表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】泥船貴族のご令嬢、幼い弟を息子と偽装し、隣国でしぶとく生き残る!  作者: 江本マシメサ
第七章 事件のすべては氷解する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/92

首筋に迫る刃

 通常、悪意というものは目に見えないものだ。

 けれども今、私の目の前に悪意の化身とも言えるゴッドローブ殿下が、不気味な笑みを浮かべていた。


「ドーサ夫人はファルケンハイ侯爵夫人にも取り入り、気に入られました。それだけでなく、リオンのことも誘惑し、思い通りにしようとしていたのです」


 浮かれた様子を見せるマントイフェル卿を心配し、ゴッドローブ殿下は私について調査を命じたと言う。


「侯爵邸に私の息がかかったメイドを派遣しました。彼女はドーサ夫人に酷い扱いを受けながらも、真実を持ち帰ったのです」


 まさか、コテージに出入りしていた心優しいメイドがゴッドローブ殿下の手下だったなんて。まったく気付いていなかった。


「彼女はドーサ夫人が王妃殿下の首飾りを身に着け、高笑いしていたと報告してくれたのです。信じがたいような情報が次々と明らかになるので、本当に驚きました。ドーサ夫人はまさしく、〝ヴルカーノの悪女〟だったのです」


 止めだとばかりに、ゴッドローブ殿下はありもしない私の悪事を暴露する。


「ドーサ夫人はヴルカーノにいる親族の男と共謀し、ビネンメーアの貴族達からだまし取った品々を転売していたようです。王妃殿下の首飾りも、もしかしたらすでに売り払ったあとかもしれません」


 親族の男というのは、叔父で間違いないのだろう。ここで、ゴッドローブ殿下は叔父と繋がっていたのだ、という疑惑が確信に繋がっていく。

 すべての疑惑が、一点に集中してきた。

 時間が巻き戻る前の不幸の根源は、ゴッドローブ殿下だったのだ。


 ゴッドローブ殿下はまるで舞台俳優のように、スラスラと流暢に述べていた。

 そんな彼を、怒りと呆れが混ざったような感情で私は睨みつける。


「彼女は王妃殿下の首飾りを手にするだけでは飽き足らず、事件について調査する私の命をも狙ってきたのです。つまり、昨日、私を暗殺しようと襲撃しに来た者は、彼女の差し金だったのです! ドーサ夫人こそが、事件の真犯人でした!!」


 ゴッドローブ殿下は従えていた騎士を振り返り、静かに命令する。


「我が騎士達、ドーサ夫人を捕らえてください」


 ゴッドローブ殿下の近衛騎士が私の元へ駆け寄ろうとした瞬間、よく通る声が響き渡った。


「――エンゲルベルト殿下及び、マリオン王女のおなりです!!」


 我が耳を疑うような言葉が聞こえてきた。

 視線を扉のほうへ向けると、エンゲルベルト殿下にエスコートされた、スノウホワイトのドレスに身を包んだ絶世の美女が登場する。


 その姿を目にした瞬間、私は再度その場にぺたんと座り込んでしまった。

 マリオン王女はどこからどう見ても、マントイフェル卿である。

 彼は生きていたのだ。


 もっとも驚いているのは、ゴッドローブ殿下だろう。

 目が零れそうなほど、見開いていた。


「なっ――エンゲルベルト、いったいどうして!?」

「マリオンがどうしても、母上にお礼を言いたいようで、連れてきたのです」

「お、お礼? いったい何の……?」


 マリオン王女は胸元に輝く首飾りにそっと触れた。


「なっ、それは!?」

「誕生日に母上から首飾りを貰ったようで」


 盗まれたはずの王妃の首飾りを、マリオン王女が着けていたのだ。


「母上はここにはいないのですか?」

「王妃殿下は危篤状態のファルケンハイ侯爵夫人のもとにいるはず――」

「侯爵夫人、そうなのですか?」


 エンゲルベルト殿下が振り返った先にいたのは、侯爵夫人であった。


「どうだったでしょう? 年のせいか、最近忘れっぽくて」


 ここで気付く。この茶番劇を行うために、侯爵夫人は私よりも遅れてやってきたのだろう。


 マリオン王女は扇を広げ、エンゲルベルト殿下にボソボソと耳打ちしている。

 口にしたことをエンゲルベルト殿下が本人に代わって、ゴッドローブ殿下へ問いかけた。

 

「叔父上、マリオンが皆を集めて、いったいどのような楽しい話をしていたのか気になるそうです。教えていただけますか?」

「いえ、それは、王妃の首飾りについて――」


 続けて、マリオン王女はエンゲルベルト殿下に耳打ちする。


「ええ、ええ。とても気に入っているそうですよ。ずっと大切にしまっていたそうですが、皆に見せたくなってしまい、今日、お披露目にやってきたわけです」


 再度、ザワザワと騒がしくなる。近衛騎士達が静かにするように言っても、聞く耳など持っていないようだ。

 それも無理はないだろう。

 盗まれたかと思っていた首飾りを持っていたのが、同じ王族であるマリオン王女だったから。

 ゴッドローブ殿下もここで引くわけにはいかなかったのだろう。

 自分の意見を押し通すようだ。


「エンゲルベルト、マリオンがしている首飾りは、王妃殿下の手元から盗まれた品だと、騒ぎになっていました。それをご存じではなかったのですか?」


 ゴッドローブ殿下の問いかけに答えたのは、思いがけない人物であった。


「どうやらそれは、私の勘違いだったようだ」


 凜とした、よく通る声の持ち主が登場する。

 それは公妾を引き連れた王妃だった。


「ゴッドローブよ、あの首飾りは私が酔っているときに、マリオン王女に贈った品だった。間違いない」

「なっ――!?」

「酔いが醒めたのと同時に、彼女へあげた記憶を無くしていたようだ」


 ゴッドローブ殿下は瞠目どうもくし、言葉を失ったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ