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ユリエッティ・シマスーノ公爵令嬢はいかにして救国の英雄となったか  作者: にゃー
第2章 ヨルド共和国

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第48話 二、三聞きたいことが


『風睨竜』の討伐からすぐ。

 

「──さて、ユリエッティちゃんたちには二、三聞きたいことがあってね」


 諸々考える暇もなく戻ったヴァーニマの街、冒険者ギルド。小さな会議室のような空間で、ユリエッティ、ムーナ、レルボ、ダルミシアの四人が顔を突き合わせていた。ユリエッティの対面、普段は朗らかなダルミシアも今は神妙な表情をしており、その隣にふんぞり返って座るレルボの瞳には、いつも通りの敵意に加えてどこか勝ち誇ったような色が浮かんでいる。ムーナは完全に(これアタシは余計なこと言わないほうが良いだろうなぁ……)の顔。ユリエッティは一口の水で喉を湿らせてから、静かに頷いた。


「ええ、可能な限りお答えいたしますわ」


 依頼への不正な介入については、ユリエッティ自身も『風睨竜』討伐直後に自ら連絡を入れ申告していた。直接顔を合わせ、レルボも交えて話を進めるということで、ムーナとともにヴァーニマまで帰ってきたわけなのだが。ダルミシアの口にした“二、三”という部分に、どうにも嫌な予感がする。

 

「まずはまあ、『風睨竜』討伐依頼への介入について」


「ええ」 


「あたしらも共同での討伐を推奨してたから、気持ちとしちゃあまり強くは言いたくないんだけど。だけども合意を得ずに勝手に横槍入れるってのは、そりゃルール違反だねぇ」


 ギルドとしては、レルボが共闘を断った時点でその依頼は彼らだけのものになったという扱いであり。ユリエッティとムーナのしたことは、他の冒険者の権利を横から掠め取る行為になってしまう。


「……レルボさんのパーティーメンバーのうち二人が負傷していました。人命救助としての介入だった、と主張しておきますわ」


「ざけんな。六人中の二人が攻撃を受けただけだ。回復魔法持ちの魔法師も、()るに必要なアイテムも残ってた。テメェらが勝手に余計な茶々入れただけだ」


「わたくしたちが現れてから即座に撤退したのは、あのお二人が危険な状態にあると判断したからではなくて?」


「ギルドの規則に反することをされたんだ、一旦討伐を中断するのは当然だろうが」


 一応は用意していた言い訳も、これまた想定通りの反論で封じられてしまう。実際に継戦可能だったかという点において、レルボの言葉の真偽を確かめるのは難しく。だからこそ、それこそ全滅一歩手前のような状況でもなければ、“救助のための介入”という主張が完全に認められる事例は少ない。

 冒険者ギルドのマニュアルにもその旨は記載されており、いつだったかそれを読み込んだユリエッティにも、そのことはよく分かっていた。実態にかかわらずトラブルが起こりやすいからこそ、他者の依頼への介入は原則禁止とされているのだと。


「個々の実力や所持品から鑑みれば、レルボの言い分が特別苦しいというわけでもない。ギルドはそう判断してるよ」


 ギルド職員も含めて、ヴァーニマの冒険者界隈はレルボ一派の横柄な態度に辟易していた。しかし同時に、今回ルールを破ったのはユリエッティらであるというのもまた事実。ダルミシアの言葉に、ユリエッティは素直に頷くほかなかった。


「…………分かりました。この件に関しては非を認めますわ。後に正式な謝罪と、処罰のほうを」


 もとよりここまでは織り込み済み、だがまだ何かある。ダルミシアとレルボそれぞれの態度からそれを読み取り、ユリエッティは目線で次を促した。一つ浮かぶ嫌な予想が、外れることを願いながら。

 

「あいよ。んじゃもう一つ、正直あたしとしちゃ、こっちの方が大きな話なんだけどね」


 そのまま怖いほどに淡々と続けられたダルミシアの言葉は、ユリエッティとムーナが『変異粘性竜』と共に戦う様子をレルボが目撃した、というものだった。撤退後も遠方から密かに見ていたのだろうとすぐに見当がつき、そしてユリエッティは内心ため息をついた。己の迂闊さに。隣のムーナも一見して澄まし顔のままだが、四つの耳がぴくりぴくりと(やべ、バレた……)のシグナルを発している。

 

「ユリエッティちゃんからの定期報告では、対象をテイムした、なんてのは無かったと思うんだけどねぇ」


「……………………ええ、していませんわ」


「ハッ、首輪も嵌めずにモンスターと仲良しこよしってわけか? テメェら正気か?」


「モンスターを戦力として運用する際には、テイムの魔法による隷属と届け出が必要。それは勿論分かってるね?」


「ええ」


 ここまでこればもう、ユリエッティに嘘はつけなかった。完全ではないながら、口からでまかせを吐いていないかを判別する程度の魔法ならばギルド側も用意があるはずで。そして今ダルミシアが口にしているのはギルドのルールではなく、国の“法”の話。だからこそ彼女はゆっくりと慎重に、言葉を紡いでいる。ユリエッティの意図を探るように。


「……『変異粘性竜』は類稀な、他のモンスターとは一線を画す知性を有している。先日のアレも、『風睨竜』と番うのを嫌がって自ら協力を申し出たのですわ」


「モンスターが自分の意思で協力してくれたんですわ〜ってか?」


「ええ」


「馬鹿じゃねぇのか」

  

 うっかりとすれば“ネビリュラさん”だの“彼女”だのと呼んでしまいそうになるのをこらえながらユリエッティは主張するも、レルボが即座にそれを嘲笑する。モンスターとは討伐すべき存在。それは大陸全土での共通認識であり、ユリエッティ自身もその考えのもとこれまでいくつもの依頼を達成してきた。だからレルボの反応こそが正常なのだと、頭では理解している。


「……大人しいっていうんなら、なおさらテイムのチャンスじゃないか。無害なペットや家畜じゃないんだから、いつか牙を剥く前にきちんと隷属させないと」


 ダルミシアの瞳にも少しずつ、理解できないものを見るような色が混じり始めていた。続く言葉は、どこか諭すような物言いに。


「ユリエッティちゃん、ムーナちゃん。あたしは何も、あんたたちを突き出したいってわけじゃない。別に今からだって、テイムの魔法を習得して『変異粘性竜』を管理下に置けば良い。小型とはいえドラゴンだ、テイムすればますます名は売れるはずさ」


「ハァッ!?」


 声を荒らげたのはレルボで、それを手で制したのはダルミシア。けれどもユリエッティは、そんなダルミシアに対して決定的な一言を投げかけてしまう。


「それは……したくありませんわ」


 ユリエッティは、ああ、と嘆息する声を聞いた。他ならぬ自分の脳内で。このやりとりには覚えがある。まだシマスーノ公爵令嬢であったころ、父がこちらを慮って提示した妥協点を、己のエゴ一つで蹴飛ばした。そうして追放処分が決まった、いや、自ら招いた。

 過去を教訓にもできないまま同じことをするのを、ユリエッティは全く自制できなかった。一瞬だけ横目に見たムーナはやはり静かで、そして耳の動きも落ち着いている。


「……理由は?」


「テイムは完全隷属の魔法。彼女の意思を消失させてしまう恐れがある。わたくしにはできませんわ」


「知能と意思は別物だ。モンスターに意思なんてもんはないよ」


「ええ、知能と意思は別物。そして彼女にはその両方が備わっていますわ」


 以って知性と、自らがそう感じているものを奪うなどできようはずもない。

 断言するユリエッティを、それに異を唱えることもないムーナを、ダルミシアはしばらく見つめ……一度天を仰ぎ。


「……若くして頭角を現す冒険者の中には、残念ながら驕っちまう子もいる。規則よりも法よりも、自分のほうが正しいってね。あんたらはそういう口じゃないと思ってたけど……本当に、残念だよ」


 そう告げたときにはもう、その瞳は冷たいものになっていた。


「『変異粘性竜』の討伐依頼は別の者に回す……といっても、あんたらで駄目ならしばらく停滞しちまうだろうけどね。テイム云々は……まあ流石に、レルボの証言一つで国が出張ってくるのは無いだろうね」


 順番に、オレらがと声を上げかけそしてムっと顔をしかめ、最後には納得いかないとでも言いたげな表情に。そんなレルボ百面相を尻目にダルミシアは淡々と話をまとめていく。沙汰を下されるユリエッティらも同じく静かに、粛々と。


「『変異粘性竜』討伐依頼の不履行及び『風睨竜』討伐依頼への合意の無い介入、以上二点に関してユリエッティ、ムーナ両名にギルドから処罰を下す。詳細は追って伝えるけど、最悪の場合はランクの仮降格も有り得ると思っておきな」


「……ええ、ご迷惑をおかけしますわ」


「ごめん」


 かくして二人が初めて請け負ったドラゴン退治の依頼は、正式に失敗として処理された。


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― 新着の感想 ―
[良い点] どこまでも真っ直ぐ。言い訳や嘘をしない愚直さ。 貴族としては生きにくかっただろうな。 そして当然のようにムーナも道連れなのは恋人への甘えなんでしょうねw [気になる点] ドラゴンの収益。…
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