31話「なんで忍者がいるんだ!?」
俺の王宮での立ち位置は「ミーナの恩人」ということになっている。その為、王宮内の施設は顔パスで使い放題なのだ。
「…で、四方の壁全部にあえて同じ術式を描いて予備回路として使えるようにしたいんだ」
「なるほどのぉ、そうすればたとえ壁が壊れても家の魔道具は機能するという事か。ライド、新しい紙を持ってくるんじゃ!」
「は、はい!」
そんな王宮内にある訓練場の一角で、ジノじいとライドと共に『家屋生成』で生成した家を改造していた。
金貨を支払った後、ジノじいに魔道具を買った理由を聞かれたので「快適な家を作るためだ!」と答えたら手伝ってくれる事になったのだ。
なんで手伝ってくれるのかは分からないが、ジノじいの腕はまじで凄い。俺が思い描く快適家電達を即興で作製してくれる。
お陰でフカフカベッドと二階建てだけが取り柄だった家屋生成製の家が、なんという事でしょう、今では凄まじい発展を遂げているのだ。
「あとはこの家の構造を暗記して、魔術の発動と同時に同じ家を作れれば成功だな」
「覚えられるのか?結構複雑な術式を描いておるぞ?」
ふっふっふっ。昔ならいざ知らず、今の俺の記憶力は抜群なのだ。便利スキル『演算師』のお陰で憶えようと思ったものはするする頭に入ってくる。
家に描かれた数多の術式など、既にほとんど暗記済みだ。
「ユージ様、ミーナ姫がお呼びのようです」
紙を取りに行ったライドが伝言頼まれつつ戻ってきた。
ミーナが呼んでいるのか、なんだろう?
「何か用事があるならわしは帰るとするぞ、今日描いた術式をもう少し煮詰めてみるわい。改善点はまだまだありそうじゃからな」
「ああ、頼むわ。そしたらライドはジノじいを送ってやってくれ」
「了解しました!」
返事がいいねぇ。ついでにリノにも会えるからかな?リア充め!
ま、爆ぜろとは思いつつもそこはかとなく応援してやるとする。この世界の合計特殊出生率を向上させてくれ。
「ミーナのところへ向かうのですか?それならば私も行きます」
屋根のてっぺんで風見鶏となっていたスゥが俺の肩へと飛んできた。
庭に散乱させていた小道具を空間収納で片付け、ミーナのところへ向かうとする。
◇
「ユージ、やっときたわね」
「お久しぶりですユージさん」
「2人とも久しぶり」
王宮にあるミーナの私室へ訪れるとサチもコゥを抱えながら待っていた。2人と会うのは本当に久しぶりな気がする。
「ユージ様ぁ」
コゥがスリスリと甘えてきた。コゥと会うのも久しぶりだな。にしてもこんな一面があったとは、可愛い奴め。
「ていっ」
「ぬあっ!スゥ、やめんか!」
コゥを撫でているとスゥが嫉妬したのか魔刺を飛ばしはじめた。
お前も魔刺使えたんだな。
「ユージ早くこっちに座って、話ができないわ」
ソファーポンポンと叩きながらミーナが座れと促してきた。
ソファーは広いのに、自分の座っているすぐ隣をポンポンと叩いている。隣に座れと言うことか、デレミーナも可愛いなぁ。
「よっこいしょ」
「ユージ、近くない?」
「あ、すみません」
勘違いだった、普通にソファーへ座れという意思表示だったようだ。恥ずかしい…。
「全員揃ったわね、これでようやく話し合いができるわ」
「話し合い?」
「ええ、兄上…ザミド王子についてよ」
家づくりに夢中で忘れていた。そういえば、ミーナの暗殺未遂を認めさせるために真実という嘘をつけなくする魔術をかます予定だったな。
「溜まっていた公務もひと段落したから明日にでも真実による公開聴取を行う予定だったんだけど…どうやら、隣国のガルドへ使節として旅立ってしまったらしいの」
「なっ!」
あのヤロウ、逃げやがったのか。
「残念だけど、兄上の公開聴取は先送りにするしかないわ。今回の使節の話も前々から決まっていた事らしくて、中止にはできないの」
ミーナが肩を落としながらそう話した。
絶対ガルドで何か企んでそうだな、放っとくのは危険かもしれない。
「ガルドって、獣人が沢山いる国だったっけ?」
「そうですよ。仲がいいとは言えないですけど、一応国交のある国ですね」
獣人は奴隷としての人気が高いため、奴隷制度のある国が獣人狩なんてことをしていたらしい。そのせいで獣人と人は仲がよくないのだとサチが教えてくれた。
「この国、フレイアは奴隷制度がないの。そのお陰で獣国ガルドとも国交を結べているわ」
足りない部分をミーナが補足してくれた。
人は嫌いだが、奴隷制度の無いフレイアとだけは嫌々ながらも国交を結んでくれているらしい。
「何とかして追えないのか?」
「追えないことはないけど、獣国ガルドは人に対する検問が厳しいの。兄上は使節として了解を得ているから検問は問題ないけど、私達は簡単に通れないでしょうね。だから、今から向かっても兄上の企みが実現する前に追いつける保証はないわ」
ミーナ曰く、ザミド達はもうガルドの国境付近にいる頃らしいので俺の全力疾走でも追いつけるか分からないとの事だ。
空間転移できる魔術もあると前にスゥが言っていたので覚えておけばよかった。
「それで、今後の方針をどうしようか話したくてユージ達を呼んだのよ」
「話し合いって、他には居ないのか?新しい騎士団長とか、賛同してくれてる貴族とか」
「先日のサチの決闘で陣営内が荒れてて、みんな手一杯なのよ。私の陣営に入りたがっている貴族が急に増えて、その人達の身辺調査や意識調査の為に騎士団は出払ってるわ。スパイを入れるわけにはいかないからね」
俺が家づくりに夢中な間にそんなことになっていたとは…なんか、申し訳ないな。
「それに、ここにいる4人の事は、心から信頼してるから…」
ぐふぁっ。ミーナがもじもじしながら嬉しいことを言ってくれた。
サチ、俺、スゥ、コゥの4人か。正確には2人と2匹だが、もう4人としとこう。
チームピースメーカーだしな、これは期待に応えなきゃならんな!
「そしたら今後の方針を考えるとするか。俺としては、やっぱりザミドは放っておけな…ん?」
「ユージさん!」
サチも気づいたか。スゥとコゥは既に臨戦態勢に入っている。
「3人はミーナを守れ、俺が対処する」
「はい!」
「わかりました」
「了解です」
「え?急にどうしたの?」
ミーナは気づいてないが、天井から奇妙な気配を感じるのだ。話に気を取られすぎて気づくのが遅れた。
降りてくるのを待つのも面倒だし、炙り出すとするか。
「『魔改造』」
壁に手を触れ、最近開発したオリジナル魔術を発動する。
「あつっ!」
天井からマントを羽織った人物が落ちて来た。マントは背景と同化できる術式が刻まれているらしく、さながら透明マントだ。すごい!ほしい!
「ユージさん、何をしたんですか?」
「ちょっと天井に向けて術式を描いたんだ。魔力を流すと熱くなるヒーターの術式をな」
熱くて天井に張り付いていられなくなったのだろう。文字通り炙り出してやったわけだ。
「それって、天井を魔道具化させたって事ですか!?」
サチもミーナも驚いている。無理もないか、術式を描くのは単純なものでも数日はかかるとジノじいさんが言っていた。
簡単な魔術に見えるが、俺の魔力操作と演算師の処理能力で実現できる荒技なのである。
「そうだよ。これからはそこの壁に魔力を流せば天井を温めることができるぜ」
「…今すぐ戻して」
「はい」
ミーナの仰せのままに天井の術式を消しといた。
「さてと、お前は何者なんだ?」
透明マントの効果で手が浮いているようにしか見えないが、俺の精密探知の前では無意味だ。
身体のラインからして小柄な女性らしい。
「バレては仕方ない」
その女性は華麗にマントを脱ぎ捨て、姿を現した。
「なっ!」
思わず息を飲む。出会えるとは思っていなかったのだ。
まさか、どうしてこの世界にーーーー
「なんで忍者がいるんだ!?」
目の前には典型的な忍装束の女性が、忍者が立っていた。




