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37話「ちょっ、チョ◯ボじゃねぇか!」




「これは、一体どういう状況なのです?」

「説明は後でするから、ひとまず助けてくれ」


 恍惚の表情を浮かべながら倒れているダルタニャンとシェフィールド。先ほどまで隣の部屋で寝ていたはずなのに、元気よく俺を殺そうとしている短剣使いと弓使いの獣人2人。それを『樹木生成(クリエイトプラント)』で程よく拘束しながら食い止める俺。

 風呂上がりのエマとスゥが戸惑うのも無理はない、俺だっていきなりこんな光景に出くわせばフリーズしてしまうだろう。


 なぜこうなったかというと、時は数分前まで遡る。


「み、耳と尻尾ニャ!?」


 お礼がしたいと迫ってくる2人に対して「耳と尻尾が触りたい」という要求をしたのだ。

 2人は急にモジモジしだしたが、どうしてもとお願いすると泣く泣く承諾してくれた。なので遠慮なくケモ耳とケモ尻尾を堪能していたのだが、くすぐったいのか恥ずかしいのか2人が甘い声を出し始め、俺の嗜虐心に火がつきどんどんとエスカレート。

 ダルタニャンにはまだしも、イケメン獣人のシェフィールドに対してまで興奮し始め、俺の新たな扉が開かれようとした瞬間、部屋の引き戸が開いたのだ。そして短剣使いと弓使いが襲ってきた、というわけである。


「うわぁ…」

「主様…」


 ドン引きしているエマとスゥに再度助けを求め、2人に起こされたダルタニャンとシェフィールドが短剣使いと弓使いを説得してくれたことでなんとかその場は収まった。



「命の恩人とは知らず、申し訳ありませんでした!」

「本当にすみません!」

「いや、いいよ。俺も勘違いさせるような行動とってたわけだし」

「主様、勘違いではないですけどね」

「そうなのです。知らなかったとはいえ、少し触るならまだしも、頭や耳を撫で回したり尻尾に頬ずりはやり過ぎなのです」


 場が収まった後に聞いた話なのだが、獣人にとって耳や尻尾に触れられるのは胸やお尻を触られる事に近い感覚らしい。そして、シェフィールドはイケメン青年ではなくボーイッシュな女の子だったため、俺の新たな扉は開いていなかった。

 要約すると、俺は美女2人に堂々とセクハラをしていたわけだな。


「本当にごめん」

「い、いいのニャ。知らなかったのなら仕方ないのニャ」

「う、うむ。まぁ、悪くはなかった…いや何でもない、今後気をつけてくれればそれでいい」


 よし、これにて一件落着だ!







「サチ、今なぜかユージに苛立ちを覚えたわ」

「ミーナも!?私も今無性にユージさんを問い詰めたい気分なんだよね」

「…偶然、では無さそうね。帰ってきたら問い詰めましょう」

「そうだね」







「ひっ!」

「主様、どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


 なんだ?急に寒気が…気のせいか。気のせい、だよな?

 とりあえず、プランシェとフェルトンとの自己紹介を終え、夜は更けていった。


 余談だが、精密探知で調べた結果、プランシェとフェルトンに異常は感じられなかった。もう洗脳能力の心配はないはずだ。それと、晩飯はスゥ特製怒豪猿(アングリーゴリラ)カレーだった。ジーニアス滞在中に狩った際に食べられる部分を一部貰っておいたのである。

 怒豪猿(アングリーゴリラ)はそこそこの強さの魔獣なので、食べる習慣はないらしい。一応、肉の正体は黙っておいたが、めっちゃ美味かった。みんなもスゥのカレーに大満足だったようだ。よかったよかった。







「さてと、『樹木生成(クリエイトプラント)』」

「「「「「「あぁ!!!」」」」」」


 朝、旅立つ準備を終えたので家を片付けた。

 『樹木生成(クリエイトプラント)』で家の基盤となっている樹木の成長を促すと、家自体を巻き込み、少し歪な形をした大樹となるのだ。

 スゥの炎で焼いても良いのだが、燃え移って山火事になっても困るし、こうすれば植樹にもなるので今後はこの方法でいく事にした。


「暖かい床が、もうないのニャ…」

「フカフカのソファーが…」

「シャワーも、もうないのです…」

「お布団ー…」

「畳…」


 みんな気に入ってくれていたようだが、こればかりは仕方がない。下手に盗賊の寝ぐらにでもされたら寝覚めが悪いのだ。


「ここからガルドまでは馬車で飛ばしても丸1日はかかるんだろ?だったら今晩も作ってやるよ」

「ほ、本当なのニャ!?」

「またあのソファーでくつろげるのか!?」

「今晩もシャワーを浴びれるのです!?」

「やった!お布団!」

「畳」


 また今晩もどっかの街道沿いに家を建てるという事で話は収まった。

 にしても、プランシェはなかなか見所があるな。なぜなら、あの家で俺が一番拘った部分は、畳なのである。



「主様、いま馬車でと言いましたが、誰に引かせるのですか?」

「あ…」


 家の居心地にテンションが上がりすぎて誰も気づかなかったらしい。他のみんなも「あ…」と口にしながら俺と同じ表情をしている。


 馬車はある。ダルタニャン達が乗っていた馬車だ。大使の乗る馬車という事で6人乗っても余裕があるほど大きく、きらびやかな装飾まで施されている。さらに、強化の術式も刻まれているので頑丈らしい。

 だが、それを引いていた狼牙という魔獣は陰陽とかいう少年に殺された。死体は家の横に埋めたので、今はこの大木の下で安らかに眠っているだろう。

 ちくしょう、あのクソガキめ、次あったら許さん。


「そこで提案なのですが、私が引きましょうか?」

「スゥが?そんな小さな体でか?」

「大丈夫です、少々お待ちください」


 スゥは俺の肩から羽ばたき、馬車の近くで燃え上がった。

 物凄い火の玉が発生しているが、周囲には燃え移っていない。エマやダルタニャン達は何が起きたのかと驚きながら様子を伺っているようだ。

 しばらくすると、火の玉の勢いは徐々に弱まっていき、中から馬並みの大きさを誇る鳥が現れた。しかも、ただの鳥ではない。その姿はーーー


「ちょっ、チョ○ボじゃねぇか!」


 見た目が赤いチョ○ボだ。いや、どちらかと言うとフィ○リアルか?とにかく、走ることに特化した形態を持つ赤い鳥が現れたのだ。


「お前、スゥなのか?」

「そうですよ主様。私たち(神獣)はある程度なら自らの姿形を変える事ができるんです。この姿なら馬車の一台や二台簡単に引くことができますよ」

「おお、頼もしいな」


 あれ?待てよ?だったらコゥを召喚しなくてもよかったんじゃね?


「あの時はまだ馬車を引くほどの力がありませんでした。主様の魔力の影響で最近やっとこの姿でも馬車を引けるほどになったんです」


 なるほど、そういや俺の余った魔力吸って回復中とか言ってたな。そしたらレベルも戻ってきたのか?今度ステータスシートで調べてみるか。


「せ、せ…」

「せ?」


 急にどうしたんだ?ダルタニャンが壊れたらしい。


「聖獣様!?ユージ!スゥは、ニャッ、スゥ様は聖獣様なのニャ!?」

「せいじゅう様?」


 周囲を伺うと皆声が出せないほどに驚いている。

 聖獣…響き的に神獣の手前くらいの存在っぽいな。それでもこの驚き様か、なら神獣なのは黙っていた方がいいな。


「えっと、そう、聖獣だ」

「「「「「「!!!」」」」」」」


 やばっ、また何かやらかしたっぽいな…まぁいいか。


「会話ができるので相当高位な魔獣だとは思っていたのですが、聖獣だったとは思わなかったのです…」

「聖獣様を使役しているとは、あの陰陽とかいう少年を退けるほどの力を持つのも頷ける」


 エマとシェフィールドの言葉を聞いて他のみんなも納得しているみたいなので、良しとしよう。


「そしたら行くか!」


 スゥと馬車を繋ぐハーネスは俺が樹木生成(クリエイトプラント)で作成し、乗るのを渋る獣人ズをスゥと協力して強引に馬車に乗せ、無事に出発した。






 翌朝


 今日も『樹木生成(クリエイトプラント)』で作った家を大樹へと変え、ガルドへ向けて出発する。

 スゥの引く馬車の速度はコゥほど速くはないが、それでも狼牙や普通の馬よりかは遥かに速いらしい。なので、このままのペースで行けば午前中にはガルドの入国検問所へ到着するとのことだった。


「気づいたんニャけど…聖獣様に馬車を引かせてるなんてバレたら、僕たちは処刑…なんて事にはならないかニャ?」

「ダルタニャン、気づくのが遅いよ」

「昨晩ダルタニャン殿が寝たあと、僕たちはその事について会議してたんですよ?」

「ニャ!?ニャんで起こしてくれなかったのニャ!?」

「起こしましたが、起きませんでした」


 なにやら獣人ズは楽しそうに会話をしている。昨夜の件だな。

 夜中に急に呼び出され、シェフィールド達とスゥに馬車を引かせる件について話し合ったのだ。その際、ダルタニャンは特別に作ってあげたコタツの中でコタツ猫となって爆睡していたため話し合いには参加していなかった。

 獣人は聖獣を神聖な存在とてし崇めているらしく、聖獣に不敬を働いたとなれば最悪の場合死刑もあり得るらしい。なので、馬車を引かせるなど言語道断なのだが、当事者であるスゥを叩き起こしてちゃんと許可を得たため一件落着となった。

 眠りが深いスゥをビンタで叩き起こしたのだが、世界の終わりかと思うほど獣人ズの顔が青ざめていたな。ガルドに入国した後は自重しようと思う。


「聖獣様からしっかりと許可を取り、ガルド国内でその罪が問われそうになった際は口添えをしていただける事になったんだよ」

「そ、そうだったのかニャ。僕が爆睡している間に迷惑をかけたのニャ」

「後で聖獣様にもお礼言っといた方がいいですよ」

「そうだニャ、そうするニャ」


 ダルタニャンは少し頼りない感じだが、それが逆に良いんだろうな。周りが助けたくなるような雰囲気を持っている。シェフィールドの話ではやるべき事はしっかりとやってくれるので、仕事はちゃんとこなすらしい。

 そういえば、高校時代のクラス委員長がそんな感じのやつだった、懐かしいなぁ。


 それほど友達が多いわけではないが、会いたい奴は何人かいる。もう会えないのだろうか、大学でできた友人も心配しているだろうか。家族もどうしているだろう…。

 

「主様、大丈夫ですか?」

「…あぁ、大丈夫だ。気にすんな」


 馬車を引きながらスゥが声をかけてきた。眷属の繋がりか何かで俺の感情の変化に気づいたのかもしれない。

 この世界に来てから怒涛の勢いで死に、魔王を殴り倒し、神獣をペットにしたり魔物を従えたり魔術を覚えたり冒険をしたり…毎日が新しい経験の連続だった。そのお陰で考える暇などなかったが、やっぱり元の世界が少し恋しいのかもしれないな。

 この世界の生活も充実しているのでまだ帰るつもりはないが、元の世界に帰る方法もぼちぼち探していくとしよう。



「ガルドの検問所が見えて来たのですが、様子がおかしいのです」


 御者台で見張りをしているエマが報告してくれた。前方を見ると厳つい獣の彫刻が施された立派な門が見える。あれがガルドの検問所か、なかなかのセンスだ。

 しかし、その前には旅人や行商人たちの馬車で大渋滞が起きていた。


「ガルドって大人気なんだな」

「そんなわけないのニャ。いや、人気だったら嬉しいけど、残念ながら人気はないのニャ…」


 ダルタニャンの話だと、獣人差別は世界的にいまだ根強く、まともに国交を行なっているのはフレイアぐらいらしい。そのフレイアからガルドへ向かう商人や旅人もケモみ…物好きだけなので、そんなに数は居ないそうだ。だからこそ、検問所が混むことなど普段は無いのだという。


「あの数は、今日や昨日どころではないな。ここ数日入国を制限しているのかかもしれない」


 シェフィールドが冷静に分析している。獣人ズは大使館勤めなはずだが、この様子だと何も聞いてないみたいだな。


「とにかく行ってみよう」

 もう少しで長い休みが、イェア!

 気になっていた作品達が、読みまくれる!

 

 も、もちろん、書きもしますよ。

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