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【完結】泥船貴族のご令嬢、幼い弟を息子と偽装し、隣国でしぶとく生き残る!  作者: 江本マシメサ
第七章 事件のすべては氷解する

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事件のあとで

 マントイフェル卿の傷口を縫うために使った蜘蛛細工は、大量の魔力を消費していたらしい。

 急激に魔力を失ったため、倒れてしまったようだ。

 その後、私は三日も眠っていたようで、たくさんの人達に心配をかけてしまった。


 中でも、フロレンシは泣いていたのではないか。

 なんて思っていたが、毅然とした態度で、動揺する侯爵夫人をなだめていたらしい。


「本当に驚いたわ。レンったら、〝お母さんは大丈夫です。命に関わるような無理はされないでしょうから〟って言うんだもの」


 三日間、誰が何を言っても傍を離れなかったようで、目覚めたのを確認した彼は、現在私の隣でぐっすり眠っていた。

 大丈夫だと言っていたのは、自分に言い聞かせるような言葉だったのだろう。今は安心しきったように寝ていた。


「リオンも見舞いに来たかったみたいだけれど、隊医の先生が止めたらしいわ」


 マントイフェル卿からは、私の容態を心配するような手紙が届いていたらしい。

 

「あなたが眠っている間に、さまざまなことが起きたわ」


 まず、イルマの事件について調べ直すことになったという。

 ゴッドローブ殿下から聞き出した供述調書をもとに、侯爵家にも立ち入り調査が行われたようだ。


 イルマは毒殺されたあと、湖に重りを着けた状態で遺棄された。

 湖の底に沈ませておくつもりだったようだが、現場を去ったあと、重りが外れてしまったらしい。そのため、翌日に遺体が発見されることとなった。


「ララ、あなたがイルマの死に疑問を抱かなかったら、私はあの子の無念に気付いてあげられなかったわ」


 震えていた侯爵夫人の手を握った瞬間、一筋の涙を零す。


「これからは、私の心の中にいるイルマと共に生きていくわ」

「はい」


 侯爵夫人の瞳は悲しみに染まっていた。けれども以前のように、希望も何もないようなほの暗いものではない。彼女の分まで生きようと、未来を見据える希望が滲んでいるように思えた。

 もう、侯爵夫人は大丈夫なのだろう。


 私はこれからどうしようか。

 脅威だった叔父は拘束され、ヴルカーノに引き渡されたらしい。

 国家間の犯罪は重罪だ。おそらく、二度と牢屋から出てこられないだろう。

 叔母ロミーナや従妹のソニアも修道院に入ったようだ。

 そのため、ヴルカーノに戻っても、彼らに脅される心配はないというわけだ。


 もうビネンメーアで名前や身分を偽る必要はない。

 けれども、私とフロレンシに優しくしてくれた人達との別れを考えると、胸が引き裂かれるような想いとなる。


 考えるのを止めよう。今はしっかり休んで元気にならなければならない。

 そう、自分自身に言い聞かせたのだった。


 ◇◇◇


 私が行った身分と年齢を偽装し、ビネンメーアへ入国した件についてはしっかり取り締まられた。

 ただ、叔父に命を狙われていた状況から情状酌量の余地があると判断され、罰金の請求のみとなった。

 いったいどのような大金を請求されるのか、とドキドキしていたが、一ヶ月分の給金ほどだった。

 支払いを終えたあとは、ララ・ドーサの名前と別れることとなる。

 フロレンシも同様に、元の名前に戻ったのだった。

 侯爵夫人にすべてを打ち明けると、「早く言ってほしかったわ」と苦言を呈される。

 事情を把握していたレイシェルも一緒に謝ってくれたからか、そこまで怒られなかった。


 フロレンシはレンという名前との別れを惜しんでいたようだが、これからは愛称として呼ぼうかと提案したら、嬉しそうに頷いてくれた。

 

 さまざまな問題が解決したあと、私は久しぶりにマントイフェル卿と会うことになる。

 ゴッドローブ殿下が拘束された日以来の再会なので、妙に緊張していた。


 ここ数日、悩んでいたのだが、結局、ヴルカーノに帰ることに決めた。

 もう叔父一家は私達を害せないだろうし、フロレンシも生まれ育った屋敷で暮らすほうがいいだろうから。

 マントイフェル卿への恋心は、いい思い出として胸に秘めておこう。

 未練なんて残さずに、スッキリ別れる予定であった。


 コテージに招待したのだが、途中でフロレンシは「侯爵邸で勉強してきます!」と言って、家庭教師と共に出かけてしまう。

 皆でのんびりお茶を飲む予定だったのだが……。

 ふたりきりで会うことは想定していなかったので、余計にドキドキしてしまった。


 約束の時間になると、マントイフェル卿がやってくる。


「やあ、ララ」

「リオン様……」


 もう体は大丈夫か、と問いかける前に、彼はこちらに向かって駆けてくる。

 そのままの勢いで、抱きついてきたのだ。


「ララ、ごめん! それからありがとう!」

「な、なんのお礼ですか?」

「いろいろあるけれど、一番は僕が負傷した日の晩、好きだって言ってくれたことかな」

「あ――!」


 今になって思い出す。

 あの日の晩、マントイフェル卿の意識がないからと、思いの丈を口にしてしまったのだ。

 私の告白は、ガッちゃんがマントイフェル卿へ繋げた魔法の糸を通して、本人にしっかり伝わっていたようだ。

 まさか、意識があったなんて……。


「あのとき、翌日の作戦を実行するか悩んでいたんだ。隊医の先生が、このまま安静にしていなかったら死ぬなんて言うものだから」


 けれども私の告白を聞き、作戦の実行を決意したと言う。


「早く問題を解決して、ララと幸せになりたかったんだ」


 その言葉を聞いた途端、眦から涙が溢れてしまう。

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