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花と狼  作者: riki
第三章 恋花の八花片
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「リンっ、大丈夫ですか!? 気分が悪いと聞きましたが」


 重病人として伝わっていたのだろうか、シラーさんが険しい顔でわたしの傍に歩み寄った。持参した鞄をテーブルに置くと、「あとはわたくしが見ます。席を外して下さい」とクラウスさんを追い立てる。

 二人きりになるとシラーさんが「辛いなら横になりなさい」と促してくれた。


「ありがとうございますシラーさん。気分が悪かったんですが、おかげで良くなってきました」

「吐き気はおさまったのですか? 熱は? ――少し熱いですね」

「そうですか? 自分ではあまりわかりません」


 おでこや首筋にひんやりとした手が添えられた。外傷がないか素早くチェックする水色の瞳に、そんな場合じゃないと思いつつこっそり頬を緩める。

 名前で呼んでくれたこと、心配してもらえることが嬉しい。

 病気になったとき、お母さんが世話をしてくれたことを思い出す。

 今はもう遠く離れてしまった家族の温もり。シラーさんには失礼だけれど、わたしにお姉ちゃんがいたらこんな感じかも……なんて想像が広がる。


「シラーさん、心配かけてごめんなさい」

「謝罪は不要です。わたくしはあなたの世話役ですから。胸のむかつきを楽にする薬を用意しましょう。微熱があるようですが、念のため熱冷ましも飲んでおきますか? 他に痛みや具合の悪いところはありませんか?」


 鞄の中にはお医者さんの往診セットを思わせる何かの器具や、容器や油紙につつまれたお薬らしきものがある。手際よく調合される乾燥した草の粉っぽいお薬にためらいながら痛み止めをお願いした。


「頭が痛くて、動くとズキズキします……あとはお腹が少し痛いです」

「腹痛はどのような痛みですか?」

「差し迫ってトイレに行きたいとかではなくて鈍い痛みです。わたしは緊張したら胃腸にくる性格なのかもしれません……」

「他に痛む場所はありませんか?」

「それ以外は大丈夫です」


 シラーさんは薬を混ぜながら気がかり様子だったけれど、何も言われなかった。

 色々と精神的なストレスが重なって体調を崩したんだろうなぁ。

 普通に生きていたらまず経験することのない体験の連続で、体力と気力がゼロに近づいている。

 王様との対決でエネルギーも使い果たしたのか、手足が重くてだるい。待ってる間にもふかふかの座面が心地良くて眠ってしまいそう。


「出来ました。これをお飲みなさい。しばらくすれば効いてきます」


 手渡されたのは水で溶かれた枯れ葉色のスムージーだった。意を決して一気飲みしたら、あやうく仮病を本物にしてしまうところだった。

 涙目になってお礼を言うと、シラーさんが口直しの水をくれた。


「謁見はどうでした? 問題は起こりませんでしたか?」

「ええと、王様に会うの初めてなので緊張しましたけど、わたしの言うことを信じてくれて、離宮に無断で立ち入ったことは許してもらえました」

「あなたの説明を信じて引き下がる? そのような甘さが王にあったでしょうか?」

「わたしだけでは無理だったと思います。カルステンさんも一緒に無実を訴えてくれて、それで許してもらえたんだと思います!」

「そうですか……。ザフィーア聖堂教会は最も王宮に近い教区のためか、レンドルフ様は国王寄りです。ザフィーアの花結びに王宮の狼が特に多く参加するのは、融和的な雰囲気を感じるからでしょう。首座主教がレンドルフ様を選ばれたのは、国王との対立を避けるためだったのかもしれませんね」


 ダールガンさんじゃなく、カルステンさんが一緒だったのはそういうことだったんだ。

 王都にはいくつか聖堂教会があるらしいけど、花の身をゆだねる相手との関係は良好に越したことはない。それぞれの教区に住む狼と結びつきが強くなるのが自然だ。

 本当のことを言えないから誤魔化したんだけれど……なかなか筋が通った言い訳かもしれないと、自分をほめる。もしロベルトさんに聞かれたら同じ事を言おう。

 手汗で落ちたのを理由にシラーさんに匂い消しをもらって塗っていると、扉がノックされた。

 顔を見せたのはクラウスさんで、「八花片に会いたいと客が来ている」と告げられた。

 客と言われても心当たりがない。


「どなたですか?」

「《七花片レイネ》だ。体調が優れないからと主教が入り口で留めているが、すぐには帰りそうにないぞ」

「七花片?」 

「レナンセラ王女です。この国に七花片は一人しかいませんから」


 説明してくれたシラーさんも不審そうだ。

 王女様がなぜかわたしに会いたがっているってこと?

 王族の人達に良い印象がないので、できれば遠慮したいけれど。


「あの、会いたいと言われても困ります。全然知らない方ですし……」

「八花片にぜひ会いたい、花同士で話がしたいと強く訴えている。自分の母親の話を聞きたくはないか、とも言っていたな」

「アリウムさんの?」


 ますます意味がわからない。アリウムさんとは生前会ったことがないけれど、同じ八花片としてわたしが興味を持っていると思ったのだろうか?

 どう答えていいかわからなくてシラーさんを見ると、表情が強張っていた。

 アリウムさんが亡くなった経緯は謎のままだ。

 王花になってから一度も王宮を出ることが叶わなかった人。

 ……ひょっとして、シラーさんは真相が知りたいんじゃないだろうか?

 レナンセラ王女なら自分のお母さんのことだもの、きっと事情に詳しいはず。

 わたしがシラーさんを手伝えるとすれば、真実を知る機会を作ることだ。


「王女様と会います」

「七花片は花のみで会いたいと希望しているそうだが、どうする? 自分が護衛を付けないかわりに、こちらもそれにならえと言っているらしい」


 七花片であるレナンセラ王女が護衛を外し、あえて危険をおかして話したい事って何だろう?

 見当もつかないけれど、護衛を遠ざけるのはわたしにとっても都合がいい。

 シラーさんは王様に批判的だ。万が一王族の悪口を言っても、フィリップさんが怒ってロベルトさんに剣を向けたような事態にはならないはず。


「騎士の方々について頂かなくても大丈夫です。ただシラーさんだけは同席しますと伝えてください。それを拒否されるのであれば、会う気はありません」




 +++++++++++++++




 ゆっくりとした足取りで現れた女性。

 波打って広がる豪奢な金髪は同じだけれど、王様やクリストフェル殿下と趣が違い、美しいより可愛いという表現が似合う顔立ちだ。アリウムさんに似ているのかな?

 目尻の上がった大きな蒼い瞳は、勝気な猫のように気位の高さを感じさせる。それでもつんと上向いた唇がひとたび笑顔になれば心奪われる男性も多いだろう。年齢はクリストフェル殿下と同じくらいに見える。

 わたしを見つけると、上から下まで値踏みするように視線が動く。

 無言の品定めはお世辞にも好意的とは言いがたい。

 何も言われないので、わたしもお返しにレナンセラ王女を観察する。

 レナンセラ王女は教会の正装じゃなかった。

 白のドレスには金糸の刺繍があり、蜘蛛の糸のように細いレースが重ねてある。

 首と胸元が大胆に開いたデザインは、盛り上がった白い胸に真紅の花紋が鮮やかで、同性であっても目が吸い寄せられる。以前シラーさんに見せてもらった通り、ふんわりとした大小の花びらが円状に並ぶ七花片は薔薇に似ていた。露わな上半身はどこを見せるかという、花の魅力を最大にアピールした装いだ。

 豊かな胸に反して腰は驚くほど細い。くびれたウエストから床にかけてドレスの裾が広がり、身動きの度にドレープが揺れる。歩くとまとわりつく布地に脚線が浮かび、スタイルの良さが窺える。


「ここでいいわ。あなたたちは下がってちょうだい。……聞き耳なんて立てないで、言いつけ通り廊下まで下がるのよ」


 張りがあってよく通る声は他人に命じ慣れた様子だ。

 レナンセラ王女の一声で引き下がる護衛の中にフィリップさんがいた。レナンセラ王女の護衛をしていたから見かけなかったのか。さすがに人目がありすぎて、ここでエリカさんから預かったハンカチは渡せない。

 護国騎士が全員出て行った後、クラウスさんが最後に退室した。

 レナンセラ王女はさらに外を警戒するように確認し、扉に内鍵をかける。

 そのままわたしたちの前まで来ると足を止めた。ずいぶん不穏な空気だ。

 椅子をすすめようとしてやめた。

 言葉にされなくても高みから見下ろす目に、目線を同じくするつもりはないと書いてある。


「あなたが噂の八花片ね。トリスタンの花狼を連れていたそうだけれど……教会に登録したんですって? お父様に歯向かっておきながら、この国で庇護を求めるの? 薄汚い黒犬を侍らせながら、とんだ恥知らずね」


 蒼い瞳は悪意を隠さない。

 この国で黒髪が意味するのはトリスタンの血。異世界から来たことを知らない人にすれば、わたしは敵国に助けを求める図々しい人間に見えるんだ。

 レナンセラ王女が人払いをした意味がわかった。

 わたしのことが気に入らないからだ。

 自分が護国騎士を側に置けば、当然神聖騎士も同席するだろう。わたしの味方をする存在が邪魔だということ。シラーさんが残ったのは想定外だっただろうけれど、それでも棘のある言葉を向けるのは、自分が優位に立っているという自信があるからだ。


「八花片はまだ幼いわ。南伐に関わってもいないし、その頃には生まれてもいない。直接関わりのない者を責めるのはおかしいでしょう。教会の方針についても属さないあなたが口を出すことじゃないわ」


 庇ってくれたシラーさんをジロジロ眺め、レナンセラ王女が「位階は?」と訊ねた。

 花同士では香りが嗅ぎ取れないから、言われないと相手の位階はわからない。


「《一花片ルマ》だったけれど、今は無花片よ」

「そう。弱い狼を花狼にしたものね」


 シラーさんは何も言わなかったけれど、わたしの方がつい王女様を睨んでしまった。

 大切な人を亡くしたシラーさんを馬鹿にするなんて許せない!

 花狼の誓約は想いを同じくする花と狼で交わすものだ。シラーさんの悲しそうな様子を見れば、その人のことを本当に好きだったのはわかる。


「あなたはどうなんですかっ、誓約を交わした狼がいるんですかっ?」

「花狼を持つなんて愚かな真似をするわけがないでしょう。どうして花狼を持たないといけないの? 教会の教えか何か知らないけれど、あなたたちの方が理解しがたいわ」


 シラーさんが「レナンセラ王女は教会に登録していません。王宮に居れば王の子として護衛がつきますから」と教えてくれた。

 高位の花が教会に属さず、花狼も持たずに身の安全を図る。それは生まれもつ王女という地位がなければ不可能だ。むしろレナンセラ王女以外にはできない生き方だ。


「私には無理だわ、年とともに衰える狼に大切な花片を与えるなんて。花片が散るごとに香りは弱くなる。私は《七花片レイネ》よ、一片たりとも花片を失う気はないわ。それに誓約を交わさずとも私の花片を請い、縋りつく狼は掃き捨てるほどいるの」


 広く開けられた胸元に、あでやかに咲く真紅の薔薇。

 白い肌に流れる黄金の髪と蒼の瞳はハールスの狼が尊ぶ色彩。豊かな胸と細い腰は男性の本能を掻き立てるだろう。レナンセラ王女は花紋も容姿も、高位の花と呼ばれるのにふさわしい。


「どれほど強い狼でも、跪いて、私が与えるものをただ待っているわ」


 澄んだ瞳が誇らしげに煌めく。広げた腕もオーバーではなく、過去彼女にひれ伏す狼たちがいたのだろう。花は母親の花統を継ぐらしいから、足元に集う恋狼の数は多いはず。


「狼を選んだらあとは簡単よ。香りを欲しがれば抱き寄せ、蜜を欲しがればせいぜい口づけをひとつ。我が身を与えるなんて弱い花のすることよ。ましてや誓約なんてね」


 つんと上向いた唇が笑みを作る。伸ばされた繊手の指先が、薄紅の唇にそっと置かれた。指に代わりたい、触れてほしいと狼たちは顔を上げて彼女を見つめるのかもしれない。

 狼は花の香りと蜜を求めて集う。レナンセラ王女は花狼を定めず、強い狼に自身を護らせたら良いという考えらしい。


「お母様も馬鹿よね。お父様がいたら花狼なんていらないのに」

「……あなたは勘違いしているわ。護国騎士が常に護っているから散らされないだけ。青狼隊がいなければとうに貪り尽くされているでしょう。わたくしたち花には、心からの絆で結ばれた花狼が必要なのよ」

「あら、低位の花には一生わからないでしょうけれど、七花片というのはあなたが思うよりずっとずーっと香りが強いの。強い狼は何度でも何人でも手に入るわ。――緋紋に変わったときから、主は《わたくし》、従うのは狼よ」


 レナンセラ王女の言葉にシラーさんは反論しなかった。

 花には花紋という誰の目にも明らかな階級が存在する。一花片であったシラーさんは、レナンセラ王女に引け目があるのかもしれない。

 わたしは八花片とは名ばかりで匂いもしない。だからレナンセラ王女の気持ちや立場にまったく共感できないし、シラーさんを見下す態度に腹が立っていた。


「あなたが花狼を持つ気がないのはわかりました。それで、亡くなったアリウムさんの話とは何でしょうか?」


 話を断ち切ったわたしに不愉快そうに眉を潜めながらも、レナンセラ王女は「お母様が亡くなったこと、お父様から何か話があったの?」と逆に聞かれた。


「王様からですか? 何も聞いていません」

「お父様とは何を話したの? まさか、離宮に迎えるとかではないでしょうね」

「とんでもない誤解ですっ、わたしは教会に帰るためにここにいるんですから!」

「お父様もクリスもあなたを気にしている。侵入者ならすぐ処罰を与えればいいのに、なぜあなたはのうのうと城を出て行けるの? 出迎えはクリスが行ったそうね。あの子は花に興味を示したことがないのに、色目を使ったんじゃないの?」


 初対面の時、クリストフェル殿下はわたしの花紋を見て態度を変えたし、王様との一件が脳裏をよぎる。レナンセラ王女がわたしを目の敵にするのも八花片だからだろう。

 王族にとって八花片という存在は、激しく感情を刺激する心に突き刺さった棘なんだ。


「残念ね。クリスは純血のハールス狼よ、あなたは命花になりえない」


 レナンセラ王女が鋭い目で釘を刺した。

 わたしがクリストフェル殿下を誘惑していると言いたげだ。命花は血が遠すぎても近すぎても現れない。黒髪のわたしはクリストフェル殿下の運命の相手にはならない。血の近い従妹のエリカさんでもない。心配しなくても彼のお相手はまだ見ぬ高位の花だろう。

 

「……アリウムさんのお話じゃなかったんですか? 関係ない話を続けるなら、もう帰ってください」

「私に命令する気!?」


 突如レナンセラ王女の顔つきが変わる。


「私がハールベリスで唯一だったのよ! 恋花で最高位の七花片だったのに! これ見よがしに花紋を晒して、トリスタンの八花片ですって!? 今まで一度もそんな情報は無かったわっ、どんな小細工を使ったの! 顔も醜い小娘がっ、香りでお父様に取り入ろうとしたのっ!?」


 目の前で怒鳴るレナンセラ王女の白い頬は紅潮し、眉が吊り上がっている。これまで言葉の端々に怒りが滲んでいたけれど、わたしの一言をきっかけに爆発したようだ。

 でも理不尽に怒鳴られるのはこっちも我慢できない。立ち上がって言い返した。


「わたしは何もしてませんっ!! 王花になんてなりたくありませんから!!」

「冗談でも口にしないでちょうだい! 王宮にトリスタンの醜花はふさわしくないっ、おまえなど現れなければよかったのよ!」

「わたしだって好きでこの国に来たわけじゃないですっ」

「なら消えなさいっ! 今すぐ私の目の前から!」 


 振り上げられた手に叩かれるとわかったけれど避けられない。

 歯を食いしばるのが精いっぱいだった。

 バンッ!! と顎にまで響いた衝撃で椅子にへたり込んだ。

 ちかちかと視界に星が飛ぶ。

 叩かれた頬が痛いというより熱く、理不尽な暴力に身体が固まる。


「やめなさいっ!!」


 シラーさんが割って入り、再び叩こうと暴れるレナンセラ王女をわたしから引き離してくれた。


「放しなさいっ、わからないの!? この花はお父様を誑かそうとしているのよ! 王宮に黒く穢れた血を入れるなんて許さないわ!」


 乱れた髪の間から爛々と輝く目でわたしを睨みつけ、まだ罵っているレナンセラ王女の声がどこか遠い。

 殴られた衝撃が過ぎ去った頬が、熱をもって腫れた感じがする。

 ぎりっと噛み締めた奥歯が軋む。

 蓋をして、意識の奥底に沈めて考えないようにしてきた感情が暴れだす。


 どうしてわたしだけ、こんな目に遭わなければいけないの?

 事故で死んだのは何かの罰ですか?

 他人から罵られ、暴力を振るわれるほどの罪を犯しましたか?


 自分が惨めで悔しかった。

 ドクドクと鼓動に合わせ頭が割れるように痛み、額の真ん中が熱くなる。

 ちょうど神様に祝福のキスを受けた場所だ。

 それを思い出して、自分が何のためにこの世界に来たのかわからなくなってしまった。

 八花片が神様に祝福された存在なら、周囲に疎まれることなく生きていけるんじゃないの?

 家族のもとに帰りたい! わたしの本当の居場所に!!

 生き返ることを願わず、あのまま消えていたらよかったのかな。

 本当は死にたくなかった。

 異世界になんて来たくなかった。

 八花片なんて望んでない。

 でも自分なりに精一杯この世界のことを覚えよう、受け入れようとしてきた。

 わたしの努力が足りなかったの?

 どうしたらいいのか、誰も正解を教えてくれない。

 これ以上頑張れないよ。

 



 かみさま。

 たすけて。




 額にひときわ熱く強く集まった熱が、パンと弾けたような感覚がした。

 同時に頭を絞めつけていた激痛が和らぎ、不可視の殻を剥がれたように全身が軽くなる。

 自然に大きな呼吸をすると、ふうっと吐いた息に暗く凝り固まっていたものがほぐれ、次いで胸をふくらませるとすみずみまで酸素が行き渡った気がする。お腹の底から湧き上がる温かな力が全身に漲り、それは奇跡の体験と呼んでもいい味わったことのない充足感だった。

 額は役目を終えたように平熱に戻り、今は祝福の名残はない。

 ただ世界が色鮮やかで眩しく見えた。


「大丈夫ですかっ」


 シラーさんが心配そうに手を差し出してくれた。

 レナンセラ王女は激情が去ったのか、こちらをきつく睨みつけながらも再び襲ってくる様子はない。


「助けてくれてありがとうございます」


 手を借りて立ち上がった拍子に、足の付け根で水が流れ出たような感覚がした。

 ギクリとして動きを止める。

 テュリダーセに来てから日付を意識することがなかったから忘れていた。 

 頭痛も腹痛も、ストレスのせいじゃない。

 始まってから気づく。


 ――わたし、生理がきてしまった。 

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