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1話「神谷優二、ユージだ」






「次で最後のターンですねぇ、どうしますか?」


 目元をヴェネチアンマスクで覆った男が、不敵な笑みを浮かべながら目の前に座る少女に問いかける。


「残りは1つ…最後のターンの召喚地点は私に選ばせてはくれないかしら?お願い」


 少女は苦々しい表情を浮かべながら、マスクの男に頭を下げる。


「構いませんよ。あなたの分身を送った事に引き続き、見逃すとしましょう。ただし、スキルのランクは下げていただきますよ」

「そんな…」

「聞くところによると。次に目をつけているカードは、とある神のお墨付きだと言うではありませんか」

「カードではないわ」

「おやおや、これは失敬」


 マスクの男は素直に謝罪するが、反省の色はカケラも無い。


「もともと私に有利すぎる勝負ですが、万が一という事もあり得ますので」

「…わかったわ」


 暫しの沈黙の後、少女はマスクの男の条件を承諾した。こうしている間にも人々は苦しんでいる、その思いが彼女の決断を早めたのだ。


「それでは、ラストターンを始めるとしましょう!」


 マスクの男が高らかに叫んだ。


 









 

 いつからかは覚えていない。

 家でも学校でも、人に気を使って生きてきた。

 助けを求められれば助けた、場の空気が悪ければ和ませた。そのお陰か、友人は多い方だったと思う。

 だからこそ、自分勝手に生きる人たちを見て苛立ちを覚えながらも、少し、憧れていた。


 今までの行き方に後悔はない。だが、もしも、もう一度やり直す機会があるのなら、

 好き勝手生きるのも悪くないかもしれない…。


 そんなことを思いながら今日も眠りにつくのだった。








 



「ここは…」


 目が醒めると、見知らぬ森の中にいた。

 樹々が生い茂っている、まだ夜らしく何も見えない。

 明日の学校の準備をして部屋で寝たはずなのだが、ここはどこなのだろう?

 何か無いかと確認するが、持ち物どころか服すら無い。素っ裸だ。


 呆然と立ち尽くしていると、背後から草木を掻き分ける音がした。


「誰か居るんですか?」


 振り向くと、そこには見上げるほど巨大な、角の生えた熊がいた。


「え?がっ」


 一瞬で右腕を噛まれ、そのまま地面に叩きつけられる。


「ちく、しょう…なんで…」


 そして、意識を失った。








「夢…か?」


 目が醒めると先程と同じ場所にいた。少し体がだるい。痩せた気がする。


「にしても、妙にリアルだったな」


 熊に身体を喰われる夢なんて…未だに感じた痛みや身体の軋む音が残っている。

 夢とは言え、殺された場所と同じ所になど居たくない。地面も湿っていて居心地も悪いので、早くこの場から去る事にした。




 あてもなく森の中を彷徨っていると、立派な門と城壁を見つけた。

 門をくぐると街並みが見える。人の気配はせず、既に建物のほとんどは廃墟となっている。

 捨てられた街のようだ。


「おっ、布と武器発見」


 廃墟となった家を探索していると、剣と布を見つけた。

 まだ状況は飲み込めないが、誘拐されたにしろ事件に巻き込まれたにしろ、武器があって損はないはずだ。錆びついたボロボロの剣だが、無いよりはマシだと思う。

 布は腰に巻き、服の代わりにしよう。


「ギャギャギ」


 突然、外から声が聞こえてきた。


「誰がいるんですか?」


 声をかけながら慎重に家の外を伺う。暗くてよくわからないが、小柄な人影が何人か見える。


「言葉、わかりますか?」


 念のために剣を構え、そう問いかけながら扉を開けるとーーー


「ギョギャギャキャ」


 小柄な人影が叫びながら短剣で斬りつけてきた。腕を掠る程度で済んだが、確実に殺しに掛かってきている。

 というか人じゃない、緑がかった肌に悪魔のような笑みを浮かべた顔。ファンタジー映画でよく見る『ゴブリン』に似ている。


「ギョギャギャ」


 様子を伺っていると、次々と家の中へゴブリンが侵入してきた。


「うわぁっ!」


 手が震えて剣もうまく扱えない。それでも、なんとか家から脱出する。

 しかし、切られた腕が少し痺れる、長時間正座した足のように上手く動かせない。


「毒か!?」


 片腕が使えなくなり、後ろからはゴブリンが3匹追いかけてくる。


「無理だ、逃げなきゃっ!」


 次の瞬間、前方に隠れていたゴブリンに頭を割られた。


「がっ!」


 こんな所で訳もわからず死ぬなんて、なんで俺がこんな目に…


 今までお天道様に顔向けできる生き方をしてきたつもりだ、なのに、こんな仕打ち、理不尽すぎる…


 誰に向けるべきかわからない苛立ちを抱えながら、意識は闇へと落ちていく。








 目を覚ますと、ゴブリンに足首を掴まれながら体を引きずられていた。

 生きてる!


「はなせっ、はなせよ!」

「ギョギャッ!?」


 足を掴んでいるゴブリンを蹴り、転げ回りながらも必死で逃げる。


「ギャッ!」

「ギギョッ!」


 まだ生きていると気付かなかったのか、ゴブリン達は驚いている。


「なんなんだこれ!?なんでこんな目に!逃げなきゃ!!」


 溢れ出る喜びと苛立ちと恐怖を感じつつ、全力でゴブリン達から逃げる。

 もう死にたくない!









 そう宣言してから、何度死んだかわからない。


 あの後、ゴブリンに何度も殺され、入り口に大きな門のある洞窟へ逃げ込み、巨大なムカデや蜘蛛に殺され、大穴に落ちて死に、巨大な猿や人型の狼に殺され、罠にかかって死に…

 数えるのも嫌になる程の死を経験した。



 死ぬたびに恐怖は消え、生きている喜びも消え、感情は麻痺し、冷静になっていった。




 そんな中、今わかっている事は3つある。


 1つ目は、この世界が俺の知っている世界と異なるという事だ。見た事もない化け物や植物が沢山いる。何かの実験施設である可能性はあるが、いっそ異世界だと思った方がしっくりくる。

 2つ目は、俺は死なないという事だ。最初の頃は復活までに時間が掛かっていたが、今では頭を砕かれても腕を捥がれても数秒で再生できる。さらに、再生した部位は最良の状態で復活する事も分かった。

 脳を核として再生するらしく、首を捥がれて体が再生した時はそれまで感じていた空腹や倦怠感が消えていた。

 3つ目は、この洞窟を進むしか無いという事。今の階層まで至る過程でいくつもの大穴や渓谷に落ちた。しっかりとした装備があれば戻れるかもしれないが、今は服すら無い。なので、戻る事は不可能だ。

 


 考えを纏めていると、目の前に火を吐く蛇が現れた。


「また化け物か…」


 そういえば、下の層に行くにつれて少しあったかくなってきた気がする。

 そんな事を考えながら、火を吐く蛇に殺された。








 あれからまた、何度も死んだ。


 脳を潰されれば眠気が消える。体を潰されれば空腹が消える。


 そのお陰か、その所為か。時間感覚が無い。


 森で目覚めてから何日経ったのだろう。


 もう大学が始まっているはずだ。


 家族も心配しているかもしれない。


 死ぬことに慣れ、死なない体に慣れ、考える時間が増えた。


「なんでこんな目に…」


 自分で口にしておきながら、少し驚いた。

 まだこんな感情が残っていたなんて、これは確か…そう、怒りだ。

 

 自分にまだ感情がある事に驚いていると、炎を纏った蛇が現れた。

 よく見ると、洞窟の上層で殺してきた蛇に似ている気がする。亜種か?


 まぁ、そんな事はどうでもいい…もう自分を抑えるのはやめよう、もう我慢しなくていいんだ。

 数え切れないほど死んでようやく理解できた。

 もしかすると、この事を理解させるために神様は俺をこんな理不尽な目に合わせたのかもしれない。


「そうだ、俺は、好き勝手生きる!」


 まずはどうするか、そうだな…


「お前…しつこいんだよ!!」


 死に抗うため、初めて戦った。










 


「ここは…」


 あれから色々な化け物と戦い、何度も勝ち、何度も殺され、ようやく最下層らしき層までたどり着いた。

 他の層とは違い、入り口と似た仰々しい装飾の扉だけがある。とても大きい、縦10メートル、横5メートル程はある。

 

「うおっ、開けれた!」


 大人10人で押しても開かなそうな巨大扉だが、見た目よりも軽かったらしい。楽々と開けることができた。

 

「熱っ!」


 そして死んだ。







 何度目かの死でようやく理解できた、扉の奥には黒い炎を纏った巨大な鳥がいたのだ。

 全長10メートル程だろうか、とにかくでかい。


「やべっ、見過ぎた!目がっ!」


 その鳥はとてつもない熱を放っているので、数秒見ると目が潰れる。

 初めはその熱で瞬殺されていたので、再生する度に少しだけ丈夫になっているようだ。


「ぐあっ!」


 鳥が飛ばした炎でまた死んだ。








 この部屋にたどり着く道中よりも多く死んだ気がする。

 だが、いつの間にか鳥と渡り合えるようになっていた。


「うおらぁ!」

「ピギャッ!」


 今では直接殴っても熱さを感じない。この鳥も再生能力があるのか、羽をちぎってもすぐに再生する、厄介だ。

 そういえば、ここまで来る途中に戦った化け物共も再生能力があった気がする。個体差はあるが、捥いだ部位が再生する面倒な奴もいた。

 この世界の生き物はみんな持っている能力なのだろうか。


 そんな事を考えていると、思考が低下してきた。


「やべっ、もう限界かよ…」


 酸欠で死んだ。








 この部屋はとても広く、直径は1キロ、高さも100メートルほどの円柱状となっているため、鳥は空を飛びながらその力を存分に振るっている。

 だがーーー


「よいしょー!」

「ピギッ!」


 100メートルくらいならジャンプで到達できるようになった。鳥の炎の所為で酸素が無いが、呼吸をせずとも1時間は戦えるようにもなった。

 自分も相当な化け物になってしまったようだ。


「ピギャーーー!!」

「あっつ!!」


 酸素が無いくせに鳥は炎の弾を次々と飛ばしてくる。このチート鳥め!

 この部屋に入った当初なら死んでいただろうが、今ではほんの少しの火傷で済む。

 


「いい加減に、しろ!!」


 天井を蹴り、鳥に掴まり、翼を捥ぐ。


「ピギッ、キ、キサ…マ!」


 ?

 今言葉が聞こえた気がするが、気の所為だろう。

 翼はすぐに再生し、鳥はまた飛び上がった。

 まだまだ時間が掛かりそうだ。









 あれからまた何度も死に、復活する度に鳥を追い詰め、また殺されていた。


「ナゼ、死ナン、貴様ハ、ナンナノダ?」


 そういえば、鳥の言葉が分かるようになった。

 ピギャピギャ何かを叫んでいるとは思っていたが、言葉も喋れるとは、なかなか凄い鳥らしい。


「オマエハ、ナンナノダ?勇者ナノカ?」

「勇者?なんだそりゃ、俺はただの一般人だ。お前こそ何なんだよ?」

「我ハ、魔王ノ一柱。『霊王アバター』ナリ」


 鳥はさっきから勇者だの使者だの、訳わからない事ばかり聞いてくる。そのくせ、こっちの質問には真面目に答えてくれない。

 せめて魔王なのか霊王なのかどっちかにしろよ。王様設定被ってるだろ!


「勇者デナイ、貴様ハ、何故我ト戦ウ」

「お前がいきなり殺してきたからだろ。やられたからやり返す、ただそれだけだ」

「ナルホドナ。ソレニシテモ、貴様ハ、一体…」

「はいお喋り終了。そろそろ息きついから、しばらく黙るわ」



 今回はだいぶ健闘したが、また死んだ。

 鳥の攻撃ではなく酸欠による死だ。次は全力で勝ちにいっても良いかもしれない。







「マサカ、コノ体ヲ持ツ我ヲ、ココマデ、追イ詰メルトハ…」

「ありゃ、まだ生きてんのかよ」


 首を千切り、頭をグシャグシャに潰したのだが、再生が始まっている。

 道中の化け物共はここまですれば死んだのだが、この鳥は桁外れの再生能力らしい。


「コレハ、神ヲ殺スタメニ、残シテオキタカッタ…ダガ、アノオ方ノタメニモ、其方ヲ野放シニハ、デキン!」

「は?」


 鳥は再生した体を起こし、こちらへ顔を向けた。


「消エロ、消エ失セロ、滅セヨ、失滅セヨ!、全テ!!」


 なんか、物騒な事を呟きながら口を開けている。

 そして、物凄い熱が鳥の口へと集まっていき、口元に魔法陣のようなものか浮かび上がる。


「コレヲ撃テバ、我ノチカラ、弱マル。使命ヲ果タセナク、ナル。ダガ、我、其方ヲ認メル。ダカラ、撃ツ。耐エテミセロ!」


 やばい、ここまで何度も死に、恐怖は既に消えたと思っていた。だが、体が動かない、冷や汗が止まらない。

 鳥が放とうとしている一撃に、体が恐怖している!


「喰ラエ!『神滅焼炎砲(ゴッド・フィナーレ)』」


 眩しいと感じた瞬間、体の感覚が消えた。

 視界は白に染まっていった。














 気がつくと、真っ白な世界にいた。


「うわ、まじか…」


 これが死後の世界というやつか。死ぬ苦痛には慣れていたが、実際に死ぬと精神的に結構キツイ。

 

「まぁいっか、本来なら熊に喰われた時点で死んでた訳だし」


 少し心残りはあるが、死んでしまったなら仕方ない。


 気を取り直してお迎えでも待つことにしよう。

 可愛い天使か綺麗な女神か、そもそも俺は天国へ行けるだろうか?


「可愛い天使や綺麗な女神じゃなくてごめんね。あと、君を迎えに来たわけでもないよ」


 後ろから声がした。振り向くと、そこには俺が立っていた。

 どゆこと?


「やあ、俺は神だよ。今は君の姿を借りてるんだ、驚かさないようにね」


 いやいや、むしろ驚くわ!


「そっか、それは申し訳ない」


 というか、心の声が聞こえてるのか?


「そうだよ、一応神様だからね」


 なるほど。で?迎えに来たわけじゃないんなら何しにきたんだ?というか、ここはどこだ?


「あはは、随分と図太くなったね。ちょっと前の君なら気を使って返事すらできなかったろうに」


 いいから教えてくれ


「いいよ。まず、ここは天国でも霊界でもない。君が戦ってる鳥の放った攻撃の中さ」


 攻撃の中?


「そうだよ。君が攻撃を喰らった瞬間に時間を止めたんだ、体は一瞬で消滅したから、今の君は精神体だけどね」


 まじか。それで?わざわざ時間まで止めて攻撃の中まで会いにきてくれて、何しにきたんだ?


「君の覚悟を問いにきたのさ」


 覚悟?


「うん。あの鳥の攻撃は、全てを消滅させる技だ。普通に死ねば精神体は成仏するんだけど、このまま死んだら君は消える。完全に消滅する」

 

 え?まじで?


「まじで。だけど、君が望めば消滅はしない。しかも、また生き返ることができる」


 なるほど、生き返る覚悟を問いにきたのか。

 だが、正直復活するのも面倒になってきた。生き返っても化け物しかいない世界のようだし、生きるのも大変そうだし。


「ひとつ訂正するなら、この世界には君と同じ人間もいるよ」


 え?まじで?


「まじで。召喚された場所が過酷だっただけで、村や街には人がたくさん住んでるよ」


 へー


「しかも美人が多い。生きるのが大変な世界だからなのか食生活が違うからなのかは分からないけど、男も女も美形がめちゃくちゃ多い」


 ほー


「獣人のケモ耳少女、合法ロリのエルフ、妖艶なサキュバスなんかもいる」


 ほう


「そして、君のような黒髪で平凡な日本人顔は珍しいから、モテる!」


 ほうほう


「君と同じく、召喚された日本人の女の子もいる。国を傾けるほどの美貌を持ったお姫様もいるよ」


 ほうほう!

 ってか、さっきから女ばっかだな!


「まずは色欲から攻めようと思ってね。このまま童貞を貫いて消滅するより、もう少しこの世界を見て回った方が面白いと思って欲しくて」


 なぜ童貞だと!?


「神様だからね、君の事はなんでもお見通しさ。ちなみに俺は経験済み、聞く?」


 聞かんわ!


 でも、そうか、人がいるのか


「あとは…食事も美味しいよ、なんか変な果物とか料理とかあるよ」


 食事のプレゼン適当だな!どんだけ色欲に力入れてんだよ!


「はっはっは!さてと、この世界のプレゼンはそんな所かな。どうする?生き返る?」


 …まぁ、わざわざ神様が会いにきてくれた訳だし、もう少しこの世界を見るのも悪くないかな。

 消滅もしたくないし、好き勝手生きるって決意したばかりだし。


「そうか、よかった。そしたら時間を進めるとするかな」


 ちょっ、何か能力をくれるとかじゃないのか?


「いや?さっきも言った通り覚悟を問いにきただけだよ?そもそも、能力を与えなくても君は既に持ってるし。消えたくない!って強く思えばこんな攻撃簡単に耐えれるよ」


 まじで?


「まじで。それじゃあ…」


 ちょ、ちょっとまて!何でわざわざ助けてくれたんだ?お前は何が目的なんだ?!


「いつか分かるよ、それじゃあ頑張ってね…」





 視界は再び、白く染まっていった。
















「やっと復活できた!なにが簡単に耐えれるよだ、めちゃくちゃ大変だったわ!!」


 時間が進むと同時に、感じたことの無い激痛と眠気の波状攻撃が襲ってきたのだ。気を抜けば消滅すると本能的に悟り必死に耐えたのだが、もう二度と味わいたく無い程の苦しみだった。


 見渡すと、目の前には満身創痍の鳥がいる。攻撃の反動なのか、再生が始まっていない。

 そして、鳥の口元から俺の遥か後ろまで掘削機でトンネルが掘られたように丸く抉れていた。


「うわー」


 あんな攻撃を喰らったのかと衝撃を受けていると、大きな笑い声が聞こえた。


「ハハハハハハハハ!!神ヲモ消滅サセル一撃ヲ、マサカ…本当ニ耐エルトハ!!」


 力無く首を地面に横たわらせながら、鳥が笑っていた。


「まじでビビったわ、本当に死ぬかと思った」

 

 実際、自称神様が問いかけてくれなければ諦めて消滅していただろう。

 そんな俺の言葉を聞いた鳥が、また笑い出した。


「ハハハハハ!死ヌカト思ッタ…カ。素晴ラシイ!コンナニ心踊ル戦イハ、初メテダッタゾ!」

「あっそ。また撃たれたらキツイから、そろそろ死んでくれ」


 そう返しながら鳥に近づいていく。


「安心シロ、モウアレハ撃テン。反撃スル…チカラスラ…残ッテ、イナイ…」


 鳥の話し方が途切れ途切れになってきた。


「何モ、セズトモ…我ハモウ…消エル…。ソノ前ニ…其方ノ手デ…トドメヲ…」


 なるほど、鳥はもう限界らしい。確かに、初めの頃より存在感が小さくなった気がする。纏っている黒い炎も、今はほとんど消えている。


「最後になんか言い残すこと、あるか?」


 すぐにトドメを刺したほうがいいのだろうが、こいつはこの世界に来て初めて言葉を交わした相手だ。そして、こいつは何か、信念を持って戦っていた。

 だからこそ、こいつの言葉をもう少し聞きたいと思ってしまったのかもしれない。


「…其方ノ…名ハ?」

神谷優二(かみや・ゆうじ)、ユージだ」

「良イ名ダ…ユージ…見事ダ!」

「ああ、お前もな」


 その言葉と同時に、鳥の頭を砕いた。

 再生は始まらない。鳥の死体は纏っていた炎で燃えつき、灰となった。


 

 鳥が開けた穴から心地よい風が吹いてくる、どこかの地下渓谷と繋がったのだろうか。呼吸もできる。


「ふぅ、終わったか」


 体は元気だが、精神的に疲れた。

 少し眠るとしよう。




 


 長々とした1話目ですが、読んでくださり本当にありがとうございます。

 結末までの流れは考えてあるので、完結できるように頑張ります。

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