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30話「ライトシェーバー?」





 サチの圧勝祝いを終えた翌日、王都の外れにある墓地へと来ていた。


 暮石が規則正しく並べられてはいるが、一見すると色取り取りの花が咲く美しい丘に見える。

 この世界では死者がアンデットと言う魔獣として蘇える可能性がある為、棺には入れず直に埋葬する事で遺体を土へと還すらしい。埋葬後は神官が定期的に土へ魔力を注ぎ、微生物を活性化させる事で土へ還るのを早めるそうだ。

 その風習によって墓地の土壌は栄養と魔力に溢れており、このように美しい花が毎年咲き乱れるらしい。


 なぜここへ来ているかというと、ロード大森林までミーナを護衛していた騎士達の弔いを行うためだ。

 俺は空間収納(ストレージ)から騎士達の遺体を出し、事前に掘られていた穴の横へと並べていく。

 参列者の人達は俺の空間収納(ストレージ)容量に驚いていたが、中から出てくる遺体と遺品を見た瞬間に涙を流し、ここまで運んできた事に対する感謝を受けた。



「もう二度と…こんな悲しい出来事は繰り返さないわ」

「うん。その為にもこの光景は絶対に忘れないよ」


 神官が弔いの言葉を述べる中、ミーナとサチは静かに決意を固めている。


「彼らが居なければ、あの2人に会う事も出来なかったかも知れませんね」


 スゥがポツリと呟いた。

 確かに、彼らがいなければ俺の助けは間に合わなかっただろう。

 

 死の恐怖を知っているからこそ分かるが、誰かのために命を賭けるにはとてつもない覚悟がいる。そういった面から見ても、彼らは素晴らしい騎士だ。


「ユージ様、何をしているのですか?」

「いや、ちょっとな」


 神官に合わせて地面へと魔力を流す。

 ただの自己満足だが、せめてもの手向けになればと思う。


「それならば私も」

「我も微力ながら」


 スゥとコゥまで魔力を流し始めた。

 神獣の魔力って、大丈夫なのか?…ま、いいか。少なくとも悪い影響は無いだろう…たぶん。

 

 







「これからどうしますか?」

「そうだなぁ…」


 弔いの後、王都の街中に散策へ来ている。

 公務で忙しいミーナとサチには護衛としてコゥを付けているため、ここにはスゥと俺とーーーー


「まずはお昼などどうでしょうか?少し行った先の路地裏に名店がありますよ!」


 男性騎士のライドくんがいる。

 一見すると短い青髪の似合う青年騎士だが、歳はまだ15歳らしい。若いのに、俺より高身長でイケメンときている。

 この歳で騎士にまで登りつめた事実の通り剣の腕も相当なもので、品行方正で頭脳も明晰らしい…チッ。


「ここがオススメのお店です。ユージ様のお口に合えばと思うのですが…」

「嫌いなものは特に無いから大丈夫だ。っていうか、そんなに気い遣わなくていいぞ?」

「いえ!ユージ様の騎士として仕えさせていただくのです。主人を満足させるのも騎士の努め。不満があれば何なりとお申し付け下さい」

「ふむ、なかなか良い心掛けですね。ですがまだまだです。不満が起きてからではなく、不満を感じさせないように立ち回ることを意識して行動する。それこそが真の従者としての…」

「スゥ、ややこしくなるからちょっと黙ってて」


 後輩ができてテンションの上がっているスゥを制しつつ、店へと入る。


「まだスゥ先輩には敵いませんね。ユージ様の為、これからも精進します!」


 スゥ先輩て…いつの間にそんな関係になってんだよ。

 ライド君はロード大森林までミーナ達を護衛していた部隊長の弟であり、兄の遺体と遺品を運んで来てくれた礼にと俺の専属騎士に志願してくれたのだ。

 それにしても、何でこんなに慕ってくれてるんだ?お兄さんの礼とはいえ過剰な気がする。


「ライド君は、どうして俺に仕えようと思ったんだ?」


 恩を返す為だとミーナから聞いていたが…


「遠慮せずライドとお呼びください。兄の件もありますが…私が心からユージ様に仕えたいと思ったのは、昨日の事です」

「昨日?」


 何かしたっけか?むしろ、昨日は何の活躍もしていなかった気がするんだが…。


「昨日お聞きしたユージ様の武勇伝に私は感銘を受けました!リアビ村を救い、ジーニアスの危機を退けたユージ様の強さと正義心。その偉業を聞いた瞬間、この方について行きたいと思ったのです!」


 武勇…伝?

 肩に留まっているスゥを見る。


「ご安心ください、アバターの件は話していませんよ」


 羽で器用にグッドポーズを決めながら小声で伝えてきた。

 いやいやいや、ご安心できません!


「それって、ライド以外にも聞いてた?」

「はい!昨日の午後、騎士団の休憩室へスゥ先輩とコゥ先輩が訪ねてきた際に語ってくださったので、その場にいた騎士達は全員知っていますよ。全員目を輝かせて聞き入っていました!」


 サチの圧勝祝いの前に用事があるとか言って居なくなってたが、また布教活動に励んでたのか。

 ちやほやされたい欲求は多少あるが、有名人になって出歩くたびに騒がれるような存在にはなりたくない。一挙一動が常に注目され、しがらみの中生きて行くなど言語道断だ!


「主様?」

「今日からしばらく、お前のアダ名は焼き鳥とする」

「焼き鳥!?」

「それと、後で説教な」

「説教!?」


 愕然としている焼き鳥はほっといて、今は食事を楽しむとする。

 サンドイッチがオススメらしく、ベーコンの様なものとチーズを挟んだライ麦パンのサンドは絶品だった。












「おじいちゃん、また変な魔道具作ってるの!?」

「変な魔道具じゃないわい!こいつは空気中の水分を集めておいしい水を作り出す給水器じゃ!」


 赤毛の髪を後ろでに纏めたポニーテールの少女と、同じく赤髪の老人が洗濯機ほどもある四角い箱を囲んで怒鳴りあっていた。


「いやいや、もう似た様な魔道具売られてるでしょ。しかも水筒型で小型のやつ」

「あんな安もんと一緒にするでないわい!こいつはなぁ、水分と共に鉄やカルシウムを集める事でとてつもなく美味しい水を作り出せるんじゃ!」

「そのせいでこんなに大型だし、水を集める速度も遅いし、消費魔力も多いし…欠点が多すぎて誰も買ってくれないじゃない!」

「ぐっ、もっといい素材で基板が作れれば…」

「魔道具が売れないから素材を買うためのお金がないんでしょ!」


 2人が怒鳴りあっているのは路地裏の一角にある「魔道具屋ジノ」である。

 閑散とした店内には、2人の言い合いを気にする者など誰も居ない。そもそも客がいないのだ。


「魔力を流すと黒くなる布とか勝手に蓋が開く箱とか、もっと役に立つものは作れないの?」

「なんじゃと!?どれもわしの力作じゃぞ!」

「術式は凄いと思うけど、実用性が無いのよ。色が黒くなるなら最初から黒い布を買えばいいし、蓋は勝手に開いたら意味ないじゃない!」

「ぐっ…」


 老人の名はジノ、ポニーテールの少女は彼の孫であるリノだ。今日もまたいつものように、2人の口喧嘩はリノの圧勝で終わった。











「ここが僕の行きつけの魔道具屋です。僕の幼馴染が経営してるので、色々と融通が利くと思います」

「ここか、わざわざ案内ありがとな」


 食事の後、魔道具を見てみたいと思いライドにアイテムショップまで案内してもらった。

 カンナビで訪れたアイテムショップよりも古い感じの建物だが、ファンタジー感溢れるいい雰囲気だな。

 早速入ってみる。


「いらっしゃいませー。って、ライドか」

「ライドかって、客なんだからちゃんと対応しろよ」


 幼馴染って女の子かよ、しかも結構いい雰囲気だし。

 俺を連れてきたのもそういう考えがあってだとしたら、中々狡猾なやつだな。

 ライドめ、後で弄りまくってやる。


「そっちの人は誰?」

「失礼だぞリノ。この方はミーナ姫のご友人のユージ様だ」

「よろしく」


 リノっていうのか。

 手を振り振りしながら挨拶すると、リノさんは顔を真っ青にしながらライドに掴みかかった。「なんでそんな偉い方をこんな店に連れてきてんのよ!」とライドの胸ぐらを掴んで責めている。

 仲良い事は良い事だが、2人とも、も少し俺を構って。


「主様、面白いものがありますよ」


 そんなやりとりを無視して焼き鳥は勝手に店の中を物色している。

 焼き鳥が手に…羽に持っているのはクリスタルのナイフだ。鳥の習性なのか、光物が好きなんだな。


「そ、それは『ライトシェーバー』という剥ぎ取り用のナイフです。魔力を流すと光って、切れ味が増します」


 ポニーテールがガチガチに緊張しながら説明してくれた。

 緊張を和らげてあげたいが、それよりも気になることがある。


「ライトシェーバー?」

「は、はい!どこかの勇者様が考案した魔道具だと聞いています」


 でしょうね。ネーミング的にそうでしょうね。

 だがとてもいい発想だ。元の世界では架空の存在だった武器や道具もこちらの世界なら再現できるかも知れないという事か。

 ますます魔道具に興味が湧いてきた。


「こっちのコーナーにあるのは何なんだ?」

「それは、おじいちゃんの作った魔道具で…」


 ひと通り説明してもらったが、そのままだと無意味なものや既製品の劣化版でしかないものばかりらしい。

 だが、魔力を流すと黒くなる布…これはカーテンに使えるな。こっちの箱は、自動扉に応用できそうだ。


「これも全部売り物なのか?」

「あ、はい。一応そうですけど…」

「いくらだ?」

「え!?」


 リノが驚いている中、店の奥から赤髪の老人が出てきた。


「そいつが欲しいのか?」

「ああ」


 髪の色的に、ポニーテールのお爺さんか。


「買ってくれるなら材料の値段で全然いいです!いえ、もっと安くても全然…」

「一つ100万ピンズじゃ!」

「「!!?」」


 ライドとリノが目を見開いている。


「100万ピンズで売ってやる」

「ちょっ、おじいちゃん!?」


 せっかく顔色が戻ってきてたのに、リノがまた青ざめてしまった。

 そいえばこの世界の魔道具の相場って知らないな。この店には値札がないから分からないし…まぁいっか。


「じゃこれで。お釣りはいいから」


 ジーニアスで荒稼ぎしたお金があるので問題ない。

 空間収納から取り出した金貨袋を爺さんの前に置く。


「き、金貨ぁ!?」


 リノの絶叫が響き渡る。

 袋から溢れる金貨の山を見て、お爺さんは絶句していた。


 今日も今日とてフラグを植える日々です。盛り上がりがなくてすみません。

 フラグ畑は充実してきましたが、果たして収穫できるのか…植え過ぎて不安になってきました。

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