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超次元電神ダイタニア  作者: マガミユウ
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第二十二話「ザコタとそよ」

【登場キャラクター紹介】

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「儂は進一の父親、迫田源信(さこたげんしん)。いつも馬鹿息子が世話になってます」」

 そう言って風待(かざまち)さんのお父さんは頭を下げた。


「い、いえッ!こちらこそ風待さんにはとてもお世話になっています!あ、あたし!相川まひると言います」

 あたしに続きみんなも頭を下げ、簡単に自己紹介をした。


 そして客間に通されるあたしたち一行。突然大所帯でお仕掛けたというのに、笑顔で迎え入れてくれた奥様。

 冷たい麦茶が目の前に置かれ、あたしはありがたいなぁと思いつつ、風待さんの父親である源信さんに質問を投げかける。


「あの、何からお伺いしたらいいのか、正直混乱しています。風待さん……迫田さんは、一体……」


「まあ、まずはうちの馬鹿息子のことから話そう。それから、もう一人の進一についても、な」

 源信さんはそう言って麦茶を口に含んだ。



 ――時を同じくして、新宿BREEZE(ブリーズ)


「ふむ……何から話したらいいものか。正直今日の俺は少し混乱していてね。君と冷静なまま話せるかどうか…」

 風待は困ったように頭を掻くと、そのままサングラスを外した。


「えっ!」

 そよが風待の素顔を見るなり驚きの声を上げた。そよはその顔をまじまじと見つめながら、


「…進一、くん?」

 と小さく呟いた。


挿絵(By みてみん)

『超次元電神ダイタニア』

 第二十二話「ザコタとそよ」



「彼と似ているかい?」

 風待は優しい声でそよに問う。

 そよは尚も風待の顔を見つめながら

「うぅ〜ん…似てる、といえば似てますけど。進一くんよりシュッとしていて、まつ毛もバチっとしてて、イケメン?な気がします」


「イケメン、か。ふふ」

 そよの言葉に風待は穏やかな笑みを浮かべた。

「でも、やっぱり進一くんとは違います。進一くんはもっと可愛らしい顔です!」

 そよは、はっきりと言い切った。

「そうか、それは良かった……」

 風待はどこか嬉しそうにそう呟いた。


「君は彼のことをよく見ているな」

 そよは風待の顔から目を逸らし、俯く。

「……だって、進一くんのこと、大切だから…」

「ふむ、進一くん、か。その話もこの後しよう。まずは単刀直入に君のことを知りたい」

 風待はそよの瞳を見つめ、言った。


「浅岡陽子、という名前に聞き覚えは?」

 そよはその名前に聞き覚えはなかった。首を横に振る。

「そうか…君を初めて見た時、正直この目を疑ったよ。君はその浅岡陽子さんに瓜二つなんだ」


「あ、あの、そんなに似てますか?」

 そよは不安そうな顔で風待に聞いた。

「あぁ、そっくりだ。……いや、もう十年も前だ。俺の記憶も薄れている。背も君ほど高くなかったし、肉付きも良かったように思う…だが、顔だけはよく似ているんだ」

 風待は、自身の掌を見つめながらそう言った。

「大学の頃の先輩でね。よく面倒を見てもらったよ…」

 風待は昔を懐かしむように語る。


 そよは気になった事を訊いてみた。

「あの、その方は今はどちらに?」

 風待はそよの方を見ず、遠くを見たまま答えた。

「死んだよ。十二年前にね…」



 それから、そよは風待から昔の思い出話を聞いて少し涙ぐんでいた。

「さて、話が逸れたな。話を戻そう!君は『ダイタニア』から来た精霊と言ったね?この地球にはどのようにヒトの姿で顕現したか、またはさせられたか、覚えているかい?」

 そよは思い出すように視線をさ迷わせ、

「ええと……朧気にしか憶えてないんですけど、最初に視界が開けた時、私の他にもう一人女の人がいたような気がします…」

「なるほど、そのもう一人が誰か、分かるかい?」

 そよは首を振る。


「でも、どこか冷たく、悲しそうな声だったような…」

 そよは不安そうな顔で、呟く。

「ふむ……」

 そよの言葉に、風待は顎に手を当てて思案する。



『ザコタというプレイヤーからサニー発見の報告がありました』


「え!?」

 そよが突然驚いたような声を上げた。


『はい。プレイヤー名が同じで、何より…』


 これは、私の声だ。


『何より、四精霊を従えていました。こちらでも既に顕現しております』


 私は一体、誰と話して……?


『御意に…』


 私が進一くん以外の人に仕えていた!?なんでこんなビジョンが浮かぶの?

 そよは戸惑いながらも、風待の方に向き直る。


「あ、あの…!私やっぱりもう一人の誰かと話しをしてました!でも、その時の私は、何と言うか、今の私とは何だか違う感じで……上手く言えないんですけど…」

 そよは混乱しながらも、必死の思いで言葉を紡ぐ。風待はそんなそよの様子を優しく見守りながら、深く頷いた。


「君の言うもう一人の誰か、とはもしかしたらシルフィのことかい?」

「あ、あぁ……シル、フィ?」

 そよは言葉にならない声を漏らした。


「シルフィ……昨日、秋葉原で戦ったあの強い人が、確か、シルフィって」

 そよは、昨日秋葉原の電気街で戦ったシルフィの強さを思い出していた。

「そうだ」風待は神妙な面持ちで答えた。


「シルフィ、さん……私の中に、居た……?」

 そよは呆然と呟いた。


「これは俺の推測になるが、シルフィにも一瞬、俺にしか分かり得ない浅岡陽子さんの残滓の様なものが見られた。君の容姿からもそれを感じ取れる。君とシルフィはお互いの事を憶えていないのかも知れないが、何かしらの関係性がある様に俺は感じている」

 そよは、風待の言葉に息を吞んだ。


「シルフィ、さんが、私の中に……」

 そよはシルフィの事を思い出そうとしてみるが、上手く思い出せない。

 そよは頭を抱える様にして呟いた。

「……じゃあ、私って一体、何者なの……?」


「君はダイタニアから来たことは間違いなさそうだが、可視化出来る存在になったのには恐らく、他の要因もありそうだ。今は、分からない事だらけだ。君自身も君の記憶も、全てが混乱しているだろう」

 風待は優しく諭すように言う。

「はい……」

 そよは落胆する様に肩を落とした。そんな彼女に風待は言う。


「だが、俺はシルフィにも君にも、浅岡陽子さんの残滓を感じた。この事は俺が長年追い求めていた一つの成果かも知れないんだ」

 そよは顔を上げ、風待の方へ向き直った。そして真剣な眼差しで彼を見つめる。


「ゲームで誰一人、悲しい思いなんてさせやしない!」

 そよの目を見つめ返しながら、風待はゆっくりと口を開く。

「俺が君たちの帰るべき場所を創ろう」

 そよはその言葉の意味が分からず、きょとんとした顔になる。

「帰るべき、場所…?」

 そよは風待の言葉を反芻する。


「…私は、進一くんと一緒にいたい、です」

 そよは少し恥ずかしそうに、上目遣いで言った。

 そんな様子に、風待は優しく微笑み返す。


「あぁ、きっとそれは大丈夫だ。アイツを見たろ?もう君にゾッコンさ!」

 そよはその言葉を受けて、

「ええッ!?進一くんが私の事をッ!?」

 そよは興奮気味に両手を頬に当て驚く。

「いや、どう見たって君に惚れてるだろ?あんな分かり易いヤツ、他にいないぞ?」

「え、えへへ……そ、そうだと、嬉しいな……」そよは照れ笑いをする。


「あ!でも……」

 そよは、嬉しそうに微笑んでいたかと思うと、すぐに表情を曇らせた。

「私、人を好きって気持ちが解らないんです…進一くんのことは、多分、好き……でも、その事を考えようとすると思考、というか、感情が止まっちゃって……」

 そよは、悲しそうに視線を落とした。風待も彼女に共感する様に、苦い顔を浮かべた。

「感情が止まる、か……」


 もしかしたら、このそよって子には何かしらの封印が掛けられているのかも知れない…それが喜怒哀楽を司る感情だとしたら……

 そう言えばシルフィはこの子と違って、逆に喜怒哀楽の内の“喜”と“楽”の感情が希薄だったように感じる…

 やはり二人には何かしらの関係性が…


 風待の妄想は留まるところを知らない。

 次から次へと、可能性から始まる新しい筋道という妄想が出続ける。

 ふと、前にいるそよが不思議そうな顔で自分を見ていることに気付き、そこでようやく妄想に一区切り付ける。


「何だい?」

 風待は何事も無かったように彼女に問いかける。

「あ、いえ。風待さんは進一くんの事、よく知ってるなーと思いまして」

 そよがそう言うと、風待は「あぁ」と頷きながら、

「まあ、その辺りのことも、君には話しておこうと思っていたんだ。話を続けてもいいかな?」



 ザコタは一人オフィスのソファに居た。

 そよが風待と別室に行ってから既に三十分が経過していた。流石に長くないか?

 ザコタはそよのことが心配になり、先程からソファから立ったり座ったりを繰り返していた。


(一体いつまで二人っきりで話してやがるんだ!?俺に聴かれちゃマズい話でもしてるのか?)

 ザコタはミーティングルームの扉を睨みつけながら、イライラしていた。


「クソッ!もう我慢できねぇ!」

 ザコタは勢いよく立ち上がり、ミーティングルームの方に耳を傾ける。

「俺だって伊達にシーフの上位クラスまで行ってないんだ!《傍受(インターセプション)》!」

 ザコタは《傍受》のスキルを使い、隣の部屋の会話に聞き耳を立てた。


『何だい?』

『あ、いえ。風待さんは進一くんの事、よく知ってるなーと思いまして』


(ふん!筒抜けだぜ。何だ?俺のことを話してるのか?)


『まあ、その辺りのことも、君には話しておこうと思っていたんだ。話を続けてもいいかな?』


(ん?そよにだけ話しを?やっぱり俺に聞かれちゃマズいことなんじゃないのか?一体何をコソコソと…)

 ザコタは疑心暗鬼になりつつも、そのまま聞き耳を立てる。



「俺の顔を見て、君は彼に似ていると思ったね?それもそのはず。彼は俺がエディットした『ダイタニア』のNPC(ノンプレイヤーキャラ)だ。そして、俺の本名は迫田進一と言う」

 風待は、そよにザコタが『ダイタニア』からの存在であることを話した。


「ど、どういうことですか!?」

 そよは驚愕の声をあげる。


「彼は、SANY(サニー)に対抗するために、メインサーバーが破壊される直前に仕込むことが出来たカウンターインテリジェンスであり、ワクチンだ」

 動揺しているそよを余所に、風待は淡々と説明する。


「カウンターインテリジェンス?……ワクチンって、進一くんはウィルスか何かなんですか?」

 そよがそう言うと、風待は苦笑いを浮かべた。


「はは、いいや……彼が人間じゃないというだけさ。存在的にはそよ君たちと同類になるか」

 そよは呆然とした表情で、その言葉を聞いていた。風待はその反応を見てから続ける。


「彼の思考回路にはあらかじめ俺の記憶を『バーチャルエクスペリエンス』を通してインストールしてある。その途中でサーバーが破壊された為、写せたのは俺が十五くらいまでの記憶までだったがね。そしてその記憶も完全に正確ではない」

 そよは、風待の言葉に再び衝撃を受ける。


「あ、あの……どうして進一くんにそんな事?」

 そよが混乱した様子で質問する。すると、風待はそよの方を向き、真剣な眼差しで彼女を見つめた。


「SANYに対抗するためさ。『ダイタニア』のプレイヤーの中には、ニュートリノ、この場合思念とでも呼ぼうか、その思念を三次元化する能力を持っている者が稀にいる。だが俺の場合、その能力は持ち合わせていなかった。そこで俺は、俺の記憶と思考回路のコピー、それを『バーチャルエクスペリエンス』を介して、NPCにインストールすることにしたんだ」

 そよは風待の説明に黙って耳を傾ける。そしてしばらくの沈黙の後、再び話し始める。


「だが、ここで一つ問題があった。それは本来、思念を物体化するのは不可能だということだ」

 そよはその話を聞いて、何かに気づいたようにハッと顔を上げる。

「え、それって……!」

 そよの言葉に、風待はゆっくりと頷く。そして彼女に向かってこう続けた。


「そう、俺の思念は『バーチャルエクスペリエンス』と、今のこの暴走した『ダイタニア』のAI、SANYによって物体化されているんだ」

 そよはその言葉の意味を理解して驚愕する。しかし同時に疑問を感じたのか、恐る恐る質問した。


「じゃ、じゃあ進一くんは……?」

 そよは、風待の顔を不安げに覗き込みながらそう尋ねた。


「俺の記憶で形取り、暴走したAIを逆手に取り利用して具現化させた存在、地球とダイタニアの、人と電子の融合したハイブリッドな存在だ」

 風待がその問いに答えると、そよは息を呑み、そのまま黙ってしまった。


「この事を彼に直接伝えるのはまだ酷かと思ってね。こうして似合いもしないサングラスを掛けてたわけだが。まあ、それでも……彼がこの事実を知るのも時間の問題かも知れないな」

 風待はそう言うと、ゆっくりとした動作でサングラスを掛ける。


「…進一くんが、人間じゃなかった……」

 そよは、呆然とした表情でそう呟いた。風待は何も答えない。その瞳にはサングラスが掛けられてはいたが、どこか物哀しげな雰囲気を漂わせていた。



(俺が、人間じゃない…ッ!?)

 ザコタは二人の会話を盗み聞きしたことを後悔するでもなく、その事実を受け止めきれずにいた。


(俺の記憶は、元々あったもんじゃない……となると、爺や死んだ両親、家族の記憶も作り物…俺のこれまで生きてきたと思ってきた記憶が全部……)

 ザコタの心には、言いようのない悲しみと虚しさが込み上げてくる。


(じゃあ俺は一体……ッ!!)

 そうして絶望に打ちひしがれて俯いたザコタは、これまで歩んできた全ての出来事が、何者かによって与えられたものだと知って、目の前が真っ暗になった。


「……もう、全部……どうでもいい…」

 ザコタは虚ろな目でそう呟くと、足取りもおぼつかず、ふらふらと歩き出した。

 ザコタはドアを開け、一人BREEZEから出て行った。



「そんなで、アイツは今思春期と反抗期真っ盛りだから、お守りも大変だろう?」

 風待が戯けながらそよにそう聞いた。そよは風待の問いに答えるように、ゆっくり頷いた。


「進一くんは確かに物言いもぶっきらぼうで、口数も多くないし、いつも仏頂面だけど…」

 そよはそこで一呼吸置くと、微笑みながらこう言った。


「でも進一くんって、本当は優しくていい人なんだよ」

 そう告げる彼女の瞳は真っ直ぐで、信頼と尊敬が籠もっていた。その言葉を聞いた風待は、一瞬目を見開くと、すぐに柔らかい表情へ戻った。そして嬉しそうに微笑むと言った。


「そうか……ありがとう。そう言ってもらえて良かったよ。これからもアイツをよろしくな?」

 風待が照れ臭そうに、そよにそうお願いすると、彼女は満面の笑みで、

「うんっ!」

 と答えた。その笑顔は、まさに天使のようだった。



 ミーティングルームの扉が開き

「進一くーん!お待たせっ!お話し終わりましたー!」

 そよが、元気にそう言いながら出て来た。

 しかしザコタが居るはずの客間には誰の姿もなかった。


「あれ?進一くん?何処にいるの?」

 そよはキョロキョロと部屋の中を見回す。しかしザコタの姿は影も形も見つからない。そよの顔から笑顔が消えた。

(もしかして……!)


 そよの後から風待も出て来る。

「あれ?ザコタ君どうした?」

 風待もザコタがいないことに気付いたらしい。


「風待さんっ!進一くんがいなくなっちゃったの!」

 そよが慌てた様子で風待に言った。

「…さては、スキルで俺たちの会話を聴いたか…?SANY探しのために偵察特化型にしたのが裏目に出たか……」

 風待は悔しそうに唇を嚙みながらそう呟いた。


「そんなことより!進一くんを追いかけなくちゃっ!」

 そよが、慌てて走り出そうとしたその時、風待がそよの肩に手を置いた。


「待つんだ。彼の居場所は俺には分かる様になっている。君は、ザコタ君の説得を頼む」

「わかりました!」

 そよが風待に力強く返事をすると、

「よし、じゃあ行こうか」と言って、風待はそよの肩に手を置いたまま《瞬間転移(テレポータル)》を唱えた。



 風待とそよがBREEZEから少し離れた路地に転移して現れる。その先に見覚えのある背中があった。


「進一くんッ!!」

 そよがその背中に駆け付け、そのまま抱き着く。

「進一くん!どこ行くの!?」

 そよが不安そうな目でザコタの背中に頭をつける。


「……何だ、そよか……」

 ザコタはそよに気付くと、少し口元を緩めたが、その口調には生気がなかった。

「進一くん、どうして急にいなくなっちゃったの?」

「……別に……お前には関係ないだろ」

 ザコタは前を向いたまま、ぶっきらぼうにそう呟いた。


「進一くんのバカッ!!関係ないわけないじゃん!!」

 いきなり怒鳴られたザコタは思わずビクッとした。

「どうして、何も言わずにいなくなっちゃうの!?私とずっと一緒にいてくれるって、約束したじゃないッ?」

 そよはザコタに抱きついたまま、そう言った。その瞳には涙が滲んでいる。


「……」

 ザコタは黙ったままだ。

「ねぇ!進一くんっ!」

「……うるさい」

 ザコタがそっぽを向いて、そう吐き捨てた。そよは、そんなザコタを無理矢理振り向かせると、彼の両肩を掴んで言った。


「ちゃんと喋ってよっ!!」

 そよの目から涙がポロポロこぼれ落ちる。その姿に気圧されたのか、ザコタはようやく口を開いた。


「……すまん」

 ザコタの言葉を聞いてもなお、そよは手を離そうとしない。

 そんなそよの頬に、そっと手を伸ばすザコタ。


「泣くな……俺は、お前に泣いてもらえるような男じゃ、ない……」

 ザコタが、そよの涙を拭おうとする。しかし、その手は途中で止まってしまった。


 そよはそんなザコタの手を掴み、再び自分の頬へと持っていく。

「何でッ?どうしてそんな事言うの!?風待さんのお話し聴いたんだよね?そのことで何か変わった?私たち、何か変わっちゃった!?」


(俺は、お前の隣にいる資格がないんだよ……!)

 進一はそよに向かってそう叫びたかった。しかし、その本心とは裏腹に、口からは別の言葉が飛び出していた。


「俺は…お前と一緒にいたい……」

 そよは泣きながら、うんうんと頷く。そんなそよに、ザコタは語り続ける。

「でも……俺は、人間じゃ……」

 そよは懸命に涙を拭いながら訊いてくる。


「どうして?私だって人間じゃないよ?一緒だよ!」

 そんなそよの目をしっかり見つめながら、ザコタは答えた。


「……俺は…お前のことが………大事だ」


 ザコタのその言葉を聞いた時、そよの中で何かが小さく弾けた。今まで心の奥底で大事な気持に気付かせまいとしていた頑丈な錠前に少しばかりヒビが入る。


「私も、進一くんのこと、好きだよ…」

 そよがザコタの瞳を見つめながらきっぱりと答える。

 そんなそよの言葉を聴いて、ザコタはハッとしたように目を見開いた。


(……そうか、俺は、コイツを誰にも渡したくないんだ)

 ザコタの瞳からも涙が溢れる。


「でも……お前は、好きって気持ちが分からないんだろ?」

 ザコタはそう言うと、そよから手を離そうとした。

「うん、今はそうだけど…でもね!いつかきっと、この心の奥でモヤモヤしてる気持ちが分かる時が来ると思うの!これは多分じゃなくて、もっと確かな気持ちだよ!」

 そよは、ザコタをギュッと抱きしめた。ザコタは何も言えずに、ただ涙を流すしかなかった。


「進一くん……一緒にいて…」

 そよはそう言って、抱きしめた腕に力を込める。しかし、それでも不安が拭いきれないようで、涙ぐんだ声で言うのだ。


「お願い、もうどこにも行かないで……」

 そよの言葉に心が震える。しかし、ザコタはそよを抱きしめ返すことはなかった。


「俺は、お前を置いて行っちゃったんだぞ。もう……取り返しがつかな……い」

 そよはザコタの目を真っ直ぐ見据えると、力強く言うのだった。

「そんなこと!幾らでも取り返し付きますッ!もし、進一くんが私のことを悪いと思っているのなら!」

 そよは、そんなザコタの目を真っ直ぐ見据えながら言った。


 そよは更にザコタを強く抱きしめると、彼に向かって言った。

「私を抱きしめて!ずっとずっと抱きしめていて下さい!」

 ザコタはそよの言葉に何も答えず、ただ黙ってそよのことを抱きしめ返した。その体は微かに震えていた。

 お互いの顔の、寄せ合うその頬には涙が伝い、混じり、雫となって溢れ落ちる。

「……そよ……ありがとう………」


 そんな二人を、風待が少し離れたところから見つめていた。

(雨降って地固まる、か…俺にも迂闊なところがあったが、まあ結果オーライだろ?良かったな、二人とも…)

 風待は微笑みながら、心の中でそう呟いた。

【次回予告】


[そよ]

進一くん!進一くん。進一くん…

進一くんのことを考えると、

胸の奥がキューって苦しくて、シクシクって切なくて、

ポカポカって温かい気持ちになるんです…

ずっと一緒にいてね、進一くん。


次回!『超次元電神ダイタニア』!


 第二十三話「居場所のつくりかた」


あッ!いつの間に予告撮ってたんですか!?




――――achievement[二人の進一]

※迫田進一に秘められた真実を知る。


[Data09:進一と陽子【一】]がUnlockされました。

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