すごい所に来ちゃったなと思います
「フェーベさん、この辺りに騒ぎから遠くて落ち着ける店は無いかしら。クロさんはあの調子だけど、今は寝かせた方が健康に良さそうだし……せっかく協力してくれたリサさんに申し訳がないから」
状況を改善させるべく、ルーティはフェーベにどこへ行けばいいか尋ねる。フェーベはギルドを出てからずっと下を向いて考え込んでおり、一言も喋っていなかった。
カノンがフェーベのステータス画面を見ると、多くの攻撃的なスキルと併記して「啓示 LV12」と確かに書いてあったのだが、この”啓示”というスキルは別に何から何まで教えてくれるわけじゃないのかなとフェーベの長考からカノンは推察していた。
「うーん……このまま、ここでじっとするしかない?かなぁ……私が目をつけていた店、あそこに居た大体の人のお気に入り、っぽいし……あ、あそこならいけるかも?ちょっと、遠いけど……」
「カノンが面倒ごとを片付けてくれたおかげで全然疲れてないし、ちょっと遠いくらい全然余裕なの!」
「ウチもこの辺見て回りたいし、それでいいッスよ」
「うん……じゃあ、今から行くね、そこ……うーん、大丈夫だよね、うん……」
フェーベはおぼろげで不確かな自信を胸に抱えたまま、首をかしげながらゆっくりと立ち上がって一行の先導係となった。
「楽しみですね!町のはずれにある、隠れた名店って感じですかね」
「うーん……隠れすぎて、怪しいっていうか……見えてこないって、いうか……行けばわかると思うけど、うん」
「でも、おすすめなんですよね?フェーベさんが選ぶんですから、私、リサさんも喜んでくれるって信じてます」
「うん……これが、最適な選択だとは、思うんだけど。なんでかな……全然、”見え”てこない。この世界だと今まで、こんなに不確かなまま行動したことってなかったから……ちょっと不安」
フェーベが言っていることをそのまま受け取ると、彼女は今現在”見え”ている確かな未来をそのまま歩んでいるということになる。カノンは素直に便利な能力だなと思った。
「へぇ、なんだか……すごそうな能力持ってるんですね!そんな力が通じない人がいる所に行くっていうことは、もしかしたら今までにない強敵が居るのかもしれませんね」
「その可能性も考えたけど……カノン、私達が向かってる方から大きな”音”、聞こえる?」
「はいっ、えっと……普通の人しかいませんね。歩けば歩くほど、人の音が小さくなっていくっていうか。裏通りに向かっている感じでしょうかね?」
「うん、そうだよね……危険性はないようには”見え”たんだけど、やっぱり、何が起こるかよくわからなくて……あ、あれ。あれだ。うん、やっぱり……怪しい」
フェーベが指差した先には、古い物置のような見た目の小屋があった。近くに寄ってみると、おばあちゃんの家みたいなにおいがするなとカノンは思った。「アンリ」と書いてある看板は文字がかすれていて判読が困難であったが、カノンはその看板の声が勝手に聞こえてきた。ネプテュヌス共和国のそれとは見た目の面でかなり異なっていたが、確かにここが喫茶店のような施設であるようにカノンは感じ取った。
「ん。廃墟探索ッスか?」
「『アンリ』って名前の……カフェ?みたいです。えと、入っていいんですよね……?」
「アンちゃんと同じ名前の店ッスか、何か縁を感じるスね!まアンちゃんの派手な見た目とは真逆っスけど」
「リサさんが契約してる死神、アンリさんって言うんですね!私、ミケーラさんって人と契約してるんですけど……」
一行はカノンを先頭に「アンリ」に入店する。ここまでの道を先導してきたフェーベは、最後尾で下を向いて考えながら、髪をふわふわと揺らして店と空気を共にしていた。
「あの人が店主さんかしら。すみません、6人なんですが」
「け、”啓示”通り。アンリの契約者?さん?我を導き給え~、じゃなかった……いらっしゃいませ?あれ、何人?久しぶりで、勝手がよくわからなし……ああ、やはり人を見ていると落ち着かぬ」
店の奥から来た支離滅裂なことを言う店主らしき人が、一行をようこそと言った具合で手を広げながら歓迎?する。肌つやが良く整った顔の女性であったが、薄紫色の髪はぼさぼさで、目は右を行ったり左を行ったりで常にきょろきょろしていて落ち着かず、台無しだなとカノンは思った。
「あぁ、はは、おじゃまします」
「はは、ヤベーのが居るッスね。ウチの昔のダチで質の低いヤクやったやつが、よくあんな感じになってたンすけど」
リサは早速面白いものが見られた、という風にけたけたと笑う。
「や、あの人には……危険薬物の使用も、魔術の痕跡も、見あたらないかな。たぶん……あの人が持っていると考えられるスキル、”啓示”のせいかな。」
「”啓示”ってフェーベさんが使えるやつですよね。あの人もそうなんですか……?はい、そうみたいですね」
カノンが店主らしき人のステータスを確認すると、「アルマ・ラティフィ」という名前と、カノンのこの世界での初期ステータスより若干低い程度のステータスに併記して、「啓示 LV3」と確かに表示があった。
「カノンにはわかるんだ、そのスキル……私は勇者に与えられる”イデア”って力のおかげでうまく使えてるけど……この力、不完全だと普通に邪魔だと思う……。人をじぃっと見てると、その人の先の行動が見えてくるっていうのが”啓示”の能力の一つなんだ……」
「それは、便利そうですね」
「うん……でも、この世界に来てからしばらくは、その力のせいか人に何個も何個も残像が重なって見えるようになってて……気持ち悪くて、やりづらかった。慣れたらなんとかなったけど……もしこの力を持ってて、勇者の力を持ってなかったら、ああなっちゃうかなぁ……私、しばらくアテーナさんとしか話してなかったし……"啓示"の力だけを鍛える期間みたいなのが要ると思う」
カノンは視界に映る人に何個もの残像がうじゃうじゃ湧いてくる図を想像する。非常に酔いそうな光景だなと思った。六人居れば六人分の残像が視界で動き回っている形となるらしい。これは何人が居るのか判断できないのも頷けるなと思った。
「とにかくこの人の酔いを覚ませば、お話できそうですよね!私、やってみます。得意なので」
カノンは目の前の狂人じみた動きをする人とまともに会話すべくキーボードの”調律”ボタンを押し、「リスト12の練習曲 3」を再生する。





