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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4012/4012

4012話

今日は祝日なので、2話同時更新です。

こちらは2話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。

「えっと……これは何ですか? 何だかもの凄く高級そうな装飾がされてますけど」

「ダンジョンの宝箱から見つかった酒のうちの一本だ。俺は酒を好まないから、ジャニスが飲みたいなら飲んでみてくれ」

「飲んでもいいって……その、こんなに高級そうなお酒をですか?」

「ジャニスにはメイドとしてしっかりと働いて貰ってるからな。たまにはこういう役得があってもいいだろ」


 ダンジョンで見つけた宝箱を開け終わり、その中身の酒を二本ミンボンに宝箱を開けた報酬として渡したレイは、そのまま家に帰ってくると夕食の準備をしていたジャニスに酒を渡した。

 レイにしてみれば、自分が飲むようなことはまずない酒なので、どうせなら世話になっている相手に渡そうという考えからの行動だった。

 実際、ジャニスはメイドとしてしっかりと働いてくれており、レイがガンダルシアで快適に生活する大きな要因となっている。

 もしジャニスがいなければ、レイはこの家で一人……セトもいるので一人と一匹だけで、家事をしながら冒険者育成校の教官をして、冒険者としてダンジョンに挑むという、二足の草鞋どころか三足の草鞋といった生活をしていただろう。

 だからこそ、レイとしてはジャニスに普段の感謝の礼として酒を渡すことにした。


「その……私は仕事としてやっているので、わざわざこのような物を貰う事は……」

「感謝を込めての品なんだから、そこまで気にするな」

「気にするなって……これ、どう見てももの凄い値段のお酒ですよね? そんなのをそう簡単に貰うなんて事は……」

「そのくらいは役得だと思っておけ」


 そんなレイの言葉に、ジャニスは少し考えてからようやく頷く。


「分かりました。このお酒は貰いますね。ただ、私だけで飲むのは勿体ないので、何かの記念日か何かの時に飲ませて貰います」

「好きにしてくれ」


 そう言い、レイは食事の時間まで部屋で休むのだった。

 ……なお、この日の夕食は普段より豪華な料理が出されることになる。






「なぁ、レイ。ダンジョンで酒の入った宝箱を見つけたって本当か?」


 翌日、レイが冒険者育成校の職員室に入ると、その姿を見つけたニラシスが近付いてきて、そう尋ねてくる。


「本当だけど、誰から聞いたんだ? ……まぁ、見ていた奴は結構いるけど」


 昨日、ギルドの訓練場でミンボンが宝箱を開けた時、結構な人がいた。

 その時のことを思えば、レイが酒の入った宝箱を見つけてきたという情報が広まっていても、おかしくはない。

 ただでさえ、レイは宝箱をミスティリングに入れて地上まで持ってきて、ギルドに宝箱を開ける依頼をするということはそれなりに知られている。

 その宝箱から酒が出たとなれば……それも酒の入っている瓶にも豪華な装飾がされているとなれば、その噂が広まるのは当然だろう。


「宝箱を開けた奴がいただろう? そいつが昨日、酒場でその酒を飲んだんだ」

「……酒場なのに、酒を持ち込んでもいいのか?」

「普通なら駄目だが、宝箱から出て来た酒だしな。それも十六階の宝箱だろう? それで酒場の店主も自分に一杯飲ませるということで許可したらしい」

「酒場の店主だけに、酒に興味があるのは当然か。……で? ニラシスの様子を見ると、その酒は美味かったと思ってもいいのか?」


 レイは好んで酒を飲むことはないし、昨日ジャニスに渡した酒も、すぐに飲むのではなく何らかの記念日に飲むと言っていた。

 そのこともあり、レイは宝箱から見つかった酒が美味いのかどうかは分からない。

 ……もっとも、その酒が美味いと言ってもレイは酒を好まないので、そういうものかと納得するだけだったが。


「ああ、とんでもない美味さだったらしい。それこそ、あの酒を一度飲んだらもう他の酒が飲めなくなるってくらいには」

「……それ、大丈夫なのか?」


 そこまで酒に入れ込む気持ちはレイには分からなかったが、ダンジョンから……しかも十六階から出た酒しか飲めなくなったとなれば、それこそこれから酒を飲む機会は驚く程に少なくなる……それこそ最悪の場合、昨日飲んだ酒が生涯最後の酒となるのではないかとすら思えた。


「安心しろ。そういう風に言っても言葉だけだ。普通に酒は飲むから。……とはいえ、それでも一度極上の酒を飲んだ記憶があるのなら、今までは美味いと思っていた酒でもそんなものかと思うかもしれないけど」

「うわぁ……それはそれで嫌だな」

「だろう? ……それで、レイはダンジョンで見つかった酒はどうしたんだ?」

「全部俺が持ってる」


 ジャニスに渡したと言わなかったのは、ニラシスから聞いた酒の情報があったからだろう。

 もしここでメイドのジャニスに一本渡したと言えば、その酒に興味を持った者がジャニスに接触する可能性があった。

 礼儀正しく取引を申し出て、それで断られたのなら素直に退くのならレイも問題ないだろうと思うが、ジャニスは結局のところメイドだ。

 中には強引に酒を奪おうと思うような者もいないとは限らなかった。

 ……アルカイデ率いる貴族派の中に、特にそのような者がいそうなようにレイには思える。

 以前の一件で本当に問題のある者達はいなくなったが、それでも貴族派のアルカイデが率いる者の中には、貴族以外の者達からは自分の欲している物を奪ってもいいと考えている者がいるだろうとレイには思えたのだ。

 その為、宝箱から出て来た酒の残りは全て自分が持っているということにしておけば、妙な考えを起こすことはないだろうと考えての返答。


「……ちなみに、その酒は売ろうとは思ってないか?」


 ニラシスのその問いに、レイは即座に首を横に振る。


「いや、そのつもりはない。あの酒の希少さを知った今となっては尚更な。世話になった相手にプレゼントとして渡すよ」


 料理に使ってもいいかもしれないな。

 そう思ったが、ニラシスの様子を見る限りだと、そのようなことを言えば怒りそうな気がしたのでやめておく。


「そうか」


 幸いにもと言うべきか、ニラシスは……そして昨夜の酒の噂についても知っている者達は、レイのその言葉に残念そうに息を吐く。


(正直なところ、ここまで評判になるとは思わなかったな。……いっそ、オークションとかでもやるか?)


 そうも思ったが、何かあった時に使える手札は多い方がいいだろうと思い、オークションについては却下する。

 そもそも、レイは金に困っている訳ではない。

 そうである以上、わざわざオークションをする必要はない。

 ……金が欲しいのなら、盗賊狩りでもするか、ダンジョンに潜ればいいだけなのだから。


「ちなみにニラシス、俺は昨日宝箱から酒を手に入れた訳だが、今までそういうことはなかったのか?」

「どうだろうな。噂でそれとなく聞いた覚えはあるような、ないような……ただ、もし宝箱で酒が見つかっても、そのパーティで飲んでしまうと思わないか?」

「つまり今回は俺が宝箱を地上に持ってきたから、大々的に広がったのか」

「そうなるな。あくまでも俺の予想だが」

「……宝箱を地上に持ってくるのは、避けた方がいいかもしれないな」


 そう言うものの、レイには宝箱の罠を解除したり鍵を開けたり出来ないのは間違いなく、そうなるとレイは宝箱を開けられなくなる。


「そうか? 俺はそうでもないと思うけどな。レイが宝箱を地上まで持ってきてくれるお陰で、それによってダンジョンの中にはどんな宝箱があるのかを多くの者が知れるようになったんだし。他にも周囲に人がいる状態で宝箱の罠を解除したり、鍵を開けたり出来る。つまり、何かがあっても他の者が手を貸すことが出来る訳だ」

「……それは、まぁ、そうか?」


 ニラシスの言葉に同意するレイだったが、実際に宝箱を開けるのを見ている者達は、あくまでも自分の勉強の為にやっている者であったり、もしくは単純に好奇心から見に来ている者達だ。

 そのような者達が、宝箱の罠の解除が失敗した時に手助けをするかと言われれば、レイも素直に頷くようなことは出来ない。


「ともあれ、今回の酒の件もそうだが、十六階、あるいはそれよりも更に下の階層の宝箱を見つけたら、地上で宝箱を開けるということは続けるつもりだ。その時にまた酒が出たら……使い方は考えさせて貰うよ」


 そんなレイの言葉にニラシスはそうかと頷くのだった。






「レイ教官、宝箱の中に酒が入っていたって本当ですか?」

「お前もか」


 模擬戦が終了し、授業終了までまだ少し時間があるので雑談を許可したところ、生徒の一人がそんな風に聞いてきた。

 そんな生徒に対し、レイは思わずといったようにそう返す。

 ニラシスならまだしも、まさか生徒からも同じようなことを聞かれるとは思わなかったのだ。


「え?」

「いや、教官の中にも昨日の酒の件で聞いてきた奴がいたしな」

「……それだけ、情報が広まってるんでしょうね。実際、俺が話を聞いた限りだとかなり美味しい酒だってことらしいですし」


 日本では二十歳にならないと酒は飲めないが、エルジィンにおいてはそれこそ小さい頃から普通に酒を飲む。

 勿論、酒をそのまま飲むのではなく、水で薄めた酒……エールやワインを飲むのだ。

 この辺りは、やはり水によって腹を壊さないようにという長年の知恵によるものだろう。

 ……もっとも、それはあくまでも一般の家庭での話だ。

 スラム街に住んでいるような子供達にしてみれば、酒をそのまま飲むということも珍しくはない。


「取りあえず酒が宝箱から出て来たのは事実だ」

「その……十六階の宝箱という話でしたけど、それは事実でしょうか?」

「そうだな。十六階で見つけた宝箱だ。……もしかしたら他の階層の宝箱の中にも酒が入っている可能性は十分にある。ただ、その酒が昨日俺が見つけた宝箱から出て来た酒のように美味いとは限らないけどな」


 それは、場合によってはレイが見つけた宝箱の酒以上に美味い酒の入った宝箱があるかもしれないということでもある。

 レイと話していた生徒もその辺りに思い当たったのだろう。

 少しだけ嬉しそうな……そして期待をしてそうな、興奮した様子を見せる。


(そこまでして酒を飲みたいのか?)


 そうも思ったが、レイはその辺については触れないようにしておく。

 ……もしここでその辺りについて触れたところ、実はアルコール依存症の生徒がいたらどう反応したらいいのか分からなかったからだ。

 教官としてそれでいいのか? と頭の片隅で思わないでもなかったが、その辺りについてはあくまでも臨時の教官であるレイではなく、本職の教師に任せればいいだろうと思い直す。

 それに、どのみち冒険者育成校を卒業すれば冒険者として活動するのだ。

 その時、冒険者がアルコール中毒であれば、冒険者として活動しにくい。

 ……いや、寧ろ冒険者としてダンジョンに潜っている時に発作の類を起こしたりすることを考えれば、冒険者として活動しない方が他人に被害を与えないという意味で有益だろう。


「とにかく、俺が入手した酒がとんでもなく美味いと評判だったのは、十六階にある宝箱だったからだ。つまり、そういう酒を入手したいのなら、今は冒険者として大成する為に必死になって訓練をするんだな」


 そう告げるレイの言葉に、話を聞いていた生徒達は真剣な表情で頷く。

 これが酒を欲しての行動でなければ、レイも素直に感心したのだが。


「じゃあ、今日からより一層頑張ってダンジョンに潜りますね」

「あー……うん。頑張れ。俺から言えるのは、何を目当てにするのでも、とにかく必死に頑張れってことだけだ。そうして頑張っていれば、いつか報われることがある……かもしれない」

「そこは言い切って下さいよ、教官」


 別の生徒が、レイの言葉に不満そうに言う。

 こうして冒険者育成校に通い、自分達よりも圧倒的に格上の教官達を相手に模擬戦を行っているのだ。

 その努力が報われないなどということは、生徒としては絶対に嫌なのだろう。

 だが、レイはそんな生徒に向かって呆れの視線を向ける。


「いいか? 努力というのは決して絶対に報われるというものじゃない。だが同時に、基本的に成功するものというのは努力をしてきた者だ。……何かで読んだか、誰かに言われた内容なのかはちょっと忘れたが」

「レイ教官、基本的にってなんですか?」


 レイの言葉を聞いていた生徒の一人が、レイの言葉に入っていた『基本的に』という部分に疑問を抱いて尋ねる。

 それに対し、レイは言ってもいいのかどうかと迷いながらも口を開く。


「世の中には、稀に天才という存在がいる。そのような者達は、特に努力をすることもなく、自分の才能だけであっさりと目的を果たしたり、上に向かったりする」


 そう言うレイの言葉に、生徒達は何と言っていいのか分からなくなるのだった。

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