規則
多門は壁に背を持たれながら目の前にある小さな池を眺めていた。だれがいつどういう了見でここに作った物かは分からないが池を囲むい白い石は汚れで真っ黒に変わっており、石と石の間に生えている狗尾草がかすかな風に揺れている。
世の中あほばっかりだ。何か作ったらそれを維持するのに、もっと金と労力がかかるという事を忘れているやつが多すぎる。
「私に依頼とは?」
隣に誰かが同じように壁を背に立つ気配がする。
「ああ、関門から城砦まで荷を運んでほしい」
「あなたは規則を守らせる側の人だと思っていましたが?」
『どうして俺の周りにはこういう嫌味な奴しかいないんだ?』
世の中のあほどもは、規則を作るというのがどれだけ大変なのかも分かっているのか? 他の山ほどある規則と整合性を取らなくちゃいけないんだぞ。それに一度決めたらそうは簡単に変えられない。『規則が悪い』なんて寝ぼけたことを言う前に一度自分で作ってみろ!
「もちろんだよ。より大きな規則を守るためにやっている」
だがどの規則を先に守らせるかについては、実は規則にはそれほどあからさまには書いていない。こういう時のための便法という奴だ。
「積み荷は?」
「ここに書いてある。段取りはあんたのいつものやり方でいい。まあ、あんたに言う必要はないと思うが、ちゃんと燃やしてくれよ」
多門が視線も向けずに差し出した紙を受け取ると隣にいた気配が遠のいた。多門は一つ溜息をつくと、建物の中の廊下に戻った。もう昼だ。どこで何を食べるかも考えないといけない。世の中頭を使う事ばっかりだ。
「室長~~。ずいぶん長いお手洗いですね」
背後からあまり聞きたくない声が聞こえてくる。
「どちらにお逃げになるつもりですか? たくさん書類が残っていますが?」
うん、何も聞こえてないな。
「もしかして、外でお昼とか考えています?」
聞こえていないって言っているだろうが!だが、肩に下した髪を短くそろえた何かが俺の前に立ちふさがった。手には何やら書類以外の何かを持っている。
なんだ? まったく何もないな。全て気のせいだ。俺の前には何もない。
「じゃ~~~ん!室長の弁当も作っておきました。これで心置きなくお昼時間も私と書類と一緒ですよ」
何で俺の周りは鬱陶しい奴ばっかりなんだ? 短髪女が何やら朱色の包みを、俺の前でふりふりさせている。いいか俺は髪が長い方が好みなんだ。
「いらん!」
「〇×△#!@!■」
「あーちゃん、あーちゃん。そんなに口につめたら、多門君死んじゃいますよ」




