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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Goodbye To [Nameless] Avenger
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Deadly [Lucid] Reason 3

 護衛が始まってから1ヶ月が経った頃。

 カスパロフ邸の敷地内にあるダガーハート小隊に貸し与えられた離れで、小隊の面々とレイが木で作られたテーブルを囲んでいた。

 テーブルの上には無数のケーブルで繋がれたディスプレイが置かれ、そのディスプレイにはカスパロフの娘達の学校から口座の記録までのあらゆる情報が表示されていた。


「人身、麻薬、武器の密輸。本職が厳しくなってきたとはいえ、この副職は褒められたものではないね」


 胸元にロザリオを下げたスキンヘッドの黒人の大男――ベックが呆れたような声色で呟く。

 イヴァンジェリン・リュミエールが発明した超小型電力増幅回路が生まれてからというもの、世界中のエネルギー産業が大打撃を受けてその利益の減らしていた。

しかし争いの種を自ら抱え込んでいる事実に、ベックは大きな肩を竦めた。


「国防軍じゃなくて民間軍事企業に依頼を出した時点で疑うべきだった、ってことなんじゃないの?」

「そういうことになるね。まあ請けてしまった以上、任務はこなさなければならないけど」


 ウェービーな赤毛をポニーテールのように纏めた女――ミレーヌの淡々とした言葉に、副長であるベックは苦笑を浮かべて答える。

 そこにいる全員は決して民間軍事企業に所属している傭兵であって、決して正義の味方ではない。

 だからこそ彼らは金で雇われている以上、依頼を破棄することは基本的には出来ない。


「いやーしかし困った。敵対者を探るつもりが、味方が居ないことしか分からないなんて、考えもしなかった」

「なんだっていいじゃねえか。来たら殺す、それだけだろ?」

「ずっとこの国に居たいのならそれでも構わないけど、アタシはタイストとアメリカに帰りたいからそんなのゴメンよ。敵対者は確実に排除しなければならないわ」


 トレヴァーの言葉にテキトウな言葉を返すレイに、ミレーヌは夫であるタイストの腕を豊満な胸に抱き寄せながら返す。

 その声色はどこか呆れた風であり、レイの未熟さを咎めるような響きを含んでいた。

 考えない人間というのは手駒には最適だが、あらゆる状況での戦闘を求めらる傭兵としては最低だ。


「本職と副職問わず恨みを買ってしまった人間、商売とテロ屋の同業者、そう考えるだけで数え切れない人間が怪しくなってくるけど、タイストの旦那はどう思います?」

「……分からないが、近い内に大口の取引があるはずだ」


 金髪を針金のようなスパイクヘアに固めた男――タイストは、囁くようなか細い声でトレヴァーに答える。

 睨んでいるようにも見えるその開かれた碧眼は、ディスプレイに走る文字達を見つめていた。


「どうしてそう思われたんで?」

「口座の数字を見なさい、少なくない決まった金額が数回に渡って降ろされてるわ。クレジットカードの引き落としとか、そういう他の金の動きはは細かい端数が出てるのにこれだけは毎回一緒」

「5000万マナト、ドルにして約6400万ドル。1度に降ろすにはあまりにも物騒で、目立ってしょうがない金額だ」


 ミレーヌの言葉に導かれるようにタイストが囁いた数字に、トレヴァーは途方もない金額に思わず嘆息してしまう。

 命を懸けて金を稼いでいる傭兵であっても、そこまで稼げる人間は1握りだった。


「上納金か賄賂か商品の仕入れのための金か、なんにせよとても大きな金額だね。アイル隊長はどうお考えで?」

「考えられるのは、一世一代の大きな取引。関係者の襲撃は自作自演かもしれない、でも会社自体が傾いているカスパロフ氏がこんなお金を用意するのには確実な理由があってのことのはず」


 ベックのその問い掛けにアイリーンは、メガネの黒いフレームを指で押し上げながら答える。

 本業で稼げなくなったから裏家業を始めたカスパロフ、その対象が更なる利益を求めて用意した金が6400万ドル。

 レイはそのアイリーンの考えにどこか納得が出来ずにいた。


「親類縁者が誘拐されてそれの身代金ってことは?」

「そんなことあるわけないだろレジナルド、もしそうなら最初から救出を頼むだろうよ」

「……そうだよな、忘れてくれ」


 レイは考え込むあまりトレヴァーの間違って覚えた名前を訂正することなく、砂埃でザラザラとした黒い毛先をいじりながら会話を終わらせる。

 そして今日のところはオシマイだとばかりにアイリーンはディスプレイの電源を落とし、トレヴァーはレイを除いた全員分のビールを取りにキッチンへと向い、ミレーヌはタイストを連れて部屋の端に置かれたソファへと歩いていった。



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