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石ころダンジョンマスターの邪悪なる日々  作者: 入月英一@書籍化
二章

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21/22

お腹まっくろ!

 樹海さんの討滅を確認してからは、すーっと、惰性で水晶龍にお空を飛ばせます。

 風を切りながら飛ぶこと暫し。丁度二度目の旋回をしていた時でした。それが現れたのは。


 水晶龍が飛ぶ空よりも、さらに上。

 何やら楕円形の光体が、いつのまにか浮かび上がっています。


 近づくにつれ、それが銀色の金属製の物体であり、その随所にチカチカと瞬く光点があるのが分かります。

 けったいなそれは、恐らくはパイセンの所有する宝物。私を樹海さんの上空まで運んできた空飛ぶ乗り物でありました。


 つまり、任務を終えた私へのお迎えというわけです。


 私は水晶龍を、その楕円形の乗り物の真下へと移動させます。

 すると、その乗り物の底部から、黄色がかった光の柱の様なものが照射されます。

 光が当たるや否や、私とザベスちゃんを乗せた水晶龍が、垂直方向へと昇り始めます。


 水晶龍がそのように飛んでいるわけではありません。

 あの楕円形の乗り物に吸い寄せられているのです。


 二度目なので、ビックリもしませんが、初めての時はさしもの石ころちゃんもびっくらこいたものです。


 照射される光の眩しさに、つい瞬きする。直後、目を開いた時には、私はもう乗り物の中にいました。


 白、白、白……。床から壁、天井に至るまで、無機質な白一色です。


 唯一違う色合いなのは、所々に浮いている銀色の球体です。腕で抱え込むくらいの大きさのそれ。

 ふよふよと浮いていた球体の一つが、突如すーっと、空中を水平に移動します。


 移動した先には、何やらぬめぬめした軟体動物じみたクリーチャーがいます。


 見るからに、化物然とした姿なのに、どうしたわけか人間みたく服を着ています。

 この乗り物には、何体も同様のクリーチャーが乗組員として乗り込んでいるらしく、彼ら(性別があるかは不明ですが)は、一様に同じ服を着ていました。

 

 きっと、制服というものでしょう。

 黒を基調とした襟付きの服を着ていて、所々に輝くバッチを付けているモノもいます。

 頭部には、同じく黒を基調とした平べったい帽子を被っておりました。


 それらは、パイセンがDPを用いてクリエイトした魔物でありましょう。

 ですが、どうも私のクリエイトする魔物とは毛色が違います。

 ……私とパイセンの属性の違い、と言われればそれまでですが。


 クリーチャーが銀色の球体に、触腕の一本を触れさせます。すると、触れた箇所が何とも形容しがたい複雑な色に染まります。


 私はじっとその様子を観察します。

 樹海さんの上空に来る際には、あのクリーチャーが全く同じことをしていたので、恐らくはあれで、この乗り物を操作しているのでしょう。


 一体全体、どういう仕組みなのか判然としませんが。


 ただ、この乗り物が規格外な乗り物であることくらいは分かります。

 何せ、ヴァンダル王国から、樹海さんの上空まで、水晶龍では10日は優にかかるという飛行距離を、ものの数分で踏破したらしいのですから。


 まあ、飛行距離云々に関しては、パイセンが言っていただけなので、ハッタリである可能性も捨てきれませんが。


 などと考察していると、またあの感覚。ざざあ、ざざあ、ゔん! と、私の意識と何かが繋がれるような感覚を覚えます。


『やあ、お疲れ様、石ころちゃん』

「パイセン……」

『見事だったよ。相性が良いとはいえ、『悪食なる魔の樹海』を一方的に討滅するなんてね。これで、大連合の牙城が一つ崩れたわけだ』

「お褒めの言葉を頂戴して、石ころちゃん、とても嬉しいでーす。なんて、言いませんよ! 言葉でお腹は膨れないのです。何かご褒美プリーズ、です!」

『……現金だねえ、石ころちゃんは』


 パイセンが呆れたような声を出します。

 何て失敬な。それに、他の誰でもないパイセンに言われるのは我慢ならない、というやつです。

 だって、がめついのはどっちだと。討滅した直後に、樹海さんのDPを半分回収するような節操の無さじゃないですか。


『石ころちゃん、何か失礼なこと考えていないかい?』

「イイエ、ソンナコト、オジャリマセンヨ」


 よし。上手く誤魔化せたですかね。なーんて……。


 パイセンは怖い相手です。序列で私の上を行く。だから単純に強い。というだけなら、まだあれですけど。

 その上、離れていてもこちらを監視できる能力に、一瞬で長距離を移動できる乗り物。

 この二つが合わされば、悪巧みが露見したが最後。逃げようが、隠れようが、いとも簡単に捕捉され、粛清されてしまいます。


 だから、真意を胸の内に隠したまま、いざその時が来るまで、従順な眷属の振る舞いをしなければなりません。

 そう、少なくとも表面上は。うん、表面上は。


 だって、パイセン、あなたもそんなこと、百も承知でしょう?


 パイセンが私を散々使い倒した挙句、もう用無しと処断するのが先か。それとも、そうなる前に、私がパイセンを見事出し抜くか。


 これはきっと、そういうゲーム。

 いつまで手を結び続けて、互いに利益を享受すべきなのか。そして、どのタイミングで一方的に手を切るか。


 重要なのは、そのタイミング。今はダメ。今の私では、例えどれほど効果的な奇襲を、どれだけ巧妙な謀略を仕掛けようとも、絶対にパイセンに勝てないもの。


 パイセンもそれが分かっているから、いずれ裏切ると分かっている眷属もどきを抱えていられるのだ。

 ああ、何とも余裕があって憎らしいこと。……絶対泣かす。


 私は愉快な未来を予想して、口の端を吊り上げる。


『楽しそうだねえ、石ころちゃん?』


 相変わらず呆れたような、それでいてどこか面白がっている節を感じさせるような、そんな声音でパイセンが言った。


「はい! パイセンが下さるだろうご褒美が、楽しみで、楽しみで!」


 私は満面の笑みを浮かべて見せた。

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