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21話「ふふふふ」





雷弾(サンダーショット)!」

「ほいっ」

「もらいました、てやぁ!」

「ほいっ」


 ミーナが『雷弾(サンダーショット)』で追い込み、サチが剣撃でトドメを刺すコンボか。単純な策だが、連携速度が桁外れに速い。

 仲のいい2人にしか出来ない見事なコンビネーションだ。


 俺でなければひとたまりも無かっただろう。


「なんで当たらないの!?」

「あんな体勢から、人って躱せるんですね…」


 今は3人で修行中だ。

 今夜の食器洗い当番を賭けた模擬戦を行なっている。

 宿では頼めば食事が出るのだが、自炊用の炊事場もある。宿の飯よりスゥの料理のほうが美味しいので、スゥに作ってもらっているのだ。

 その代わり、皿洗いは他のメンバーの仕事である。


「次はこれよ!風よ、刃となり、切り裂け、『風刃波(エアスラッシュ)』!」

「お!スゥに習った魔術か。使えるようになったんだな。ほいっ」

「剣撃波!」

「おお!サチも魔力操作が上手くなってきたな。ほいっ」

「「なんで避けれるの!?」」


 ミーナはスゥが包丁がわりに使う『風刃波(エアスラッシュ)』を覚えたらしい。中級魔術なのに、大したものだ。

 サチは剣撃に合わせて魔力を込めることで斬撃を飛ばせるようになった。『剣撃波』と言う剣術技らしく、俺が魔力操作を教えたおかげで出来るようになったらしい。


「さて、もう30分経ったな。今日も皿洗いよろしく」

「うぅ、私の魔術が左足だけで躱されるなんて…」

「あのタイミングから、どうして左足だけで…」


 先ほど模擬戦といったが、俺は少しハンデを背負っていた。

 ハンデとは、回避しかしない事、片足しか使わない事の二つだ。

 そして、30分触れられなければ俺の勝ちと言うルールである。


 2人の連携の前でこのハンデはさすがにキツイ。なので俺にとってもいい修行になっているのだが、2人の自信を少し失わせてしまったようだ。


「そんなに落ち込まなくても、2人は確実に強くなってると思うぞ。気を取り直して今晩の食料でも取りに行こう」

「はい」

「うん」


 今後はルールの改訂が必要かもしれない。









 夜



「ふふふふ」


 やばい、スゥの笑い方が伝染したかもしれない。

 気をつけよう。


 なぜ俺が不敵な笑みを浮かべているかと言うと、1人で夜の繁華街へ来ているからだ。

 別に如何わしい事をする訳ではない。

 久しぶりに、本当に久しぶりに、1人の時間とお酒を嗜もうと思って来たのだ。


 俺は普段、絶世の美女2人に囲まれ、従順な眷属2匹が常に控えてくれている。

 しかし、そんな幸せな環境であっても1人の時間と言うのは欲しいものなのだ。


 むしろ普段の幸せを噛みしめるために、1人になるのである。


「ま、元の世界では1人の時間の方が幸せだったけどな」


 それはそうと、今は酒だ。

 別に酒好きではない、寧ろ苦手なぐらいだが、稀に飲みたくなる時はある。

 それに、この世界の酒というのも興味がある。


「ここにするかな」


 あてもなく歩いていると、『戦士の酒場』と言う店に着いた。

 名前からしてファンタジーっぽい。ここにする。


「結構広いな」


 中に入ると西部劇で見るような酒場の造りをしていた。

 4人掛けの丸テーブルが乱雑に置かれ、店の奥にはゴツい店主がカウンターの客の相手をしている。

 そんな店内を露出少なめの給仕服を着た女の子が忙しなく走り回り、食事を各席へと運んでいる。


 素晴らしい、まさにファンタジーだ。


 こういった雰囲気の店に来たことはないが、得も言われぬノスタルジーを感じさせてくれる。


「おっと、座らなきゃ」


 日本での癖で店員が席へ案内してくれるのを待ってしまった。

 たぶん、勝手に席を見つけて座るのがルールだろう。


「ここにするかな」


 店内の片隅にある2人用の席へと腰掛ける。


「ご注文は?」


 さっそく店員が注文を取りに来た。

 ミーナやサチと比べると幾分か落ちるが、元の世界ならモデル雑誌に載っていてもおかしくないほど可愛い。

 やはり自称神が言った通り、この世界のルックスレベルは滅茶苦茶高い。


「えっと…この店で一番飲みやすい酒で」

「はいよっ、ミルド1杯ー!」


 口調が少し乱暴だな。

 それなりの胆力が無いと厳しい職場なのだろう。

 軽く店内を見渡すと、ガラの悪い男達が結構いる。

 昔ならビクビクしていたが、今はなんとも思わない。

 強い奴はこんな気分だったのか。


「はいよっ」


 早い、酒がすぐに来た。

 ミルドとは、少し濁った白いお酒らしい。


「おっ、意外といけるな」


 カルーアミルクに似ている。それよりも甘みは少ないが、全然美味しい。


「ミルドの坊ちゃ〜ん。ちょっと俺たち金欠でさぁ、金かしてくれねぇかなぁ」


 最悪だ。


 雰囲気も良くて酒もうまくて、せっかくいい気分だったのに。

 ミルドを飲んでいたからなのか気配を抑えていたからなのか、冒険者らしき二人組が絡んで来た。だいぶ酔ってるらしいな。


「おいおい無視すんなよ。ちょっとでいいから貸してくれや!」


 どうするかな。

 魔力をぶつけて気絶させたら、怪しまれそうだ。

 軽くボコるか。


「おい、何恥ずかしい真似してんだ?」


 その2人の後ろから、赤い髪を後ろでまとめた、オールバックの大男が現れた。

 この世界の住人は髪の色もカラフルだな。


「ああ?なん…ガイファスさん!」

「ガ、ガイファスさん!?」


 二人組の男達は、顔がみるみる青ざめていく。

 ガイファスという名は知らないが、有名な人なのだろう。


「金がねぇんなら、俺が貸してやろうか?」

「い、いえっ!」

「だ、大丈夫です!」


 ガイファスとやらの脅しで男達は逃げていった。

 ふっふっふっ、奴らにはこの言葉を贈ろう。ザマァと!


「あんちゃん見ねえ顔だな、余所もんか?」

「ああ、旅人だよ。数日前にここへ来たばかりだ」


 見た目は怖いが、気さくな人らしい。


「なるほど、そしたら大変な目に遭わせちまったな。あいつらは多分、ウチのファミリーに入ったばかりの下っ端だ。ああゆう連中は出さないように気をつけてんだが、教育が足りなかったらしい。悪かったな」

「いや、謝らないでくれ。助かったよ」


 中々気のいいやつみたいだ。人は見かけじゃないんだな。


「俺はガイファスだ。冒険者をしている」

「俺はユージ、旅人だ」


 自己紹介を終えると、ガイファスは俺の向かいに座って普通に飲み始めた。


「この街の奴らにはちょっとビビられててな、あんたみたいに臆さず話してくれる奴がいねぇんだ。一緒にいいか?」

「いいぜ、一人ぼっちは大歓迎だ」

「ガハハハ!一人ぼっちか、ちげぇねぇ!」


 その後はガイファスに色々なことを教えてもらった。


 まず、ファミリーというのは冒険者チームの拡大版であり、チームが集まってできた集団の事らしい。てっきりマフィアかなんかかと思った。


 例えば、俺のチームである『ピースメーカー』にアクト達のチームである『ゴッドブレス』が入ると、『ピースメーカーファミリー』となる。

 その際、アクト達は「『ピースメーカー』の冒険者チーム『ゴッドブレス』だ」と名乗ることになるわけだ。

 大きくなると色々と面倒くさそうだが、チームに欠員が出た際や大規模クエストでの共闘など、ファミリーである事による恩恵は大きいらしい。


「こう見えても俺は、『グラファウスファミリー』のリーダーなんだぜ?すげぇだろ」

「全然ぼっちじゃねーじゃん」

「ガハハハ!確かにな!」


 ここら辺一帯は、ガイファスが率いる『グラファウスファミリー』が仕切っているらしい。

 そのお陰で、比較的治安が安定しているという。


 学園都市と言うだけあって学生が多く住んでいるため、昔は学生狙いで吹っかけてくる輩が多かったようだ。

 だが、『ジーニアス学園』の生徒だったガイファスが母校への恩返しも兼ねてここら一帯を束ねているそうだ。


「学園に通ってたのか?」

「そうだぜ、拳闘術はトップの成績だった」

「制服姿似合わなそうだな」

「よく言われたぜ!ガハハハ!」


 中々気の合う奴と出会えた。

 ガイファスか、覚えておこう。


 そんな楽しい夜は、あっという間に更けていった。


 



 


 










「があぁ、頭いてぇー」


 昨夜は楽しくてつい飲みすぎた。

 

「リーダー、大丈夫っすか?」


 チームの仲間であるラドラが心配してくれる。


「大丈夫、ただの二日酔いだ。それよりも、例の冒険者チームは見つかったのか?」

「残念ながら、まだっすわ。怒豪猿(アングリーゴリラ)の討伐を最後にクエストを受けてないみたいっす。ギルド会館を張ってるんですが、それらしい連中は見当たらないんすよ」


 この街を利用する冒険者チームのほとんどは『グラファウス』の傘下だ。クエストを受けているなら、見逃す筈はない。


「この街を出ていった可能性は無いのか?」

「それは多分無いっすね。ギルドに聞いたんすけど、一昨日チーム名の申請をしたみたいで、その時にまだ暫く滞在すると言い残してたらしいんす」


 なるほど、それならばこの街にいる可能性は高いな。


「チームの構成や、メンバーの名前はわかったか?」

「名前まではギルドも教えてくれなかったっす。ですけど、『グラファウス』には特別にという事で、構成とチーム名は教えてもらえたっすよ!」


 本来ならばギルドは本人以外に情報の開示を行なってはならない。

 だが、この街の治安維持に貢献しているお陰だろう。一部の情報だけは特別に教えてくれたらしい。

 ありがたい話だ。


「まず、構成は剣士1人、魔術師1人。そして、リーダーであるもう1人は、不明です」

「不明?」

「はいっす。得意武器も戦闘方法も無いらしくて、本人もわからないって言ってたらしいっす」


 本人も分からない?意味がわからない。

 だが、そのリーダーが『空間収納(ストレージ)』を使っていた奴なら、魔術も拳闘術も得意なはずだ。

 それならば状況によって前衛にも後衛にもなれる。


「だとしても、『拳闘士/魔術師』と記載すればいい筈だが…」


 仮にも新しいスタイルを模索中なのだとしたら、他にも得意な分野があるのかもしれない。

 何にしても情報が少なすぎる。


「それで、チーム名は『ピースメーカー』と言うらしいっす。最近申請されたばかりと言ってたんで、この前までマジで5級以下の冒険者だったみたいっすね」


 ギルドからの情報なら間違いはないだろう。


 今のところわかっている事は、『ピースメーカー』と言うチーム名であること。3人組のチームであること。下級魔獣の群れも対処できるほどの実力であること。メンバーの1人が桁外れの魔術と拳闘術を使えること。

 と言ったところか。

 多少常識外れな部分もあるが、悪い情報は特にない。


 余所の冒険者チームが訪れて問題を起こす事はよくある事だ。


 クエストとはいえ魔獣を桁外れのペースで狩りまくっていたので最初はヤバい奴らかと思ったが、今のところ警戒する必要は無さそうだ。

 3人組の冒険者が街で暴れているといった報告もない。

 クエストを自重しているのも、常識外の行動をとっていた自覚があった為だろう。


「会ってはみたかったが、ひとまず悪い奴らじゃなさそうだな。もう調査はいい、放っておくとしよう」

「わかりやした」


 今はそれよりも重要な問題がある。


「例のクエストは、発注されそうなのか?」

「残念ながらそうみたいっす。ギルドの偵察隊が確認したら、魔物の群れは進路を変えずにジーニアスへ向かってきているとの事っした」


 ラドラが報告してくれた通り、今この街に

魔物の群れが向かってきている。

 この街の全ての冒険者が駆り出される大規模クエストになる恐れがある。


「すぐに傘下のチームリーダーを集めろ。会議を開く」

「へいっ!」


 俺の指示で、ラドラは勢いよく飛び出していった。


「この街は、必ず守る」


 ガイファスは静かに、決意を固めるのだった。







 





「ふあぁ、ねみぃー」


 昨夜は楽しくて、つい飲み過ぎてしてしまった。

 朝まで飲んでいたので、ほとんど寝ていない。


「主様、どうしたんですか?」


 スゥが心配してくれる。


「大丈夫、ただの寝不足だ」


 寝ていないため気分が晴れないだけで、体調は万全である。

 不滅の身体による再生能力のお陰だろう。

 しかし、昨夜の飲みでは重大問題が発覚した。


 重大な問題とは、この身体が…酔えない事だ。

 昨夜は場酔いで楽しめたが、酒だけでは酔えない。

 これも『不滅ノ王』による効果だろう。

 常に最良の状態に体を保ってくれるので、異物に対する耐性が異常に高くなるのだ。

 その為、アルコールの作用が全て打ち消されてしまう。秒速で酢酸まで代謝されてしまうのだ。


「スキルの強弱をコントロールできるようになんなきゃな」


 元の世界ではあり得ないほど酒に弱かったので酒は苦手だが、それでも酔いたい時はある。

 酒に関してだけじゃなく、スキルが働きすぎて逆に不便な状況が訪れるかもしれない。

 スキルのコントロールも今後の課題にしよう。


 

 

 見てくれる人を励みに、これからも更新がんばります!

 次の更新は土曜か日曜の予定です。

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