よくわかんないから、やりたいようにやりたいなって思います
「こんばんは、ミケさん!そっちの人は、初めまして。私、カノンって言います。こちらの人は、仲間のルーティさんです!」
カノンは待合室に入ると、目の前の下を向いてじっとしている小さな女の子に挨拶をした。
「こんばんは……あの、そこに誰か居るのなら、姿を見えるようにしてくれると嬉しいのだけど…」
ルーティは目の前に居る二人の存在に未だ気付いていないのだが、カノンの視線の先をじっと見つめ、魔力を集中し探知魔法を発動させていた。
「ミケーラ、”秘密”を解除せよ」
目の前の女の子は、見た目の年齢にそぐわない言葉遣いでミケにそう命令を下した。少しかすれているが、透明感のある声であったので、聞き心地がよくて癒やされるなとカノンは思った。
ミケはパチンと指を鳴らすと、ニコニコ顔で手を振りながらルーティに挨拶をした。
「よ、っと。やほ、君がカノンちゃんが言ってたルーティって子かな?うん、うん…頼りになりそう!アタシはカノンちゃんの、えー……先輩みたいなもんで、ミケーラ・ベネデッティって言うんだ!ミケでいいよ、よろしくねっ」
ミケはルーティに対して、握手するための手を差し出す。ルーティにとって、指を鳴らした瞬間突然現れたようにしか見えないその”秘密”の解除で、戸惑いにより数秒固まるも、ミケの友好的な態度につられて手を取った。
「ええ、よろしく、ミケさん……カノンちゃんのおかげで、私達はかなり助かっているの。この前なんて、勇者の動きを封じ込めて、それで戦争に勝つことが出来て…」
「あぁ~そうそう!カノンちゃん、勇者倒しちゃったんだよね!改めて、おめでとう!これでカノンちゃんはめでたく”悪魔王”ってワケだ」
ミケはカノンの肩に手を回し、カノンを祝福する。
「えっ!?それは初耳なんですけど」
「”秘密”のミケーラ、重要事項については迅速な説明を求む」
ミケの隣に座る女の子は、下を向いたままミケに指示を送る。どうやら、この女の子はミケより上の立場の人らしいとカノンは思った。
「あはは、ごめんねオイちゃん。ほら、一気に説明しちゃったらワケわかんないかなって思って…さっき言った通り、勇者を倒した悪魔は”悪魔王”になるんだよね。そんで、こっからがオイちゃんがここに居る理由なんだけど…」
「”悪魔王”カノン・ベネデッティ。この”死神王”オイゼイトが死神としての権利を与え、”生死のイデア”の力を授ける」
「はい、はい……え?」
カノンは意味が理解できず、半笑いで首をかしげる。
「ミケーラ、やはり何も説明をしていないか。では、死神の役割も一から説明しよう」
「私、死神、になるんですか?なんかよくわからないけど、すごそうですね」
「死神の役割。それは悪しき生命の生死を弄び、魂を煉獄へ送ること……カノン・ベネデッティ、お前は悪しき生命に対し、それを愚弄し、容赦なく裁きを与えることができるとミケーラから聞いた。悪魔としては勿論、死神としての適正も十分だろう」
死神王オイゼイトと名乗った目の前の女の子は、淡々と説明を続ける。カノンは目の前のオイゼイトが難しい言葉を使って死神について語っていたため、ミケにどういうことか確認する。
「ミケさん。つまり私、何をすればいいんですか?」
「アレだよ、アレ。人を殺しすぎた人を殺して、人がいっぱい死ぬのを防ぐ。みたいな?」
「あぁ~、正義の味方みたいですね、なんか!悪魔なのに」
カノンはミケの説明で納得をする。この世界での死神とは、力を持ちすぎた人間に対してのストッパーのような役割であるらしい。
「それはどうなんだろ。カノンちゃん、ギリギリくんは見たんだよね?ギリアムっての」
「そこらじゅうをぜ~んぶ壊しちゃう、すっごいのですよね。気分が落ち着いてる時だと、なんか優しいおじさんみたいな人なんですけど」
「アイツもさ、数百年前に勇者を殺して悪魔王……死神になった人なんだけど。どう?正義の味方っぽい?」
「う、う~ん……根は優しい人みたいですけど、でも、こう……死神っぽいなーって感じはしますね、はい。正義の味方っていうのは~、違いますね。はい。難しいですね、正義って」
カノンは苦笑いをしながら、お手上げのポーズを取る。ミケもそれにつられて、苦笑いをした。
「はは。カノンちゃんには難しかったかな?」
「よくわかんないから、やりたいようにやりたいなって思います。要は、変な”音”が聞こえてくる人を殺しちゃえば、だいたいオッケーってことですよね?」
「いやいやいや。あんまりやりすぎると、今度は”勇者王”に狙われちゃうよー…っていうか、今度カノンちゃんが戦うことになるの、”勇者王”なんだよね。”悪魔王”を倒した勇者は、”勇者王”になるんだけど」
「……思ったよりめんどくさいことになってるんですね、今」
「そそ。新しい”悪魔王”の誕生はさ、勇者さんサイド的には面白くないだろーからさ。成長しないうちに倒しとけって感じになるんだろうね」
「ゼウス及びデュオニュソスからは、勇者タカシが倒れてすぐに宣戦布告の申請があった。手を尽くして散々引き伸ばし引き伸ばし、ようやく勝ち取ったのが10日後という猶予だ。”生死のイデア”の生成も楽では無いのでな。このオイゼイトの手間に見合う働きを、期待している」
オイゼイトは下を向いたまま、淡々とカノンにそう告げた。カノンの表情は、凍っていた。
カノンは、知らないうちにとんでもないことになっているという現実を理解する。”勇者王”セルゲイとの戦いへの忌避感から、カノンは逃げるようにルーティに視線を送る。
「は、はは…ルーティさん、協力して、くれますか?セルゲイって人、思ったよりとんでもない人みたいなんですけど」
「で、出来る限りは……そうね。私のためにも、ゼノビア王国のためにも……やらないと、変われないから」
ルーティはカノンの置かれている状況の複雑さに困惑しながら、流されるままに同意した。ルーティは探知魔法に引っかからなかったオイゼイトが、突然この世のものとは思えない魔力を放ちながら現れたため、完全に威圧され、一言も喋れないでいた。ルーティの視線は、恐怖感から逃げるように手元のメモへと送られた。
死神、悪魔王、勇者王……それぞれの単語のスケールの大きさに、ルーティもまたとんでもないことに巻き込まれているのだと、頭を抱えるのだった。





