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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Talk To [Alias] Messiah
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[Forbidden] Fruit Is Sweetest 11

『さてレイ君、もう少しだけ頑張ってください。レイ君のおかげで粒子拡散砲、確かヘイト・スキャッターって名前なんですけど、それの発射時に発生するタイムラグは把握出来ました。今度はフルチャージした場合、D.R.E.S.S.にどれだけのダメージを与えられるかが知りたいんですよ――それと出来ればその前にBLOODのデータを渡してください。君が郵送したりという他人の手に何かを預ける事をしないのは知っていますが、あの工場跡からここまでの道のりを捜索するのは少し骨が折れてしまいます』


 矢継ぎ早に紡がれるジョナサンの要望を無視しながら、ネイムレスはマシンガンを握った右手をついてゆっくりと立ち上がる。

 ジョナサンがレイにまだ死なれては困る理由があるのとは裏腹に、レイにはジョナサンを生かしておけない理由が出来てしまった。


 分かり合えるなんて、家族になれるなんて、自身を受け入れてもらえるなんて思っても居なかった。


 それでもレイにとって両親である2人の、ジョナサンにとって仲間だったはずの"2人"の死を冒涜した事をレイは許すわけには行かない。


『……私が教えたこと、忘れてしまいましたか?』


 そう言いながらジョナサンは深いため息をついて、弱々しく立ち上がるネイムレスへと歩み寄ってバトルライフルを握る右手でネイムレスの腹部の灰色の装甲へと殴りつける。


『1つ、チームを尊重すること』


 自身がヘンリーに対して良くない感情を持ちながらも、ジョナサンは自身の能力を生かしてくれたヘンリーに感謝していた。

 フルメタル・アサルトでの功績がなければ、ジョナサンはH.E.A.T.の代表取締役になどなれなかっただろう。


『2つ、任務の遂行と生還することを同時に考えること』


 続いてファスフォルスは腹部を殴られたことで下がったネイムレスの顎を、重厚な装甲で覆われた膝で蹴り上げる。

 任務を遂行することはとても大事な事ではあるが、金と時間を掛けて育て上げた傭兵達が戻ってこない事は社にとって大きな損失なのだ。


『3つ、上官の指示には絶対に従うこと』


 そして浮き上がったネイムレスのボディに、ファスフォルスの右手の拳がリヴァブローのように叩き込まれる。灰色の装甲が大きく欠け、その破片達がアスファルトの床に叩きつけられる。

 個人個人が任務の選択が出来るとはいえ、民間軍事企業はあくまで戦闘のための集団だ。

 無秩序や規律違反を許してしまえば、組織は一気に壊滅してしまうだろう。


 H.E.A.T.という安住の地を与えられ、ファスフォルスという最強のD.R.E.S.S.と更なる立場を約束されていたジョナサンだからこそ、それを許すわけには行かない。

 ファスフォルスは力を失ったようにぐったりとしているネイムレスを突き飛ばして、地面へと叩きつける。


『上司として、親代わりとして最後に1つ教えてあげましょう――君は誰にもなれません。ファッションから戦闘技術までの全てにおいて人の模倣をしている君が、私に何を認めさせるというのですか?』


 背を向けて距離を取るファスフォルスの背中をレイは怒りから震わせて睨み付けるも、自身でも理解していたその事実に何も言い返すことは出来ない。


 1人で生きると決めたにも関らず他者に嫉妬し、求められたいと願い、理解されることを求めた。

 目的を果たすためといいながら金を集めるも、浪費をやめることも出来ずにコレクションを増やしていた。

 自分の人生すら自身で決める勇気もなく、他者に与えられた生きる理由に縋って生きている。


 その全てがレイを象っているという、美談にする事も出来ないほどに低俗で幼稚なものであり、フィオナに1人前面をして偉そうな言葉を吐いたレイは、この時になって自身の滑稽さに気付かされた。


『レイ君、これが本当に最後の取引です。BLOODのデータを渡してくれるならヘイト・スキャッターで痛みも感じないように、ネイムレスごとレイ君を吹き飛ばします。渡さないなら、ってこれは言うまでもありませんね』


 やがてファスフォルスは動きを止めて、悪意(ヘイト)()撒布者(スキャッター)と名付けられた翼のような兵装を展開する。

 粒子兵器は荷電粒子を粒子加速器によって加速させ発射するという、タイムラグが大きい兵器だった。

 しかしそれを補って余りある威力であることは、60%のチャージで吹き飛ばされたエリア51音地下施設の様相が物語っていた。


 所々装甲にヒビが入り、中の人間すら無事ではないと1目で理解出来る状態まで追いやられた、満身創痍と言うに相応しいネイムレスとレイの様子を余所に、ネイムレス・メサイアの外歯の回転はかつてない速度まで達しようとしていた。

 それでもネイムレスはゆっくりと立ち上がり、マシンガンを握った右手の中指を立てる。


『……くたばれ、クソヤロウ』

『しょうがないですね、残念です――死んでください、レイ君』


 何とも思っていないと分かる軽い口調でジョナサンがそう言うなり、ファスフォルスは展開された粒子拡散砲の無数の銃口に青白い粒子の光が集束し始める。

 ネイムレスはそれに対抗するようにネイムレス・メサイアを装備した左腕を引きながら、シェルカプセルを射出するランチャーを銃身に付けたマシンガンをファスフォルスに向ける。

 その全てが最新にして最強であるファスフォルス、未だ前世紀を引きずっているようなルックスの兵器を装備したネイムレス。

 しかし自身らの勝利が圧倒的に思えてしょうがなかったジョナサンの自信は、レイの突然の言葉によって揺るがされる。


『最後に1つだけ、博士が俺にくれた”最新にして最強”の武器を見せてやるよ』


 レイはそう言いながらノイズが混じるシアングリーンの視界の端に突如現れた、ネイムレス・メサイアの新しいプログラムを目視認証(アイタッチ)で選択する。


粛清(ジャッジメント)


挿絵(By みてみん)


 マシンボイスによって告げられた、粛清を執行せよという文言。

 そのハスキーな女の声の原型を感じられるマシンボイスをレイが耳にしたその瞬間、ネイムレス・メサイアのチェーンソー型の刃に青白い粒子が集束していく。


『粒子兵器!? なぜレイ君がそんな物を!?』

『そんなことはどうでもいいだろ――ただ今夜だけは、博士の望む救世主(メサイア)になってやるよ』


 世界に2つしか存在しないはずの粒子兵器をレイが持っているという事実に驚愕し、ジョナサンは思わず声を荒げてしまう。

 由真・ブルームスがその骨子を作り上げ、イヴァンジェリン・リュミエールが顕現して見せた世界に2つしかないはずの破壊兵器。

 その1つは行方不明。

 そのもう1つを背負っているジョナサンは、ネイムレスが装備しているそのチェーンソー型の粒子兵器など知らない。

 外歯の回転はこうしている間にも加速していき、ネイムレス・メサイアが湛える粒子の光は、未だチャージの終わらないヘイト・スキャッターの光すら、飲み込もうとしているようにジョナサンは思えてしまう。


『……いいでしょう、それでも勝つのは私です。ヘンリー・ブルームスでも、レイ・ブルームスでも、ヴィリー・ザ・キッドでもない、正体不明(インヴィジブル)()撃墜王(エース)である私がただ1人の勝者でなくてはならないんです!』


 そう怒鳴り声を上げたジョナサンは、フルチャージまで溜まりきっていないヘイト・スキャッターの粒子の光を解き放った。

 青白い粒子の光はエリア51の地下施設を、そこで対峙する2人を、そしてその2人が歩んで来た過去を塗り潰すように光を広げていく。


 ――マジでだっせえよな、俺


 全てを焼き尽くさんと飛散する粒子の眩光。

 シアングリーンの視界で捉えるスローモーションに編集されたようなその光景に、目を細めながらレイは胸中で自嘲するように呟く。


 ヘンリーを再度従えるという望みを、ジョナサンはヘンリーをレイに置き代えて叶えようとした。

 理解者が欲しいという望みを、レイは家族をジョナサンに置き換えて叶えようとした。


 お互いの願望を押し付け合うだけの、親子というにはあまりにも拙い2人の関係。

 それでもジョナサンは後見の父として、レイのためにいろいろな物を与えた。

 それでもレイはそんなジョナサンの期待に応えるために、傭兵としての技術を磨き続けた。

 間違っていたのかもしれない、それでもそれが2人が求めてしまった家族の在り方だった。


 ネイムレスは中指を掛けたシェルカプセルのランチャーの引き金を引く。

 射出された透明な皮膜は包み込む対象を捕捉出来ないまま、半透明に色を変えて高速で硬化していく。

 シェルカプセルの硬化時の耐久性はナーヴスと同じ程度であり、D.R.E.S.S.級の装甲とそう変わらない強度のそれは致命的となりえるヘイト・スキャッターの粒子の光を遮断する。

 しかしそこから漏れ出した粒子の光はマシンガンと左肩部のコンテナを吹き飛ばし、あらゆる箇所の灰色の装甲を溶かしていく。


 レイは装甲越しに感じる熱量と衝撃に歯を食いしばり、胸中で溢れ出す冷たい不快感を噛み締める。

 仮初めの関係はここで終わり、2人は2度と交わらない道を行く。

 炎を吐き出す背部ブースターはネイムレスをファスフォルスの懐へと導き、甲高い(いなな)きを轟かせる刃は粛清の光を湛えていた。

 ネイムレスは名無し(ネイムレス)()救世主(メサイア)と銘打たれたチェーンソーを、ためらいをかなぐり捨てるように振り上げる。


『あばよジョナサン(とうさん)。アンタのこと、嫌いじゃなかったぜ』


 もはやどんな表情をしているかも分からない、鉄色の鎧を纏う後見の父(ジョナサン)へと義息(レイ)は集束した青白い粒子の光を叩き付けた。

Illustrated By フルさん

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