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レジェンド  作者: 神無月 紅
魔熱病

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183/4012

0183話

 ギルムの街にある冒険者ギルド。その中のギルドマスターの執務室でマリーナは机の上に置かれていた一抱え程もある水晶へと魔力を込める。

 そしてそのまま約1分程。やがてその水晶の表面に見知った顔が映し出された。

 それは、50代程の初老の男。ローブを身につけて長い顎髭を生やしており、その目からは深い知性が感じられる。

 数十年程前にマリーナと共にパーティを組んでいた魔法使い、セイスだ。

 現在はかつてのパーティリーダーであるディアーロゴが領主代理を務めるバールの街で、マリーナと同様にギルドマスターを務めている人物である。


「マリーナか。この時間に連絡してくるということは、アウラーニ草の粉末についてか?」


 いつも決まって冷静な表情を崩さなかったかつての仲間が浮かべる沈痛な表情。それだけでマリーナにはバールの街がどれ程の危機に襲われているのか容易に想像がつく。だが、ここで自分も深刻な表情を浮かべても何も変わらないとばかりに、笑みを浮かべつつ小さく頷くマリーナ。


「ええ、アウラーニ草の粉末をたっぷりと持ったうちの子がつい先程街を出たわ」

「……そうか。そうなると到着まで早くて10日。魔熱病の患者が何とか頑張ってくれるといいのだが」

「あら、違うわよ?」

「何?」


 旅慣れた冒険者が馬を潰す覚悟で移動して10日。それ以上の旅程を短縮するのはまず不可能だと知っているセイスだけに、マリーナの言葉には意表を突かれたように目を丸くする。


「どう言うことだ?」

「確かに大地を行けばギルムの街からバールの街まではどんなに急いでも10日掛かるでしょう。それは知ってるわ。……でも、地を駆けるのではなく空を飛んで行ったとしたら?」

「……待て。待て待て待て。マリーナ、君はいつも無茶苦茶なことを平気で行うような人だったが、今度は何をした? 儂の知ってる限りでは、ギルムの街に竜騎士はいなかった筈。それとも最近ラルクス辺境伯が竜騎士を雇うか何かしたのかね?」


 慌てたように水晶へと顔を寄せるセイス。その目には一筋の希望が宿っている。

 もし本当に竜騎士がいるのなら街の全員分に行き渡るだけのアウラーニ草の粉末は無理でも、危険な者達だけでも何とかなるのではないか、と。

 だが、次にマリーナの口から出たのは長年冒険者として、あるいは魔法使いとして生きてきたセイスにとっても俄には信じられない内容だった。


「違うわ。うちのギルドに数ヶ月前に登録した子がいるんだけど、その子が飛行可能なモンスターを従魔にしているのよ」

「何と……」


 マリーナの言葉に驚きの表情を浮かべるセイス。だが、次の瞬間には小さく首を振る。


「いや、だが飛行可能な従魔を連れている冒険者がいるとしても、それではアウラーニ草の粉末はそれ程運べないだろう? もちろん少しでもあれば助かるのは事実だが。少なくても末期の患者に薬を与えて回復出来るのだし」

「ふふっ、まだまだ甘いわね。その子にはきちんとギルムの街にある殆どのアウラーニ草の粉末を持たせてあるわ。他にも必要そうな物資は手当たり次第ね」

「……何?」

「驚くなかれ、何しろその子はアイテムボックス持ちだったりするのよ」

「何だと!?」


 これまでの中で最大級の驚きに、思わず叫ぶセイス。だが、そのセイスをさらに驚かせる言葉をマリーナは口にする。


「ちなみに、その子の従魔。何だと思う?」

「……アイテムボックス持ちとなると、余程ベテランの高ランク冒険者だろう。そうなると、それこそハーピーや飛竜といったところか?」

「は・ず・れ。正解はグリフォンでした」

「っ!?」


 あまりと言えばあまりのその言葉に、反射的に息を呑むセイス。

 混乱している頭を沈めるように深く深呼吸をしてから再び口を開く。


「馬鹿な、グリフォンを従えている冒険者なぞ聞いたことがないぞ? そのような者がいれば噂にはなっていてもいい筈だ」

「フフッ、しょうがないわよ。その子はずっと人と関わり合いのない場所で魔法使いの師匠に育てられてきたらしいし。……それも、その師匠は自称魔術師らしいわよ? 実際その子がギルムの街に来たのもほんの数ヶ月くらい前の話だし。それがあれよあれよという間にランクを駆け上がって、今では冒険者登録をしてからランクDまでの最短記録保持者よ」

「……なんともはやまぁ。いや、アイテムボックス持ちがいてくれたというのはありがたい。色々と聞きたいこともあるが、今はとにかく魔熱病をどうにかするのが最優先だからな。なるべく早く到着するように願っているよ」

「ええ。……ディアーロゴにも、元気でねって言っておいてね」

「ああ」

「それと、この貸しはきちんと返して貰うからそのつもりで、とも」

「……ああ」

「じゃあ、魔力がそろそろ切れるからこの辺で失礼するわ。……死なないでよ、貴方達に死なれたら私の顔見知りがまた少なくなっちゃうんだから」


 そう告げると同時に、水晶に映し出されていたセイスの顔が消え去る。


「……」


 既に何も映し出されていない水晶を無言でそっと撫でるマリーナ。

 この水晶は確かに遠く離れた人物と自由に会話が出来るという、冒険者ギルドに伝わる貴重なマジックアイテムではあるのだが、その分消費する魔力も莫大だ。種族的に人よりも魔力の多いダークエルフであるマリーナにしても、たった10分かそこらの通信で魔力の殆どを消耗してしまうくらいには。


「魔熱病に掛かるかどうかは個人の持ってる魔力による。ならディアーロゴやセイスはまず問題は無い筈。……それが本当に普通の魔熱病であるのなら、だけど」


 呟き、先程までセイスに向けていたのとは違う、物憂げな表情を浮かべたまま、水晶を軽く指で弾くのだった。






「ちぃっ! 急いでる時に限ってモンスターに襲われるとはなっ!」


 セトの上で、鋭く吐き捨てながらデスサイズを大きく振るうレイ。

 魔力を通されたその刃は、30cmはあろうかという巨大な蜂を胴体から真っ二つに斬り裂く。

 魔石や素材諸共に地上へと落ちていくのだが、何しろ急いでいる身である以上はそれ等を回収することも出来ず、内心歯がみをしつつも再び自分へと襲ってきた巨大な蜂へとデスサイズを振るう。

 ソード・ビー。その名の通り、本来であれば針がある部分が長剣のようになっている虫のモンスターだ。ランクEモンスターであり、強さ自体はそれ程大した物では無い。だが一度狙った獲物を執念深く追いかけてくる習性がある為、冒険者達からは嫌われているモンスターだった。

 そして、そんなソード・ビーが現在空を駆けているセトとレイの周囲に20匹近くも飛び回り、隙を窺っては攻撃を仕掛けて来るのだ。


「セトッ!」

「グルルルルゥッ!」


 レイの言葉に何を求められているのかを本能的に理解したセトは、大きく息を吸いそのクチバシからファイアブレスを吐き出す。

 轟っ!


「シャーーーッ!」


 一瞬にして炎に包まれ、瞬時に羽根を燃やされたソード・ビーはそのまま燃えながら地面へと落下していく。

 そして炎を吐いたまま首を横に動かすセト。すると当然ファイアブレスもまた同様に動き、数匹のソード・ビーを最初の1匹同様に炎へと包む。


「風の手!」


 反対方向を見ているセトへと襲い掛かろうとして急接近してきた1匹のソード・ビーへとデスサイズのスキルである風の手を発動。その柄から伸びた透明の触手がソード・ビーの特徴的な剣が生えている尾を掴み取る。


「はぁっ!」


 巨大な蜂とは言っても、所詮は30cm程度。そのくらいの重量しかないのでは、風の手で掴み取ったまま振り回すレイの膂力に抗うことは不可能だった。


「シャーーッ!」


 顎の震動により聞こえる悲鳴のような声を耳に入れつつも、それに構わず風の手を振り回すレイ。振るわれた触手によりソード・ビーは己の尾から生えている剣先で仲間の羽根を切断し、次の瞬間には仲間の胴体へとその剣先を埋めていく。


「砕けろっ!」


 その言葉と共に再び触手に掴まれたまま大きく振るわれたソード・ビーは、仲間の頭部に己の頭部をぶつけて2匹共頭部が砕け散り、死骸を地面へとバラ撒く。


『炎よ、我が意に従い敵を焼け』


 続けて呪文を唱え、デスサイズの柄の先端に30cm程の火球が生成される。

 呪文が短く、威力もそれなり。尚且つ攻撃範囲も広いこの呪文はレイにとっては手軽に使える非常に便利な魔法だった。


『火球!』


 その言葉と共に放たれた火球は、レイとセトの隙を突き真下から攻撃しようとしていた数匹のソード・ビーを炎へと包み込み、断末魔の声すらも上げさせずに一瞬で燃やし尽くす。

 残り10匹。既に最初に襲ってきた時に比べると5分の1近くまで数を減らしているものの、ソード・ビー達は一行にレイとセトを諦める気配は無い。

 だが、その10匹は諦めはしないが襲ってくるようなこともせずに様子見へと体勢を変える。


「……ちっ、ここで時間を食ってる暇はないんだがな」


 呟き、地面の方へと視線を向けるレイ。

 幸い街道には人や馬、あるいは馬車の姿は一切見えない。


「やるなら今がチャンスか。幸い向こうはそうそう仕掛けてこないからな。セト、王の威圧だ」

「グルゥッ!」


 レイの言葉に分かったとばかりに小さく鳴き、大きく息を吸い込む。


「グルルルルルルルゥッ!」


 周囲一帯へと響き渡る雄叫び。それはまさに王の持つ圧倒的な威圧を放っていた。

 本来であればソード・ビーに襲撃を受けた時に真っ先に使うべきだった王の威圧なのだが、このスキルは放つのに数秒とは言っても溜めが必要だ。ソード・ビーが現れてすぐに襲い掛かってきた以上はその数秒が用意出来ず、結局はここまで空中を移動しながらの戦いを繰り広げることになってしまっていたのだ。

 だが、ソード・ビーが一旦距離を取ったことにより数秒の余裕が出来、王の威圧は発動した。そして発動さえしてしまえばランクE程度のモンスターがそれに抗うような真似は出来なかった。


「飛斬、飛斬、飛斬!」


 そうして空中で思わず動きの止まった所へと連続して叩き込まれる飛ぶ斬撃。一塊になってレイとセトの様子を窺っていたのが災いし、その斬撃は残っていたソード・ビーの全てを斬り裂き、砕き、破壊して地上へと身体をぶちまけていく。


「……ふぅ。ん?」


 ようやく一段落したレイが見たのは、地上にいる数人の人影。そしてその先に見えるそれなりに大きい街。

 その様子に閃くものがあったレイは、セトにそのまま飛んで貰いながらミスティリングからマリーナから預かった地図を取り出す。

 地図では、ギルムの街から一番近くにあるその街の名前はアブエロと表記されていた。


「あの街がアブエロの街でいいのか? まぁ、分からないなら聞けばいいか。セト、あそこにいる人影から少し離れた場所に降りてくれ」

「グルゥ」


 レイの言葉に頷き、セトは翼をはためかせながら地上へと降下して行く。

 そんなセトを見上げていた人影は、降りてくるのがグリフォンだと理解したのだろう。一瞬逃げようとするが、すぐにその背に乗っているレイに気が付き動きを止める。


(なるほど、冒険者か)


 その人物達が鎧や厚手の服、剣や弓といったものを装備しているのを見ながら内心で呟き、地上数m程の位置からセトの背から飛び降り、街道へと着地する。

 そしてそのまま黙って冒険者のパーティらしき集団へと近付いていき、意外にその年齢が若いことに気が付く。

 もっとも、若いとは言ってもハスタと同年代。10代後半といった所だが。


「……止まれ!」


 近づいて来たレイへと向け、先頭にいる戦士らしき男が腰の剣へと手を伸ばしながら叫ぶ。

 蛇系のモンスターの鱗を使ったらしき真っ青なスケイルメイルが酷く印象的な男だった。

 このまま近付いて戦闘になっても困るので、レイはその場で立ち止まって口を開く。


「安心しろ、俺はギルムの街の冒険者だ」

「……何?」


 ギルムの街。その一言でレイの前にいた冒険者達はざわめく。

 それだけ辺境にあるギルムの街は色々な意味で有名なのだ。

 目の前にいるグリフォンを従えた自称冒険者にしても、辺境であるギルムの街の出身であると考えれば理解出来ないでもなかった。

 ギルムの街の冒険者であるとレイが言ったことで一瞬気を抜いた先頭の男だったが、それでも言葉だけで完全に信じることは出来ないのか、どこか疑っているように口を開く。その状態でも剣の柄へと手を掛けたままなのはさすがに冒険者と言うべきなのだろう。


「悪いが、ギルドカードを見せて貰えるか? もし本当にギルムの街の冒険者なら問題無いだろう?」

「ああ」


 小さく頷き、ローブの内側から取り出すようにしてミスティリングからギルドカードを取り出し、男の方へと向かって放り投げる。

 いつもならミスティリングの存在を隠すような真似はしないのだが、ここでアイテムボックス持ちと知られて騒がれ、時間を取られるのは面倒だと判断した為だ。

 街道の上へと落ちたギルドカードを確認した男達は、ようやく本格的に警戒を解く。

 そしてそうなれば、目の前の男に対する好奇心が湧き上がってくるのは当然のことだった。


「なぁ、これ本当にグリフォンか?」

「何でギルムの街の冒険者がこんな所に?」

「うわ、ちょっと。この子私達よりも年下じゃない」


 まだセトが怖いのか、セトとは目を合わせないようにしながらも言葉を途切れさせることなく質問してくるその様子に、やがて先程までレイと話をしていた男が大きく声を上げる。


「質問責めにするな! ……えっと、こいつらも悪気はないんだよ。それよりも聞きたいんだが、あんたが倒したソード・ビーはどうするんだ? それ程高くはないが、幾つか素材を剥ぎ取ることが出来るんだが」


 そう言いつつ、戦士の男の目は周辺の地面へと散らばっているソード・ビーの死骸へと向けられている。

 その視線を見ながら、男が何を期待しているのかを知ったレイは数秒程考えてやがて口を開く。


「ちょっと聞きたいんだが、あそこにある街の名前はアブエロの街でいいのか?」

「ん? ああ。それで間違い無い」


 何を聞かれるのかと一瞬身構えた男だったが、まさか街の名前を聞かれるとは思ってもなかったのだろう。小さく頷いて答える。


「そうか、そうなると旅路は順調だな」


 呟き、近くに落ちていたソードビーの上半身をいつもの解体用のナイフではなく、腰に装備してあったミスリルナイフで切り裂き、心臓から魔石を取り出す。そしてもう1度同じ動作をして2つの魔石を手に入れると、再び冒険者の男達へと視線を向ける。


「俺の取り分はこの魔石2つだけでいい。質問に答えて貰った礼だ。残りのモンスターの素材と討伐証明部位に関しては好きにしてくれ」

「……いいのか?」

「ああ、色々と急ぎなんでな。セト、行くぞ」

「グルゥッ!」


 男に頷き、セトの背へと跨がったレイはそのまま男達を置き去りにしてギルムの街とは反対方向へと飛んで行くのだった。


「一体何だったんだ?」

「……あ」


 そんな中、弓術士の女が去って行ったレイ達を見てふと何かを思い出したように口を開く。


「どうした?」

「いや、ギルムの街でグリフォンがマスコットキャラみたいな感じになってるって前に行商人の人から聞いたのを思いだして」

『……』


 無言で既に点のように小さくなっているグリフォンの姿を見上げる一行。

 その心の中は『さすが辺境』と皆同じことを考えていたのだった。

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