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【完結】泥船貴族のご令嬢、幼い弟を息子と偽装し、隣国でしぶとく生き残る!  作者: 江本マシメサ
第七章 事件のすべては氷解する

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星に祈りと愛を

「これは――!」


 なんでも騎士隊が調査した内容を報告し、犯人について説明する、というものだった。

 いったい何を考えているというのか。考えがまったく読めない。

 ゴッドローブ殿下からのカードは侯爵夫人にも届いているらしい。

 たくさんの人々を集めるようだ。


「開催は明日の昼間、王宮にて……」


 侯爵夫人はまだ起きているというので、話を聞きに行こう。

 フロレンシのことはガッちゃんに任せ、侯爵邸に向かう。


「ああ、ララ、よかった。これからあなたのところに話をしに行こうと思っていたの」


 アニーが作ってくれた蜂蜜入りのホットミルクを囲みながら、ゴッドローブ殿下から届いたカードについて話す。


「呆れたの一言よ。王妃殿下の首飾りを盗んだ犯人について話したいだなんて、よくも言えたものだわ」

「いったいどこのどなたを犯人として、糾弾するつもりなのでしょうか?」

「そんなの、彼はどうとでもするわよ」


 今日の襲撃事件も利用するかもしれない、と侯爵夫人は予想していたらしい。


「そもそも、本当に起きた事件かも怪しいところだわ」

「自作自演の可能性がある、というわけですか?」


 侯爵夫人は神妙な表情で頷く。


「最初から、襲撃事件の狙いはリオンで、襲撃犯に首飾りの事件の罪を押しつける――ゴッドローブ殿下が抱える問題が一度に解決する、都合がいい事件だと思わない?」

「言われてみれば、そうですね」


 マントイフェル卿はそうとは知らずに、ゴッドローブ殿下を守ってしまった、というわけだったのか。


「気の毒な話だわ」

「本当に……。わたくしが連絡役を担わなければ、マントイフェル卿はケガをしていなかったかもしれません」

「そんなことないわ。早打ちの馬でも、護衛任務中だったリオンに知らせが届かなかった可能性はあったのよ」


 侯爵夫人に届いた手紙にはマントイフェル卿の容態を知らせる、診断書も添えられていたらしい。


「リオンについては、依然として予断を許さないような状況みたい。もしも危険な状態になったら、知らせてくれるそうよ」

「そう、でしたか」


 心配で胸が張り裂けそうだが、ひとまず私にできることはないようだ。


「ララ、明日の報告会には参加しましょう。ゴッドローブ殿下が犯人を誰に仕立て上げるのか、楽しみだわ」

「あの……私は参加しても大丈夫なのでしょうか?」

「どうして?」

「なんだか嫌な予感がしてならないのです」


 首飾りの事件については、マントイフェル卿を中心に解決しようという話だった。

 ゴッドローブ殿下に先手を打たれてしまっては、作戦が台無しになるのではないのか。


「ララ、心配しないで。あなたが思うような悪いようには絶対にならないから」


 侯爵夫人は私の手を優しく握り、大丈夫だからと噛んで含めるように言った。

 今は侯爵夫人を信じて、明日の報告会を迎えるしかない。


 その後、コテージに戻る。

 家の中に入る前に、ふと、夜空を見上げた。

 満天の星が広がっている。

 

「あ――!」


 このような美しい星々を目にするのは初めてであった。

 ここは王都から離れているので、空気が澄んでいて、きれいに見えるのだろう。


 マントイフェル卿はこの夜空を見たことがあるのだろうか。

 無性に、彼と話をしたくなる。

 ガッちゃんが繋いでくれた糸を手に取り、そっと囁く。


「リオン様、聞こえますか?」


 もうずっと意識が戻っていない、という話を聞いていた。

 分かっているのに、声をかけてしまった。


 リオン・フォン・マントイフェルは不思議な男性ひとだった。

 出会ったばかりの頃は態度に慎重さがなく、誠意が感じられない様子ばかり見せていた。

 けれどもそれは演じていたもので、本当の彼の姿は別にあった。

 マントイフェル卿はマリオン王女として育てられただけでなく、母親を亡くしてからは天涯孤独の身となり、何者かに命を狙われていた。

 余裕なんてないはずなのに、彼は私やフロレンシにとても優しく接してくれた。

 初めこそ警戒していたものの、しだいに心が惹かれるようになっていたのだ。

 フロレンシのために生きると言っていた私が、他人を好きになるなんて今でも信じられない。

 固い決意と共にビネンメーアにやってきたはずだったのに、恋心だけは思い通りにならないようだ。


 銀色の糸にそっと指先を這わせ、誰にも聞こえないような声で囁く。


「リオン様、お慕いしております」


 今、この瞬間だけは素直になってもいいだろう。

 もしも、彼と二度と会えないようになったときに後悔しないよう、気持ちを伝えておいた。


 もちろん、答えなんて返ってこない。

 それでもいい。これは一方的な愛だろうから。


 ふと、花壇がぼんやり光っているのに気付いた。

 近付いてみると、クリスタル・スノードロップが満開だったことに気付く。


「きれい」


 水晶のような花が月明かりを浴びて、開花したようだ。

 ぼんやり光を帯び、美しく咲き誇っていた。


 ここでスノードロップの花言葉を思い出す。


「慰めと、希望――」


 まるで今の私にマントイフェル卿がかけてくれたような、優しい言葉だった。

 悲しんでいる場合ではないだろう。しっかり前を見て、事件と対峙しなければならない。


 眠れないだろうが、横になって体力を回復しよう。

 明日のために備えなければ。 

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