表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/43

42話「アホか!終わってねぇよ!」

 展開が急に変わっていますが、ちゃんと前回の続きです。

 冒頭は、ビフォーアフターのノリで書きました。BGMを思い浮かべながら読んでいただけると、しっくりくるかも?しれません。





 ここは、ほとんどなんの問題も抱えていない獣国ガルドの王宮。

 威圧感溢れ、力と覇気を感じさせる外観。獣人が多少暴れても、傷一つつかないほど丈夫な柱。大型魔獣も楽々闊歩できる広々とした謁見の間。


 それが、なんということでしょう。


 威圧感溢れる外観は大樹に覆われ、緑豊かな癒しの外見に。丈夫な柱は、木の蔦に締め上げられ、無数のヒビが走るレトロな仕上がりに。広々とした謁見の間は、木の根が張り巡らされ、人1人通るのがやっとといった狭い空間に生まれかわりました。

 これだけのリフォームをしておきながら、地下にいる人質への被害は皆無という点に、匠の心遣いが伺えますねぇ……冗談はこれくらいにしておくか。


 獣王、テュマとの戦いが始まってから数分。レベルの差をものともしない戦闘センスを前に…正直、手も足も出なかった。

 レベルにばかり頼っていたツケだな。回避はできるが、それしかできない。こちらの攻撃はいとも容易く躱され、受け流され、倍以上の反撃が返ってくる。そしてそれを回避する。その繰り返しだ。


 そんなジリ貧ループを打開すべく、樹木生成(クリエイトプラント)を本気で使用した結果が、これである。

 捕らえようと迫る樹木の数々を獣王は躱し続け、俺は樹木を生成し続け…いつしか、城が木に埋もれてしまったのだ。


 な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をしてしまったのかわからなかった…。

 ちなみに、獣王はしっかりと捕らえている。樹木の頂上付近で完全に木に埋もれ、今は頭だけが出ている状態だ。外傷は殆どない。城はダメにしてしまったが、獣王の捕獲に関しては満点だ。うん、満点だ。


『あ、主様?これは一体……アトス達も説明を求めています』

『…すまん、謝っといてくれ』


 そう伝え、強制的に念話を切る。

 後でミーナにも謝らないといけないな。はぁ、憂鬱だ。


「とりあえず、この王冠を外してあげるか」

「グルルルルル!」


 頭だけなのに、まだ戦意が消えてない。さすが獣王だな。


「でも失礼しますよっと」

「ガッ!むぐぐ…」


 木の蔦で口を塞ぎ、頭も動かないように固定する。

 見た目的に俺よりも年下っぽいな、そのうえレディーだし…背徳感がすごい。


「でも、助けるためだから。勘弁な」


 まずは術式の解読だな。王冠に手を添え、精密探知を発動する。


「うわっ、気持ち悪りぃ」


 ジノじいと違って、俺はまだ術式の構成やらなんやらは読み解けない。ただ、付与されている効果だけは何となく感じ取れる。

 この王冠に施されている効果は2つ、洗脳と死だ。洗脳は言わずもがなだが、死が厄介だな。

 無理やり外そうとすると、装着者を死に至らしめるようだ。


「これは、少し長くなりそうだ」


 複雑な電子機器をバラすようなものだ。出来なくはないが、時間がかかる。


『ユ…様、聞こ、ますか?ユージ様』

『うおっ、コゥか、どうした?』


 突然、コゥから念話が届いた。


『先ほど不穏な気配を感じました。ユージ様の懸念された通りの事態となりそうですので、保険を起動しようと思います』


 あぁ、保険か。必要だと思ったらコゥの判断で使っていいと言っていたが、念話が使える距離だから一応確認をとったんだな。


『よし、使って…あ!』


 待てよ?念話が、使える?


『コゥ、ちょっとやりたい事があるんだが、協力してくれないか?』

『はい、構いませんが…何をされるのですか?』

『まぁ、見てな』


 王冠を外しながらできるだろうか…まぁ、やってみるかな。


 










 同時刻。大樹に呑まれた王宮の一室では、1つの戦いが幕を閉じようとしていた。


「この、化け物どもが!」


 倒れた2人の騎士を見ながら、ザミド王子は吐き捨てる。


ども(・・)って、ユージさんと一緒にしないで欲しいのです」


 モードンの首元へ短刀を突きつけながら、エマはザミドへと返答する。

 ユージの『樹木生成(クリエイトプラント)』発動直後に起きた混乱の中、エマは獣人騎士たちを気絶させ、モードンを捕えたのである。もちろん、捕らえる際に怪しげな薬は没収済みだ。


「とりあえず、もう降参して欲しいのです。この様子だと、獣王も捕らえられているはずなのです。あなた方に勝ち目はないのです」

「くっ…獣化薬すらも取られてしまっては、最早ここまでか…」

「いや、まだだ!」


 諦めを口にするモードンを他所に、ザミドは懐から手鏡を取り出した。


「これは『遠伝(とおづて)の魔鏡』だ。対となる魔鏡へ、音や声を伝える効果を持つ」


 通信機器の無いこの世界では、遠くへいち早く情報を伝達できるその魔道具はとても貴重で強力な武器ともなる。しかし、この場でそれを取り出す意味がわからず、エマは怪訝な表情を浮かべた。


「この魔鏡の片割れは、フレイア王国の王城へ潜伏させた勇者タケオが持っている。おかしいと思わなかったのか?専属勇者であるタケオがいない事を!」

「!!」

 

 エマはその事実に驚愕した。ザミド王子の言う通り、タケオがいない事自体に何の疑問も抱いていなかったためだ。ちなみに、ユージ自身もその疑問は抱いていない。そもそも、タケオの存在自体を忘れているためだ。


「でも、だから何なのです?今からタケオに助けを求めるのですか?」

「ふっ、その必要など無いさ。エマ、お主がフレイアに仕える勇者なのだとしたら、私を殺すことは絶対にできないのだからな!」

「?」


 意味がわからず、エマは首をかしげる。


「王族のみが知る隠し部屋に、タケオを潜伏させていた。私に異常事態が起きた際、王城に居る王族全員を抹殺するためにな!」

「なっ!」

「そして、大樹が城を覆う前に、魔鏡で私の現状は伝えた。すでにフレイア王国の王族は、皆死んでいる頃だろう」


 エマは自らの主人であるレインの事を思い、青ざめる。


「王の血筋が私1人となった今!この私が、フレイア国王なのだ!」


 だがエマは、レインの死という考えをすぐに改めた。


「王城には優秀な騎士たちがいるのです。それに、サチとシゲル、勇者が2人もいるのです。そんな中で、王族の抹殺など不可能なのです!」


 当然だ。潜伏しているならば不意をつける


「はっはっは!そんなことは理解しているとも。だからこそ、タケオには援軍が付いておる。獣化薬を持った獣人傭兵6名がな!」

「!!!」


 獣化薬。先ほどのモードンの発言から、並みの獣人騎士を勇者クラスまで強化できる例の薬剤であるとエマは推察した。

 その推察通りであるならば、王城には勇者クラス6人と本物の勇者1人が攻め込んだ事になる。だとすれば、王族の抹殺も不可能では無い。


「さて、現実を思い知らせてやろう。タケオ、聞こえるか?」

『…ザ、ザミドか!?』

「うむ、抹殺は終わったか?」

『アホか!終わってねぇよ!それどころか、こっちがやられちまってる!』

「…なに?」

『白い仮面をつけた見たこともねぇ騎士に、獣化した傭兵どもが次々とやられてんだよ!』


 そして、時は数分ほど巻き戻る。






 『異世界転生…されてねぇ!』という作品も書き始めました。気になる方は、暇つぶしに読んでみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ