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40話「将を射んと欲すれば、もう将を射よ」




 ポルトスはアラミスとともに王宮の警備をしていたらしい。そこへ突然、獣王とザミドの謁見に立ち会っていた騎士が命からがら逃げてきたのだそうだ。

 その騎士の話を聞き、2人は洗脳を受けた獣王を助けに向かったのだが、襲いかかってくるモードンの部下たちに足止めをくらい、ポルトスがそいつらを引きつける代わりにアラミスが1人で獣王のもとまで向かったそうだ。


 その後、ポルトスが駆けつけた時にはすでにアラミスの姿がなく。王宮の広間には激しい戦闘の痕と血溜まりだけが残されていたらしい。


「王宮内はすでに、モードンの息のかかった騎士や兵士達で溢れててな。陛下もアラミスも見つけることができずに、おめおめと首都の外まで逃げたってわけだ。そこでアトスと合流して、あとはさっきの説明通りさ」


 握りしめた拳からは血が滲んでいる。相当悔しかったのだろう。

 だが、ポルトスの判断は正解だと思う。いくらポルトスが強くても、敵だらけの王宮内で獣王とアラミスを見つけるのは至難の技だ。見つけたとしても、獣王は操られている。抵抗されればポルトスは確実に逃げ切れなかっただろう。


「とりあえず、生きている可能性はあるんだな。なら、モードンとザミドをボコって獣王とアラミスを救出すればいいわけだ」


 獣人ズの表情が明るくなる。


「大将。他にも、王宮には騎士達の家族や恋人が捕らえられているはずでさぁ。俺に剣を向けてきた騎士がそんな事を言ってたぜ。モードンに心酔してんのはごく一部、ほとんどの騎士達は、人質を取られて無理やり言う事を聞かされてるようでした」


 なるほど、獣人は義に厚いと聞いてたので裏切りはおかしいと思っていたが、人質を取られてたのか。


「なら、その人達も助ける必要があるな」

「お待ちください。ユージ様の強さはダルタニャン副団長から聞いております。エマ様が勇者である事も存じております。しかしながら、そこへ白王様とスゥ様の協力を得たとしても、全員を救うことは不可能でしょう」


 目的達成のためには首謀者であるモードンとザミドをとらえる必要があるが、こちらは人数が少ない。仕掛けるなら夜間の奇襲が最も効率的だが、首都内では数万の兵士が待機している。それを潜り抜けて王宮までたどり着いたとしても、気づかれてしまうと人質を盾にされる。

 アトスの考えでは、今の戦力をどう運用しても人質を見捨てる以外に方法はないという結論だった。


「アトス。てめぇ…」

「事実だ。私も考えたさ、人質を出さない手を、ここまでくる馬車の中で、ひたすらにな!兵が1000人もいれば、万の兵に偽装し、首都外へと目を向けさせ、その隙をついてモードンを捕らえる手もある。だが、数が足りない…」


 兵力か、こっちの数は集まっても数十人。圧倒的に足りな…あ!


「数がいれば、良いんだよな?」

「はい。外に目が向くほどの数がいれば問題ありませんが…」

「わかった。白王、一緒に来てくれ」

「お任せください!」

「え?」


 キョトンとしているアトスを他所に、俺は白王と共にテントを出て行った。













「モードン様、報告致します!」

「なんだ?騒がしい」

「首都が、魔獣の軍勢によって完全に包囲されました」

「なんだと!?」

「魔獣の軍勢?なぜこのタイミングで…」


 モードンの隣で報告を聞いていたザミド王子も、予期せぬ事態に驚愕する。


「こういったことはよく起こるのか?」

「いや。首都を包囲できる数の魔獣が襲ってくるなど、獣国ガルド建国以来初めての事態だ」


 ザミド王子の疑問に、モードンは混乱する頭を必至に働かせながら答える。


「このタイミングでの魔獣襲来。誰かが手引きした可能性が高いな」

「うむ。儂に敵わないと見て、反逆者の誰かがここら一帯を縄張りとしている王を怒らせ、首都へと攻めさせたのやもしれん」


 破滅的な策だが、大いに効果的である。

 このような知略を巡らせる獣人に、モードンは1人だけ心当たりがあった。オウムの特徴を有し、獣人には珍しい魔術師の才を持つ知将。

 未だ捕らえられていない三銃士アトスを思い浮かべ、モードンは忌々しく虚空を睨む。

 

「すぐに城壁の守りを固めよ!魔獣の侵入を許すな!」

「城壁外で待機している騎士達はいかが致しましょう?」

「全員連れもどせ、戦力は少しでも多い方がいい」

「は!」


 モードンは即座に、首都の守りを固めるよう命令を下す。


「アトスめ、小癪な真似を…」


 集めた兵力による人海戦術で反逆者を捕らえ、その勢いでフレイア王国へと攻め込む。そして、戦争下の混乱に乗じて王族を1人残らず抹殺し、ザミド王子をフレイア国王の座に置く。

 自身の計画達成まであと少しという所でこのような策を弄された事に、モードンは苛立ちを覚えるがーーー


「ふんっ、まぁよい。所詮は知恵なき魔獣の集まり。連携など取れるはずもない。同士討ちもあるはずだ。数は多くとも、首都に集めた戦力を駆使すればどうとでもなる」


 ーーー現状の問題をさほど重要視せず、一笑に付した。


「本当に大丈夫なのだろうな?」

「問題はない。万が一苦戦を強いることがあるとしても、儂には切り札がある」

「獣王か?」


 ザミド王子は、モードンの脇に控えている獣王を一瞥する。その目に意思の炎はなく、冷たい目でただ虚空を見つめている。


「そうだ。そしてもう1つ」


 モードンは赤い液体の入った小さな小瓶を取り出す。それを見たザミド王子は薄く笑い、モードンの自信に納得した。


「なんの支障もない。首都を囲む魔獣どもを追い払い、反逆者を捕らえ、フレイアへと攻め込む。それだけだ」

「そうだな。そして、我々は王となる。ガルド国『獣王モードン』、フレイア王国『国王ザミド』として」


 この時、2人は予想すらしていなかった。

 魔物の王すらも眷属とできる男の存在によって、首都を囲む軍勢は完全に統率されているということを…。










 首都の城壁から魔物の群れを眺め、一言つぶやく。


「大成功だな」


 昨晩、俺は白王と共に夜の森へと探索に出かけた。

 探索の目的は、戦力補充。白王の野生の勘と俺の広域探知で魔物の王を見つけ出し、協力を仰いだのだ。白王の一吠えと俺の咳払いで皆快く承諾してくれた。

 4体の王には、首都にある四方の門それぞれを牽制してもらっている。被害は出したく無いので「なるべく殺すな」という命令を与えているが、魔獣は知能が低いので王の命令を無視することがあるらしい。そうなるまでにケリをつけなければいけない。時間は有限だ。


「とりあえず、作戦の第1段階は成功したな」

「そう、ですね…」

「あいかわらず、規格外なのニャ…」

「流石だぜ大将!」

「流石です、ユージ様!」


 作戦が成功したというのに、アトスとダルタニャンの返事は歯切れが悪いな。ポルトスと白王の好感度はうなぎ登りだ。


 ちなみに、今俺たちは首都の内部への潜入に成功したところである。首都へ召集された騎士のフリをしたところ、あっさりと入れたのだ。

 理由としては、魔獣の群れが首都を包囲している事もあるが、それ以上に指揮系統がまだ未熟らしい。軍事の総指揮を任されていた三銃士は一人もおらず、ここ数日で集めた兵の数が多過ぎたために、連絡系統が特に杜撰(ずさん)だ。

 せっかくお手製のケモ耳まで用意して変装したのに、これじゃあ付けなくても楽に潜入できたな。


「あ、もうはずすのニャ?」

「もう少し見ていたい…ではなく!念のためにもう少し付けていたほうがいいと思うぞ?うん、そのほうがいい」


 外そうとした瞬間、名残惜しそうに見つめてくるダルタニャンとシェフィールドの可愛さに、負けた。ちょっと邪魔だが、もう少し付けておくとしよう。


「ユージ様、そろそろ作戦を開始致しましょう。モードンの薬の件もあります。猶予を与えるのは危険かと」

「そうだな」


 魔獣の制御以外にも、俺たちには新たな問題が浮上していた。


 クーデターの首謀者であるモードンは、怪しげな強壮薬の実験の為に辺境の魔物狩りを行なっていた事を、王の一体が教えてくれたのだ。

 その王は、その実験のせいで辺境から首都に近いこの土地まで逃げて来たらしく、攻めて来た獣人騎士が赤い液体を飲んだ途端、レベル30に満たない実力だった騎士が勇者の如き強さを見せたらしい。

 その薬がどのタイミングで使用されるか、どれほどの量があるのかわからない以上、あまり悠長にはしていられない。


「只今戻りました、主様」

「ただいまなのです。モードンとザミド王子、獣王様の居場所は無事に掴めたのです!」


 焦りを感じ始めたところで、スゥとエマが偵察から戻って来た。無事に情報を掴んで来たらしい。これで準備は完了だ。


「よし、作戦の第2段階を開始するぞ」


 将を射んと欲すれば、もう将を射よ作戦だ!


 学園編を書きたい…学園に入学させたい…

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