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22話「酔った勢いでっ」




 今は街の外にある森へ修行に来ている。

 本日は趣向を変え、各自の鍛錬メニューに切り替えて行っているのだ。


 まず、ミーナはスゥに新たな魔術を習っているらしい。

 魔術は上級になるにつれ、詠唱が長くなる。初級なら一節、下級なら二節といった感じだ。

 魔術名も長くなるらしく、初級なら一文字、下級なら二文字らしい。

 『空間収納(ストレージ)』は漢字四文字なので上級魔術だ。

 ミーナは既に、中級魔術をいくつか会得したようで、飲み込みが良いとスゥが話していた。


 サチはコゥに新技を教えてもらっている。

 『魔刺(まし)』という技らしく、内容は覚えてからのお楽しみという事だった。

 最近聞いたのだが、サチには『見解者』というスキルがあり、集中すれば魔力を見ることができるらしい。

 その為なのか、サチは魔力操作のセンスに長けている。しかし魔力量が少ないらしく、魔術よりも剣術を覚えたのだそうだ。

 少し勿体無いな。


 ところで俺はなんの修行をするのかというと、スキルの操作だ。


 修行の前に自分のステータスを確認しておく。




レベル:863

名 前:『神谷優二(かみや・ゆうじ)

種 族:『人間』

スキル

『不滅ノ王』

『天佑神助』『悪鬼羅刹』『気炎万丈』

『熊虎之士』『英雄豪傑』『百鬼夜行』

『虎嘯風生』

『解読者』『契約者』『魔術師』

『無詠唱』『模倣者』『暗殺者』

『探索者』『詐欺師』『演算師』

『投擲者』『拳闘士』『教育者』

『見解者』




 なんか、増えてるな。


 『見解者』は羨ましいので俺も手に入れた。魔力を見たいと願ったら意外とすぐに手に入ったのだ。


 それは今はいいとしよう。なぜなら、3文字スキルは十全に扱えるからだ。

 サチは『見解者』を充分に扱えないらしいが、俺は無意識でも3文字スキルを使用できる。

 

 これも覗き…精密探知の開発で培ったノウハウのお陰だろう。


「ん?『見解者』って、探知の魔力も見れるのか。だとしたら…」


 いや、余計な考えはやめよう。サチにそんな素振りは無かった、覗きはバレていないはずだ。うん、バレていないはずだ。


「いかん、集中集中」


 今日行うのは4文字スキルの操作だ。

 正直、どのスキルにどんな効果があるのかよく知らない。


「『天佑神助』は、運が良くなるとかそんな感じだった気がするな」


 これはいいとしよう、問題は他だ。

 『悪鬼羅刹』『気炎万丈』『熊虎之士』『英雄豪傑』『百鬼夜行』『虎嘯風生』、これらの操作を習得し、ゴールである『不滅ノ王』を攻略せねばならない。


 『不滅ノ王』も4文字なのだが、なぜか他とは違う感じがするのだ。

 俺を一番助けてくれたスキルなので、本能的に特別視しているのかもしれないが、よくわからない。

 とにかく、『不滅ノ王』のコントロールは一番難しいと感じる。


 だが、俺は諦めるわけにはいかないのだ!


 なぜ俺が『不滅ノ王』の操作にここまで意気込んでいるかと言うと、お酒のためである。

 場酔いでも充分楽しいが、お酒による酔いも味わいたい。

 俺は酒が好きなのだ、この世界の酒をちゃんと味わいたいのだ!















 いや、正直に話そう。


 俺は「酔った勢いでっ」と言う闇の魔術に手を染め、2人とあわよくばという願望を抱いている。


 この世界では成人が15歳らしい。そして、成人は酒が飲める。

 つまり、ミーナもサチも酒を飲んでいいのだ。


 正直、酒は嫌いだ。

 元の世界では単純に酒に弱く、飲みを楽しむ前に潰れていた。

 この世界では、酒の味が元の世界に比べて落ちる上に、冷えてもいない。『不滅ノ王』でアルコールも消されるので、酔いもこない。

 いい思い出は全然ない。


 だが!


 「酔った勢いでっ」を発動するには酔える身体にならなければいけない。『不滅ノ王』を、制御しなければならないのだ。


 卑猥だと罵りたければ罵るといいさ。


 でもその前に、少しだけでも、俺の立場も考えてほしい。


 血気盛んな22歳の男性が、16歳の美女2人と旅をしている。

 『不滅ノ王』のお陰で体調は常に万全。異世界の危険な日々に当てられ、相棒はむしろ万全以上。

 そして、常に2人や眷属の目があるため、相棒を慰める時間はない。


 そこへ先日のミーナのセリフだ。


『だから前金として、私の全てをあげることにします』


『もちろん。身も心も全て、ね』


…うおぉい!!


 卑猥だと罵った方々に問いたい。


 俺って凄くない?


 こんな状況下、いつ狼さんになってもおかしくないはずだ。過ちの一つくらい起こしてもおかしくないはずだ。

 それなのに、ここまで耐えているんだよ?

 ここまで耐えているのに、酒の勢いという理由まで付けて頂きへ至ろうとしているんだよ?

 むしろ褒めて欲しいくらいだ!


「はっ、誰に言い訳してるんだ俺は。少し疲れが溜まってるみたいだな」


 話を戻そう。

 今回は『不滅ノ王』まで至らなくとも、他の4文字スキルは制御できるようになりたい。

 そもそも、どんなスキルなのかも知りたい。


「まずは『悪鬼羅刹』だけど…」


 早速詰まった、なんだこれ?

 名前的に戦闘力を向上させそうなスキルだが、今のままでも苦戦した事がないので使った事がない。

 これだからスキルの操作は難しい。

 酒で酔わなかった事で『不滅ノ王』に耐性向上の効果があるとわかったように、使うべき状況に陥らないと効果が分からないのだ。


「後回しだな、次は『気炎万丈』か」


 こいつは名前的に、火属性魔術の補助とかそんな感じだろう。スゥが持っていたはずだ。


「『(ファイア)』」


 初級魔術を超弱めに発動した。

 特に何の変化もない、指先に浮かぶ小さな魔術陣から、蝋燭程度の小さな火がゆらゆらと燃えている。

 軽く操作すると火の形は変わる。だが、それは魔力操作によるものだ。

 ハート形や人型にして一通り遊び、火を消す。


「これも後回しかな。スゥに教えてもらって、追い追い解明していくか」


 魔力操作で制御が利かないほどの火力なら『気炎万丈』を使えそうだが、そんな事をすればここら一帯が消えそうだ。

 下手すると、国レベルで消えるかもしれない。

 スゥに相談しつつ、熟知していくとする。


「怖い怖い、次は『熊虎之士』か」


 これも戦闘力向上っぽいな。後回しだ。


「『英雄豪傑』、これも戦闘力向上っぽいな」


 こう見ると、似たようなスキルしかない。


 しかし、『英雄豪傑』は一つだけ能力を理解している。気配の操作だ。


 度々お世話になっている気配操作さんだが、これも相当難易度の高い技である。

 気配とは、身体から漏れ出ている魔力に感情が乗る事で生み出されている。

 つまり、魔力をぶつけると同時に殺意を乗せれば『殺気』となり、怒りを乗せれば『怒気』となる。

 魔力操作は手馴れたものだが、気配を操るには感情の操作も必要となってくる。

 つまり、相手が気絶する寸前の絶妙な恐怖を与えるには、精密探知レベルの魔力操作と仏の如き感情操作が必要となのだ。

 感情の制御が得意かと言われれば、決して得意ではない。この世界に来てから好き勝手生きると決めたので、前の世界にいた頃よりも下手だろう。

 だが、それでも気配を制御できているのは『英雄豪傑』の気配操作による恩恵だと感じるのだ。


 それでも、気配操作はこのスキルのごく一部に過ぎないように思えるので、4文字スキルとは3文字よりも隔絶した力を持つらしい。

 

「次は『百鬼夜行』か」


 こいつは魔物とか魔獣を率いるとか、そんな感じだろう。

 前にゴブリンジェネラルと話した時、僅かに発動している感覚があった。

 それと、普段生活している際に発動している感覚がたまにある。


「遠くにいるゴブ達にも何らかの作用があるのか?」


 ロード大森林で生活させているゴブとヘビ吉とフーの3匹や、その配下の魔物達に何か影響を及ぼしているのかもしれない。

 3匹も眷属なので、俺の権限で五感を共有できる。だが、プライベートな事柄の最中だと申し訳ないので使わないようにしているのだ。

 念話もまだ制御が難しいので、ロード大森林までは届かない。


「仕方ない、これも後回しだな」


 いつか分かる時が来るだろう。


 最後は『虎嘯風生』だ。


「これは、『気炎万丈』の風版っぽいな」


 あくまでも勘なのだが、戦闘力向上や属性効果向上などの系統だけは分かる。

 このスキルは、風の属性に影響を与えるスキルだろう。


「これも、後回しだな」


 結局、何の成果も得られなかった。

 『不滅ノ王』を制御するのはまだまだ時間が掛かりそうだ。


「『酔った勢いでっ』作戦は失敗だな」


 何か別の策を考えねばなるまい。




 童貞だからビビっているわけでも、ヘタれているわけでも無いぞ?

 きっかけが欲しいだけだ、きっかけが欲しいだけだからな!




 










 学園都市ジーニアスの入り口にあたる門の前を、大勢の冒険者が埋め尽くしていた。

 

「今回のクエストの参加者は、これで全員か?」

「ええ。呼びかけて了承してくれたチームは全て集まっているわ」


 ガイファス問いに答えたのは、美しいブロンドヘアをなびかせた色白の女性である。

 この女性こそジーニアスの冒険者ギルド長であり、ジーニアス学園の副学長でもある『リーニア・シルビエ』だ。

 まだ二十代でありながら、ジーニアスを支える重要な立場となった逸材である。


 そのリーニアの返事に、ガイファスは苦い表情を浮かべた。

 

「ごめんなさい、こんな状況が訪れるなんて…」

「いや、お前の所為じゃないだろ。『獣国ガルド』の奴らが余計な事をやりやがった所為だ」


 ガイファスがなぜ苦い表情を浮かべた理由は、今回のクエスト難易度が異常に高いためである。


 今回のクエストは『都市へ向かってくる多種類の魔獣、魔物の討伐』とされている。一見簡単そうに見えるが、この意味を知る者にとっては絶望的な言葉でもある。


 通常、多種類の魔物や魔獣が群れを成す事など無い。

 魔物は知能がある為、別種の魔物と一時的に共存関係を築く事はある。しかし、あくまでも一時的にだ。

 今回のように多種類の魔物が長い距離を進軍してくる事は、本来ならばあり得ない。そこに魔獣が含まれている事など、さらにあり得ない事なのである。

 しかし、現実に確かに起こっている。この事実が意味するところはーーーー


「『王』の進軍」


 ガイファスはすぐにその考えへと至る。それ以外の可能性など、無い。

 方角は『獣国ガルド』だ。おそらく、ガルドの者達が縄張りから王を追い出したのだろう。

 その王がフレイア王国まで追い立てられ、道中にある街を回避し、内陸にあるジーニアスまで来たのだ。


「ったく、面倒な話だぜ」


 ガイファスは悪態を吐きながら、冷静に考える。


 今回ジーニアスまで王の群れが来たのは、必然である可能性が高い。

 辺境であればあるほど魔物や魔獣が多い。もちろん、そこには別の王がいる。

 ジーニアスまでの道中の街を襲えば、群れに被害が出る。そこへ、その周辺を縄張りとしていた群れが攻め込んで来れば、ひとたまりも無いだろう。

 だからこそ、王の少ない人間の支配域である内陸まで静かに進み、ジーニアス周辺まで気づかれる事なく近づいて来たと考えるのが妥当である。


 その予想が正しいならば、今回進軍して来た王は中々知能が高いらしい。


「その魔物の群れがジーニアスに真っ直ぐ向かって来ているのは、間違い無いんだな?」

「ええ、何度も偵察部隊を送って確認したわ」


 そうなると、今回の敵は知能が高い上にジーニアスを落とす自信まであるという事になる。

 とても厄介な相手だ。


 それに対してこちらの戦力は、お世辞にも充分とは言えない。

 人数は多い。だが、三分の一が学生のチームなのである。


 ジーニアスは比較的安全な都市であり、難易度の高いクエストは少ない。その為、冒険者を兼業する学生などの初級冒険者が多いのだ。

 実力のある冒険者はカンナビなどの辺境地へと腕試しへ向かう。それ故に、ジーニアスの冒険者のレベルは低いのである。


「ここに、『ピースメーカー』は来ているのか?」

「いいえ、いないわ。泊まっている宿に職員を送ったのだけど、早朝から出かけてるみたいなの。宿に伝言は残しておいたけど、いつ合流できるかはわからないわ」


 決戦の舞台はジーニアスから西へ歩いて半日の所にある平野だ。

 今日の内にそこまで進軍し、待ち構える作戦である。早ければ明日の朝には群とぶつかるため、伝言が今日中に届けば戦いには間に合うだろう。


「騎士団の派遣は要請したのか?」

「ジーニアス滅亡の危機ですもの、もちろん王城に連絡したわ。でも、次女のミーナ姫が行方不明な上に王権争いが起こり始めているみたいで、すぐには難しいみたいなの。数日は掛かるかもしれないと言っていたわ」

「ちっ、馬鹿後継者共め」


 ガイファスの言葉は不敬だと知りつつも、似たような思いを抱いているリーニアはその悪態を聞き流した。


 ガイファスは思案する。

 今の王は立派だ。

 身体能力の優れた獣人が多い『ガルド』と魔術大国である『アーミット』、魔獣の多い『ロード大森林』に面している『フレイア王国』は、お世辞にも環境が良いとは言えない。

 だが、そんなこの国をここまで発展させたのは、現王の手腕のお陰だろう。

 しかし、今の後継者たちは自分の利益しか考えない馬鹿ばかりだ。貴族の傀儡にされている者までいる。

 次女のミーナ姫は他の馬鹿後継者たちよりはマシだったが、行方不明となってしまった。

 どんな理由があろうと、民の危機を救えないのなら他の奴らと代わりはしない。



「やっぱり、私の所為だわ。本来なら凄腕の冒険者を留めて置けるような対応をしておくのが、ギルド長である私の役目だもの。あなたが『グラファウス』を率いてこの都市に居てくれている事に、甘えていたのよ」

「ちげぇよ。この事態を予測できなかった国も住んでる奴らも、みんな悪い」


 弱気になっているリーニアを、ガイファスは慰める。


「ここから先は俺たちの領分だ。余計な事考えねぇで、遠慮なく甘えりゃいんだよ」


 そのガイファスの言葉に、リーニアは思わず笑顔を溢した。


「何だよ、人がせっかく慰めてやってんのに」

「ふふっ、ごめんなさい。学園に通ってた頃から変わってないんだなーって思ったら。おかしくなっちゃって」

「ちっ」


 2人はジーニアス学園で共に学んだ学友である。

 その時から数えれば、もう10年の付き合いになる腐れ縁だ。



 …そんな2人を暖かく見守る強面の男たちがいた。


「あんな美人と…リーダー、マジで羨ましいっす」

「私もリーニアさんのファンだったのに…。ガイファスさんが相手では勝ち目がないです」

「ばっか、お前だけじゃねぇよ。この街に居る冒険者のほとんどがリーニアさん目当てだっての」


 ガイファスと共に旅をしてきた仲間たち、チーム『グラファウス』のラドラ、エドガー、ハンスだ。

 そんな彼らの背筋に冷たいものが走る。


「お前ら、準備できたんなら馬車乗ってろ!!」

「「「は、はい!」」」

「ふふっ」


 出発前の喧騒の中で、ガイファスの怒号とリーニアの笑い声が響いたのだった。













「ガイファス、無事に帰って来てね」


 旅立つ冒険者たちの背中を見ながら、リーニアは静かにそう願った。


 2017/5/13

 スゥのステータスを一部変更しました。


・種族:『不死鳥』→『神獣』へ変更

・スキルに『気炎万丈』追加


 以上の2箇所です。

 これからも訂正があるかもしれませんが、ご容赦いただけると幸いです。

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