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36話「にゃぁぁああああ!///」




 気絶した少年を縛り上げたあと、唖然としているみんなの目を覚まし、木で拘束していた獣人達を助け出した。

 少年が気絶した事で洗脳は解けていると思うが、念のためロープで縛っておく。

 その際に回復魔術で操られていた2人を治してやったのだがーーー


「凄いな、無詠唱でこんなにも高度な回復魔術を使えるとは…」

「戦闘力もサポート能力も優秀なんて、凄いのニャ」

「これがレベル80の実力なのですか…」

「レベル80なのかニャ!?」

「そうなのです、あの人はレベル80なのです、チート野郎なのです」

「…全然ただの旅人じゃないじゃないか」


 エマが平然と俺の個人情報をバラしやがった。あいつ、隠密部隊じゃねぇのかよ…あとで説教だな。



「とにかく、助けてくれてありがとニャ。僕の名前はダルタニャン、獣国ガルドのアラミス騎士団副団長を勤めているニャ」

「私の名はシェフィールド、アラミス騎士団で副団長補佐を務めている」


 猫耳はダルタニャン、黒豹はシェフィールドと言うらしい。ダルタニャン、猫耳な上にボクっ娘キャラまで持っているとは、恐ろしい子…。


 というか完全に三銃士の登場人物じゃないか。昔召喚された勇者の誰かが広めたのかもしれないな。

 そんなことを考えつつこちらも自己紹介を終え、襲われた状況を詳しく聞こうと思ったのだがーーー


「その少年から離れろ!」


 突然、俺の探知に歪みが生じた。

 少年の付近の空間が歪んでいる。なんだこれ?

 俺の鬼気迫る表情に危険を感じ取ったのか、ダルタニャンとシェフィールドは縛られている少年から急いで距離をとる。その直後、少年の横から白と黒のオッドアイを持つ少女が現れた。え、なにこの子、幽霊?


「あれは転移魔術の類ですね。スキルの可能性もありますが、どちらにしてもあの少女は只者ではありません」


 スゥが教えてくれた。あれが前に話していた転移か、一度行ったところならどこでも一瞬で行けるんだっけか、羨ましい。


「これ、返してもらう」


 縛られている少年を指差しながら少女が話しかけてきた、やはり仲間か。


「返すわけないだろ」


 女の子に一撃加えるのは少々心が痛むが、仕方ない。魔力を少しだけ纏うことで体を強化し、サイドステップとダッシュを駆使して少女の背後をとる。


 わざわざ『強化(フォース)』を使用しなくても魔力を纏うだけである程度体を強化する事は出来るのだ、アバターに乗っ取られていたスゥを殴り倒した時無意識に会得していた技である。しかし、燃費が驚くほど悪い。『強化(フォース)』と同程度の強化を施すには10倍ほどの魔力を消費する。

 詠唱が必要ないので隙なく発動できるが、そもそもおれは無詠唱で魔術が使えるので差はない。なので、こうした手加減ありきでの攻撃にのみ使用するようにしているのだ。


「悪いけど、眠っててもらうぞ」


 撫でるだけで絶命させる技を限界まで加減して使用する。『強化(フォース)』状態でこれを行うと間違えて殺してしまうかもしれないのだ。これで脳を少しだけ揺さぶり気絶ーーー!?


「…触れないだと!?」


 少女の頭に軽く触れようとしたのだが…手が突き抜けた。

 一瞬殺してしまったかと焦ったが、そうではないらしい。まるでホログラムだ、そこに居るのに触れられない。

 エマ達だけでなく、スゥも驚きを隠せないでいる。長生きしているスゥが驚くほどという事は、相当珍しい魔術かスキルなのだろう。


「私には、触れない。これ、持って帰る」

「くっ」


 少年を回収しようと手を伸ばすが、少女が触れた瞬間、少年にも触れることができなくなった。

 触れた者に同じ効果を付与させることも出来るのか。


「バイバイ」

「まて!」


 今こいつらを捕らえる事はできない。だがーーー


「お前達は何者なんだ?」


 ーーースゥのいう通り、この少女も只者ではない。少しだけでも情報を引き出しておきたい。


「私の名前は表裏、これは陰陽。私達、魔王」

「魔王って…」

「バイバイ」


 名乗りを終え、少女と少年は消えた。











「さてと、これからどうするかだが…」

「このソファーは、クションの木の繊維をシツの木の葉で包むことで作られているのか?しかし、普通のクションの繊維ここまで柔らかくはないはずだが…それよりも、複数の樹木を同時に生成しているのか。なんて高度な魔術なんだ…」

「シェフィールド触ってみるのニャ!ゆ、床が、床が暖かいのニャ!」

「冷蔵庫にコンロ、給湯器にお風呂まであるのです!」


 皆のテンションが上がりすぎてて話し合いができない。

 もう日暮れだったため野営をすることになったのだが、もちろん野宿など嫌だ。屋根のある暖かい家で、フカフカのお布団に包まって眠りたいのだ。

 そのため、『家屋生成(ハウスクリエイト)』で遠慮なく宿を建設させてもらった。

 2人部屋と1人部屋がそれぞれ2つに広いダイニングキッチンのある一階建ての和風建築だ。屋根上に設置してある給水タンクによって水道設備は完璧、排水は地中で活性させている微生物が処理してくれるので最後は肥料となる。

 ライトやコンロや冷蔵庫などは、ジノじいと作り上げた即席家電魔道具たちだ。複雑な機能がない代わりに単純な構造にしており、家の生成と同時に簡単に作り出せる。

 さらに、この街道は夜冷え込むとのことなので、各部屋に床暖も設置した。これで深夜も快適な睡眠が可能だ。 

 そこらへんの高級宿よりも遥かに住みやすい作りになっている。我ながらとんでもない魔術を生み出したものだ。



「それじゃあ改めて、俺はユージ。とある事情でガルドに使節として向かったザミド王子を追ってるんだ」

「にゃ?そしたらユージも使節団の人なのニャ?」

「まぁ、そんなとこだ。だから目的地は多分王宮だな、そこにザミド王子もいると思う」

「そしたら是非とも案内するのニャ!こう見えてもガルドでは結構顔が効くのニャ。それに、僕らも王宮へ帰る最中だったのニャ」

「まじか、そしたら頼むわ」

「任せて欲しいのニャ!」


 学園都市ジーニアスにはガルドの大使館が存在するらしく、彼等はそこで働いていたそうなのだが、本国から緊急の呼び出しがあったために戻るとこだったらしい。

 とりあえず、意図せずしてガルドでの案内役が見つかったのはありがたい。だが、話はそれだけでは終わらなかった。


「何か他にもお礼がしたいのニャ」

「確かに、我々4人は命を救われた。道案内程度ではその恩に報いたとは言えない」


 獣人は義に厚い種族らしく、いくら断ってもずっとこの調子だ。

 エマとスゥは俺を置いてお風呂へ行った。『そこへ主様の拳が!…』『それで、それでどうなったのです!?』という声が微かに聞こえてくるので、スゥの布教活動が行われているらしい。スゥも後で説教だな。


 それにしても、恩返しかぁ、別に欲しいものも特にないし…あ!


「わかった、そしたら1つだけ頼みたいことがある」

「なんなのニャ!?」

「我々にできる事なら何でも言ってくれ!」

「それはーーー」









「ここは…」

「気がついたかフェルトン」

「プランシェ…」


 ユージ達がいるリビング横の和室で、2人の獣人が静かに目を覚ました。鳥の羽が頭髪に混じる小柄な少年は弓使いのフェルトン、大柄で小さなケモ耳が特徴の青年は短剣使いのプランシェだ。


「プランシェ、ここはどこなの?」

「わからん、俺もお前が目覚める少し前に起きたばかりだ。だが、周囲から殺気や闘気は感じない。とりあえず、危険な場所ではないようだ」


 プランシェは角こそないが、鹿の特徴を持つ獣人である。そのため、周囲の気配や視線を感じ取る能力が非常に優れているのだ。

 そんなプランシェの感覚を信じているフェルトンは、わずかに警戒のレベルを下げる。


「体に外傷は、無いね」

「ああ。多少の疲労感はあるが、怪我どころか傷跡すらない」

「回復術師が治してくれたのかな?」

「…わからん、そもそも大した怪我を負っていなかったのかもしれん」


 2人の記憶は陰陽に怪我を負わされたところまでしかない。そのため、細かな裂傷を全身に負い、失血死寸前まで追い込まれていた事は知らないのだ。

 また、ユージの回復魔術は対象者に蓄えられている脂質や不要なタンパク質をも利用する。そうする事で、失った血液、場合によっては部位すらも再生させる事ができる。その為、多量の失血を伴っていた事実にも2人は気づいていないのである。


「ん?隣の部屋から声が聞こえない?」

「確かに、ダルタニャン殿の声に似ているな」

「このままここにいてもしょうがないし、隣の部屋を見てみようか」

「うむ、そうだな」


 僅かな警戒心を抱きながらも、2人は引き戸をゆっくりと開け、隣部屋の様子を伺う。そして2人が目にしたものはーーー



「よーしよしよし」

「にゃ、にゃぁぁああああ!///」

「ま、まってくれ、そこは、あっあぁっ!///」


 自分達が慕う副団長と副団長補佐が、知らない男の手によって弄ばれている姿だった。


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