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【完結】泥船貴族のご令嬢、幼い弟を息子と偽装し、隣国でしぶとく生き残る!  作者: 江本マシメサ
第五章 もつれた糸

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王妃の招待

 王妃の招待を受けてしまった。

 侯爵夫人は「あら、人気者ね」なんて返すばかりだった。

 楽しんでくるようにと言われたものの、そんな余裕があるとはとても思えない。

 公妾にお土産を持っていったのと同じように、王妃にも何か用意しなければならなかった。

 当然、公妾と同じレースのハンカチなど許されないだろう。

 ガッちゃんと共に考えた結果、レースの肩掛けショールを作ることに決めた。

 これまで小さな蜘蛛細工しかしてなかったので、肩掛けのような大きな物を作るのは久しぶりである。


「ガッちゃん、頑張ろうね」

『ニャア!』


 模様はビネンメーアの国旗にも入っている、百合の花フルール・ド・リスをメインのモチーフにして編んでみた。

 繊細な模様なので、いつもより時間がかかってしまう。

 奮闘すること三時間ほどで、肩掛けを完成させた。


「ガッちゃん、最高傑作ができましたわ!」

『ニャア!』


 思っていた以上に素敵な品ができあがったので、ガッちゃんと一緒に小躍りしてしまう。


「これを手で編もうと思ったら、半年以上はかかるでしょう」

『ニャ』


 ガッちゃんが協力してくれたおかげで、すばらしい品を贈ることができそうだ。

 肩掛けはベルベットが内張りされた木箱に入れ、包装紙に包み、リボンをかける。

 きっと王妃も喜んでくれるだろう。


 そんなこんなで迎えた当日――マントイフェル卿のお迎えを受け、王宮を目指した。

 

「やあ、ララ。すてきな装いだね。もちろん、それを纏う君が一番美しいんだけれど」

「ありがとうございます」


 新しく仕立てた真鴨色ティールブルーのドレスは、王妃との面会だからと侯爵夫人が新しく用意してくれた一着であった。


「侯爵夫人ってば、ララのことを孫娘のようにかわいがっているよね」


 孫娘なんて思うのはおこがましい。

 けれども侯爵夫人は本当の家族のように扱ってくれる。私達姉弟にとって、どれだけありがたいか……。


「さあ、行こうか」

「はい」


 まずは王宮に行って王妃と出会い、そのあとマントイフェル卿と落ち合って夜まで時間を過ごす。

 イルマが言っていた深夜になったら、問題の庭へ潜入し、様子を窺いに行く、という作戦だ。


 侯爵夫人には、作戦をそのまま伝え、帰りが遅くなることを伝えている。

 フロレンシにも上手く話してくれるようで、心配するなと言って送り出してくれた。


「ララと深夜まで何をしようか、ドキドキして夜しか眠れなかったんだ」


 きちんと睡眠は摂っているではないか、という言葉が出てきそうになったものの、喉から出る寸前で呑み込む。

 これから先、彼と数時間過ごすことになるのだ。いちいち軽口の相手をしていたら、疲れてしまうだろう。


 マントイフェル卿の世間話を聞いているうちに、目的の場所に到着した。

 エントランスには王妃の侍女が大勢待ち構えていて、丁重な様子で案内される。


 マントイフェル卿は私の肩を軽く叩いたあと、どこかへいなくなった。

 王妃の前で粗相をしないか不安だったが、逃げ出すわけにはいかない。

 ガッちゃんだって、髪飾りに扮した状態で付き添ってくれている。私はひとりではないのだ。


 侍女に導かれ、ようやく王妃とご対面となる。

 王妃の部屋は豪奢な水晶のシャンデリアが輝く、品のよい家具が絶妙に配置された瀟洒しょうしゃな一室であった。


「ドーサ夫人、久しいな」

「王妃殿下、お目にかかれて光栄ですわ」


 膝を落とし、深々と頭を下げる。


「面を上げて、ゆっくりするがよい」

「はい」


 まずはガッちゃんと一緒に作った肩掛けを王妃に献上する。


「王妃殿下、こちらは私が作りました品でございます。お気に召していただけたら嬉しいのですが」


 侍女が受け取り、王妃のもとへ運んでくれる。

リボンを解いて開封し、蓋を開くと、王妃は目を見張りながら肩掛けを手に取った。


「これはすばらしい品だ。模様も、国を象徴とする百合が美しい。ここ最近、少し冷え込む時間があるので、ありがたく使わせていただこう」


 どうやらお気に召していただけたようで、ホッと胸をなで下ろす。


「噂で聞いたのだが、ドーサ夫人は妖精の力を借り、レースを編むことができるらしいな」

「はい、そのとおりでございます」

「もしやこの品も、ドーサ夫人が作った品なのか?」

「ええ、わたくしと契約している妖精と共に、王妃殿下を思いながら作りました」

「なるほど。すばらしい腕前だ」


 王妃は肩掛けを羽織り、どうだと侍女に聞く。


「とてもお似合いです」

「本当に」


 王妃は満足したように頷く。なんとか贈り物作戦は成功したようだ。


「突然呼び出す形になったが、このような品を贈ってくれて、心から嬉しく思う」

「わたくしも、お声をかけていただき、光栄でしたわ」


 王妃は何かお返しをしたい、と言って侍女に何やら耳打ちしていた。

 気持ちだけ受け取りたいのだが、強く遠慮するのも失礼だろう。

 いったい何を贈ってくれるのか。

 ハラハラしながら待っていたら、想定外の品がテーブルに置かれた。


「こ、こちらは――!?」


 時間が巻き戻る前に、私が盗んだと罪をなすりつけられ、処刑の原因となった首飾りであった。

 

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