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【完結】泥船貴族のご令嬢、幼い弟を息子と偽装し、隣国でしぶとく生き残る!  作者: 江本マシメサ
第七章 事件のすべては氷解する

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最大の危機

 王妃はここに侯爵夫人を呼び出そうとした。

 しかしながら王宮ではいつどの場面でゴッドローブ殿下が現れるかわからない。

 公妾と同じように、侯爵家に身を寄せたほうがいいだろう。

 ただ、王妃の外出が許されるわけがなかった。

 どうしようか頭を悩ませているところに、王妃は提案する。


「侯爵夫人が危篤で、私を呼び出していることにしようか」


 実行するならば、早いほうがいい。

 王妃は部屋を飛び出し、国王のもとへ向かった。


「陛下! 陛下! 少し話をしたい」


 公務中の国王はいったい何が起きたのか、とキョトンとした表情でいた。

 ちょうどゴッドローブ殿下が部屋にいたので、心臓がバクバクと脈打つ。

 彼を意識しないよう、あくまでも私の動揺は侯爵夫人が危篤だから、というていで演技していた。


「侯爵夫人が危篤で、私と話したがっているらしい」

「それは大変だ! 今すぐ行ってあげなさい!」


 王妃はこくりと頷き、私を励ますように肩を抱きながら執務室を去る。

 そのまま急ぎ足で王宮の外に出て、馬車に飛び乗った。


 突然帰宅した私と王妃の姿を見た侯爵夫人は、さすがに驚いていた。


「な、何事なの!?」

「ファルケンハイ侯爵夫人、申し訳ないが、危篤患者になってくれないか?」


 とうとう理解できないことを言いだしたので、侯爵夫人は助けを求めるように私を見た。


「相談したいことがございます。それでその、ひとまず寝室に向かいましょうか」


 王妃は私に語って聞かせたことを、侯爵夫人にも伝えた。

 イルマの死の謎にも触れたことから、強い憤りを表情から感じる。


「そう。イルマを殺したのは〝彼〟だったの」


 侯爵夫人はハッキリ指摘する。


「王妃殿下、あなたの愛人は、ゴッドローブ殿下で間違いないでしょうか?」

「そ、それは……」

「白状しないと、王妃殿下の話は信じられません」


 観念したのか、王妃は愛人がゴッドローブ殿下であることを告げた。


「あの男、野心なんてぜんぜんないっていう顔をしながら、裏で暗躍していたのね!」


 王妃はゴッドローブ殿下の思うがままに、まんまと踊らされていたのだろう。

 気の毒としか言いようがない。


「私はこれからどうすればいいのか」

「ひとまず、危篤である私を看病すると決意していただいて、ここに身を寄せていればいいでしょう。カリーナ妃のように、守って差し上げます」

「カリーナ妃? か、彼女もここにいるのか!?」

「あら、ご存じなかったのですか?」


 レオナルド殿下共々保護していると侯爵夫人が言うと、王妃は心底ホッとしたのか、深く長い安堵のため息を吐いていた。


「てっきりカリーナ妃とレオナルド殿下は、あの男に殺されたものだとばかり思っていた」

「私達が保護しなければ、きっと殺されていたでしょうね」


 ひとまず、侯爵夫人は危篤となり、王妃を保護することにしたらしい。


「しかし、何日もここに滞在していたら、あの男は怪しむかもしれない」

「心配ありませんわ。その前に、リオンがすべてに片を付けるでしょうから」

「マントイフェル卿が?」

「ええ」


 盗まれた王妃の首飾りのために立てた作戦だが、今回の事件と絡めて解決に導くことができるようだ。


「エンゲルベルト殿下には悪いけれど、隠された真実は暴かないといけませんから」


 王妃はぎゅっと目を閉じ、拳を強く握る。

 エンゲルベルト殿下が国王として即位するのを、心待ちにしていただろう。

 その夢を手放さなければならないのだ。


「あの男のせいで、多くの人達が不幸になった。その償いをするときが訪れたのだろう」


 王妃はまっすぐ侯爵夫人を見つめ、騒動の解決を願った。


 ◇◇◇


 王妃は精神的に弱りきっているようで、しばらく公妾と会わせるつもりはないらしい。

 仲違いしていたふたりが同じ屋敷にいるなんて、不思議な気分である。


 ひとまず、マントイフェル卿へは鳥翰魔法を使い、ゴッドローブ殿下に警戒するよう伝えておいた。

 マントイフェル卿に届かなかったことを考え、直接伝えたわけではない。

 遠回しに、敵は守るべき前方にあり、とだけ書いた。聡いマントイフェル卿であれば、意味を理解してくれるだろう。


 半日の間に、さまざまなことがあった。これ以上何もないだろうと思っていたところに、探偵が訪問する。

 なんでも以前依頼した、毒薬の出所や購入者の名簿を入手したらしい。

 毒薬を販売していたのは、王室御用達の薬問屋のひとつだった。

 王妃派の一員で、公妾の実家とライバル関係にある一族だったらしい。

 毒薬の取引と引き換えに、王室御用達に選ばれたようだ。


 毒薬を購入していたビネンメーアの貴族の名に見覚えはない。

 けれどもすべて、中立派の人間であり、ゴッドローブ殿下の配下だったことが明らかになったようだ。

 どうやら近しい者達に毒を購入させていたのだろう。

 情報はそれだけではなかった。

 ゴッドローブ殿下は配下の手を通じて、ヴルカーノにも毒薬を販売していたらしい。

 顧客の中に叔父の名前を発見し、言葉を失った。


 父が薬だと思って服用していたのは、ビネンメーアから取り寄せた毒だったのだ。

 叔父はゴッドローブ殿下と繋がっていたらしい。

 時間が巻き戻る前、王妃の首飾りを渡したのもゴッドローブ殿下だったのだろう。


 ならば、今回の事件で王妃の首飾りを盗んだのも、ゴッドローブ殿下で間違いない。

 王妃の愛人である彼ならば、寝室にある金庫から首飾りを引き抜くことも可能なはずだ。


 おまけとして、探偵はある情報も提供してくれた。

 公妾の傍にいた侍女だが、彼女はゴッドローブ殿下の愛人のひとりだったらしい。

 なんでも仕えるふりをして、公妾を意のままに操っていたようだ。 

 ゴッドローブ殿下の息がかかった侍女がいるのならば、公妾の金庫に王妃の首飾りと毒を仕込むことなど容易いのだろう。


 私の周囲に渦巻く謎が、点と点で繋がっていく。

 ゴッドローブ殿下こそ、諸悪の根源だったわけだ。


 この問題が解決したら、マントイフェル卿にすべてを打ち明けてみようか。

 私はドーサ夫人ではなくメンドーサ公爵家のグラシエラといい、レンの本当の名前はフロレンシで、私の息子ではなく弟である。叔父に財産を狙われ、危険を察知したので、弟を自分の子として偽り、ビネンメーアにやってきたのだ。

 なんて説明したら、マントイフェル卿はどんな反応を示すのか。

 もしも笑って許してくれたら、今度は自分の感情に素直になりたい。

 心の中で認めるだけでなく、マントイフェル卿にも気持ちを示せるようになりたいのだ。


 その前に、事件を解決しなければならないのだが……。 

 物思いに耽る私のもとに、慌てた様子でローザがやってきた。

 

「ドーサ夫人、大変です! マントイフェル卿が、ゴッドローブ殿下を庇って、大怪我を負ったそうです!」

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