あなたは誰?
夫には妹がいた。
「俺がまだ小さい頃に亡くなってね」
とても仲の良い兄妹だったらしい。
「難病になっちゃって。それでも人生を恨まずに……」
私と夫が出会ったのは中学生の頃だった。
まだ何も知らない相手だったけれど私は夫が好きだった。
だけど、話すきっかけがない。
そんな時――。
『お姉さんはお兄ちゃんの事が好きなの?』
夢に女の子が現れた。
どこか夫に似ていた小さな女の子。
『任せて。私がお姉さんとお兄ちゃんを繋げてあげる』
その夢を見てからだ。
私と夫の仲が急接近したのは。
そして初めて夫の家に行った時、私は仏壇に飾られている写真を見て声を上げた。
「この子知ってる!」
驚いた夫に私は夢の事を話した。
すると夫は心底驚き、そして涙を落としながら呟いた。
「そっか。まだ俺の事を見てくれているんだ」
私と夫の関係は良好だった。
と言うより、何かあってもその時は必ず夫の妹が夢に出てくるのだ。
『また喧嘩しちゃったの?』
『大丈夫だよ。二人とも大好き同士なんだから』
割としつこいくらいに。
喧嘩の度に出てくるし、悩んでいる時も出てくるし、時には命日が近くなればアイスクリームを備えてほしいと言って出てくる。
「随分と気に入られちゃったんだな」
夫の言葉に私は笑う。
まだまだ若い頃だったけれど、家族の一員にしてもらったようでうれしかった。
だからこそ私達はまるで決まっていたことのように結婚した。
そして、子供を授かり――。
「先生! 妻は……!」
「落ち着いて聞いてくださいね……」
夫の声が聞こえる。
難産だった。
母子の命が危険だった。
私は自分の命より我が子の命を優先するよう願った。
夫は私の命を優先するように願った。
「最善を尽くします」
医師はそう言った。
どちらを優先するとも答えないまま。
朦朧とした意識の中。
あの子が現れた。
見たことのない笑顔で。
『安心して。助けてあげる』
その顔に違和感を覚える。
『私じゃなくて子供を助けてあげて』
私の言葉にその子は言った。
『安心して。安心してね』
目が覚めた時、全ては終わっていた。
「頑張ったね!」
夫は号泣だ。
我が子はどうにか産まれた。
そして、私の命もまだ続いている。
それは幸せな時間だったはずだった。
それなのに奇妙なほど穏やかでない気持ちがあった。
それが何でか分からない。
*
「あの子と同じだ」
夫とその家族はよく話していた。
生まれた子供は夫の妹にそっくりらしい。
声の出し方も、体の動かし方も、体に出来た黒子だって。
「本当に生き写しだ」
皆がそう言う。
私は何故か居心地が悪い。
それが何故か、まったく分からない。
年月が経った。
生まれた子供は歩けばあの子そっくりだと言われ、声を出せばあの子そっくりだと言われ、喋るようになればあの子そのものだと言われた。
あの子を知らない私は蚊帳の外。
いつの間にか。
それに――。
「ねえ、あなた」
私は夫に尋ねる。
「あの後、あの子は夢に出てきた?」
そう。
あの日以来、一度も出てこないのだ。
「ううん。出てこない。きっと安心したんだよ」
だよね。
そうだよね。
私の考えすぎだよね――。
「それに」
それに?
「俺、思うんだけど俺たちの子供はきっとあの子の生まれ変わりなんだよ。そう思うくらいにそっくりなんだ」
息を忘れた。
心臓が痛くなった。
私達の会話を知ってか知らずか、娘はにっこりと笑った。
夢で何度も見たあの笑顔と同じ顔で。




