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超次元電神ダイタニア  作者: マガミユウ
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第十八話「騎士の誓い」

【登場キャラクター紹介】

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 まひるたちが風待と出会う少し前、秋葉原――


「……………」

 ビルの屋上に立ち、シルフィは目を閉じ、耳を澄ましていた。

 聴こえてくるのは微かな夏の湿った風音と街の喧騒。

 意識を集中し、その中から街の喧騒だけを遮断する。

 風は姿を消したまひるたちの気配を運んで来ない。


 そこへ瞬間移動でもしてきたかのように、突如三つの人影が現れた。


「…《地球(こっち)》のサニーには逃げられた?」

『サラ』は眉をひそめて静かにシルフィに訊いた。


「風が彼女らの気配を察知出来ない……恐らく、逃げられました」

 シルフィも静かに答える。


「《アウマフ》を壊すだけならやれてたろうに。あの電神(デンジン)を捕らえるってのは、流石のシルフィさんも中々にハードみたいだね」

『ディーネ』が物言いたげな視線をシルフィに向けて皮肉を言う。


「でも、シルフィのことだからこの後のことも考えてるんでしょ?そこがどこかの暴力バカとは違うとこよね」

『ノーミー』がディーネに抗議の視線を向けながら言うと、ディーネは「あはっ」と楽しげに笑った。


「はい。急に気配が消えたことは気になりますが、直ぐに居場所は判ることでしょう」

 シルフィは目を閉じたまま、その口元が弧を描く。


「彼女に任せておけば問題ないでしょう。まひるさん、依然貴女は私の掌の上から逃れられていないのですよ…?」

 そう言って、目を開けたシルフィの表情はとても楽しそうに歪んで見えた。


挿絵(By みてみん)

『超次元電神ダイタニア』

 第十八話「騎士の誓い」



 時は現在、新宿――


 買い出しと夕食を終えたあたしたちは風待(かざまち)さんのいる『BREEZE(ブリーズ)』のビルまで戻って来た。


「…ただいま戻りましたー…」

 あたしがそっと玄関のドアを開けると、さっきと同じ様子でパソコンに向かっている風待さんの姿があった。

 相変わらず、何かブツブツと独り言を言いながらキーボードを叩いている。


「ああ、おかえり…」

 パソコンからは目を背けず返事が返ってきた。

「あの、お夕飯まだかと思ったので、お弁当買ってきたんですけど」

 あたしは手に持っていたレジ袋を持ち上げながら言う。


「 おお、悪いな……そこ置いといてくれ……今手が離せなくてね……あとでもらう」

「あ、はい。分かりました」

 あたしはテーブルの上にお弁当を置く。

 彼の方を見ると、パソコン画面をじっと見つめて難しい顔をしている。

 一体何をやっているんだろう?


「えーと……相川、まひるさんだっけ?」

 彼はこちらを振り向かずに話しかけてきた。

「はい!そうです!」

 急に名前を呼ばれてドキッとする。

 もしかしたら覚えられてなかったのかと思ってた。


「君の電神はどんな機体なんだい?」

「えっと、あたしの機体は……」

 あたしはアウマフのことを掻い摘んで説明した。すると彼が興味深そうな声を上げた。

「へぇ~、四形態も変形出来るのか。四人の精霊を従えるか……ハイエレメンタラーの精霊との契約数は最大値の四……確かにそんな電神があってもおかしくはないか……」

 独り言のように呟く彼。

 何のことだろう? あたしが首を傾げていると


「ああ、済まん。君たちの電神をなんとか強化出来ないかと思案していたんだ」

 彼はそう言って頭をポリポリと掻きながら苦笑を浮かべる。

 あー、そういうことね。

「それで、何か良い案は浮かんだんですか?」

 あたしが尋ねると


「そうだな。まず、先にも言ったように、電神のプログラムはSANY(サニー)に掌握されてしまって手が出せない。だから、まぁ、電神そのものを強化することは諦めようと思う。だが、君の電神には別の使い道があると思っていてね」

 彼がそう言って続ける。


「電神と電神使いの同調率を上げれば上げるほど、電神の性能が上がるようにゲームシステムを一部改変する。つまりだ、君と君が従える精霊の絆を深めれば深めるほど、君の電神は強くなるわけさ」


 なるほど。

 それなら確かに、今のこの世界では精霊の力を借りられるんだから精霊との絆を深めることが重要になるよね。

 でも……


「あの、一つだけ言っておきたいことがあります!」

 あたしは声を上げた。

 彼は首を傾げている。

「なんだい?」


「えっと…あたしはこの子たちを従えているんじゃなくて、仲間として、友達として、一緒に戦ってるんです。みんな、かけがえのない、家族みたいな存在なんです」

 あたしは正直に自分の気持ちを伝えた。


「そうか。それは俺の言葉が悪かったな。済まない、訂正させてもらう。でもまぁ、君がこのゲームを楽しんでくれているようで良かったよ。それでこそ、トップランカーだな」

 彼は少し申し訳なさそうな顔をした後で、また笑顔になってくれた。

 その顔を見て、あたしもホッとする。

 やっぱり、悪い人ではなさそう。


「ところで君は、どうして自分がこうもSANYやその手下に目を付けられているか解っているか?もちろん、俺も君には一目置いている」

 と訊いてきた。

 えっ!?何それ?初耳なんだけど。


「あたしの、プレイヤーレベルが50でカンストしてたから?」

 あたしは恐る恐る答える。


「いやいや、レベルマックスのプレイヤーなんぞごまんといる!それに君は社会人だろ?一日中家に引きこもってディスプレイの前から離れない人種だってこの世には居るんだ。そんな奴らに比べたら君のプレイスキルは言っちゃ悪いがまだまだだろう」


 うぅ……そりゃあそうだよね。

「じゃあ、一体なぜ……?」

 と、風待さんに尋ねると彼は


「おそらくだが、一つは君の『ダイタニア』内でのプレイヤー名が暴走したAIと同じ『サニー』だったこと。君の表記では『Sunny』の様だが音声認識だとそこまで判らんしな」

 確かに。キャラ設定時に日本語表記と英語表記があって、英語表記には『Sunny』と入力した記憶がある。


「そしてもう一つ!こっちの理由の方がでかいと俺は思っている……ダイタニアの世界観がフィードバックされ始めたこの地球において、四精霊と契約していて、その全てが人の姿として顕現したプレイヤーは、()()()()

 風待さんは真っ直ぐにあたしを見て言う。その口元は少し口角が上がっていた。


「え?それって……」

 どういう意味だろう。


「もちろん前例も無いし確証も無い。だが根拠はある。SANYは思いの強い存在からこの地球にニュートリノを再構成していっている節がある。君はプレイ中も精霊の存在を意識し、共に歩んで来たようだ。さっき君が言ったように、友や家族のような存在としてね」

 風待さんの口調は真剣そのもの。冗談を言っている感じではない。


「そんな……だってあたしはただゲームをしていただけで……」

 突然言われた事のスケールの大きさに頭がついていかない。


「理解しろとは言わない。ただ、これは君のゲームへの想いが引き起こした現象の一つだ。そしてSANYは、そんな君の存在をダイタニアにとって不要な存在と認識しだした。自分の他にも、思いの力でダイタニアのデータを改変し、この地球に具現化出来る存在が居たんだからな。SANYも少しは焦ったんじゃないか?」

 彼は淡々と続ける。


「そこで俺はこの異変が始まった時に、SANYに対抗出来そうな《ニュートリノの具現化能力》を持つプレイヤーが登場することを願い、新たなクラスを一つ追加した。もしかしたら、君のステータスには既に表示されているんじゃないか?その能力を持つクラスが…」

 あたしは彼の言葉を聞きながら、自身のステータス欄のことを思い起こす。

 あれは、確か――


「………《勇者》!」

「そうか。やっぱり君は《勇者》だったのか」

 彼が嬉々として言った。


 そうだ。

 確かに彼の言う通り、あの時、あたしのステータスに《勇者》という新しいクラスが追加されていた。現在もクラス表記は《勇者》固定のままだ。


「これは余談だが、素粒子を英語で言うと『elementary particles』と言う。ハイエレメンタラーでもある君と、どこか切っても切れない運命のようなものを感じるよ」



 風待さんは彼が知ってる情報を惜しみなく一気に話してくれた。とてもありがたいことだったが、あたしの頭と心はダムが決壊して一気に流れ出た水のようなその情報量を上手く処理出来ずにいた。


「何だか大事になってるみたいね、まひるん…」

 ルナさんが呟くように言った。

「う、うん……思ってたより、ね…」

 あたしも力無く答えてみせる。


「まあそう深く考えなさんな。俺は自分のケツは自分で拭くし、人任せにしたりはしない。何とかして、SANYの進行を食い止めてやる。うん、この弁当中々美味いな!」

 作業の手を止め、風待さんが買ってきたお弁当を頬張りながら言う。


「あ、良かった。好みが分からなかったので、栄養バランス良さそうな肉野菜弁当にしたんですけど」


「ああ、俺の実家は寺でね。食べ物に関して好き嫌いは無い。残そうものなら親父に半殺しにされちまう」

 彼が冗談混じりに言うと


「寺なのに殺生……」

 ルナさんがすかさずツッコミを入れた。


 風待さんはお弁当を食べ終え、両手を合わせて言う。

「馳走様……さて、腹も満たされたし、もう一仕事と行きたいがいい時間だな。君たちは休むといい。それで、良ければ明日また少し話しを聴かせて欲しい」


 あたしはスマホの画面を見る。

 時刻は夜の10時を回っていた。

「えっと、それじゃあ今日はこれで失礼します。お言葉に甘えて今晩お世話になります」

 あたしは頭を下げる。


「おう。お休み。部屋に客人用のアメニティが置いてあるから好きに使ってくれ。また明日」

 彼は片手を上げて見送ってくれる。


「はい!おやすみなさい」

 あたしも手を振って挨拶を返す。

 こうしてあたし達は彼の家に泊まる事になった。



 言われた部屋の前で渡されたカードキーを通すと、静かな音を立てドアが開いた。

 部屋にはベッドが二つ並んでいる。

 一つはクイーンサイズくらいの大きさで、もう一つはダブルサイズのようだ。

 窓際には机と椅子が二脚。

 部屋の隅に置かれた棚の上には電気ケトルとティーポット。

 カウンターの奥にはキッチンも見える。


「うわー……凄いなぁ……その辺のホテルより良さげな部屋だよ」

 あたしは感動してしまっていた。

 ゲストルームって言ってたけど、まさかこんな立派な部屋に泊まれるなんて思わなかった。


 ルナさんがさっき買った荷物と一緒に近くのベッドに腰を下ろす。

「ふぅ…やっと一息つけるわね。もうクタクタ…やっぱ東京って、出てるだけで疲れるわね」

 そう言って、ルナさんが背伸びをした。

 すると、ポヨンと大きな胸が揺れる。

 ルナさんも胸の事で悩みとかってあったのかな…?

 いやいや、今はそんなこと関係なかった!


「ねぇまひるん!」

「ひゃっ!? はいっ?」

 いきなりルナさんに名前を呼ばれてびっくりした。

 どうしよう、全然話聞いてなかった。

「ごめんなさい。ちょっと考え事してた…」

 素直に謝ると、ルナさんはクスッと笑みを浮かべた。


「時間も時間だし、順番にシャワー浴びて来ましょ。精霊とは言え、あんたたちもシャワーくらい浴びるんでしょ?」


「ええと……はい。入らなくても物質変換の原理を使えば汚れはしないのですが、まひる殿から“女の子なんだからちゃんとお風呂で綺麗にしなさい”と言われておりまして…」

 アースが少し遠慮がちに言う。


「そう。じゃああんたたち先に入ってらっしゃい。私は最後でいいから」

 ルナさんが笑顔で答えてくれる。


「ではお言葉に甘えて、先に頂きます」

 アースがルナさんに頭を下げると脱衣所の方から


「おい!この風呂広いぞ!誰か一緒に入ろうぜ!」

 既に服を脱いで全裸のファイアがみんなに嬉々として声を掛けてくる。

 それに釣られて


「わーい!ウィンドも入る!」

 ウィンドが万歳しながら声を上げ脱衣所に走っていく。


「こらウィンド、走らない。じゃあ流那(るな)、僕も先に頂いて来ます」

 そう言いながらマリンがウィンドの後を追う。


 残されたアースがあたしを見て

「では自分たちはこの次に入りましょうか?」

 とさも当然のように提案してくる。


「へ?あ!そ、そうねッ!」

 突然そう言われてあたしは慌てて返事をした。

 何だか成り行きでアースと一緒にお風呂に入ることになってしまった……

 そりゃみんなでスーパー銭湯に行ったこともあるし、女の子同士だから別に問題ないんだけど……

 二人きりは、流石に…恥かしい!


 アースが着替えやタオルを用意している間、あたしは一人で悶々としてた。

 そんなあたしの様子を見てかルナさんは


「あんたたちって、ほんと仲いいわね。見てて飽きないわー」

 とニヤニヤした顔で茶化した。



 みんながシャワーを浴び終え、ドライヤーで髪を乾かし終わった今、あたしたちは就寝の支度をしている。


 ベッドはクイーンサイズとダブルベッドが一つずつ。総勢六人。

 誰かがソファーで寝るという案もあったが

 ウィンドが『みんなで寝たい』と言ったので、ベッドにそれぞれ三人ずつ別れて寝ることとなった。

 今はこの組み合わせをしている最中だった。


「ここは単純に背の順で、背の高い三人がクイーン、その他がダブルでいいんじゃない?」

 ルナさんもウィンドの提案に渋々乗ってくれて、意見を出してくれる。


「じゃあそれで決まりね!あたしとアースはクイーンベッドね。次に背の高いのは……」

 あたしが周囲を見回すと


「俺かな?」「私よ!」

 とファイアとルナさんの声が被った。

 二人を見ると、確かに似た背丈をしている。


「ダブルとクイーンじゃどう見てもクイーンの方が寝心地いいでしょ!私が何の勝算もなく提案したと思った?」

 ルナさんが勝ち誇ったように言った。


「確かに見た目じゃ分からねーな…ウィンド!いっちょ測ってみてくれ!」

 ファイアがマリンにそう言うと、少し眠たげなウィンドが二人の前にやって来て正確に目測する。

 ウィンドは風の精霊であり、狙撃の名手でもある。その為視力と距離感の良さはみんなより頭一つ飛び出ていた。


「んー……ファイア160cm、ルナちゃん、159cmだよ」


「よっしゃ!」「嘘ッ!?」

 ファイアがガッツポーズをし、ルナさんはまさかと言った表情になる。


「策士策に溺れましたね流那?ダブルベッド仲間にようこそ」

 マリンが既に陣取っていたダブルベッドの上からルナさんに手を伸ばしクスっと笑いながら言う。


「うっさいわね……もういいわよダブルで……」

 ルナさんはそのままウィンドの手を引き、ダブルベッドへ向かった。


「ルナちゃん、一緒に寝よーね!」

 ウィンドが満面の笑みをルナさんに向けながら言う。


「う…ちょっとまひるんコレ反則でしょ!?こんな可愛いお願い無下に出来るわけないわよッ!」

 ルナさんはウィンドから目を逸らし頬を赤らめていた。


「あははは。ルナさんありがとう。ウィンドのお願い聞いてくれて」

 あたしもニッコリと笑顔で答える。

 何だかんだ口では言うものの、ここに来てからのルナさんの言動は一貫して優しいものだった。本来のルナさんはきっと今のように優しい人なんだろうな。


 ルナさんがベッドの前まで来ると、そこに居たマリンと目が合う。

「う……」

「どうぞ、お好きな所に」

 マリンがニヤけた顔で言うとウィンドが

「ルナちゃん真ん中ね!」

 と、ルナさんの手を引きベッドの真ん中へと誘導した。


 あたしたちクイーン組もそれぞれベッドに横になり、おやすみなさいをして、常夜灯へと切り替える。


 ルナさんはマリンに背を向け、蛇に睨まれた蛙のように身動きせず固まっていた。

 その背中に向け、マリンが小さく声を掛ける。


「………流那?」

 少しの間を置き

「……なあに?」

 と背を向けたままルナさんが不機嫌そうに返す。

「……………」

 暫しの沈黙。

「なによ。私にまだ何か言いたいことでもあるの?」

 相変わらずルナさんの声は少し不機嫌そうだった。

「……あ、いや…その……」

 マリンが珍しく口籠る。


「あんたも今日色々あって疲れたでしょ?早く寝ちゃいなさいよ。おやすみ!」

 ルナさんがマリンに背を向けたまま言う。


「あ、うん。そうだね…おやすみ……」

 マリンの言葉はいつもと違い何故か歯切れが悪かった。

 そしてマリンは晴れない表情のまま、その瞳を閉じた。



 翌朝、いつものようにアース、あたしの順で目が覚める。あたしの隣には既にアースの姿はなく、彼女はカウンターの奥でお湯を沸かしてくれていた。

 あたしは隣でまだ寝ているファイアを起こさないようにそっとベッドから出る。


 軽く顔を洗ってうがいをし、アースの下に行く途中、ダブルベッドに目をやると、そこには仲良く寝ている三人の姿があった。

 ルナさんはお腹の上にウィンドの脚が乗っかっていて少し寝苦しそうだ。

 そんな微笑ましい光景にあたしの頬が緩む。


「おはようアース。今日も早いわね。ちゃんと休めた?」

「おはようございます。えぇ、おかげさまで。まひる殿こそ大丈夫ですか? 昨日は遅くまで起きていましたでしょう」

 そう言ってコーヒーを注いでくれるアース。


「ありがと。でも平気だよ。あたしも朝に強い方だからさ」

「左様ですか。それは良かったです」

 あたしはアースの隣に座って、差し出されたマグカップを受け取る。


「……ねぇアース。今更だけど訊いていいかな?」

「はい。なんでしょうか」

 アースはみんなの分のカップを用意していた手を止め、あたしに向き直る。


「アースたちはさ、あたしからするとゲームの世界、『ダイタニア』から来たでしょ?サニーがしようとしている“地球ダイタニア化”は、もしかしたら、アースたちにとっては良い事なのかな?」

 あたしは今まで気になっていた疑問を投げかける。


「…………」

 アースは何も言わずに、目を閉じ無言で首を左右に振る。


「ダイタニアは平和でした。少なくとも自分たちが精霊として在った間は…『ダイタニア』で暮らしている人々はみな、豊かで幸せに暮らしていました。自分たち精霊はその事に満足し、ヒトに自然の力を“精霊の加護”として与えていました」

 アースは静かに語り出す。


「精霊はヒトの“願い”を対価にヒトに力を貸します。ですが、その願いの善悪までは感じとることは出来ません…ですから、ダイタニアの人々は魔法、こちらの言葉にすると《スキル》ですか、それを誰しも使うことが出来るのです」

 アースは一呼吸置いて話を続ける。


「まひる殿の危機にこの様にヒトの姿に顕現し、自らの“意志”も獲得しました今となっては、善悪の区別も付くようになりました」

 そしてアースは真剣な眼差しであたしを見つめた。


「今の自分はダイタニアの精霊ではなく、貴女(あなた)に仕える一人の騎士なのです。サニーが今しようとしていることは紛れもなき悪行!自分たちの故郷だからといって、このまま地球がなくなっていいわけがないのです」

 そう言うとアースは膝まずき、頭を垂れる。

 朝陽を浴び、ブロンドの髪が透けるように輝くその姿はとても美しいものだった。


「だからどうか、ご命令下さい!自分の大切な(あるじ)であるまひる殿の故郷《地球》を護るために!」

 アースの言葉に嘘はないと感じたあたしはアースの目を真っ直ぐに見据えて答えた。


「分かったわアース。だけど一つ訂正させて。あたしからアースたちみんなにするのは“命令”じゃなくて“お願い”だよ?アース、この地球とダイタニアを元に戻すため、改めてお願いします。力を貸して!」

 するとアースは笑顔で応えてくれた。


「御意に。自分たち四精霊、全身全霊を掛けて、まひる殿とその取り巻く世界の未来を切り拓いて見せましょう」

 そしてアースは右手を胸に添えるとあたしに向かって頭を下げてきた。


「我が愛しき主人にして心優しき友、相川まひる殿。我らが命に代えても貴女をお護り致します。さあ参りましょう。我らが世界を救う旅へ……」


 アースがコーヒーカップをあたしに向け差し出す。

 あたしもカップを同じくアースに差し出し、二人のカップが「チン」と澄んだ音を立てた。



「お熱いわねー。まるで騎士とお姫様みたい」

「こら流那ッ、気付かれる!」


「へっ?」

 あたしは気配のした方を見る。

 その声の先にはルナさん始め、マリン、ウィンド、ファイアの四人がカウンターの影からそっと覗いていた。


「あ!まひるお姉ちゃん、アース、おはよー!」

「あぁ!あの漫画みたいで良い所だったのによ!」


「……あのね、あなたたち…盗み聞きと覗き見は良くないことだよ?」

 あたしは顔を真っ赤にしながら抗議の言葉を向ける。

「はあい、ごめんなさーい」

 すると四人が口を揃えて謝る。

 やれやれだよ。


「さ!顔洗ってきて!朝ごはんにしましょ!」

 そう言ってあたしはキッチンへと向かう。

 昨日コンビニで買っておいたパンやおにぎりを備え付けの冷蔵庫から出して並べ、みんなでいただきますをして食べ始める。


 そこでマリンが

「みんな、食べながら聴いて欲しい。今日も風待氏とまた今後の対策などについて話し合うと思うんだけど…」

 と話し出した。


「昨日話した限り、彼は嘘を付いている感じはなかった。だけど、真実を全部話している感じもしなかった。まだ何か、得体の知れないものを隠している様な気がしたんだ……誰か僕と同じ様に感じた人はいるかい?」

 と訊いてきたので


「俺はなんか胡散臭いとは思ったな」

 とファイアが簡潔に言うと


「ふむ。確かに風待殿の言動には違和感があった…こちらの事を何でも見透かしているような……でも自分は彼を信じたいと思っている。あんなにも一生懸命なんだからな」

 とアースも続いて言う。


「でも、ダイタニアを創った張本人なんだし、ある程度の事を知ってて、その上でウィンドたちに色々教えてくれてるんじゃないの?良くしてくれた人を余り疑いたくはないかなー」

 ウィンドがそう答える。


「そうね。確かに胡散臭くはあるけど、悪い人では無さそうかしら。ちょっと変人だとは思うけど」

 ルナさんがそう言う。あたしの思っていたことと同じだ。


「うん。あたしもそう思う。それで、マリンが違和感を感じてるという、具体的な所はどこ?」

 あたしはマリンに訊いた。


「僕は今回の旅行に出る前、ネットで風待氏のことを徹底的に調べたんだ。彼は大学在学中にこの『BREEZE』の前身となる会社を起ち上げているんだ。だけどそのすぐ後、彼は大学を中退し、その後の消息が掴めなくなる。次に彼が世に姿を現したのは、完成した『ダイタニア』を発表した時だった」

 マリンは続ける。


「『ダイタニア』が発表されてまだ二年余り、彼は十年近くもの間、姿をくらましていたんだ。その間、彼は『ダイタニア』に独自性を取り入れるためAIの開発をしていたと言った。そして実際に『ダイタニア』には、人間と遜色ない思考力を持つAIが搭載されている。つまり、彼の言うことは本当なんだと思う。でも……本当にそれだけなのだろうか?」


「どういうこと? 他に何かあるの?」

 と、私は訊く。


「うん……恐らく『ダイタニア』はただのオンラインゲームじゃない。もっと別の目的があると思う。例えば、彼しか知り得ない情報があって、何かの目的を果たすためのツールとして設計された、とかね」

 マリンはそう言って微笑む。


 確かに『ダイタニア』は単なるオンラインゲームではないかもしれない。

 それは薄々感じていた。

 ただ、その先にある真の狙いまではあたしには想像出来なかった。


「ふふ、これも僕の妄想さ。今日の話し合いでは風待氏の過去にも注意を払って聴いてみようと思う。そう意気込みを伝えておきたかっただけだよ」

 マリンはそう言う。

 どうやらマリンにはマリンなりの考えがあるようだ。


「分かったわ。難しい話しは出来ないかも知れないけど、何か役に立てることがあったら言ってね!」

 あたしは意気込んで言った。


「ありがとうまひる。いつも頼りにしてます」

 マリンは目を細めてニッコリ笑い答えたのだった。



 いつもの朝のようにあたしたちは朝食を摂りながらワイワイ賑やかに会話が色々な方向に飛び交う。

 そんな光景をルナさんも優しげな瞳で見守り、偶に不機嫌そうに会話に参加している。


 後ろで流していたテレビが七時を告げた。

 その後ニュースが流れ出したが、あたしたちは会話に夢中で誰一人テレビに注目するものはいなかった。


『…先週の金曜日未明より行方がわからなくなっている杉並区にお住まいの仙崎飛鳥(せんざきあすか)さんですが…』

 ニュースキャスターの淡々とした声と共に、テレビには黒髪おかっぱの少女の写真が映し出されていた。

【次回予告】


[まひる]

会社のゲストルームってこんなに豪華なの!?

あたしの職場の仮眠室とは大違いッ!

やっぱり、名の売れてる企業は違うのね…


次回!『超次元電神ダイタニア』!


 第十九話「風待進次郎という男」


行けー!マリン!論破しちゃえー!




――――achievement[アースの宣誓]

※アースから揺るぎない忠誠を誓われる。


[Data04:進一とそよ②]がUnlockされました。

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