揺られている。
地球を外敵から護る為にこれから修行をしに行く一行の図、に誰が見えよう。
目を引くとすれば、アースの綺麗なブロンドの髪や端正な顔立ち。
ウィンドのアイドル級に可愛らしいクリっとした大きな瞳。
マリンのスッと伸ばした背筋が美しい佇まい。
ファイアの美人ながらも男女問わず惹き込んでしまいそうな魅惑的な眼。
そんな四人の日本人離れした整った容姿にこそ目が行くが、その胸の内の使命なぞ、誰も知る由は無い。
あたしは内心、今回の里帰りが楽しみで仕方が無かった。地球がどうかなっちゃうかも知れないって時に不謹慎かも知れないが、みんなと出会えて、こうして一緒に旅行にも行けて、とても幸せだ。
あたしは膝の上に乗せたバッグをポンポンと叩き、中に入ってるみんなの装備品を思い浮かべながら、ニマニマしてしまうのだった。
「まひるお姉ちゃん、なんか楽しそうだね!」
ウィンドがあたしの方に笑顔を向けてきた。
「うん!みんなと一緒ってだけで何だか楽しくて」
あたしも笑顔で元気よく答えた。
「僕も楽しみです。まひるの育ったご実家、とても興味があります」
マリンも優しい笑顔を向けると、あたしに話し掛けてきた。
「うん!あたしの家はそんな大きな旅館じゃないけど、お風呂はすごく広くてさ!久し振りに楽しみ」
あたしはマリンに笑顔で返事をした。
「なあなあ!早くまひる様んち着かないかなぁー?」
ファイアがワクワクした様子でアースに話し掛ける。
「そうだな、電車はあと三十分くらいだろうか。それはそうとファイア、まひる殿のご家族の前ではもう少し丁寧な言葉遣いで頼むぞ?いつもまひる殿にも言われているだろう?女子たるもの慎ましく可愛らしくあれと」
「はいはい分かりましたよー」
ファイアは面倒くさそうに返事した。
「あはは。うちの事はそんなに気にしないでもいいけど、ファイアはもう少し女の子らしくした方がモテるかもよ?」
あたしはファイアに笑いながら冗談でそう話し掛けた。
「も、モテっ!?モテるって俺が誰にだよッ!?冗談キツいぜまひる様ぁ〜」
ファイアは顔を真っ赤にしながら、少し慌てた様子でアタフタしていた。
そんなやり取りを楽しみながら、あたしは電車に揺られて行ったのであった。
実家の最寄り駅に着くと、先程着いたと連絡をくれた飛鳥ちゃんがホームで待っていてくれた。
「飛鳥ちゃん!アキバ以来だね!会えてよかった〜」
「はい!こんにちはまひるさん、皆さん!今回もよろしくお願いします」
飛鳥ちゃんは笑顔で挨拶してくれた。
「こちらこそよろしくお願いします」
他のみんなも飛鳥ちゃんに挨拶を返す。
早速ウィンドと無邪気にハイタッチをしている飛鳥ちゃん。
その後、実家までは歩いて十分程度の道のりをあたしたち七人は楽しくお喋りしながら歩いていったのだった。
「わぁー!ここがまひるさんのご実家ですか?立派な旅館ですね〜」
飛鳥ちゃんが感嘆の声を上げた。
「はは、ありがと。お祖父ちゃんの頃からだから、まぁ、古いけどね?」
あたしは苦笑しながら答えた。
久し振りに帰ってきたその旅館の庭先には『旅館あい川』と書かれた看板が立ち、庭の片隅の花壇には綺麗に手入れされた季節の花が咲き誇っている。
玄関の方を見てみると『あい川』と書かれた暖簾がかかっているのが見えた。変わってないなー。
「みんな、今日は遠い所来てくれてありがとう。えーと、自分で言うのも恥ずかしいんだけど、ここがあたしの実家です。ゆっくり寛いでもらえたら嬉しいな」
あたしはちょっと照れ臭かったので、照れ隠ししながらみんなに向かって挨拶した。
「良い所ね。まひるん、お世話になります」
流那ちゃんはニッコリと微笑みながらお辞儀をし、
「お招きありがとうございますまひるさん」
飛鳥ちゃんも丁寧に挨拶してくれた。
四精霊たちも各々に感動している様子だ。
あたしたちが玄関の戸の前でワイワイしていると、突然玄関の戸が勢いよく開いた。
「………………まひる、か」
無精髭を生やした強面のおじさんが難しい顔をして開けた戸を掴んでいる。
あたしの、お父さんだ。
「お、お父さん……!ただいま?」
お父さんはそれだけ言うと、背を向けまた旅館の中に戻って行く。
「おい母さん!まひるが帰ったぞ」
中からそんな声が聞こえた。
「あれ?お父さん、こんな時間に家にいるの珍しい…漁、早かったのかな…?」
あたしはいるとは思ってなかったお父さんに出鼻を挫かれ、ちょっと呆然としてしまった。
しかし、すぐに再起動して開いた戸からみんなを連れて中に入ったのだった。
「た、ただいま〜」
今は昼時なので丁度宿泊客が履けている時間帯だ。あたしは正面玄関からそのまま声を掛けた。
奥からお母さんがやってくるのが見えた。その後ろにはお父さんもいた。
「まあまあ、皆さんよく来たわね。いらっしゃい!まひる、おかえり。さあ皆さんを案内してあげて?お部屋は大部屋でよかったわよね?」
お母さんはニコニコしながら話し掛けてきた。
「う、うん。その予定だけど……え?お母さんが出迎えてくれるの珍しくてびっくりなんだけど……?」
「ふふ、たまには私だってね。さあ、皆さんどうぞ上がってくださいな」
お母さんも笑顔で歓迎してくれているみたいだ。みんな顔を見合わせて少し戸惑っているようだったけど、みんなでゾロゾロと靴を脱いで旅館の中に入っていった。
「おじゃましまーす」
みんなで泊まる大部屋に荷物を置き、
一息ついたところでお母さんがお茶を淹れてくれた。その後ろにお父さんもついてきている。
「忙しいのに時間割いてくれてありがとう。ところで、お父さん今日、漁は?」
あたしはお母さんのお茶を受け取りながら気になっていたことをお父さんに訊いた。
「行ってきた…」
「え?もう!?卸も?」
「済んだ…」
お父さんはちょっと強面で余り喋る方ではなく、人からは勘違いされがちだけど、これで実は恥ずかしがりで優しいのだ。昔から一緒にいたあたしにとっては慣れ親しんだ普通の会話だ。
「うふふ。お父さんったらね、まひるが帰って来るからっていつもより早く漁に出てね?昼寝もせずに待ってたのよ?」
お母さんがそう告げ口すると隣から「言わんでいい」とすかさずお父さんのツッコミが入る。
相変わらず和ませてくれるやりとりだ。
「ふふ、そうなんだ。ありがとねお父さん!」
と、あたしが言うとお父さんは「…ああ」とだけ短く返す。
お兄ちゃんがいないが、この時間は海の家だろう。うちは旅館の他に海水浴シーズンに海の家もやっていて、今はそこはお兄ちゃんが任されている。
「じゃあ、さ。あたしの友達を紹介してもいいかな?」
あたしは自分の後ろを見遣った。
みんなもお母さんやお父さんに興味津々で、ちょっと緊張している様子だ。特に飛鳥ちゃんはガチガチに緊張してカチンコチンだった。
「ええ、大歓迎よ?」
お母さんは相変わらずニコニコしながら快諾してくれた。
「えっと…これからあたしが言うことは信じられないかも知れないけど、お父さんとお母さんには嘘は付きたくないから、出来たら、信じて欲しいの…」
あたしはそう前置き、精霊たちのことは和名で、世界の危機だけには触れず話し始めた。
ここに来る前に、家族には本当の事を話したいとみんなにも伝えていた。みんなは少し不安がっていたが了承してくれた。
最初二人は何のことを言っているのか分からない顔をしていたけど、あたしが話し、みんなが自己紹介をしていく内に真剣な顔になって聴いてくれていた。
「………つまり、あなたがやってたゲームから出てきたのが球子ちゃん、風子ちゃん、万理ちゃん、ほむらちゃんでぇ、そのゲーム友達がこちらの流那ちゃんと飛鳥ちゃんね?」
お母さんが自分の頭の中を整理するように訊いてきた。
「うん、そう」
飛鳥ちゃんは本当はそのゲーム友達の娘さんだけど、そこまでの説明はまあいいだろう。あたしは頷いた。
「……………」
お父さんは相変わらず黙ったままだ。
その顔はやはり困惑気味だ。
「でも、まひるの友達だし……それにこの子達とっても可愛いから、信じちゃうかも知れないわね?」
お母さんは優しく笑いかけてくれる。
「うん!」
あたしは元気よく返事をした。
「…まひるは昔から嘘をつくのは下手だ。俺たちに友達を紹介するのに、わざわざこんな嘘をつく必要もないだろう」
お父さんがようやく口を開いた。
「それもそうね」
お母さんも同意して頷く。
「……じゃあ、信じてくれるの?」
「ああ…」とお父さんは短く答える。その答えにあたしは思わずガッツポーズを取った。
「ありがとう!お父さん!お母さん!」
「娘の友達を紹介されて、お前がありがとうってのも変だろう?何も無い旅館だがゆっくりしていくといい」
そう言ってお父さんが立ち上がる。
「あっ、おじ様!ありがとう!」
マリンが立ち去ろうとしていたお父さんに声を掛けた。
「おじ様もおば様も、僕たちのことを受け入れてくださって、ありがとう。あ、あれ?」
そう言ったマリンの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「あ、あれ?なんでだろう?これ…涙?」
何で涙が溢れたのか分からないマリンの両肩に、アースがそっと手を置く。
「自分たちは出自が特殊ゆえ、お慕いしているまひる殿のご家族に受け入れて貰えなかったら……その様な不安がずっと御座いました…快く受け入れて頂いた今、緊張の糸が切れたのでしょう。改めて、ありがとう御座います」
アースは指でマリンの涙を拭いながら、二人に深々と頭を下げた。
それを見てファイアとウィンドも頭を下げる。
「お、俺…じゃなくて…あ、あたしも!まひる様と一緒にいられてすごく嬉しい!まひる様のご、ご両親に会えて、そのことも、すごく、嬉しいんだ!」
ファイアはその瞳を潤ませながら、それでも必死に笑顔を作って見せた。
「この世界に来て、まひるお姉ちゃんにはずっとお世話になりっぱなしで……家族のように接してくれるのがすっごく嬉しくて……まひるお姉ちゃんはとっても優しくて……あ」
ウィンドの瞳からも涙がこぼれ落ちた。
「あ、ああ……これが、涙?初めて、泣いてる?」
ウィンドがマリン同様初めての涙に戸惑っている。飛鳥ちゃんがウィンドにハンカチを差し出してくれていた。
「…気持ちは十分伝わったよ。娘と仲良くしてくれて、ありがとう」
とお父さんが言うと、みんなもホッとしたように笑った。
「じゃあ俺は少し寝る。後のことは母さんに聞いてくれ」
そう言いながらお父さんは部屋から出て行った。
「あれね?照れてるだけだから気にしないでね?うふふ」
お母さんが笑いながら言う。
「お父さん、まひるがたくさんお友達連れて来てくれて嬉しいのよ。もちろん私も!改めて歓迎させてね」
お母さんは笑顔であたし達を迎え入れてくれた。
「ありがとう、お母さん!」
あたしは思わずお母さんに抱きついた。
「……で、まひる?あなた、お友達に自分のことなんて呼ばせてるのよ……そこは聞き捨てならなかったわよ?」
あ、お母さん怒ってる!
昔から怒る時も笑顔のまま怒れる人だからなぁ……
「あ、あの!そのことについてはあたしも割りと言ってきたんだよ?でも、みんながその呼び方が良いって言って!」
あたしは慌てて言い訳をする。
「言い訳しない!お友達だからこそ、そういうの、大事よね?」
「…はい」
久々のお母さんの迫力に圧され、あたしは小さく頷いた。
「まひるのこと、気軽に呼んであげて!そんな大層な子じゃないんだから」
「で、でもお母さん!」
あたしの反論は虚しく遮られる。
「言い訳しない!」
「…はい」
しょんぼりしたあたしにお母さんが追い打ちをかけてきた。
「じゃあ!風子はまひるちゃんって呼ぶね!」
ウィンドが明るい笑顔で言った。
ああ、あたしの“お姉ちゃん呼び”……
「僕は…今のまま、まひるでいいかな?」
「うん…」マリンは最初から呼び捨ててくれていたけど、なんか一番その呼び方がしっくり来る子だったな…
「あ!えーと、お、あたしは…」
ファイアが密かにウィンドのお姉ちゃん呼びに憧れてたの知ってるよ?でも恥ずかしがって絶対呼び方変えないだろうと思ってたから、敢えて言わなかったけど…
「ま、まひる、おねぇ……いや!あ、あたしも、まひるちゃん、が、いい……」
頬染め上目遣いありがとうございます!
「うん!いいよ!」
美人なのに時々物すっごい可愛いんだよなぁファイアって。
「自分、いや、私は…まひるさん、で」
アースが奥ゆかしく控え目に言ってきた。あたしも『アースさん』って呼ぶよ!?
「うん。まだ少し堅いけど、改めてよろしくね、球子」
あたしが手を差し出すと、アースは両手でぎゅっと握りしめてきた。
「はい!まひるさん!」
アースが感極まったように言う。
ああ……この子やっぱり可愛いなぁ!外見の年齢はあたしとそんなに変わらないのに、仕草や表情が一々ピュアなのよね!
あたしは思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、なんとか我慢した。
「まあいいでしょう。あなたたちも気兼ねなんてしなくていいから、ゆっくりしていってね!」
お母さんの呼び掛けにみんな笑顔で答えていた。
その時、あたしのスマホの着信音が鳴った。この音は『ダイタニア』のボイスチャット?
「あ!ちょっとゴメン!はい、もしもし?」
『……………』
ん?無言?表示されている相手の名前を見る。『ザコタ』と表示されていた。
「ザコタ君?どうしたの?」
『…あ、いや……相川まひる、だな?風待から千葉で宿をやっていると聴いてな……その……』
「ん?」
何か言い淀んでいるみたいなザコタ君。
『その、だな。そよ、いや、うちのツレが海に行きたいと言い出して…何なら相川まひるの宿に泊まりたいとか言い出して、だな……ああ!もちろんこの時期だ!空いてないよな?だから他を当たろうかと』
「ちょっと待ってね!お母さん、あと二人泊まらせたいんだけど、部屋空いてるかな?」
何か言っているザコタ君をよそに、あたしはお母さんに訊いた。
「まひるのお友達?」
「うん。友達の、カップル!」
「二人一部屋で良いなら用意出来るわよ?」
「ありがとうお母さん!」
あたしはお母さんにお礼を言って、ザコタ君との通話に戻る。
「もしもし?」
『……空いてないよな?』
「空いてるよ。二人一部屋で良いなら」
『な!?……あ、ああ、そうか。済まないが泊めさせてもらえるだろうか?』
なんか変なところで言葉が裏返ったなあ。
「大丈夫だよー」
『…恩に着る。また借りが出来たな』
「そよちゃんだよね?一緒に来る子?」
『……風待から聴いたのか?』
ザコタ君は少し警戒するように訊いてきた。
「そんなところ。来たらさ、紹介してね?ザコタ君の彼女さん!」
あたしは少しからかい口調で言う。
『かッ!?お、俺とそよはそんなんじゃッ!!』
「じゃあね!待ってるよー」
あたしは一方的に通話を切った。
何だか面白いことになってきたぞ。
まさかあたしの実家に『ダイタニア』の現役プレイヤーが勢揃いするなんて、ね。こんなことなら風待さんにも声掛ければよかったかな?でも忙しいか!
「あなたたち、お昼まだでしょ?何か軽く作ろうか?」
お母さんが訊いてきた。
「あ、いえ、我々は……」
アースが遠慮しようとするのを遮り、
「やったあ!あたし、お母さんのご飯大好き!」
あたしは真っ先に答えた。
「まったく、家に帰ってきた途端、甘えるんだから。ちょっと荷解きしながら待ってて」
お母さんが苦笑しながら厨房に向かう。
「あ、あのっ!お手伝いさせて頂きます!」
アースが慌てて立ち上がりながら申し出た。
「いいのよ、お客さんなんだから」
「いえでも!」
お母さんは今度はちゃんとアースに向き合って
「球子ちゃん、ここは旅館。御もてなしするのが私たちの役目なの。それが例え、娘のお友達でも、ね?」
優しく微笑みながら言った。
「わ、分かりました……」
アースは少し恐縮した様子で座り直した。
「…いいわね、まひるんち。お父さんもお母さんも優しそうで」
流那ちゃんがポツリと呟いた。
「うん、いい家族だよ」
あたしは笑顔で流那ちゃんに答えた。
「…本当、羨ましいです……」
飛鳥ちゃんが、呟くように言った。
「飛鳥ちゃん?」
あたしは違和感を覚え、飛鳥ちゃんに声を掛ける。
「あ、いえ!何でもありません!」
慌てて取り繕うような仕草をする飛鳥ちゃん。
うーん、何か変な感じがするなあ。
そこへお母さんが料理を運んで来てくれた。
「お待たせ!簡単なものしかないけど」
そう言ってお母さんは手早く料理を並べ始めた。
「わあっ!おいしそう!」
あたしは思わず声を上げる。
お母さんの料理は、何でも美味しいのだ。
「遠慮せず召し上がれ」
笑顔で言うお母さんに、あたしたちは思い思いに箸を伸ばした。
「ごちそうさまでした!」
昼食を済ませ、下膳したあたしたちは練ってきた計画について話し出した。
「さて、今回の強化合宿!あ!飛鳥ちゃんは軽く聞いてくれればいいからね?強化合宿について、考えてきました!」
あたしは胸を張って、皆を見回した。
「旅館の手伝いをしながらみんなの絆も深められる、その名も一石二鳥作戦!」
「…そのまんまね」
と琉那ちゃんから冷めたツッコミが横から入る。あたしは苦笑いを浮かべながら続けた。
「えーと、まずは幾つかのチームに別れます。お母さんと旅館内を手伝うチーム、お父さんと漁を手伝うチーム、お兄ちゃんと海の家を手伝うチーム!家族には既に話してあるよ!」
「なるほどね。タダでお世話になるのは流石に悪いと思ってたから、私は構わないわよ」
流那ちゃんが髪を耳の上にかき上げながら呟く。
「そう!それで何日か過ごす中で色々な問題が出てくると思うからそれをみんなで解決する!例えばお手伝いのやり方とか、人間関係のトラブルとか、そんな感じでどんどん仲を深めていくの!」
あたしは意気揚々と言う。
「まひる、さんの旅館にも貢献出来て、とても良い案だと自分も思います!」
アースが右手をちょこんと上げて賛同してくれる。
「ありがとう!みんなはどうかな?」
あたしはみんなに問いかけた。
「私はいいと思います!」
あたしの言葉に、飛鳥ちゃんも頷く。
他の精霊ズも問題ないと言った顔付きで頷いてきた。
「じゃあ早速チーム分けしようよ!」
ウィンドが嬉々として言った。
「じゃあまずは、お母さんと一緒に旅館のお掃除やお料理のお手伝いやりたい人ー?」
あたしは挙手を促す。すると真っ先に飛鳥ちゃんとウィンドが勢いよく手を挙げた。
「はい!私やりたいです!」
「ありがと飛鳥ちゃん!それと風子も」
「まひるちゃんのお母さんとお料理してみたい!」
ウィンドが少し頬を紅くして手を上げた。
「あ、ちなみにあたしも旅館内を手伝うわ。何かあった時直ぐに動けるようにね!」
あたしはそう言ってウィンクする。
「では自分も旅館のお手伝いをさせて頂きます」
アースはそう言って手を挙げてくれた。
「オッケー球子!ありがと!お母さんのお手伝いはこのくらいかな?じゃあ次、お父さんと一緒に漁の手伝いね!船に乗るから苦手な人はやめておいてね」
マリンが姿勢良く手を上げた。
「水の精霊だからね、僕が適任かな?というか船に乗って海に出てみたいのがホンネ」
マリンが可愛らしく小さく舌を出す。
「ありがと万理!是非船の上から海を堪能してきてね!他にはいないかな?」
あたしはまだ決まっていない琉那ちゃんとファイアに目をやる。
二人とも何やら考え込んでいるようだった。
「…私、やるわ。いいえ、やらせて」
琉那ちゃんが顔を上げ、はっきりと言い切った。
「え、琉那ちゃん、悩んでる風だったけど大丈夫なの?」
あたしは少し心配そうに尋ねる。
「大丈夫よ。それに、これは私自身の修行だから」
琉那ちゃんは笑顔で答えた。
琉那ちゃんはマリンとちょっと相性が悪い感じがしてたけど、本人が大丈夫って言ってるし…
あたしは横目でそっとマリンを見ると、目が合った。マリンは真剣な顔付きで頷いた。
「ありがとう琉那ちゃん。じゃあ漁チームはこの二人かな?」
あたしは残ったファイアに目をやる。依然として悩んでいるようだった。
「ほむら?余り乗り気じゃないならいいのよ?あたしと一緒に行動する?」
あたしがそう声を掛けると、ファイアはハッとしてその顔を上げた。
「ち、違うんだまひる、ちゃん…俺さ、ガサツだし、荒っぽいし、ちゃんとお手伝い出来るかなって…逆に迷惑掛けちゃわないかって……」
ファイアは自信なさげに顔を伏せる。
「そんなことないわよ。ファイアのそういう所、あたしは好きよ」
あたしはそう言ってニッコリ微笑む。
「あ、ありがと!俺もまひるちゃんのこと大好きだよ!…じゃなくて!!その……」
ファイアは顔を真っ赤にして慌てふためく。そんな様子が可愛らしくて、思わず頬が緩んでしまった。
「ふふっ、大丈夫!みんなで協力すれば何とかなるわよ!」
あたしは拳を強く握りながら力説する。ファイアは少し考えると、普段の力ある瞳を向けた。
「俺!どこまで出来るか分からないけど、海の家ってところでやってみるよ!今まで家事も仲間やまひるちゃんに頼りっきりだったし、一人でどこまで出来るかやってみたくなった!」
ファイアは力強く言い切った。
「…分かった。でも無理だけはしないでね?今回の合宿は飽くまでみんなでやることに意義があるんだから。あたしも旅館が大丈夫そうな時は海の家に顔出すから、一緒にやろ?」
あたしは何とかファイアのやる気を削がないようにフォローする。
「う、うん!ありがとうまひるちゃん!」
あたしの思いが通じたのか、ファイアは力強く頷いた。
「よし!これで一応チーム決め出来たかな?別にこれで固定ってわけじゃないから、他にやってみたいお手伝いがあればいつでも交代しようね!」
あたしの言葉で全員が納得したようで、みんなコクンと頷いてくれた。
「それじゃチーム決めも終わったし、早速みんなで海に出発だー!!」
あたしは気合い十分に拳を天に掲げる。するとみんなもそれに続いて元気に声を上げた。
「おー!!」
よし!最初はちょっぴり不安だったけど、みんなとの夏合宿楽しみになってきた!あたしも頑張ってみんなを引っ張っていくぞー!
そんなことを考えていた夏の昼下がり、実家という安心感もあり、あたしは大いに浮かれた。
【次回予告】
[まひる]
実家に帰り羽根を伸ばすあたしたち!
今までの非日常は一旦お休みにしよーよ。
偶にはあたしもゆっくり癒やされたい…
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第二十五話「渚120%」
これが、夢にまで見た水着回ッ!
――――achievement[旅館あい川]
※まひるが四精霊たちと一緒に帰郷する。
[Data11:進一と陽子【三】]がUnlockされました。




