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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Talk To [Alias] Messiah
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Drunk It [Poison] Blood 4

「なら部長が付き合ってくださいよ。1人で買いに行くのは味気なくて」

「お断りよ。就業時間中にブルームス君と買い物に行かなきゃいけないなんて、冗談じゃないわ――言っておくけど、また同じようなスーツを着て来たら許さないわよ? スーツを選ぶ参考になる人は周りにたくさん居るのだから、ちゃんとしたスーツを買って来なさい」


 ブルームスのふざけているとしか思えない要求を晶は一言で却下する。

 晶が1番嫌いな軽薄で不真面目なタイプの人間であるブルームスと、仕事の範疇を越えた付き合いをするなど晶は考えたくもなかった。


 バカな子ほど可愛いかもしれないが、可愛さ(バカさかげん)も過ぎれば憎くなる。


 可愛いとは思えない部下達によって、それを身をもって晶は感じさせられていたのだ。


「じゃあ理佳がついて行きますよぉ。部長、理佳はお腹が痛いので早退させていただきますぅ」

「え、ちょっと待ちなさ――」

「お疲れ様でしたぁ」


 晶は慌てて静止の言葉を掛けるが、巽はそれを無視してブルームスの腕を引いて第1総務部室から出て行ってしまった。


 ――魂胆が見え見えなのよ、やり方だって他にもあるでしょうに


 金髪碧眼、筋肉質な長身、そして人形のように整った顔。なかなか見る事のないタイプの人種に巽が心を惹かれている事は晶にも理解出来ていたが、取り入ろうとするそのあまりにも稚拙な巽のやり口に晶はあきれ果ててしまう。


 ――何がいいのかしら


 晶は幼い頃より人形に愛着を抱いたりする事もないどころか、フランス人形のように整えられた顔や雰囲気が苦手だった。

 そんな晶に不自然なほどに整っているブルームスの顔に熱を上げてしまっている、巽の心情など理解出来るはずがなかった。


「部長、よろしければ」


 暗めの茶髪を後ろで1本に纏め、黒のスカートスーツを身に纏う麗子レイコ花里ハナザトは晶にそう声を掛けながら、デスクに淹れ立てのお茶を置く。

 デスクワークの他にも、外国人が半数を占める第1総務部の他部署からの電話対応をさせてしまっている花里に面倒を掛けてしまっている事実を晶は改めて理解させられてしまった。


「ありがとう、花里さん」


 もはや社会人とも言えない部下に疲れ果てた晶は、花里が淹れてくれたお茶を口元へ持っていく。

 熱過ぎず、それでいて温くもないそのお茶は、晶の口の中にまろやかな旨みとさわやかな香りを広げていく。


 ――情けない限りね


 麗子レイコ花里ハナザト。年齢は21歳。日本人。

 国内の小さくはない金融会社からの転職者で、転職理由はキャリアアップと理不尽に過酷な仕事環境からの脱却。決して問題のある同僚とそれを御し切れない上司に気を遣うためではない。


「ごめんなさいね、花里さん。こんな事をさせるために入社した訳じゃないのに」

「いえ。ちょっと大変ですけどお仕事は楽しいですし、お茶淹れるのも好きですので」


 はにかむような笑みを浮かべて花里はそう言いながら、湯呑みを載せてきたお盆を胸に抱える。

 これだけ我慢強く、気が利く花里がやめてしまった前の職場はどれだけ大変な場所だったのだろうか。

 晶はお茶を啜りながらそんな事を考えてみるも、鴻上製薬が中小企業だった頃を数年しか経験していない晶には理解できなかった。


「部長、ちょっといいですか?」

「どうしたの?」


 今まで顔色1つ変えずにディスプレイに向かっていた男の呼び掛けに、晶は湯飲みをデスクに置いて応える。

 ドレスコードにギリギリ引っ掛からない長さの黒髪の左サイドを後ろに流し、黒いセルフレームの眼鏡を掛け、ダークグレイのスーツを身に纏うその男もまた、上層部によって産業スパイの疑いを掛けられている1人であるサトシ此花コノハナだった。


「チェックするように言われていたリストの請求の1つが、領収書の金額とこの部署が請求してる金額に大きな違いがあるんですが」

「わたしの方で確認を取るわ。リストをこっちに転送してちょうだい」


 サトシ此花コノハナ。年齢は20歳。日系アメリカ人。

 此花だけは転職ではなく、南西テネシー短期大学卒業後に来日し、中途採用の結果第1総務部に配属されていた。

 しかし志望理由は日本で類を見ない急成長をした鴻上製薬で働きたいと思ったという、あまりにも稚拙で杜撰な理由だった。

 それでも此花も違う業界へ入るにはあまりにも弱い理由のブルームスと同じように採用され、第1総務部に配属された。

 8月後半が年度締めであるアメリカで短大を卒業して来たとしても、冬の中途入社というのはどう考えても怪しい。

 その真面目な仕事振りが何かしらのデータを探り出すブラフである可能性もあり、結果として晶はブルームスと此花の両名に疑惑の目を向けていた。


「転送しました。よろしくお願いします」

「ありがとう、此花君もさっきは騒がしくしてしまってごめんなさいね」

「構いませんよ。他のチェックに入るので、私の確認ミスだったら教えてください」


 そう言う此花のレンズ越しの黒い瞳の視線が自身からディスプレイへ戻されるの見ていた晶は、お盆を部屋の端に置かれているポットの横に戻した花里がデスクに戻っている事を確認して転送されてきたリストに目を通す。

 そのリストは経理部から提出されたものであり、そして第2総務部が疑わしい物を感じたために第1総務部にチェックを依頼したという、部署同士の不信感の現れのような物だった。

 そして此花の言う通りその経理部が許可を出したマーカーがついている領収書に書かれた金額と、その部署が請求している金額には大きな違いがあった。


 ――接待に遣った場所の領収書をもらい忘れた、ってところかしらね


 この不明瞭な請求を通してしまった経理部と、考えられるその理由にため息をついた晶は急いで社内メールでその部署に領収書をもらってくるよう、そして領収書が無ければ請求に応える事は出来ないというメッセージを打ったメールを送信する。領収書のない請求など通るはずがないのだから。


 ――本当に難儀な仕事ね


 自身は部下を疑い、その部下には帳簿上での不正がないか疑わせる。

 そんな可愛らしい部下達すら疑わなければならない自身の仕事に晶は眉間に皺を寄せてしまいそうになるが、部下達にかけられた疑いを晴らす事で報いる事を硬く心に決めた。

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