38話「羽ではパーしか出せませんでした。私の勝ちです」
「止まれ!いまガルドへの入国は…ダルタニャン殿!」
「獣王陛下の勅命でここまできたのニャ、何があったのニャ?」
「それは…ひとまず検問所の中へお進みください。それよりも、そちらの人間は?それと、馬車を引いているのは走鳥ですか?」
『走鳥』とは馬車を引く鳥型の魔獣だ。スゥはその上位種の『爆走鳥』を模して変身したらしいが、兵士が間違うという事はどちらも似たような姿なのだろう。
「この2人は信用できる人物ニャ、僕が保証するニャ。詳しい説明は後で、取り敢えず入国しても大丈夫かニャ?」
「ダルタニャン殿がそう仰られるなら問題ありません。どうぞ御入国ください」
顔が効くと言っていたが、本当だったらしい。特に調べられる訳でもなく無事に通り抜けることができた。
ダルタニャン達と共に検問所を抜けると、そこには街が拡がっていた。国境近くにあるからなのか、貿易都市として結構栄えているようだ。だが、今は活気がないな。
「いつもはもっと賑わっているのニャ。本当に様子がおかしいのニャ」
「まずは詰め所へ行ってみよう、そこで情報を…」
「その必要はないぞ!」
なんだ?検問所の脇から数人の騎士を引き連れた大柄の獣人と細身の獣人がやってきた。大柄な方は灰色の髪に小さな耳でなんの動物なのかよくわからないな。細身の方は鳥の羽が髪に混ざっている、羽は赤や青でカラフルだ。オウム、か?
「ぽ、ポルトス団長殿!アトス団長殿!」
「がっはっは!頭を下げなくていいぞ」
「うむ、それよりもーーー」
細身の獣人が俺の方を見る。
「ーーー彼らは何者かな?」
「えっと、フレイアからの使者の方々ですニャ」
「そうか、捕獲しろ!」
えぇっ!?なに?なんで?
「待ってください!一体どういうことですか?」
「そうニャ!ユージ達は僕らの命の恩人なのニャ。そうでなくとも、まずは理由を説明してほしいのニャ!」
シェフィールドとダルタニャンを筆頭に、獣人ズが俺たちを守る様にして前に出た。
あの2人が団長という事は、完全に上司だろうに。本当に義に厚い種族なんだな。
「命の恩人か。何があったかは知らないが、一応説明だけはしてやろう。フレイア王国から来たザミド王子に我が国を混乱に陥れた容疑が掛かっている。故に、現在フレイア王国から来る者達は信用できないのだ」
うわぁ、やっぱりか。むしろそれを止めに来たのだが、間に合わなかったらしい。
というより、このままだと共犯者にされてしまいそうだ。どうすっかなぁ。
「ユージは信用できますニャ。絶対に悪い奴じゃ無いのニャ!」
「ほう、彼らが信用できるという根拠はどこにある?」
「それは、ガルドへ帰還途中、襲って来た謎の剣士から私たちを救ってくださいました」
「それすらも計画の内かも知れないぞ?裏で繋がっていたのかも知れない。根拠には足りないな」
アトスとかいう獣人は中々疑り深いらしい。ダルタニャンとシェフィールドの説得がことごとく躱されている。当事者の俺が喚いても状況が好転するとも思えないし、全員ぶっ飛ばしてザミドをぶちのめしに行くのは本末転倒だし、マジでどうすっかな。
「ユージは、ユージは聖獣様に選ばれた者ですニャ!」
「聖獣様…だと?」
「なに、それは本当か!?」
ポルトスは驚き、周囲の騎士達からはざわめきが聞こえて来る。アトスはなにやら考えたあと首を振った。こっちは信じていないみたいだな。
「証拠、になるかわからんけど見せるか。スゥ」
「はい主様」
スゥに声をかけると器用にハーネスを外し、燃え上がった。そしていつもの姿へと変わり、俺の肩に留まる。
「「「「!!!!」」」」
「マジかよ…」
騎士達もポルトスも驚愕だ。
聖獣がなんなのか知らないが、変身したりできるのが聖獣の特徴らしいな。
「ポルトス落ち着け。幻術や特殊なスキルによるトリックかも知れない。断定はまだ早いぞ」
「あ、あぁ、そうだよな。聖獣様がそんな簡単に見つかる筈がねぇ。ましてや、こんな弱そうな人間と一緒にいるわけもねぇ」
そういえば、いつもの癖で気配を薄めたままだった。気配を消していると気付かれ辛くなってしまう上に、自分より弱いと勘違いして絡んでくるバカが多い。なので、一般人レベルの気配を放出するようにしているのだ。
「本当に聖獣様なのですニャ!信じて欲しいのですニャ!」
「ふむ、確かにその可能性はある。幻術や特殊なスキルだったとしても、我々の誰1人として気付かない事などまずあり得ないだろう」
すごい自信だな。
「だが、確実に見極める方法はある。ポルトス」
「お?なんだ?」
「白王様をお呼びするぞ」
「「「「「!!!!!」」」」」
獣人ズをはじめ、騎士達も皆厳しい表情となった。物凄い緊張感だ。
「白王様って誰だ?」
「ユージは知らないのニャ!?ガルドを守護してくださっている聖獣様で、僕たちの神様のような存在ニャ。同じ聖獣様同士ならスゥ様が聖獣様だという事を見極めることができるのニャ」
そういえば、ガルドへ来る前の説明でミーナがそんな話をしていた気がする。
マジか、もしかしてその聖獣様とやらに今から会えるのか?
「ダルタニャン副団長、そしてフレイアからの使者よ。わざわざ白王様をお呼びするのだ、もしもその赤き鳥が聖獣様でないとするならば、どうなるか分かっているな?」
アトスが僅かな殺気を込めながら語りかけてきた。
やべぇ…聖獣じゃなくて神獣なのだが、どうしよう。これで違うとか言われて無駄にガルド争う事になったら、ミーナになんて謝ろう。
「実は神獣です!」って言った方がいいのか?聖獣は神獣の下位互換かと思っていたけど、もしかして逆だったりしてーーー
「構わないのニャ!僕らはユージに命を救われた、そのユージを信じるのニャ」
「そうです、スゥ様は本当に聖獣様です」
「僕もそう思いますよ」
「ユージ殿を、信じる」
「いいだろう、儀式を始める」
ーーー獣人ズ!信頼は嬉しいが、完全に退路が断たれた。アトスは獣人には珍しい魔術師らしく、立派な杖を構えながら呪文を唱えはじめている。
「ポルトス、お前の魔力も貸せ、私1人では白王様をお呼びできない」
「おうよ!」
地面に浮かび上がった巨大な魔術陣に、ポルトスも魔力を注ぎ込んでいる。妨害するか?いや、アトスは結構な使い手のようだ。俺がチャチャを入れればバレるかも知れない。
というかエマはどこに…あのやろう、馬車の中で気配を消してやがる。こんな時ばかり忍者っぽくなりやがって。
そんなことを考えているうちに儀式とやらは終わり、魔術陣が神々しく輝いた。
「うおぉ、すげぇ」
綺麗だ、コゥを召喚した時に似ているな。
異変に気付いたのか、いつの間にか騎士達以外にも衛兵や市民まで集まっている。
そして、光の中から巨大な白い虎が現れた。
「白王様だ!」
「す、すごい、お目にかかれるなんてっ」
「あぁ、神よ」
白い虎の姿にギャラリーがざわめき出した。膝をついて祈りを捧げている人達もいる。すごい人気だな、マジで神様が街中に現れたような騒ぎとなっている。
「白王様。わざわざ足をお運びいただき、誠にありがとうございます」
「構わん。お前達獣人とはそういう契約だからな」
アトスを始めとして騎士達や獣人ズも跪いている。出遅れた、立ってるの俺だけじゃん。
「それで?何故我を呼んだ」
「はい。あそこにおられる赤き鳥が、聖獣様であるかどうか見極めて頂きたくお呼びさせていただきました」
「ふん、そんな事か。よかろう」
ズシンズシンと白王が近づいてくる。でっけぇ、召喚時のコゥは10メートルくらいだったが、白王はさらに一回りでかい。肩幅もコゥより厳つい気がするし、もしかして本当に神獣より上の存在なのか?
「あぁ、なるほど…」
「スゥ、どうした?」
「聖獣という存在を私も知らなかったのですが、どうやら…」
「貴様が聖獣を名乗る鳥で間違いないな?」
スゥが聖獣について何か教えようとしてくれたが、白王に遮られてしまった。
「はぁ、まぁそんな感じですね」
「名は何という?」
「スゥです」
「スゥ…聞いたことが無いな。それに、鳥型の聖獣など見たこともない。我と似たような気配は感じるが、レベルは聖獣と呼べるほど高くも無いようだな」
スゥはまだ本調子じゃないからな、そこは仕方ないか。
「もっとよく調べてください。私よりも主様を調べてみたほうが面白いですよ」
「主様?貴様はこの人間の眷属なのか?」
「はい、そうです」
「…フッ」
白王は俺をチラ見し、見下しやがった。
「このような人間に使えている時点で貴様は聖獣などではないようだな」
「まぁまぁそう言わず、主様をもっとよく見てください」
スゥが俺を調べるようにと催促している。何だ?
「フンッ、このような気配の弱い人間に何が…ん?」
白王が執拗に俺を嗅ぎはじめた。怖っ、顔でかっ、急にどうしたんだ?
「なぜ、何故貴様から始祖様の匂いがするのだ!?」
「ふっふっふっ」
スゥがしてやったという顔をしている。俺も状況がわからないんだが…教えてスゥ先生。
「主様、コゥもこの会話に混ぜましょう。そうすれば理由がわかりますよ」
「コゥを?でも今はミーナ達の所にいるから無理だろ」
リザリアでスゥと念話ができたように、街の中程度の距離なら問題なく行える。だが、ロード大森林のゴブ達と念話ができないように、距離があると難易度は格段に上がるのだ。
「距離が遠ければ遠いほど、互いの高い魔力操作技術が必要ですが、コゥは腐っても神獣ですのでこのくらいの距離なら可能ですよ」
いや、コゥは腐ってないけどな。まぁ、スゥ先生が言うならやってみるか。
『コゥ、もしもーし、聞こえるかー?』
リザリアで教わったように、頭の中でコゥを思い浮かべながら言葉を放つ。するとーーー
『…ユー…ユージ様!繋がりました、聞こえます!』
ーーーコゥの元気そうな声が聞こえてきた。成功だ。
『すげぇ、ほんとに繋がったよ。ひさしぶり』
『はい、お久しぶりです。お元気そうで何よりです!』
『お前もな』
さてと、で、どうするんだ?
『コゥ、ひさしぶりですね』
『む、スゥか。チッ、どうやらお前も元気なようだな』
スゥが念話に入ってきた、3人同時もできるんだな。
ちなみに、俺のお供を決めるジャンケン勝負でコゥは負けたため、スゥに御立腹だ。まだ根に持っているらしい。
まぁ、無理もないか…
『コゥ、私はチョキを出します。お供は貴方に譲ましょう』
『なに?本当か!感謝するぞスゥ、それではゆくぞ。ジャンケン「ポン!」』
『すみません、羽根ではパーしか出せませんでした。私の勝ちです』
『スゥ、貴様ーーーーーーーー!!』
というやり取りでスゥに決まったのだ。
そりゃ恨むわな。
『コゥ、今回は貴方に用があって連絡をしたんです』
『我に用?何かあったのか?』
『主様の事を鼻で笑い、気配の弱い人間と罵った不届き者が現れました』
『何だと!?何処のどいつだ、今すぐそちらへ向かおう!』
『まてまてまて、お前にはミーナとサチの護衛を任せてるだろ。こっちは大丈夫だからちゃんと護衛をしろ』
『む、ユージ様がそう言うのでしたら…ところで、その不届き者は誰なのですか?』
『ふふふっ。コゥ、貴方の知り合いですから直接話してみるといいですよ。この念話に参加させましょう』
『我の、知り合い?』
スゥが不敵な笑みを浮かべながら提案している。うわぁ、絶対コゥが不幸になるパターンのやつじゃん。
『いま念話に参加させるって言ってたけど、どうするんだ?』
「あの白王とやらの頭に触れれば参加させられますよ」
「おい貴様ら、我を無視して何をコソコソとしている。何故貴様から始祖様の匂いがするのか答えよ!」
やべっ、放置してたせいでキレてらっしゃる。周りのギャラリーも白王の怒鳴り声に震え上がっているようだ。
「わるかったよ。わるいついでにちょっと俺たちの念話に参加して欲しいから、頭に手置いてもいいか?」
「貴様、何様の…ん?この魔力の波動は、始祖様のものか!?」
「俺も理由はわからんけど、念話に参加すればお前の疑問も晴れるらしいぞ。スゥがそう言ってる」
「ふむ、よかろう。手を置く事を許す」
そう言われたので白王の頭に触れようとした瞬間、「何をしている!」「てめぇ、白王様になんて不敬を!」と獣人達がブチ切れたが、「構わん、黙っていろ」と言う白王の一言でおとなしくなった。
それでも白王の頭に手を置く俺へ、獣人達の殺気が凄い。さっさと終わらせたい。
『ふむ、念話とはこれで良いのか?』
『ああ、大丈夫だ。聞こえる』
『それで?さっさと貴様から始祖様の匂いがする理由を話せ、人間!』
『我の主に向けて貴様呼ばわりとは、その前に貴様が名乗るのが先であろうが!何者だ!』
『し、始祖様!?』
薄々気づいてはいたが、始祖様とやらはやっぱりコゥの事だったのか。でも、どういうことだ?
「私達(神獣)は体の一部だけでも相当な魔力を有しています。そのため、失った体の一部が高濃度の魔力溜まりに長い時間放置されると、新たな命が生まれる事があるんです」
「新たな命?そしたら、白王はコゥの一部だったのか?」
「おそらくそうでしょうね」
そんな会話をスゥとしている間にも、コゥと白王の念話は続いていた。
『なるほど、貴様は我が分体だったのか』
『は、はい。遥か昔、始祖様の牙として仕えておりました。今は白王と呼ばれております』
『ほう。それで、昔の牙風情が我が主様に不敬を働いたのか』
『も、申し訳ございません。始祖様の主様とはつゆ知らず…』
『知らなかったのなら許されるのか?普段の傲慢な態度がこのような事態を招いたのではないのか?そうであれば貴様のせいであろう!』
『誠に申し訳ございません!!』
コゥの説教に白王がプルプルと震えだした。それを見ながら、スゥは必死に笑いを堪えている。
『あー、コゥ、もう十分なんじゃないか?周りに俺らを見てる獣人達がいるんだが、白王が震えだしたせいで視線が怖い』
側からみると、俺が白王に特殊な攻撃を仕掛けている感じに見えるのだ。お陰で獣人達からの殺気も凄い。
『それに、コゥも主様と出会った直後はこんな感じでしたしね。棚上げですね』
『ぐっ…わ、わかりました、ユージ様がそう言うのでしたら。おい、白王とかいったな』
『は、はひ!』
『我はユージ様の命によってそちらへは行けぬ。その代わり、貴様はユージ様のお手伝いをしろ。わかったな?』
『畏まりました!この白王、命に代えてでも必ずや成し遂げてみせます!』
協力者が増えるのはありがたいが、気合いがすごいな。別に命までかけなくてもいいし。
そうして念話は無事終わったのだった。




