はいほ~
冬を控えた冷たい風が背後の森の葉を揺らして音を立てている。私達の前には枯れ始めた草原が広がり、その草原の先には、私が見たこともないような高い山々が連なっていた。
「あの山の手前にあるのが関門です。そしてあの山の向こうに城砦があります」
私と白蓮の横に馬を寄せた旋風卿が槍の穂先で指し示す。それはまだまだ遠くにあったが私の目に見えるところまで来たのだ。
湖畔を離れてから私達は、旧街道の裏街道のような細い道を見つけることが出来た。その大半は落ち葉に埋まり、倒木などに行く手を阻まれることもあったが、藪などに悩まされることもなくその道をまっすぐ来ることが出来た。
旋風卿が言うには、作りからして黒の帝国時代のもので、あの廃墟へ至る道だろうとのことだった。ともかく馬が使えたのはありがたいことだった。それに旧街道と違って、こちらは湖にいたる小川のようなものが幾筋かあり、水に困ることもなかった。
マ者を避けて食料を確保しながらの旅は、決して楽な旅ではなかったが、いつの間にかそれがとても辛いことだとも思えなくなっている。人間慣れとは恐ろしいものだ(皆さん覚えてますか? 秋の初めに私はまだ八百屋をやっていたんですよ!)。
それにこの旅で私は、白蓮や父がどんな事をやっていたのかを、ちょっとだけ垣間見せてもらえた。こんな大変なことを、飄々とやっていたのかと思うとやはり父は変わり者だ。というより、すべての冒険者が変わり者なのだと思う。
道中安全を確保できた場所では、世恋さんが小刀の投げ方と、体術の使い方を、歌月さんが短剣の使い方とマ者の習性をいろいろ教えてくれた。
二人が言うには、技術よりも的確な判断と、それを確実に実行する意思の方がもっと大事なのだという。剣を抜かずにすむならそれに越したことはなく、抜く状況になった時点で、すでに何か間違いを犯しているのだと言っていた。
ちなみに歌月さんの監督官というのはその結社の冒険者を管理、指導する立場の人で、決して私が思っていたような受付の仕事ではなかった。勘違いしていましたごめんなさい。
白蓮は紐の結び方など各種道具の使い方や歩き方、マナ除けや虫よけなど、森に生えている様々な植物の採取場所や注意点を教えてくれた。
今でも白蓮から何か教えられるのは、気恥ずかしい気分が抜けない。以前は私が、この世の全ての事柄について教えていたと言うのに。白蓮のくせに生意気だぞ。
あの不届きな行為については、私の父に誓って見ていないと主張したので、左目の青たん一つで許してやった。次はないぞ白蓮。
色々あったが、こんな私でも冒険者見習いぐらいにはなれているだろうか? ちなみにあの危険人物は、私に嫌味以外の事を言う事はない。実に役に立たない男だ。
あの湖畔の事件以来、百夜ちゃんとの距離もなんだかとっても近くなった気がする。相変わらず得体はしれないが、お互いに罵倒しながらも仲良くやっている。
白蓮を除く冒険者の方々が、私の必死の努力を全く覚えていないというのは残念でしかたがないが、世の中そんなものですね。普段、不寝番とかしていないので、ちゃらということにしておきます。
私は雲一つない青空を見上げた。お父さん、お母さんと一緒に遠いところから私を、風華を見ていてください。あなたの娘は、あなたのかっての仕事場をちょっと覗きに行ってきます。
さあ今度こそ、『城砦』に向かって『はいほ~』だ。
これにて第2章。「旅路」の終わりとなります。
余計な事を書くと読者の方の世界観を壊しそうなのであとがきを書くことは基本しないつもりでいたのですが、やっとここまでたどり着いたということで少しだけ書かせていただきます。
活動報告にも書かせていただきましたが、7月中に書き終わるつもりで書いていたこのお話ですが、どうやらあまりにも甘い考えだったらしく、やっと第2章までを一日遅れで書き上げることが出来ました。
最初は自分の妄想を字に起こすという事を甘く見ており右往左往しておりましたが、最近やっと書くことの楽しみも分かってきた気がします。書くきかっけを与えてくれた「小説家になろう」の多くの作者の皆様並びに、その場を与えていただきました運営の皆様に深くお礼申し上げます。
そして何よりも、お忙しい中こちらの作品に目を通していただきました皆様には感謝以外の言葉がございません。皆様の存在があったこそ私のような人間でも恥ずかしながらも書くことを続けることが出来ました。
白蓮と風華のお話はまだもう少し続きますので、どうかお付き合いの程をよろしくお願いいたします。初めて書いた小説につき至らぬ点が多数あるかとは思いますが、広いお心でお許しいただけばと思います。また気になる点などありましたら是非感想や活動報告へのコメントで送っていただけると大変うれしく思います。
今年も暑い夏になりそうです。皆様お体にお気をつけてお過ごしください。
P.S.
活動報告に、チラシの裏的な内容で恐縮ですが書いていての作者なりの感想や、私の力では表現できていないと思われる、本当はこういう内容を書きたかった的な事を書いております。もしお時間がありましたら覗きに来てただけるととてもうれしいです。




