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危険な魔法はよく考えて使おうと思います

タカシを倒したその瞬間から、カノンのキーボードには新たに「変化」ボタンが加えられていた。タカシへの嫌悪感から今まで使う気にはならなかったが、セルゲイという強大な敵と立ち向かうために、カノンはそれを押す決意をした。

ボタンを押した瞬間、体がぐにゃあとした感覚になった。タカシの魔力が乗ったこれが、タカシの周りの女性に物理的な攻撃を受け付けなくしていたのだなとカノンは理解した。



カノンはふと、テーブルの上にあるドラゴンの彫刻に目をやる。部屋の照明をちかちかと反射するドラゴンの彫刻は、広い部屋の中でもかなりの存在感を放っていた。



(これ、すっごくよくできてて、今にも動き出しそう…”変化”って、確かデイジーさんのビームもくねって曲げたりとか、できてたよね。もしかして、このドラゴンさんを自由に動かすこととか、出来ちゃったり…?)



カノンはそう思い立つと、テーブルの上に置いてあるガラスの龍の彫刻に「空と海がこんなにも青いから。」を「変化」ボタンと「調律」ボタンを同時に押してから聴かせた。すると、龍の彫刻は翼をバサバサとはためかせながら元気に踊り出した。




「あら。噂に聞くネプテュヌシアン・ドラゴンも、こうしてみるとかわいいわね。なんだか、ペットができたみたいだわ…ところでこれ、元に戻せるのかしら」

ルーティは目の前のガラスのドラゴンがキラキラと部屋の明かりを反射しながら飛び回る優美さへの感動と、突然宿の備品を動かしたカノンの奇行への困惑で、視線を窓の外に移しながら苦笑いを浮かべていた。

「元の形は覚えてるので、大丈夫ですよ!私、このドラゴンさんに、元気になれーって思いをこめて演奏してみたんです。そしたら、すっごく元気になりました!ちょっと、試してみます」



カノンはなにか起きるかもしれない、と龍に水属性の魔力を込めてみると、龍は込めた魔力からは考えられないほどのビームを口から放った。



そのビームは壁に吸い込まれ、霧散した。壁にかけられた障壁魔法がなければ壁に穴を作ってしまうところだったと、カノンは自分で作り出したガラスのドラゴンに対し、驚きの表情で唖然としていた。



「わぁあ、ちょ、ちょっと、ストップでお願いします!ドラゴンさん!」



「変化」ボタンを再度押すと龍の彫刻は動かなくなった。幸い、先程までテーブルの中央で佇んでいたのと同じポーズで固まってくれた上に傷は無かったので、弁償するはめにはならなさそうであった。



「これ、そのへんのものが勝手に動き出すと危ないですし、かるーく使うには向いてませんね…ごめんなさいルーティさん、びっくりしちゃいましたよね」

「ガラスの彫刻は元通りになったからいいけれど、もし大事なものを暴れさせて、壊しちゃったら大変ね。慎重に使うことにしましょう」

「そうですね…あっでも、そのへんに生えてる草とか木とかが味方になってくれそうですよね、この魔法!便利そうです」

「カノンちゃんは気付いてると思うけれど…このガラス細工、かなりの魔力が宿っているわ。心強い味方になってくれるかどうかは、その内に宿る魔力によるんじゃないかしら…そのへんの木の枝とか、だと厳しいんじゃない。ふふっ」

ルーティはデイジーに孤児院の裏山に落ちていた木の枝を”封印されし伝説の武器レーヴァテイン”であるとうそぶいて、魔法を使わせていた過去を思い出し、嘲笑的にそう言った。

「はは…デイジーさんのこと、言ってます?ルーティさん、なんかちょっと悪そうな顔になってますよ」






カノンはドラゴンの彫刻を動かした感覚を思い出しながら、再度「空と海がこんなにも青いから。」をプリセット9に登録し直すと、ルーティと一緒にミケとの待ち合わせ場所に向かう。



「カノンちゃんを育てた悪魔の先輩って、どんな人なのかしら。やっぱり、カノンちゃんみたいに音楽が大好きだったり?」

「そうですね!ミケさん、とってもピアノが上手で。私、ミケさんみたいなピアノが弾けたらなあって、初めて聞いたときからずうっと思ってます」


カノンはミケが楽器を演奏しているところを生で見たことはなかったが、「アラーム」の音がミケと近くにいるときに聞こえてくる”音”とほぼ一致していたため、ミケが「アラーム」を演奏しているということをほぼ確信していた。


「ミケ、さん。ふうん…カノンちゃんの先輩ともなると、カノンちゃんでも憧れるような楽器の腕前になるのね…その楽器、ピアノって言うの。聞いたことはないけれど、とてつもない魔力が込められていて、複雑そうね」

「あっこれ、正確にはキーボードですね!この楽器、ミケさんと魔力でつながってるらしくて。契約した代わりに、魔力をけっこう吸い取られてるみたいです」

「道理で強い魔力を感じるわけだわ。…魔力を吸い取られているっていうのは、少し不穏だけど」

「ミケさん、優しいですし、変なようにはなってないんじゃないかなって思うんですけど…あ、あそこです、あそこ。ネプテュヌス港の待合室…あれ、ミケさんの隣に誰か居ますね、誰でしょう」


カノンはガラス張りの待合室に居るピンク髪の派手な女性、ミケの隣に、床近くまでぼさぼさの白髪を無造作に伸ばした、カノンと同じくらいの少女を見た。


「…?待合室には、誰も居ないと思うのだけど。私の探知魔法でも探れない相手が、あの中に居るのかしら……」

「あれ、ルーティさん、見えないんですか?……私、あの子知らないんですけど、誰かなあ。前、私の仲間ができるかもしれないって言ってたので、その人かもしれません。歳も、同じくらいって言ってましたし」

「悪魔と、悪魔の先輩と、悪魔の後輩ね…カノンちゃんの仲間とは言え、用心する必要があるのかも」

「ミケさんと一緒なんだから、たぶん悪い人じゃないですよ!待ち合わせの時間、もうすぐですし、早く行きましょう!」


得体の知れないものと出会う恐怖から立ち止まってしまったルーティを、カノンは手を引っ張って先導する。ルーティはぎゅっと握りしめられたカノンの手の感触に、屈託のない表情に、安心感を覚えた。



「え、ええ……そうね。良い作戦が立てられると、……いいわね」

ルーティは動揺でしどろもどろになりながらも、カノンに引っ張られるままにネプテュヌス港の待合室に向かうのだった。




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