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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Goodbye To [Nameless] Avenger
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Breed [Hollow] Blooms 1

 レイ・ブルームスには家族が居た。


 パーフェクトソルジャーと呼ばれていた優秀な軍人である父ヘンリー・ブルームスと、粒子物理工学の第1人者である由真ユマ・ブルームスという2人の家族が。

 軍人であったヘンリーが家に帰ってくることはあまりなかったが、由真はなるべくレイの傍に居ようと夕方には仕事を切り上げるようにしていた。


 幼い頃のレイは歪ながらも母の愛情を一身に受けていた。

 しかし学校に通い始める年齢になった頃、レイは両親に下された高い評価とあまりにも凡庸な自身との差に気付かされ始めていた。


 D.R.E.S.S.が配備され始め、アメリカ国防軍の切り札(ワイルドカード)としてプロパガンダに使用されていたヘンリー、そしてD.R.E.S.S.の研究に携わる事が決定した由真。

 ただ1人の少年をかき消すには十分な2人の存在に、レイは自身が2人の足枷になっている事実を認めざるを得なかった。


 誰もが言ったのだ。期待外れだと、あまりにも2人に見合わない矮小な存在だと。

 それを理解させられてしまえば、レイに出来る事など1つしかなかった。


 もう無理に構ってくれなくていい。


 そう告げてきた息子に何も言い返すことも出来なかった由真は、その息子から逃げ出すように研究に没頭し、共同研究者であるイヴァンジェリン・リュミエールの世話を焼くようになっていった。

 そして法律違反と知りながらもベビーシッターを拒否したレイは、由真が残していったピザとコーラを買うには十分な金を使って日々を過ごしていた。


 その日々は劣等感を与える存在である両親からレイを遠ざけ、その心をカロリーと甘味料に塗れさせていく。

 やがてクラスメイトが才能溢れる両親と自身との違いを詰られても、何も感じられないほどにレイの中で2人は現実味のない存在へと変えられていった。


 そんなある日、その状況を初めて由真に聞かされたヘンリーは自宅へと帰宅し、そのあまりにも凄惨な状況を目にした。


 電気がついていないリビング、ピザの箱とコーラの缶が溢れるベッドルーム、そこでピザを齧っていた息子。


 気がつけばヘンリーはそのレイを殴り飛ばし、そのまだ未成熟な体を床へと叩き落としていた。


 ヘンリーは気に入らなかったのだ。


 自身から受け継いだはずの暗い色の碧眼の腐った様が、妻から受け継いだはずの黒髪の何かから逃れるように伸ばしたその様が、ヘンリーには気に入らなかったのだ。

 成人男性であり軍人でもあるヘンリーの容赦のない殴打はまだ少年でしかないレイの脳を揺らし、レイは立ち上がることも出来ずに埃が積もった床に蹲っていた。

 しかしヘンリーはそんなレイの胸倉を掴んで無理矢理立ち上がらせ、きつけのようにレイの頬を強くはたく。

 何度繰り返そうと暗い色の碧眼の焦点が定まることはなく、ヘンリーはあきれ果てたように深いため息をついてレイの胸倉を掴んでいた手を離す。

 力強い拘束から解放されたレイの小さな体は真っ直ぐに床に打ち据えられ、レイはそのままわずかに残っていた意識を失った。


 次にレイが目を覚ました頃にはベッドルームはすっかり様子を変えており、レイは体の節々が訴える痛みを無視して体を起こす。

 コーラの缶が並べられていたはずのサイドボードには、少なくはない金と一言メッセージが書かれたカードが置かれていた。


 母さんに面倒を掛けるな。


 もう自身に期待などしていないと分かるそのメッセージに深いため息をついたレイは、カードを捨ててポケットに金をねじ込む。


 これは契約なのだ。


 誰もが羨む栄光を掴んだ2人に面倒を掛けない代わりに、レイはその家と決して少なくはない金を与えられる。

 その分かりやすい両親の意思に、レイは何かが終わったのを確かに感じていた。


 それから数ヵ月後、レイは両親と数ヶ月ぶりの対面を果たす。

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