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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Talk To [Alias] Messiah
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[Forbidden] Fruit Is Sweetest 6

『よ、良かったわレイ! 生きてたのね! アタシずっと心配で――』

『サイネリアを解除しろ』


 レイはそう言いながらマシンガンの銃口をサイネリアに向けながら歩み寄る。

 当のサイネリアは主兵装であるスナイパーライフルを取られ、もはや徒手空拳で戦うしかない有様と成り果てていた。


『レイ、あのね――』


 ネイムレスはサイネリアから響いてくるアネットの声を、上空へ向けたマシンガンの引き金を引く事でかき消す。

 レイがこれから行うのは取引や質疑応答でも何でもない、ただの尋問なのだ。


『2度も言わせるなよ、サイネリアを解除しろ』


 ようやく観念したのか、しばしの沈黙の後にサイネリアは紫色の粒子の光となって霧散する。

 そして黒いミリタリーパーカー、布面積の少ないタンクトップ、デニムのホットパンツに身を包んだアネットが、紫色の粒子を左手首に集束させて現れた。


『ジョナサン・D・スミスとイヴァンジェリン・リュミエールはどこにいる?』

「聞いてレイ、アタシずっとレイの事を考えていたの。だってレイは家族で、アタシはずっとレイのことが好きだったんですもの。あいつらに抱かれたのだって、無理矢理だったの。アタシは――」

『黙れよ』


 手近に転がるルードだった物にマシンガンの弾を撃ち込むことで、レイは再度アネットを黙らせる。

 おそらくまだ自身を説得できると思っているのだろうと、簡単に理解出来るその思考がレイを苛立たせるのだ。

 苛立ちを紛らわせるように、レイは人の身に向けるには余りにも大きい銃口をアネットへ向ける。


『アンタは俺の質問にバカみたいに答えればいい――ジョナサンと博士はどこにいる?』

「……え、エリア51よ」


 その返された答えにレイは訝しげに眉をひそめる。


 グレーム・レイク空軍基地。通称、エリア51。

 戦闘機などの開発や試験をするための基地でありながら、ロズウェル事件との関係を疑われている特殊なアメリカ防衛軍の基地。


 ――軍が噛んでるってよりは、バックのパトロンが噛んでるって方がらしいな


 以前ジョナサンが軍属だったとはいえ、常に極秘のプロジェクトを進めている開発基地に居るのは明らかにおかしい。

 イヴァンジェリンをそこに置いておかなければならない理由、日本での鴻上製薬に潜入させたチェレンコフに指示を出せなくなってもジョナサンがそこに居なければならなかった理由。

 どうやらまだ頭を使わなければならないらしいと、レイは苛立たしげに深いため息をついた。


『俺は何に巻き込まれてる? 誰が俺をどうしようとしている?』


 レイはそう問い掛けるも、アネットは答えづらそうに俯いたままそれを教えようとはしない。

 そろそろ弾丸がもったいない。そう考えたレイがネイムレスの手をアネットの腕をへし折るために伸ばしたその時、アネットは体をビクリと震わせながらようやく口を開いた。


「ぷ、プロジェクト・ワールドオーダー。レイとイヴァンジェリン・リュミエールがことごとく妨害していたプロジェクト――」

『プロジェクト・ワールドオーダーって何だよ?』

「し、知らないわ、本当よ? アタシはレイがそれの邪魔をしているって言われて、撃墜命令を出されただけなのよ」


 半狂乱になる寸前で踏みとどまっているアネットの言葉に、レイは考え込んでしまう。

 アネットのような口の軽い人間に、ジョナサンのような元軍属がプロジェクト・ワールドオーダーという極秘事項とエリア51という潜伏場所を教える理由が分からないのだ。

 結果としてジョナサンは敵対しているレイに情報を与えてしまっているのだから。

 しかしレイはそう考えると同時にもう1つの考えにも辿り着いた。


 ――ジョナサンは俺に何かをさせたいってことなのか?


 そう考えたレイはネイムレスの左腕に装備した、ネイムレス・メサイアと銘打たれたチェーンソーをシアングリーンの視界で見やる。

 たった1つのピーキーな武器を奪うために呼び寄せるにしては損失が大きいが、レイを決して逃がさないという意思表明には十分な支出。

 そしてそれだけではない何かを感じながら、レイはネイムレスの左手を握りこみ拳を作った。


『そうか、ならアンタはもう用済みだ』


 突然のレイの言葉にアネットは驚愕から目を見開く。

 同情を買うために指示には従い、レイの望みは叶えた。

 アネットの知っているセオリーでは、もう危機は脱しているはずなのだ。


「何でよ!? 知っていること教えたじゃない!? アタシ達は家族だったでしょう!?」

『最初に言っただろ? "アンタら全員を殺す"ってさ。宣言した事を変える気はねえよ』


 何でもないように告げられたレイの言葉にアネットは俯いてしまう。

 自身とは違い売春で金を稼ぐということを知らない。

 親の名前を出せば優遇されるというのにプライドから絶対にそうしようとはしない。

 何より自身の思い通りに1つも動かない。

 レイがアネットを気に食わないように、アネットもレイが気に食わないのだ。


「……ちょっと使えるからって偉そうな口きいてんじゃねえよ、クソヤロウがよォッ!」


 今までの態度が嘘のような怒鳴り声を上げながら、アネットは薄いピンクのバングルを殴りつけて紫色の粒子を自身の周りに展開する。

 しかしレイはアネットのその野生の獣のような獰猛な怒りにも怯えることなく、拳を握っている左腕を引きながら口を開いた。


『残念だけど、俺には仲間も家族も居ねえんだとさ』


 そう灰色の装甲の中で口角を歪めたレイは、集束しつつある紫色の粒子の粒子の光へ合金製の拳を叩き込んだ。

 D.R.E.S.S.の装甲とは違う、人の肉の感触を微かに感じながらレイは左腕を思い切り振りぬく。

 暗闇の中で何度も地面に叩きつけられながら飛んでいく、原型が残っているかすら怪しいアネットの体と、霧散していく紫の粒子の光を眺めながらレイはネイムレスを解除する。

 シアングリーンの粒子の光はレイの左手首へと集束し、バングルへと変わっていく。


 ――後悔はしてない


 アネットが自身を利用しようとしていたこと、そしてそれがジョナサンに命令されていたことなのだとレイはとっくに気付いていた。

 アネットといつか家族になれるなんて望んだこともないが、殺しあう仲にならないこともレイは望んではいなかった。

 所詮その程度だったのだ、とレイは数々の星の中でひときわ大きな光を湛える月へと、左手を月明かりに透かすように伸ばした。

 ジョナサンはレイをエリア51へ呼び出す理由があり、イヴァンジェリンはレイにあらゆる任務をこなさせなければならなかった理由があった。


 ――ヒーローになる気はねえけど、もう後には引けねえか


 プロジェクト・ワールドオーダーがどんな物なのかは分からない。

 それに関係なかったとしても、レイがジョナサンの期待に応えなければ、フィオナ・フリーデン、エリザベータ・アレクサンドロフ、晶・鴻上の3人の身に危害が及ぶかもしれない。

 そしてイヴァンジェリン・リュミエールはこうしている今もエリア51に捕らえられ、何かに協力させられているのかもしれない。

 何かが起きてしまえばもう取り返しはつかないのだ。


「……運が良かったな」


 契約期間の残り日数を脳裏で数え、レイは左手の薬指に"偶然"ピッタリとはまったイヴァンジェリンからのプレゼントである指輪を眺めながら呟いた。

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