第3話「家族」
林萌香が生まれたのは愛媛県の鬼北町。
2006年、平成15年のことだ。
両親と兄は化け術に長けた狸だった。
しかし、萌香はその化け術に不出来なところがあった。
おまけに故郷の自然で遊ぶのが大好きで化け術の修行もほっぽりだしてしまう事も珍しくなかった。
「娘さん、楽しそうだなぁ」
「遊んでばかりで困っていますよ」
「ははは、遊びは若いうちの特権」
「今のままでは此処から出られないままです」
「まぁ、お母さん、焦りなさんな」
森の中ではしゃぎまわる萌香を眺めながら母の芳香と化け術の長と名高い野茂重道は話す。芳香は化け術をなかなか習得しきれない娘を心配していたが、重道たちの親切丁寧な特訓を受け続けたお蔭で人間に化けるようになれた。
彼女が13歳になってやっとの事だ。
しかし、彼女にはどうしようもない欠点がある。
「うわぁ~ここからどうなるのかなぁ~うわぁ!?」
緊張をしてしまうと狸の姿に還ってしまうのだ。それは例えばテレビドラマの緊迫する場面を観ただけでもそうなるレベルで。
「わっはっは! 萌香、また戻ってしまっているぞ!」
「父さん、笑いごとじゃないよ。だからコイツは学校にいけてすらないのに」
大らかな父の風太と心配性の海斗。海斗の心配性は母親譲り。
「母さん、萌香は元気に育っているよ。心配なぐらいにね。だけど僕らがずっと護り続ける。だからそこで見守っていてね」
芳香は萌香が13歳で街に人として出てきた時に交通事故に遭い、亡くなってしまった。最後は狸の姿に還った。人間に回収されてしまい、家族また狸たちで彼女を弔ってあげる事は叶わなかった。
その事故の原因も萌香にあった。が、これを彼女に告げる事はしなかった。
苦手な化け術を何とかやっと身につけて人間の世にでてこられたのだ。真実を告げれば、彼女は人間に戻れなくなってしまうかもしれない。
完璧な彼女でないからこそ林一家は彼女を家族として面倒見続ける決意でいた。
しかし、TV娘な彼女は人間社会ひいて田舎からでた都会の生活に憧れを抱くように。そして虎視眈々と父と兄に内緒で計画を進めていた――
『お父さん、お兄ちゃん、今までありがとう。この町でずっと家族の店で働いて……そんな未来も悪くないかなって思っていたけど、人と出会い、人とお友達になって恋して、家族を持って。そんな未来を生きたいなと思ったので、私はこのお家をでます。私のことは追わないでください。今まで心配ばかりをかけて本当ごめんね。でも、うまくやってみせる。完全な人間になってまた帰ってくるね!』
「あの野郎!」
「読んだのか」
「父さん……」
「父さんはこの店を畳む訳にはいかない。お前だって大学をやめる訳にいかないだろう。とても心苦しいが、萌香を信じて待つしかない……」
「父さんは甘いよ。だから母さんは死んだ」
「海斗」
「こうなると思っていた。彼女の正体が世にバレてしまったら、僕達はどうなると思う? テレビばっかり見させて、好きなだけ好きな物を買い与えたりしてさ。母さんは言ったよね? 人間を知るなら厳しい現実を知らなきゃいけないと」
「おい、変な事を考えるなよ?」
「変な事は考えてない。大学は休学する。そして最悪の事態になる前に動くよ」
「何をするつもりだ?」
「萌香を我が家に戻す」
「待て!」
「萌香より僕を信じて」
こうして林海斗は愛媛から広島へと発った――
広島ゆきのフェリーから海を眺める。デッキの上で感じる風が心地よい。
「海は広いな。大きいな。お前はその意味も知らないのだろう」
青い海から青いスマホの画面。青いスマホの画面から澄み渡る青空。
そんなモノに見惚れる事なく彼の視線は目まぐるしく動きまわる。
「萌香」
でも、彼の目的はたった1つだ――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪萌香のお兄ちゃん、海斗君登場の巻でした♪♪♪また次週月曜日の21時に☆☆☆彡




