あんまりきれいじゃなくて期待できない街だなあと思います
「フェーベさん、フォレンティーナ帝国ってどんな所なんですかね」
カノンはフェーベにそう尋ねる。デュラハン馬車の乗り心地は、相変わらず関東の電車と大差なく、止まった時にすこしぐらっとする程度であった。
カノンはこの馬車のスピードに対して不自然なほど揺れがないことにずっと疑問を抱いていたが、それは馬車を操縦するマルスの"進軍のイデア"によるものらしいことがステータス画面を見てわかった。「進軍」と見て、そういえばこのデュラハン馬車に乗った日はやたらと調子が良かったことをカノンは思い出していた。ダンジョンでは自分でもよくわからないくらい機転が効いたし、なんだか先に起こる戦闘の上での不幸もある程度回避できていたような気もしていた。
タカシと戦ったときも、マルスと一緒に居ればもうちょっと楽に勝てたのかなあ…とカノンはこのデュラハンの目立たない力に感心していた。ちなみにあの戦争の時は、マルスは10時までぐっすり寝ていた。
「うーん……ごはんは、そんなにおいしくないよ。なんかこう……味が薄い」
「えぇ!それはあんまり居たくない所ですね。ネプテュヌス共和国のご飯が美味しいからいい曲が歌えて、踊れるなって思ってるから。もっとおいしいお菓子とか持ってくるんでした」
「ビタナ・クラッシュをかたーくしたようなお菓子はあるけど…なんか、しょっぱいし。オススメできないかな」
「そう思って、昨日のうちにお菓子をいっぱい買って、氷漬けにして長い間食べられるようにしたの!」
デイジーが鞄の蓋を開けると、氷の容器に入った氷漬けのお菓子が敷き詰められていた。そのまま食べてもアイスみたいで美味しそうだな、とカノンは思った。
「ごはんが美味しくなくても、デザートが美味しければ元気になれそうですね!流石です、デイジーさん」
「リーダーだからこれくらいは当然なの!みんなで分け合って食べるお菓子はきっとおいしいの」
そうしてお菓子を摘んだり、あたりの景色を眺めたり、寝たりしていると、街が見えてきた。ネプテュヌス共和国の整っていてかつビビッドなイメージとは違い、石を切ってそのまま建てましたというような灰色の建物が多く目立っていて、あんまりきれいな街じゃないなあとカノンは思っていた。
「英雄の諸君、そろそろフォレンティーナ帝国の首都、フォルトゥナに到着するぞ!つまらぬ街故、小生は諸君を下ろし次第すぐにネプテュヌス共和国へ戻るとしよう!」
マルスもつまらぬ街と言い切っているので、カノンはどんどんこの街に対する期待が薄れていった。
そうして街に到着した一行は、フェーベが住んでいたという家に向かった。ここに滞在してもよいということなので、「雪解けレーヴァテイン」の一行はお言葉に甘えることにした。ロマネスク様式の厳かな教会を小さくしたようなそれにフェーベは躊躇なく入る。
「黙ってでてっちゃったから……師匠、怒ってるかなあ。……ただいま」
「おじゃましまーす…うわあ」
カノンはひたすらに豪勢なその内装に、あっけにとられる。壺や絵などの芸術品、アンバランスな状態で立っている彫刻などがインテリアとして置いてあり、壊したらただじゃすまなさそうである。
居間に進むと、金髪のポニーテールを少しも揺らさずにお茶を飲み、本を眺めている女性が椅子に腰掛けていた。肩には鳥が乗っていて、それも本を眺めているように見えた。
「ようやく戻りましたか、フェーベ。……仲間を、見つけてきたのですね」
仲間とは、私たちのことだろうかとカノンは思う。その女性は見定めるようにこちらを眺めると、うん、と納得したように本に視線を戻した。
「黙って出てったの…怒ってない?」
「常に三手先を読むような行動をする貴方のする事。何も変わらないように過ごしていましたよ」
「そっか…よかった。修行の一環で、コロシアムっていうのに参加してるんだけど……明日も開催するんだよね。一ティモで行って帰ってこれる自信、あるから…行ってもいい?」
「もちろん構いません。そこのお仲間も、そのコロシアムとやらで見つけてきたのでしょう」
「戦ったけどすっごく強かったの!でも次は負けないの」
デイジーはレーヴァテイン・ノヴァを掲げて、次のコロシアムに向けた決意を表明していた。
「良き仲間と、良き好敵手に出会えたのですね。…では、久しぶりに稽古と行きましょうか。フェーベ、どれほど強くなったのか見定めてあげましょう」
「うん…デイジーもあれでかなり、容赦なくなってきたから、お互い強くなったかなって……そう思う」
一同はサッカーコートくらいある庭に向かった。この国、ここだけスケールがでかすぎるんだけど、フェーベはそれほど凄い人なのかなあとカノンはその庭を眺めて思った。
「では始めましょう。刃は抜いていますが、手加減はしませんよ」
師匠とやらは槍を構え、フェーベを睨む。肩に乗っていた鳥も、戦闘態勢を整えているように見えた。
「こっちだって…!」
フェーベは突然消えると、師匠の周りをぐるりと回り、囲むようにして剣撃を放った。師匠はそれを、槍で全て受け止める。
「相手の死角をつく攻撃ですか…やりますね」
師匠は槍をフェーベとの間合いに持ち込もうとするが、俊敏に動き回るフェーベに中々狙いが定まらない。
「そこ!」
カァン!
フェーベはV字の切りを放つと、師匠の槍は明後日の方向に飛んでいき、庭の地面に刺さった。
「…見事です、フェーベ。強くなったのですね」
師匠は負けた側なのに、誇らしげにフェーベに向けて笑顔を見せていた。





