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なんもわかんないまま戦争の日が来ちゃいそうで不安だなあと思います

カノンとルーティが「ブルネルスキの家」に戻ると、リリカとデイジーが門の前で待っていた。アラームの時刻は17:42を指しており、そろそろご飯時といった時間であった。だが、カノンは先程「カフェ・デ・グラス」にて食べたケーキで未だにそこそこお腹が満たされており、食べても食べなくてもいいかなといった具合であった。


「お疲れ様、デイジー、リリカ。頼んでいたもの、買ってきてくれたかしら」

ルーティは二人に、戦争での被害を最小限にするために、予算内で買えるだけ自分達の身を守れる魔道具を買うよう指示していた。カノンが所持している、「目眩ましの指輪」もその一つであった。

「ばっちりなの!でもあのインチキババア、障壁魔法の魔道具は売り切れだって言ってたから、それだけ買えなかったの」

「『共和国騎士団の連中が軒並み買い占めちゃったから、もう無い。あたし達のせいで忙しいからあ、しばらく入荷は無い。帰れ~』って、言ってましたよねぇ。今のタイミングで買い占められちゃってたらぁ、あたし達含めて冒険者は誰も戦争に向けての魔道具は買えないんじゃないんですかねぇ。『目眩ましの指輪』もぉ、私達が3人分買ったので売り切れみたいですしぃ…」

勇者に対して障壁魔法の魔道具がどれほど有効かはわからないが、ルーティにとって心配な要素が一つ追加されてしまった。他の魔道具店では、そもそもそのような魔法が付与された道具が、売っていなかった。

「そう…とりあえず買った物の質も含めて色々確認したいことがあるから、部屋に入りましょうか」

一行は「ブルネルスキの家」のチェックインをすませると、簡単に夕食をすませ、部屋に入った。


「あのババア、この国に良い魔道具士が居ないからって、いい気になってるの!」

デイジーとリリカの二人は他の魔道具店も訪れてみたが、道具に付与されていた魔力がデイジーから見てあまりにも小さいことに気づいたため、1分もしないうちに退店していた。

「ベティには、頼んであるヘル・ドラゴンの魔石を使った魔道具に期待したいところだけど…完成するには、戦争の日に一日足りないわね。アレのことは、考慮から外すべきかしら」

「それについては心配いらないの! ババアに魔力をよこせば完成が早くなるって言われたから、魔力を魔道具にぶちこんでやったら、これならあと二日でできるって言われたの」

デイジーは得意げにそう言った。ちなみにインチキババアことベティは魔道具に入る許容量ギリギリの魔力をデイジーに要求していたが、四人分の魔道具作成にそんなに魔力は必要ないということをデイジーは考えもしなかった。

「あの魔力貯蔵庫?みたいなやつもでっかくて、高そうでしたよねぇ」

「あのババア、やっぱりとんでもない金を持ってそうなの!」

「そう…そうなの。あの魔道具を初めて使う相手がまさか勇者になるなんて、私もちょっとワクワクしてきちゃったわ」

ルーティはただでさえドラゴンを討伐できるほどのデイジーの魔力が倍になることを想像し、目を見開いて、興奮気味にそう言った。

「そんなに魔力がたくさんあれば、フェーベさんやデイジーさんに応援するときも疲れずにやれそうですね!」

「吟遊詩人の戦気向上の効果は、楽器の腕前もそうだけれど…本人の魔力にも強く影響しているらしいから、その面でも期待できそうね」

「はいっ!いつも以上に頑張って、応援しちゃいます」





ルーティは先程聞いた情報を整理し、三人にこれからの五日間の計画を伝えた。ルーティ自身はジョセフの動きに注意を払いながら、共和国全体に探知魔法を張り巡らせ、ゼノビア王国の動向を監視する。デイジーには可能な限りフェーベと稽古をして、親交を深めつつ接近戦の水準を上げることをお願いした。勇者というものの実力が測れないので、共和国の重装歩兵隊が突破される可能性もゼロではないとルーティは分析していた。リリカにはアグリッピナ広場周辺の確認と、ギルドの動向の調査をすることを指示した。女の子が一人でうろうろ調査なんてしてたらあぶなそうだな、とカノンは思ったが、「目眩ましの指輪」をつけていたら周囲からの視線を全く感じなかったことを思い出し、まあ大丈夫かと考えた。



カノンが国内にジョセフの"音"を全くしないことを伝えると、ジョセフは本当に危険だから五日間気を張っていてほしいとルーティに言われた。カノンはそれに対し、「"聞いた"感じだとそんなに悪い人じゃないかもしれないんですけど」と言うと、三人は酷く苦いお茶を飲んだ後のような表情になった。信用を失いそうなレベルだったので、「や、たしかに明らかに悪そうな人ですよね、うんうん」とカノンは笑顔でごまかした。








ゼノビア王国軍が攻めてくると言われている日まで四人は、おおむねルーティの計画通りに動いた。デイジーはフェーベとどんどん仲を深めていったようであり、リリカにオススメの店を聞いて、三人でカフェ巡りをするのが稽古後の習慣となっていた。

しかし、ルーティとカノンのゼノビア王国軍に関する調査は、なかなかうまくいかなかった。むしろ、共和国の噂好きな冒険者が「勇者」について誇張した情報を流していたため、逆になにがなんだかわからなくなってしまうという具合だった。




そんな調査を始めてから、三日目のことだった。ジョセフの魔力を乗せた「声」そのものが、ネプテュヌス共和国の外へと流れていくのをカノンは感知し、注意して聞いていた。その声はなぜか、電波の悪いところで携帯電話をかけたときのように、ぶつぶつと途切れていて聞き取りづらかった。

「ああ、……カシの能力な…ばこの作戦で…国を降伏……できるだろう。ただ──"誑かすもの"パリカーに気をつけろ。そいつは……ないが、そいつ一人……能性がある。………かれているな」

その言葉を最後に、ジョセフの魔力を乗せた声は聞こえなくなった。カノンは、「たぶらかすものパリカーに気をつけろ」という部分が、鮮明に聞き取れた。パリカーって、私のこと……?でも、私みんなを後ろから応援するだけだし。たぶん、別のパリカーの子が、すっごく強いんだろうなあとカノンは思った。

そのことをルーティに報告すると、「ジョセフは勘が鋭いから、細心の注意を払っておいて。もしかしたら、狙われるかもしれない」と言われた。そんなに警戒するほどかなあ、とカノンはジョセフという男の雰囲気から思っていた。




同じ日に、ベティにお願いしていた魔道具を取りにルーティと「ベティの魔道具店」に向かった。三年は遊んで暮らせるという大きい、高価な魔石を加工したそれは、風で吹き飛びそうな7cmほどの赤いチェーンの形をしていた。先端にはバラの中心に魔法陣を書いたような花があしらわれており、そこからは強大な魔力の"音"がカノンには感じ取れた。



「作っていくうちに楽しくなってきてねぇ…ひひひ、誰も作ったことの無いだろう魔道具を生み出してしまったよ。『ヘル・シンパシー・チェーン』とでも名付けようかねぇ。まず、これを着けるとヘル・ドラゴンの魔力を抽出したものが作用して、あんたらの魔力を倍にしてくれるぞえ。こいつぁ苦労したんだが、デイジーとやらの魔力を使って、あんたらの同調を高める仕掛けを施してある。サービスだ、とっときなぁ」



ベティが言うには、それは指に巻き付けて使うらしい。さっそくカノンがそれを身に着けようとすると、そのチェーンはひとりでにカノンの右手の薬指に巻き付いた。その装着感は、薬指で壁をトトトトト、と叩いてみてもぴったりとカノンの指に巻き付いていて、快適であった。チェーンのアクセサリーなんて楽器を弾くのにじゃまそうだなあ、とカノンは思っていたが、着けていることは指を動かしても気にならないので、キーボードを演奏するには大変良いものであった。

しばらくすると、カノンは膨大な魔力の増幅を自分の中で覚えた。そして、"調律"の力を使わなくても、ルーティの感情がなんとなく"見えて"くるような感覚があった。ルーティも同じような感覚を覚えたらしく、同時にカノンの純粋無垢に見えて、底知れない感情を垣間見、複雑な表情になった。



「いい買い物が出来たと思うわ。これで、戦争でも良い戦果を上げられるかなと」

ルーティは実際に魔道具を身に着けるまでその効果に関しては半信半疑であったが、自身に流れる感覚から、これは本物だと確信した。

「そうですねっ。デイジーさんも、これがあれば勇者なんて跡形もなくふっ飛ばしちゃうと思います」

カノンはこれを身に着けたデイジーが、共和国を勝利に導いてくれると完全に信じていた。





四人はできるだけ万全に体調を整え、戦争が始まるとされる日の前日はフェーベとデイジーの稽古もお休みにし、宿で一日魔力を蓄えながらゆっくりすることにした。カノンは念の為、アラームを6:00に設定し、21:00にベッドに横になった。

外ではネプテュヌス共和国全国に亘り、明日戦争が始まるということなど誰も知らないかのごとく、広場では様々な音楽が流れ、露天のある場所では客と行商人が夜遅くまで賑わっていた。そんな様子を、カノンは眠りに就くまでのBGMとしていた。

(やっぱり、平和が一番なのかもしれません)















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